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理解不理解の解(跡部×観月)

登場人物:跡部 観月 忍足

CP傾向:跡観

制作時期:2016年3月

跡部と観月が会話してなくて忍足が出張っている(笑)
二人が付き合ってない話。










 とある日の放課後。
 部活が終わり、さて帰ろうかというところで黄昏ている跡部を発見してしまった。
 おそらく、彼が今落ち込んでいるなどと誰も思うまい。けれど忍足には何となく察せてしまった。見て見ぬふりもできるのだが、それでは友達がいがないというものだ。

「どうしたんや、跡部。なんや元気あらへんな」

 ぼんやり夕空を見ていた跡部は、一度だけ忍足に目線をくれると、すぐにまた空を見上げる。

「柄じゃねぇが、どうしたらいいのかわかんねえ奴がいてな」

「ああ、観月か」

 ピンと思い当たったのは、最近の跡部のお気に入り、観月はじめ。
 忍足から見て決して趣味が良いとは思えない浮世離れした跡部景吾と、珍しく話が合う聖ルドルフの選手兼マネージャーである。
 初めて会ったのは都大会の敗者復活戦だ。互いに負けられぬ戦いであったというのもあるが、普段なら敗者など歯牙にもかけない跡部が珍しく興味を示した対戦相手だった。忍足も覚えている。あの時の観月は研ぎ澄まされた刃のようで、それでいて欠け零れていく金砂のように輝いていた。
 それから暫く時は経ったが、こうして大会が落ち着いた今、跡部と観月は比較的仲が良い。小さな喧嘩もよくしているし、基本的にウマが合わないように見えるが、それより趣味が合致しているという点が大きいのだろう。
 跡部景吾という男は、懐が広いのもあるが、何より一度懐に入れたものはとても大切にするマメな男だった。きっと観月に対してだってそうだ。一度仲間だと意識したら、とことん大切にする。
 それと趣味が合うという点が重なるのだから、十分に仲の良い友達といえるだろう。
 ちなみに、付き合っては居ない。
 男同士でありえない、という考えは忍足にはない。跡部にもきっとないだろう。
 おそらくだが跡部は観月が好きだ。それを伝えてもいるだろう。跡部景吾はそういうところ包み隠す男ではない。

「話、聞くだけ聞いたるで」

 そっと助け舟を出すと、少しだけ跡部は考えた後にぼそっと悩みを口に出した。

「アイツは何をすれば喜ぶんだ? アイツは何だったら受け取るんだ?」

「……重症やな」

 忍足は思わず顔が引きつらせた。
 跡部景吾という男について他に何か言うことがあるとすれば、この男は人を喜ばすことが純粋に好きだ。特に一度でも懐に入れた相手には寛容で、何かにつけ喜ばせたいのだろう。前の樺地の誕生日なんてやり過ぎの域だった。面倒くさい男である。それが大切に思う観月ならば尚更だ。

「アイツが好きな花だって知ってる、アイツが好きな茶葉だって知ってる。好みも大方把握したってーのに、何がダメなんだ」

「本当は、わかってるんちゃう?」

「あぁん?」

 薄々だが検討はつく。観月の気位の高さを考えれば。

「てめぇはわかんのか?」

「確信ってわけやないから、言えへんけどなぁ……」

 恨みがましそうな目が向けられる。自分にはわからないのに、何故大切な人の考えがお前にはわかるのか。そう物語っている。珍しすぎて思わず笑ってしまった。

「しゃーないなぁ。一日だけ待っとき、聞いてきたるさかい」

 恋のキューピッドというほどのことではない。ただ、目の前の男の気の良さだけは買っている。何より大事な我らのリーダーだ。知られていないだけで、良い所はたくさんあるのだと自分も観月に言いたかった。



 その夜、忍足は観月にメールを送った。

『ちょっと電話で話せへん?』

 頻繁に連絡するような間柄ではなかったが、何かあった時のためにアドレスを交換していて良かったと忍足は思う。暫くすると返信が返ってきた。

『いいですよ、用事が終わったらこちらからかけますね』

 観月という男、トゲがあるように見えて実はそうでもない。トゲを察知したらトゲを出すだけで、普段はわりとまともなのだ。
 本を読みながら待っていると、やがてその電話はかかってきた。観月は全寮制の聖ルドルフに通っている。携帯や電話の使用は所定の位置で……というやつだろう。

「もしもし、忍足くん。僕です、遅くなってしまってすみません」

「ああ、悪いなぁ観月、手間取らせてもうて」

「いえ、寧ろ都合が良かったです。……跡部くんのことでしょう?」

 要件を言っていないのに、ずばり観月が言い当てる。余程心に残るやり取りがあったのだろう。

「流石、彗眼やなぁ。あいつ、珍しゅう落ち込んどってなぁ、ついつい相談に乗ってもうてん」

「すみません、間違いなくそれ僕です」

「やんな。何があったか、だいたい検討はついとるんやけど……悪い奴やあらへんのや、堪忍なあ」

「わかってます。僕は怒ってるわけではないんです。……ただ、ちょっと悔しくて」

「悔しい?」

 言いづらそうに観月が言葉を詰まらせる。

「跡部くん、プレゼントだって言って色々寄こしてくるんですよ。最初は僕も嬉しくて、お礼を言って貰ってたんですけど……流石に高価なものとか、自分の小遣いで買える範囲のものを貰うことに抵抗を感じてきまして。なんていうか、腹立たしいというか」

