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奏でよ、簡素清貧の君(紅炎×アリババ)

登場人物:アリババ、紅炎、紅明

CP傾向:炎アリ

R15くらいの内容です。
さらっと紅炎と紅明が仲良かったりします。









「ふっざけんなあぁぁぁ!!!」

 静寂が心地よい夜更け。そんな事を歯牙にもかけない怒号が宮中に響く。それとともに執務室の扉がけたたましく開けられた。
 飛び入ってきたのは寝間着姿のアリババ・サルージャ、その人である。

「何ですか、騒々しいですね」

「うるさい、今何時だと思っている」

 中でまだ執務をしていたらしい紅炎と紅明は、特に驚く様子もなく、飛び込んで来た青年を訝しげに見やる。
 幸いな事に部屋に他の人影はない。もしここに兵士がいようものなら一発で捕らえられても仕方のない状況だが、入ってきた青年はそのような事を気にする様子もなくずかずかと乗り込んでくる。
 相当ご立腹なのだろう、顔が火照っていた。

「何なんだよあれ!」

「あれ、とは」

「ああ、あなたがまだ女性と一度も夜を過ごされていないと嘆いておられましたので」

 青年アリババ・サルージャが激怒しているもの。それはこの夜更けに部屋に来た若き女官についてである。

「お気に召されませんでしたか? 他の者を寄越しましょうか?」

「いらねーよ! バカにすんな!!」

「バカにはしてますが」

「してんのかよ!!」

 アリババが寝支度を整えて、厠に行って部屋に戻ると、そこには見知らぬ女性がいた。
 話しを聞くところによると夜の世話をしに来たとかで、やんわり断ると彼女は困り果てて、世話を言いつけられたのに果たせねば怒られるのだと涙目で肩を落とす。
 その辺りでアリババはキレた。そして今に至る。

「何が問題だ」

 無表情ながらに不思議そうな紅炎が問う。

「何がって、わかんねーのかよ! 彼女が可哀想だろ!? お前らが言ったら、彼女は立場上、好きでもない男に抱かれる他ないんだぞ!?」

「そうですね」

「一歩間違って子供でもできたらどうすんだ! その後の責任が取れるのか? あんたらは取れるとしてもだ、俺はまだそんな力なんて……ないんだぞ……。それなのに、好きでもない女の子を抱けるわけないだろ!!」

 感覚が、そして価値観が違うのだ。なんて事は理解している。白龍が言うには女性を毎晩義務のようにとっかえひっかえするような奴らだ。
 でも、だからと言ってその価値観を押し付けられたって困る。何より、それでは女の子が不幸だ。アリババはただその事が許せなかった。

「彼女達も良家の息女や商人の娘ですよ。ここで宮仕えしているからには、そのくらいの覚悟はあるでしょう」

 しれっと紅明が反論するが、そんなものは今のアリババに届くはずがなかった。

「勝手に決めつけんな! だからって、好きでもない男に抱かれて嬉しいわけないだろばかやろー!!」

「そんな事いってるからいつまでも童貞」

「ううううるせー!! 大きなお世話だっ!!」

 アリババは髪の毛が逆立たんばかりに怒り狂っている。なんとなく紅明は地雷を踏んだと気づき、羽扇の下で溜め息をついた。
 彼女がいない。夜を共にできる女性はまだいない。その事実は心に突き刺さるし、実に痛い。
 それでもアリババは認めたくなかった。適当に相手を見繕うなんて事は、やろうと思えば出来たことだ。けれどそうはしない。それは一つの決意であり、誇りだった。

「とにかく、こういうのはやめてくれ!」

「わかりました」

 紅明はアリババの迫力に圧されるままに頷く。ここまで来たら、押し付けても無意味だと早々に悟っている。

「あと、あの女の子は悪くないんだから怒ってやるなよ。絶対だぞ」

 それだけ言い残すとアリババは扉を乱暴に閉めて帰って行った。

「はあ、帝位に最も近い男にすごい言い草ですね」

 自分の立場を理解しているのか疑問に思うが、理解してあれなのだろう。大物なのか器が小さいのかイマイチはかりかねる。

「兄王様、どうされます? ああ言われちゃいましたし、もう放っておきますか?」

 相変わらず無言で無表情の紅炎をちらりと見る。

「いや、俺が行こう」

 その目を見て紅明はぎくりと動きを止める。今、何か変なスイッチが入った。気がする。

「悪いが後は頼む」

「分かりました。しかし、兄王様」

「何か」

「噛まれて屋根に穴を開けないようにお願いしますね」

 あれとて一応、金属器使いだ。窮鼠猫を噛む、ついでに辺りが灰になる……なんて可能性だってある。あっては困るが。
 ちょっかいをかけに行くと言う兄は、おそらくあのアリババの事を存外気に入っている。ならば大丈夫だ、と思えるなら良いのだが。残念ながら兄の行動を見て機嫌が伺えるのは、せいぜい自分と紅覇くらいだろう。結局のところ、安心材料にはならない。

