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燻り続ける激情は(シオユリ)

制作時期:2024年10月

炎と氷の対極属性っていいよね。
と思いつつ書いたシオユリの馴れ初めもどき習作。
典型的なツンデレムーブをかましてくる根っこが甘いお坊ちゃんユリウスはかわいい。
実はめちゃくちゃデキるオラオラ系ツンデレのシオンもかわいい。
どっちもツンデレだけど、ユリウスのが甘ちゃんでデレが早いイメージで書いてます。

私の中のシオンはウィルの事がだいすき()なので、根底にウィルシオが流れています。
香る程度ですが、そういう意味で左右固定の方はお気をつけください。
配慮はここにしかないよ。










 入学した頃から知っている。寧ろこの学園で彼の名を知らないものはいない。
 それくらいに彼は、ユリウス・レインバーグは有名だった。
 上流貴族の出で身分も申し分なく、容姿も育ちも完璧な男。筆記、実技共に好成績。
 だが、性格に難あり。
 それを知っていたから、元から関わるつもりなどなかった。
 何せ、彼の属性は氷だ。炎を操る自分とは対極、絶対に合い入れることなどないと、会う前に分かっていたのだから。

 当然、口も聞かないまま数年が過ぎた。四年生になり、売れ残りが出始める。優秀な生徒は既に塔に引き抜かれた。
 それでも残っていると言う事は、そういう事なのだ。
 そこで最初に生まれたのが、小さな同族意識だった。
 いや、全てにおいて成績では優れているはずなのに、より『そうではない』(スカウトされない)方が堪えるかもしれない。自分にだって焦りはある。卒業まで塔に上がれないかもしれない焦りだ。卒業しても塔にあがれないまである。それは常に心の奥深くで燻っている火種だった。

 そして最終学年になる。
 五年生の時はそうでもなかったのに、六年生となるとやたら噂が付きまとうようになる。やれ誰の成績がいいだの、誰が強いだの、ランカーは誰だの、そんな話だ。当然、卒業を見据え始めるのでそうなる。
 ここまで互いに踏み込もうとしてこなかったユリウスは、見事に性悪で高慢な魔導士に育っていた。良いところは顔しかない。誰もが羨む美貌もその口の悪さと傲慢さでマイナスにしかならない。
 だが、女はそれでいいらしく、やたらキャーキャー言われているのは知っている。全くもってバカらしい。あんな奴の何処がいいんだ?

 本当に六年間、話しかけた事は殆どない。生徒や先生も属性の悪さを理解しているのか、同じチームに組み込む事はしなかったし、敵のチームになることもなかった。何度か実技で手合わせはしたが、本気で試合うようなものは一度としてなかったのだ。徹底的に互いに避けてきた相手、それがユリウスだった。

 自分には他にライバルがいる。いや、ライバルでありたかったのだと、見つめ直せたのはごく最近だ。
 ウィル・セルフォルト。
 思えばずっと。そう、一年生の頃から強烈なライバル意識を持っていた相手だ。弱いくせに、魔法も使えないのに、自分の庇護下に入らずに突っぱねた男。
 その本当の強さを知ってしまった時、心の中のなにかがガラガラと音をたてて崩れていった。それは誇りだとか、虚栄心だと思っていたが、実のところはそうではない。崩れたのは、言い訳をしていた自分だ。
 本当は、本当は対等として扱われたい。隣にならんで戦いたい。必要としてほしい。その力が自分にはあるはずだ。
 常に勝っていたい。力を認めてほしい。
 自分を、本当の自分を見ていてほしい。
 ここに来てあらわになった闘争心は、一度火が着いたら消える事はなかった。炎の属性とは、そういうものなのだ。性格的に荒く、猛々しく、全てを燃やし壊すものだ。
 だからそれでいいのだと思った。それこそが、原動力になるのならば。

 その日、そこでは魔導大祭の戦勝会が催されていた。ドワーフの集う酒場で馴染みがないし、そもそも出場するために使われた身としては遠慮したかった。なのでもちろん、参加は断った。
 勝手にチームに混ざり、突き進んでいく彼らについていくのがやっとだった。そして仲間割れという形で戦い、結局は振り切られてしまった。如何にコレットがいたとしても、素直に参加してやる義理はない。
 義理はないといいつつ気になって店の外には来ていたのだが、絶対に店に入るつもりなどない。遠くから眺めていると、知った声が楽しそうにはしゃいでいるのがわかる。
 誰のおかげだと思っているんだ。もっと頭を下げるべきでは。などと考えていると、店の裏口が開き、中から出て来た男と目が合った。

