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繋いだ手が離れても (雷震子×雲中子)

【登場する人】
雷震子、雲中子

【CP】
雷雲が根っこにあるけど大したこともない

【備考】
君のためにできること 前 (ナタ乙) の後に挟まる終南山師弟のお話。
負傷した太乙を見て雲中子がうだうだ考えてます。







 彼と私はよく似ていた。
 性格や方向性というのもあるが、何より立ち位置がよく似ていた。
 いつか始まるであろう戦争を前に、私達は幼い弟子を取った。それはこれまで研究に明け暮れてほとんど弟子を取ってこなかった私達には荷が重かったようだ。私達と弟子はとても不仲だった。弟子を研究対象としては扱えるが、1人の人間として扱うのは酷く下手で、どのように接して良いかわからないのだ。
 で、なければ、きっと私も彼も今頃もう少しマシな付き合いを弟子としていただろう。
 ここ仙界では、師と弟子が不仲な場合はそう珍しい事ではないかもしれない。
 けれども、その当事者となるのは、殊の外疲れるのだと気がついた。

 そんなある日、太乙が重傷を負った。ナタクに殺意がなかった事を考えると、あれはケンカ中に起きた不幸な事故という見方もできるだろう。実際太乙は、他言しないようにと釘をさしてきた。
 それもそうだ、こんな事が表に出たとしたら、最悪の場合ナタクは制御不可能により廃棄という扱いになる可能性も出る。確かにナタクの戦力は重要であるし、この戦にならないものとなるだろう。
 しかし、それもこれも全て太乙がいるからだ。太乙が居なければ動かない、直せない。また太乙の持つ叡智は崑崙になくてはならないもので、優先防衛対象としてはかなり高いランクに位置付けされている。悪い言い方をすれば、戦闘員は多少替えがきくが、補助要員として太乙は替えがきかない存在なのだ。
 だが守られる事に息苦しさを感じた太乙は防御型の宝貝を作って、警護を大幅に減らした。
 それが、まさか自分の弟子であり作品である存在に殺されかけたとなれば、笑い話では済まされない。それを太乙自身も理解している。
 太乙の気持ちを知り、私は黙っている事に決めた。ただ、友人として彼が悲しい顔をしているのはどうにも解せないので、ナタクに散々説教を垂れてしまったのだが、よくよく考えれば明日は我が身だとも思った。

 私の方も仲は悪いのだ。

 今日だって朝から、こんな所にはいてられないと飛び出して行ってしまった。
 あの子に教えられる事はもうないから、次の改造研究が完成するまで引き止める事はないけれど、それでも心配していないわけじゃなかった。
 太乙のように、あれは『己の子』のような感じではない。弟子入りした時は幼かったが、既に自我はハッキリしていたし、親が他にいるのだから親を名乗るのは無粋だろう。けれど、明確に弟子と言われれば、些か首を傾げた。
 あの子の力は研究によって生えた宝貝によるものであって、別に私が鍛えたわけではないのだ。多少の基礎武術は施したが、戦闘系の仙人に比べれば、おそらく殆ど意味をなしていないレベルだった。
 つまるところ、私が彼に与えたものは、本人が望んでもいない宝貝の力だけだと言えた。
 たったそれだけだ。
 殺されてもまぁ文句は言えないだろうなと思いつつ、ここまで来ている。殺されるなら、せめてこの戦いが終わってからでないと困るから逃げ回ったりかわしてはいるが、本気で殺したいと思えばおそらく今すぐにでも私を殺せるだろう。

 しかし、弟子はそれをしない。
 彼が両親から受け継いだ理性と良心がそうさせないからだ。私はきっと、そこに甘えている。
 太乙も、ナタクにそれらがあると信じたいのだ。






「ただいまー」

 陽も暮れ落ちる頃、ようやく弟子は帰って来た。集中による疲労によってうたた寝していた雲中子は、その声を聞くとぼんやりと体を起こす。まだ夢の中に浸っていたいが、また怒られるのは癪だったので渋々起きた。

「おかえり、早かったじゃないか」

 いつも一度出て行くと何時帰って来るかはわからないものだから、最近はこんな調子で放任してある。

「何だよ、これ……!」

 弟子の狼狽する声に、ハッと意識を覚醒させた。そうだった。色々あったんだった。彼が驚くのも当然だろう、機材はそのまま、脱ぎ散らかした白衣には血もついているし――そういえば血みどろの手袋をポケットにつっこんだままだったっけ?――部屋は明かりもつけずに薄暗いまま。一言で言い表すならば、生活力が欠如した人の部屋といったところだろう。
 ちなみに、弟子が出て行った時はこんなではなかった……。

「ああ、第2ラボに負傷者が寝てるから、あまり近づかないようにね」

 とりあえず怒られるのは避けようと、何があったかを端的に話す。

「誰か怪我でもしたのかよ」

「太乙がね」

「まさか、敵襲か!?」

 お気楽そうに見えて、このあたりはちゃんと事態を飲み込めているらしい。残念ながらそれは杞憂に終わるのだが、平和ボケしすぎてはいないようだと心の中ではなまるを付けておく。ただ喧嘩っぱやいだけかもしれないが。