「気をつけよう」

 書類を軽く片付けて部屋を出て行った兄の口元は、確かに笑っていた。






 アリババはあの後、女官に話しをつけてすぐさま部屋に戻り、寝台で横になった。
 先程まで怒りに支配されていたため忘れていたが、立場上首が飛んでもおかしくなかった事に今頃になって青ざめる。が、寝て忘れることにした。
 とりあえず首と胴は繋がっているからそれでいい。なるようになるだろうし、怒られるなら明日だ。
 バルバッドへ、故郷へ帰ってきたはずなのにここ数日は心が休まる事がない。
 シンドリアを離れて煌帝国へ下れといわれたこと。バルバッドの未来、紅玉のこと。シンドバッドのこと。何一つ解決はしていない。
 そんな蓄積された心労を癒そうと、体は素直を睡眠を欲していた。そうだ、こんなところで見知らぬ女の子を抱いている場合じゃない。
 そんな事をうつらうつら考えて、まどろみはじめたころ、いきなり扉が開いた。
 なお、アリババはちゃんと鍵をかけている。宮中の客人用の部屋であるためしっかりと警備されているし、多少不用心でも問題ない。だが、ここは敵中である。施錠するという最低限の用心を彼は欠かしていない。
 咄嗟に横に転がり、隣の卓上に置いてある剣を握り構える。

「誰だ!!!」

 入ってきた相手は既に扉を閉めており、暗がりで顔は見えない。

「俺だ。武器を下ろせ、アリババ」

「え……」

 ゆっくりと影が近付く。その声を聞けばもう顔を見なくたってわかる。

「紅……炎……」

 月光に照らされてその姿がくっきりとアリババの瞳に映される。

「なんで……」

 言わなくともわかる。先程会ったばかりの男だ。相変わらず無表情で何を考えているかさっぱり読めない。しかしアリババはこう思った。

 これは、殺される。

 確かにあの件は相手の地位を考えればやりすぎたかもしれない。けれども謝って済ませるのも何か違う気がした。

「アンタも器の小さい男だな」

 せめてこれくらい恨み言を言っておいても良いだろう。敵う相手だとも思えないが、剣を構えたまま睨みつける。

「だから武器をおろせと言っている」

 紅炎は腰に下げた剣は抜かず、真正面からアリババと対峙していた。じり、とアリババは後ろに下がる。
 ここは今やこいつの膝元だ。金属器同士の戦いで屋敷を傷つけたくないのかもしれない。

「じゃあ、無抵抗で殺されろってのかよ!」

「……は???」

 紅炎が珍しい素っ頓狂な声をこぼす。

「え?」

 それに釣られて疑問符が飛ぶ。

「何故そうなる」

「俺を殺しに来たんじゃないのか!?」

「当然だろう」

 アリババの手からぽろりと剣が滑り落ちる。まさかの早とちりに、顔が熱くなる。やってしまった。恥ずかしくて今なら火も噴けるかもしれない。
 いやいやいや、誰だってこの状況に陥れば命の危機を感じるだろう。そうアリババは己に言い聞かせるも、目の前の男の視線は冷やかだった。

「馬鹿なのか」

「う、うっせーーーーー!!! アンタが紛らわしい登場の仕方するからだろーが! っていうかなんで鍵さらっと開けて入ってきてんだよフツー驚くだろ命の危険感じるだろあとせめてノックくらいしろよな!!」

 一気に言葉に出すも目の前の男には全く通じない。紅炎は吠えるアリババに近付くと、スッと腕を伸ばした。

「夜這いに来たのにわざわざ中へ入れてくれと頼んでどうする」

「……へ?」

 その言葉の意味をアリババが理解する前に足払いがかけられる、そして彼の世界は反転していた。
 丁度、背後はベッドだ。幸い痛くはない。押し倒されるがままに毛布の上に縫い付けられる。

「はいぃぃぃ?!? 全然意味がわかんねえ、どういう事なんだよ!? っぎゃあああぁあぁ」

 紅炎が喚くアリババを無視して鎖骨に歯をたてる。とても色気のない悲鳴が上がった。

「や、止めろ! 何してんだよ、俺は男だぞ!!」

 それを知らないわけがない。
 紅炎はアリババの動きを封じながら、服に手をかけ、はだけた肌に唇を寄せた。

「ひっ」

 短い悲鳴があがる。童貞だと自称していたが、このような体験自体が初めてなのだろう。母親は娼婦だったと言うのに、よくここまで純粋に育って来たと、紅炎は呆れを通り越して感心すらする。

