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理解不理解の理(跡部×観月)

登場人物:跡部、観月、忍足
CP傾向:跡観
制作時期:2024年6月

『理解不理解の解』の続編としてリクエストいただきました。
今日の跡部さんはやや強気です。
ふっきれた伊達男が強いところをみてあげてください。














「あの、跡部くんって僕のどこを好きになったんですか?」

 喧嘩をするほど仲が良いという言葉もあるが、それはすなわち、そうしてまで理解を得たい相手だったとも言えるのではないだろうか。
 なんてことのない一言や、なんてことのない言動で、少しばかりのプライドが傷ついたところで水に流しておけば良かった。なのにそれを無視することができなくて、つい噛みついてしまった。

 先日、些細な事でいさかいになった相手は、学校にまで押しかけてきた上で、驚くほど素直に頭を下げてきた。図々しいのか謙虚なのか、観月は訝しみつつもわからなかった。
 事の顛末は既に忍足から聞いているし既に怒ってもいないのだが、そうまでされると無下にもできず、今も隣にいたりする。
 とりあえず誰かに見られたくなくて、咄嗟に「どうぞ」と部室に招いたものの、空気が気まずくて互いに押し黙っている。
 まだ顔を直視するには勇気がなくて、足元を見ながらぽつりと呟くように出た言葉だった。

「へぇ、それを俺に聞くのかよ」
 
 そう、絶賛目の前の男に言い寄られ中だった。いや、誰も賛えてなどいないのだが。
 観月はじめはまだ、そのことを上手く理解しきれていない。跡部景吾とはここまで趣味の合う友達としてやってきたのだ。
 それが突然、風向きが変わった。出てきた答えは『何故』だった。

 そもそも観月はじめは己の性格が良いものとは思っていない。部の中心として目立つから悪い噂だってある。外見は悪くないと自負しているが、取り入って人気を博するようなタイプではないし、身長もいまいちであるからして、女性に限ってはそう人気ではない。と思う。
 テニスの腕も、流石に跡部景吾に比べるとレベルが違うと言わざるを得ない。勉強はできる方で語学にも興味はあるし、記憶力の良さも自慢できるがそこまででもない。
 だが高すぎるプライドが負けず嫌いを増幅して、素直に他人の言葉に頷けない時がある。それがまさに今だった。ただ対等な友達でいたかっただけなのに、一体どこでそんなに好かれたというのだろう。考えられるのは趣味が同じなので話が合うくらいなのだ。

 何処に行っても大人気の御曹司は華やかで、隣にいる時以外は別の世界の住人なのではないかと思う事がある。人には人の世界があって、自分が必死に築いてきた世界を観月は愛しているから、羨むこともないのだが、見ているものが違うと感じることはある。
 きっと跡部の見てきた世界は、小さな田舎から出てきた己と違って様々な出会いがあったはずだ。それだけ多くの人と出会ってきただろうに、どうしてそこで自分なのだろうか。観月はそう考えた。
 そこから出てきたのが、今の問いかけだった。
 だが、すぅと細められたアイスブルーの瞳を見て、背中がゾクリと粟立った。こっちを見ていたとは気がつかずばっちり目線が合ってしまった。嫌な予感がする。

「いえ、聞いた僕がばかでした。やっぱり言わなくていいです」

 目線を外してなかった事にしようとうつむくも、男は緩慢な動作で近づいてくる。そして壁と片腕の間にあっさりと囚われた。顔が近い。薄く輝く瞳に吸い込まれそうだ。

「まあ聞けよ」

 この男、大胆さがMAXである。若い女性であれば黄色い悲鳴でも上げそうなところだ。文句を言ってやろうかとも思ったが、疑問を投げかけた手前、黙って聞くことにした。こう見えて彼は紳士的であるし、嫌がることは絶対にしてこないだろう。
 少し引きつつもおとなしいままの観月に気をよくしたのか、跡部は自信ありげに語りはじめた。

「まずは見た目だな。黒い髪に白い肌、体型と小ささ、目の大きさやかたち、鼻筋、口元、つまりは顔の造形、全て俺の好みだ。鋭い目をしてる時もいいが、ふと遠くを見るような目もいいし、読書をしている時や、落ち着いた時に見せる少し笑った顔も好きだ。意外と表情がころころ変わるのも悪くねえ。次に仕草、何気ない所作がお前は美しい。家は田舎というが育ちの良さは十分にわかる。大切に育てられてきたからだろうな、行動に余裕からくる優雅さがある。そこがいい。更に性格も好きだ。俺の言う事なんか全く聞かずに、物怖じせず言い返してくる理論的な性格は実に俺好みだ。が、そんな中にも情に脆かったりセンチメンタルな部分があるのが最高だ。一見高慢なように見えるが、それだけではない高潔さも良い。かといって視野が狭いわけでもないし馬鹿でもない、頭のキレの良さは見ていて気持ちがいい。まだ見せていない顔があるのかと思うとゾクゾクするぜ」