「ああ……」

 やっぱりな、と忍足は思う。観月は気位が高い。自尊心も自立心も強い。家も田舎であれど地主農家……つまりは地方の豪族が先祖であり、何不自由ない生活を送ってきたことだろう。人に施しを受け続けるのが気に入らないのだ。

「僕のわがままだってわかってるんです。跡部くんは僕を喜ばせたい以上に他意がないことも。けれど、僕は、跡部くんと対等でいたい。だからここ数日は断ってたんです」

「まぁ、想定通りやけど……せやなぁ、跡部は与えたがりやからな。あと割りと他人の感情には敏い方やねんけど、好意が届かんとしょげるあたりは歳相応やねんな」

「すみません、僕も上手く伝えることができなくて、つい喧嘩腰になってしまいました」

「それはしょうがあらへんて、何せあの跡部やからなぁ」

 跡部も相当気が強い。相手がプレゼントや施しに対して純粋に喜ぶ女子なら良かった。またただの友達であれば、そんな頻繁に物が贈られたりすることもなかっただろう。観月が観月であり、跡部が跡部であったがために生まれた軋みだ。
 だが、もしも自分が同じ状況下に置かれたとしたら。そう考えると忍足に否定はできなかった。
 好意寄せられていると分かっている相手から、何の見返りもなしにほいほいと物を貰ったりするのは、存外怖い。跡部に限ってそれはないが、後で見返りに何を言われるかわからない。理由もなく己では手に入れられないようなものを貰うのも気が引けるが、それなりに買えてしまうものを貢がれるのも気が引けるだろう。しかも財閥の跡継ぎ、金には何不自由していない存在にだ。

 跡部はそれを理解できるだろうか?

「すまんなぁ、観月。よう言い聞かせとく。……って、跡部に話しといてええんかな」

「勿論です。逆にすみません、本来は僕が言うべきことだろうに」

「気にせんでええで、観月もたいがい面倒くさい性格しとるなぁ思うけど」

「う……」

「跡部のお坊ちゃま加減もたいがいやからな。ちょっとくらい面倒みさせてや」

「ありがとうございます。僕は普通に友達として接していただければそれでいいんです」

 ここでふと思い出した。普通のお友達。きっと今の二人の関係はそうだ。けれど跡部がその一歩先に進みたいことは何となく察している。せっかくなので少し聞き出してみるかと思い至る。野次馬結構。

「あ、それなんやけどな」

「はい」

「実際のところどうなん?」

「え?…………あっ……」

 素頓狂な声の後に察したような声。場面が想像できて思わず苦笑する。

「跡部の事や、隠し事なんてしてへんやろ」

「その……好きだとか正直よくわからなくて、保留にしてもらってます」

「そうなんや」

「忍足くんとしては、どうなったほうがいいですか?」

「俺か? 俺はどっちでもええんやけどな、曖昧な覚悟で決めたら不幸になる思うてる。やから、少しでも嫌やったらやめとき。わからへんなら、わかるまで保留でええやろ。俺らの王様はああ見えて紳士的で忍耐強いさかい」

「……そうですね、ありがとうございます」

「ま、跡部が喜ぶんなら、そっちのが嬉しいけどなぁ」

 こればかりは本心だ。上手く収まると言うのならば、喜んで欲しいに決まっている。一筋縄では行かなくとも、きっと跡部なら超えていけるのだろう。






「っつーわけや、分かったか跡部」

 次の日の昼。早々に忍足は跡部の元へ訪れていた。昨夜の観月とのやりとりをかい摘んで話す。

「…………だいたいは」

 組んだ手に顎を乗せて、眉間に皺を寄せて仏頂面な跡部がそこには居た。美形が台無しだ。

「観月を喜ばしたいんはわかるけどな、そこらの女子じゃあるまいし、一筋縄やいかんみたいやな」

「そうか、そういうことか」

「そゆことや。応援はしたるから、頑張りや」

 ようやく悟りを開いたかと言うように跡部が唸る。何はともあれお悩み解決だ。

「ああ、もひとつ伝言頼まれたんやった」

「あ?」

「跡部のその顔で「綺麗」とか言われても腹立つだけやさかい、言うな……とのことや。聞いた時思わずわろてもうたわ」

「はぁぁ!? 綺麗なものに綺麗っつーのは当然だろーが!? これでも『可愛い』は怒るから言わないようにしてんだぜ!?」

「君らめっちゃおもろいな」

「面白くねーよ!!!」

「イケメンに生まれたことをようやく呪う日が来たんとちゃう?」

「俺のことはどうでもいいんだよ! くそっ」

 新たに悩みが増えた跡部を見て笑う。話を聞いた時も相当に笑ったが、本当に笑い草だ。暗に惚気な気がしなくもないのだがそれはそれだ。
 きっとまだまだ悩みは続く。跡部と観月という摩擦は、そう容易く溶け合うことはないだろう。

「まぁ、相手はあの観月や、押し過ぎも引き過ぎも、観月には効かんのや。諦めへんなら覚悟しときや」

「……上等だ!!!」







ふと書きたくなって書きなぐった跡観です。
馴れ初めが好きなので、毎回違う馴れ初めを書いている気がします。
いいねん100通りでも1000通りでも馴れ初めは美味しいのだ(※馴れ初め厨の言)

うちの観月さんは物凄くプライドが高くて
あの跡部と友達として意識的に対等でありたくて
なので女の子に接するような対応するとすごく怒るんですけど
それに気付かされて跡部がこれから頑張るよって話なのでした。

書き上がったら全く面白くなくなってて私がびっくりです!
書いてる時は楽しかったんですけど、あれぇ?^^;;;

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