「っなあ、おい! 本当にいきなり何なんだよ……あっ、つ……」

 はだけさせた胸にかぶりつけば、予想通りの反応が返る。顔を離すと、火照った顔のアリババが眉を寄せて身悶えている。

「アリババ、政略結婚は何が目的か分かるか」

「……はっ、あ? 家同士を……繋げて、裏切りにくくする……もんだろ」

 アリババは動転しているが、思考は止まっていない。くつくつと笑いながら、その頬を撫でる。

「そうだ。結束力の物理的向上だ。故に子が出来れば尚良い。ならば、自陣営の官女を送る場合はどうだ」

「同じ……だ。既成事実をつくって味方に引き入れようって算段だろ」

「そうだ。ならばもう見当はつくだろう」

 わかりたくないという顔をしているが、アリババは聡い男だ。既に意味を理解しただろう。

「俺を手込めにして手に入れよう……ってか」

「この際、性別など関係あるまい」

「いやいやちょっと待て! 俺の意思はどうなるんだよ!」

「俺が聞くと思うか」

「くそっ」

 アリババは投げやりに視線を外す。それで会話が終わったとでも言うように、行為を再開する。
 政略結婚というのは一つの絆である。それが良いものか悪いものかはは別として、だ。体を繋げるという行為も、遠からず同じ意味を成す。

「今更逃げられると思うなよ、アリババ」

 紅炎が、笑う。
 ただそれだけなのに、アリババの体は射すくめられたように動かなかった。
 その時だった。

「え。何…だよ……これ」

 アリババの目からぽたりと雫が溢れて落ちる。紅炎は一瞬だけはたと止まると、それをゆっくりとすくい上げて目尻を擦る。

「ちが……怖くなんか、ないんだからな。アンタなんて、別にっ」

 ぼろぼろと流れる涙は、本人の意識とは別に流れているらしい。行為中に流れる生理的なものかと思ったが、どうやら違うようだ。空知らぬ雨は、止まるどころか堰を切ったように溢れ出す。
 それを見ると、紅炎は一つだけ溜め息をついた。

「くっそ、見んなよ……」

「アリババ」

 名前を呼ぶと、ぎくりと身が縮まる。紅炎はその体を、アリババをがばりと抱え込んだ。

「うわっ! 何なんだよ次はっ」

 紅炎が何事かを呟く。そして、アリババの視界は突如として暗転した。






 フェニクスの力でアリババは一瞬にして眠りについた。その体を抱えたまま紅炎はベッドにゆっくりと横たわる。腕の中にすっぽりと納まって寝息を立てている、体は温かかった。
 あのまま無理に抱いてしまっても別に良かった。処女でもあるまいし、宮中ではこの程度、よくあることだ。
 しかし、あの涙を見た途端、とりあえず今日はここまでだと本能が告げた。まだ壊してはならない。

「純情にあてられたな」

 スヤスヤと寝息を立てている顔を見て、頬にかかった頭髪を払う。まだ幼さが残るが、それが免罪符にはならない事をいずれ知るだろう。
 ただ今夜だけは、腕の中で幸せに眠ればいいと、そう思った。
 紅炎はアリババを抱えたまま器用に布団へ潜ると、毛布を手繰り寄せる。そうしてゆっくりと目を閉じた。



 翌朝、アリババが目を醒ますと、見覚えのある羽織りにくるまれていた。他には誰もいない。誰かが隣にいたような……?そこでぼんやりと前夜に何があったか思いだす。
 そして宮中に彼の悲鳴が轟いた。









「兄王様。結局、何もしてこなかったんですね」

「気が変わったのでな」

「あんなに楽しそうに出て行かれたので、てっきり最後までされてくるのかと……」

「途中で泣かれてしまった」

「え……それでお止めになったのですか」

 走らせる筆は止めずに、こくりと紅炎が頷く。

「珍しい事もあるものですね。……余程、気に入られたのでしょう」

「どうだかな」

 その返答に紅明は思案する。兄が彼のことを殊のほか気に入っているのだとしたら、自分も行動を少し改めなければいけない。彼に兄の凄さを、そして隠れた優しさとその素晴らしさを伝えなければ。少し強引で無鉄砲で雑なところもあるが、兄ほど素晴らしい人間は早々いない、と紅明は考えている。そう、彼は兄のためならば、なんでもしたいと思っていた。

「紅明」

「なんですか」

 目で呼ばれて近くによると、頭をぐしゃりと撫でられる。粗雑だが、これも兄なりの愛情表現だということを紅明は知っている。あと、何を考えているかも。

「あの、嫉妬とかしておりませんので」

「そうか」

「そうです。私はあなたの弟なんですよ。見くびってもらっては困ります」

「なら、頼む」

「わかりました」

 とりあえず、あの絶叫を上げている男に真実を伝えてやろうと、微妙に困っているらしい兄をその場において、紅明は颯爽と部屋を出た。



次回作『進め、暗中模索の徒



とうとう書いてしまいました。マギ第一作目は炎アリです。
自分だけが楽しい!萌えのままに書いてたんですが綺麗に未遂で終わりました。
……おかしいですね、もうちょっと紅炎兄さんが手を出す話だったんですけど、全然ですね!?思ったより全然ですね!?
腐女子としてあるまじきでは!?……まぁ、いっか。
あれです。怖いって言われてお兄ちゃんは悲しかったのです。

とりあえず妄想したものは詰め込めたぞ!
アリババくんはまだまだユニコーンを呼べるんだぞ!
などと供述しており……

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