「う、わ……ぁ…………、……」

 だめだ、もう耐えられない。途中から脳が麻痺し始めたかと思いきや、耳の良さと記憶力が悪い方に繋がった。こんな気分は初めてだ。対面でここまで褒めちぎられた事など当然ない。それなりに自分に自信がある観月も、流石に度が過ぎるというものだ。
 思考回路はふにゃふにゃに蕩けてしまっているし、恥ずかしすぎて全身の毛穴をブチ開けられたように、変な汗が出てくる。顔どころじゃなく、耳まで熱い。

「まだあるが、いるか?」

 首を傾げて覗き込んでくる瞳に大きく怯む。ここに来て、跡部が話しかける前に腕と壁の間に閉じ込めてきた意図を正確に汲み取った。計算だ。この男、理解してやっている。

「うわぁぁぁ……!!! 結構です! その前に恥ずかしくて僕が壊れます!!!」

 絶対に危ない。あんな事をあんな顔で言われて落ちない女子なんていないだろう。幸いそのような乙女心は持ち合わせてはいないのだが、高い自尊心を満たすまえに羞恥の方向に転がるとは思いもよらなかった。
 熱くなっている顔がどう見えているのか何となくは察せており、片手で顔を隠しながらも肩を押して退ける。

「照れてるお前もいいな。なぁ、俺の傍にいたら自己顕示欲も満たしてやるぜ」

 いや、情報過多すぎる。そこまでは聞いていないし欲してもいない。何事にもほどほどという言葉を理解したのは最近で、この男を見ると度々思い出す。やっと余計なモノを送るなと教えこめたつもりだったのに、今回は物でなくて言葉で来た。十分に凶器だ。

「結構です! 僕はそれなりに自惚れている方だと思ってましたが、今のですべてへし折られました! もういいですお腹いっぱいです!!!」

 この男はチャラく見える風貌に対して、嘘や冗談は言わない。つまり全て彼が思った事を口にしているわけだ。その考えに至り、再び脳が茹だっていく。
 何とか押しのけたが、その距離が近いことに変わりはなく、電気のついていない部室に二人だけだ。これはもしかして、そこそこまずい状況なのではないだろうか。
 観月は即興に弱いと部員にからかわれた事があるが、こんな即興に対応できるシナリオなどあるはずがないのだ。

「あん? からかいがいがあるところも付け足すか」

「からかってるんですか!?」

「いいや、全部本心だが?」

「っぐぬ……」

 訂正、この男、冗談は言う。そういう所がなお悪い。一周回って観月は腹立たしくなってきた。ひょうひょうと笑って見せる顔があまりにもさり気なく格好よくて、とりあえず顔を背けて拳を握る。握りながら落ち着くように自分を諭す。流されてはいけない。甘言に騙されてはいけない。自分こそが策士なのだと心を律する。

「そうふてくされんなよ。自惚れてもいいんだぜ」

「あなたでなければ可能なんですけどね」

 ナルシスト結構。元はそういうタイプだ。自分を大きく見せるというのは、武器をちらつかせているのも同じだ。相手を牽制し、常に優位に立ちたいと普段ならば思っている。背が小さくて線が細くみえるらしく、舐められやすいと理解しているからこそ誇張している部分もある。
 跡部景吾に対しても最初はそうだったはずだ。この男に認められれば、さぞや自尊心も満たされるだろう、と。
 だが、何気なく会話できる趣味の合う友達というものは居心地がよくて、気づけば対等でいたいと見栄を張るようになった。実際、友達としてはかなり心を許している方であると思う。仲も良好なほうだ。

「なぁ、観月よ」

「なんですか」

 それが気づけばこの立ち位置。本当に面白くない。こんなの、跡部の完全優位で間違いないではないか。なのにその男は自信満々でこちらを見ているのだ。これが不貞腐れる案件じゃなくて何というのか。やけに芝居がかった台詞を放つ男を胡乱げに見る。心のなかで愚痴を吐くことにより熱もようやく冷めてきた。