「ただの師弟喧嘩だよ」

「けんかぁ!?」

 しれっと返すと予想通りの反応が返って来た。

「そう、喧嘩だね。少し一方的だったから太乙が負傷してしまったけれど」

「ってことは、やったのはナタクのやつかよ」

「治療しろって運んできたのも彼だけどね」

「わっけわっかんねー!」

 頭を抱える雷震子のオーバーリアクションっぷりに、思わず笑ってしまう。
 この子は喧嘩っぱやい割に意外と周囲は見えているし、常識や人情、知識と言うものを備えている。どちらかと言えば、そう言う対人スキルに劣っているのは、変人の噂が何故か付きまとう自分の方だろう。
 別に自分ではそこまで変人だとは思っていないのだが、何だかんだで世間の話には沿えない事が多いし、イマイチ話が通じないのは確かだった。
 だから、私生活の面では出来るだけ口を出さない方が良いのだろう。……と思う。

「明日は我が身かな……」

 きっとそのうち、彼も大きなズレとなって返ってくるだろうか。どうせズレてしまうならば、最初から重ならなければいいのだ。

「あ? 何か言ったか?」

「何にも。……ねぇ、雷震子。君は私のことが好き?」

「はあ?」

 答えなんて解っているけれど。ふと聞いてしまった。
 重ならない方がいいとわかっていても、それでも心のどこかに、何かが引っかかる。それで本当に良いのかと自問する。

「君に優しくしたことなんて、とりあえず私の記憶にはないし、君の気持ちは解ってるつもりだけれど。うん……君が感情任せに軽はずみな行動をしない子で良かったよ」

 顔を合わせているのはきまりが悪いので、視線を落として顔を背ける。

「何だよそれ」

 本当の所は、ナタクに説教ができるほどこちらも師弟仲は良くはない。最低限傷つけあわない常識を持っていただけだ。
 ナタクに太乙の事を慈しめと言うのは、あくまで太乙が弟子を慈しんでいるからであって、その矢印さえ存在しない自分達の場合は当てはまらない。

「いや、いいんだよ。このままで」

 この酷く冷たいぬるま湯の中で、漂っていられるなら、きっとそれでいい。色々あって、少しだけ感傷的になってしまっているだけだ。こんな事はすぐに忘れて、水に流していつもの生活に戻ろう。
 顔を見ないまま立ち上がって背を向ける。すぐに支度して太乙の看病に戻らなければならない。
 だが、かの弟子は一歩も動かなかった。

「誰が嫌いだなんて言ったんだよ。バーカ」

「え?」

 振り返ると、真っ直ぐ射抜くような視線が刺さった。ずっとこちらを見ていたのだろうか。

「何を柄にもなくウダウダ考えてんのか知らねーけどよ。誰がお前のことを嫌いだなんて言ったよ。……いや、言ったことあるっけ」

「それを私に聞かれても」

「まあいいんだよそんなことは! とにかく、別に俺様はお前の事をボコボコにしてやりたいとか思った事は……うん、あるけど」

「やはりあったか」

 嘘をつけないのが弟子らしい。まああれで私に恨みがないと言えば聖人になれると思う。

「悪ぃ、考えたらけっこーあった。まぁ何だ。敵が来たら守ってやるし、困ってたら助けてやるよ。その意味不明な変態行動にもある程度は付き合ってやるし、不摂生が酷かったら怒る」

「怒られるのはやだなー」

「黙れ!」

「はいっ!」

 思わず直立不動になってしまった。師として弟子としてちょっとどうかとも思うが、今のはたぶん茶々をいれた私が悪いのだ。おそらく。
 弟子はそのままずずいと身を乗り出すと、えらく上から目線で物を言ってくる。

「俺様が自分で認められるほど強くなれたらいつか独り立ちするつもりだけどよ、それはもっともっと先の話だ。だからお前はまだ俺の師匠だ! ここは俺の家だ! 居場所だ! わかったかコノヤロー!!!」

「………………うん」

 ぽかんとしたまま頷く。そして『良かった』と、そう素直に感じた。
 私の弟子がこの子で良かった。感情がストレート過ぎるところも、私の変人コミュ障っぷりと足して2で割れば丁度いい塩梅なのだろう。

「わかったなら、さっさとやるぞ! 太乙さまの看病なんだろ、手伝ってやっから」

 言った後に照れが来たのか、雷震子は私の肩を掴むと強制的に後ろを向かせて押してくる。

「まだ起きてないから、そこまでやることはないんだけれど」

「じゃぁ部屋掃除と洗濯だ! 病人いんのに不潔にすんな」

「やだなぁ、こっちは私が子供みたいじゃないか」

「あー? 何か言ったか」

「いや、なんでも」

 部屋の奥へぎゅうぎゅう押され歩きながら、心が軽くなっている事に気づく。太乙とナタクの血みどろのケンカを見て、少しばかりは凹んでいたのかと今更ながらにおかしくなった。
 大丈夫だ、今のところこちらの師弟仲は睦まじいといえるだろう。太乙が元気になったらそのうち自慢してやろうか。
 まぁ、私が紡いだ仲ではないような気もするけれど。それはそれ、これはこれ。全ては巡り合わせというものだ。きっと、彼らもこれからは……。








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ナタ乙(全然見えなくてもそのつもり!)の途中に挟まるというイレギュラーなカタチで書いた雷雲です。
太乙に関してのうんちくに始まり、終南山師弟で終わる。
毎回、雷雲はこのパターンで既にマンネリってますが、この話にからめて書いておきたかったので……すみません。
でも、あっちよりこっちのほうが道は前途有望ですよね。


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