「俺はな、ようやく悟ったんだ」

 しなやかに伸ばされた腕が空を掻く、いや、何の意味があるんだそれは。

「言葉にしなきゃ、何も伝わらねぇだろ」

 目の前で形のよい指がぱっと開かれる。白くて、逞しくて、美しい男性の手だ。

「だから俺は、これからも全力でこの気持ちを言葉にしてやるさ」

 ああ、ここで一つ理解した。
 そうして一つ咳払いをする。場を仕切り直したい。

「どうして謝りに来たのか、理由をお忘れになったんですか」

「忘れてねぇよ。TPOは弁えた上で、空気も最大限読んでやる。でも観月、お前あれだろ。俺様のこと、存外好きなんじゃねぇの」

 そういう跡部の眼が光る。見透かされている。瞬き、唾を嚥下する喉、小さな動揺ひとつ見逃さないといったその鋭さが刺さる。なのであえて目線をそらした。それが答えなのかもしれないが。認めることはできない。

「うるさいですよ。顔だけは認めてあげてもいいですけど」

 そう、顔は好みだ。声も安心できる。嫌いではない。どちらかと言えば好きの部類に入るのだろう。それは否定しない。本当に何もしがらみがなければ、まんざら悪い話でもないとは思う。
 ただ、それでは根底が揺らぐのだ。自分が生きている意味、ここにいるための意思、積み上げてきたプライド、誇りとしているものが。

「跡部くん。ちゃんと話しておきますね」

 誰にも真面目に語った事などないのだが、ここまで踏み込まれたからには、理解したうえで丁寧におかえりいただかないと気がすまない。はぐらかしておくのも悪くはないが、気持ちをはっきりさせておきたいのが観月はじめという男だった。
 さて、どこから話したものかと思考を一巡させて、すぐに話を切り出した。

「僕には優先順位があります。そして僕にとっての一番は、聖ルドルフです。あと勉強も。ここで落ちたら、僕は田舎を出てきた意味がないんですよ」

 それは今を生きる自分への存在否定だ。誰に肯定されようと、自分で許せないのだから、そんな道を選ぶわけにはいかない。

「ですから、あなたを選ぶことでそれらを失うわけにはいかないんです」

 真っ向から瞳を睨み返してやる。少し薄暗い部屋だと透き通るように輝く青の瞳も、この揺るがぬ意思を持っている時だけは怖くはなかった。
 嫌いではない、寧ろ好きである。ただ、それだけでは譲れないものがある。認められないものがある。それだけは、感情がどれほど揺れ動いても、絶対に引けない一線だった。

「あん? 失わずに全部プラスにすればいいだけだろ」

 逸らされない強い意思の瞳が問う。それができれば、問題にならないというのに。

「僕はあなたほど器用ではありませんので」

 問いにきっぱりと答える。恋愛にうつつを抜かしているような時間はないのだ。
 だが、目の前の男も引かなかった。なおも余裕のある態度は変わらない。

「なら俺様を二番目にしろ」

「だから二番目は学業ですってば。僕は遊びに東京に出てきたわけではないんです」

「じゃあ、その次でいい」

「その自信、どこから来るんですか」

 三番手に自ら名乗り上げるなど、図々しいにも程がある。のだが、それをどこかで跡部景吾らしいと感じてしまって、妙に納得してしまった。
 三番目か、まぁそれくらいなら……と一瞬考えそうになって、慌てて思考を打ち消す。

「待ってやるよ。一番も二番も、いずれ成長すれば変わるだろう。それまで隣で待っててやる」

 思わず絶句する。一番と二番が消える時は、きっと大人になる時だろう。そのタイミングが何年後になるかなんて、本人にもわからないというのに。気が長すぎる話だ。
 そもそも一番と二番が変わるだけで消えることはないかもしれない。そんな未来まで思い描けるほど、観月は達観もしていなかった。

「いちいち恩着せがましいんですよ。どうせそのうち飽きるでしょうし、お好きにどうぞ」

 最初は言い方が気にいらないから怒っていたはずなのに、結局のところ全く伝わっていないように思う。けれど、怒っているように見せかけて、それ以上は怒れずにいた。呆れはすれど、怒りはない。観月はじめも、一度懐に入れた人間に対し、存外甘いのである。
 そんなにも恋われてしまったら、その手を振りほどけないのだ。

「はっ、言ったな? 俺は諦めの悪い男だからな、手に入れてもいないのに飽きるわけねぇだろ」

 真っ向から睨み合うなどいつぶりだろうか。あんなに怖いと思った跡部の瞳は既に怖くはない。譲れない一線がある限り、観月の心はいつだって誰よりも強く武装することができるのだ。
 ゆうに五秒、黙って睨み合ったあと、跡部から視線を逸らしてきた。

「邪魔したな、また連絡する」

 そう言って踵を返し、部室を後にする跡部はそれはもう満足そうに笑っていた。








 それから、幾日かが過ぎたある日だ。

「ほんっっっっっっっっっとうにしつこいんですよ!!!!!」

 跡部邸にまで拉致されてきた観月が、そこにはいた。
 なんだかんだで返答保留にしてしまった間柄ではあるが、嫌っているわけではないということを、忍足侑士に報告に来たのである。
 わざわざ? と思わなくもないが、観月はじめは根が真面目であり、忍足が家にいると誘えば二つ返事でついてきたのだ。そして部屋で落ち着いての第一声がこれである。

「健気って言えよ」

「めっちゃおもろ。それで観月が折れるとかあるんや」

 隣で跡部がぶつぶつやっているが、後の言葉は誰にも届いていない。

「折れてません! 少し妥協しただけです!」

「折れとるやん、健気な跡部に。……あかん、言うててツボってまうわ。え、誰が!?」

「俺様!」

 どや顔で自分を指す跡部の横で観月が喚きはじめる。こう見ると本当にコンビとしても悪くないなと忍足は思ったりする。
 跡部の事を少々うざったいと感じつつも、それなりに心を許している観月を知っている。ゆえに、そこからこの距離に縮まったと思うとそれなりに骨を折った甲斐があるというものだ。
 観月とて、本当に怒り心頭であればもっと別の態度や手段をとってくるだろうから、こう言いながらも妥協してそれなりに今も付き合ってくれているのだろう。
 想いのままに恋人同士になる必要などなくとも、仲が上手くいっているならそれでいい。

「ほんと毎日朝昼晩にメールよこして夜は電話かけてくるんですよこの人! 暇なんてないと言っているのに一方的に空いてる時間を送ってくるんですよ。それがもう、もうしつこいのなんの! 今はテスト中だって言ってるじゃないですか、ちょっと人の話きいてますか!?」

 そう言いながら観月はひと学年下の教科書に何やらペンで書きこみをしている。おそらくは他の学年のテスト対策だ。テストというものは基本的に学んだ中から問いしかない。観月ほど記憶力が良いなら、自分の対策というよりかは仲間の好成績、または赤点回避なのだろう。

「嫌なら着信拒否ったらええやん」

「いや、それは流石に良心が痛むので……」

 眉をしかめながらも、そこで黙りこんでしまう観月を見て、押しの弱さを悟った。変なところで人が良いのだ。

「いや観月、そら流されてまうで」

「……流されてません!!!」

 既にこの状況が流されているように見えるのだが、そこにはあえてつっこまないでおく。ふと隣の跡部の顔を見ると、観月を満足気に見下ろしている。振られたといえばそのはずなのだが、保留ならばノーカンとでもいうように執拗さを見せつけはじめた友達は、計画が成功してご満悦のようだ。
 彼は努力家で諦めが本当に悪い。望む結果を手に入れるために地の果てまで追いかけることだろう。

「跡部がめっちゃキモい顔でこっち見てんで」

「なんですか、怒られてニヤニヤしないでください」

 言葉に棘はあるものの、ここまでついてきてちゃっかり腰を落ち着けているあたり、反論の余地がない。面白くてついからかってしまう。

「ああいうん、後方彼氏面ってやつちゃうん?」

「違います。そもそも僕たち付きあってません」

「そうなんや。残念やったなぁ、跡部」

「いや、気にしてねぇよ」

 ここまで到達してしまった跡部は強い。むしろ怖い。どういう精神構造になっているのだろうか。
 まぁ、観月が本当に嫌がることは、見極めているだろうししないだろう。

「少しは気にしろ!!!」

「それを気にしてた跡部はもうおらんのやなぁ」

 いつだったか、観月のことが理解できないと嘆いていた御曹司は、すっかり鳴りを潜めてしまった。
 二人が人前で並んで隣を歩ける日はまだ遠いのかもしれないが、とりあえず忍足侑士は満足した。やはり、気に入った友達の仲がいいというのは、悪くないものだ。これからも野次馬でいようと思う。

「なあ観月、これからも跡部となかようしたってな」

「ほんっと、どうしようもない人なんですから! 友達、あくまで友達としてですからね」

「ありがとうなぁ」

 理解の先にあるものは、理であると信じている。だからきっと、これから暫くは大丈夫だろう。
 更に何年も続くような仲になるといいと切に願った。











まさか、いただけると思っていなかった『理解不理解の解』の続編という支部リクエスト。
結構お高い料金を設定していたので緊張しながら書いたのですが
本当に……これで……大丈夫なのか?
最後まで悩みました。

というか、
ほっといても跡観は書きそうなんですが、本当にいいんですか!?

ただこれだけは言えることがあって、やはり跡観は楽しかったです。
このCPだけは一生書いてるかもしれない。と思いました。

面白くなかったら本当にすまない。
もっと精進します><


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