「あ?」

「は?」

 軽装の上にエプロンをつけた男。
 それはユリウス・レインバーグだった。





「何してるんだ、おまえ」

「なんで貴様がここにいるんだ!?」

 いや、まずい。ここで見つかるのは得策ではない。咄嗟にユリウスの腕を掴むと、引っ張って歩く。腕が冷たくて湿っぽい。水作業でもしていたのだろうか。

「いいから、来い」

「ちょっと待てっ!」

 さっと一つ角を曲がった先の路地裏に入る。こちらに気づいている者は誰もいないか壁越しに気配を読み、誰もみていないと結論付けた。

「放せ、この馬鹿力!!!」

 何とか振り解こうと躍起になっているらしいので腕を離してやる。どうやら力は自分より弱いらしい。まあ、一応鍛えてはいるからな。

「で、お坊ちゃまはこんな所でエプロンつけて何してんだよ」

「貴様には関係ない! 言っておくがおまえには負けてないんだからな!? 遠慮はしないぞ!」

 随分と威勢がいい。このなりでか。

「という事はあれか、あの無能者関連か」

 良かった威勢がすぐに止まる。

「うぐ」

「図星か?」

「負けたら言うことを聞いてやると言ったんだ。……店の手伝いをしろと言われたのだから、しょうがないだろう」

 ユリウスがウィルに負けた、なんて話は今日半日で一気に広まった、公然の事実だ。
 なんで二人が争っていたのかと思ったら、何か約束事があったらしい。
 しかし、それで素直に言うことを聞いているとは。

「お前、実は真面目か?」

「うるさい! しょうがないだろう、大勢の前で約束してしまったのだから! 私だってこんなの屈辱だ! 誰が好き好んで庶民に奉仕などするものか!!!」

 高慢ちきな性格はどこいったのだろう、と思ったが、それよりも有言実行を取ったようだ。なんとでも言葉で躱せそうなものを、あんがい実直な性格なのかもしれない。
 面白そうなのでもう少し弄ることにする。

「その割にはサボりに出てきたように見えるがなァ」

「違う、サボってなどいない!」

 真っ向から反論して、押し黙る。後ろめたさはあるらしく、言い訳するようにちらりと一度視線をよこしてくる。
 それから一呼吸おいて、観念したかのようにぼそぼそと言い訳を喋りはじめた。

「……。〜〜っ、欠けた皿で、指を切ったのだ」

「はあ? ドジかよ?」

「ぐう……。こんな慣れないことを貴族にさせるから悪いんだ。動揺して飛び出てきてしまった」

 手元を見ると、確かに左手の人差し指から血を流している。じわじわと溢れ出てきた血が指先に伝う。
 それを庇うようにユリウスは逆手で腕を握り込むと、壁に背を預けてヘナヘナと座り込んだ。

「どうしよう……怒られるだろうか」

 それなりに参っているらしく、妙にしおらしくて萎える。
 なんだこれは、本当にあのユリウス・レインバーグなのだろうか。

「知るか。僕に聞くな」

「暫く氷で止血する。貴様のことは詮索しないでいてやるから、もう帰れ」

 そう言って、男は座り込んだまま動かなくなった。
 鋭利なもので切った傷は、浅い割に血が流れるものだ。だが、かなりスッパリと深く切ったらしいユリウスは、溢れてくる血に内心焦っているらしい。不安そうな顔をしている。この程度の傷に?
 これだから貴族は、と思うが、自分も貴族である。
 一つため息をつく。

「なんだ? 聞いているのか?」

 その手を取って、血に濡れた傷口をまじまじとみる。

「ちょ、おい! シオン!」

 ああ、いけそうだ。
 そのまま屈んで、傷口を口元まで持ってくると、魔力を込めて指に吹きかけた。
 一瞬、火柱が立つ。

「ぁつッッ〜〜〜!!!!!?!」

 そんなに強い火力ではない。炎は一瞬にして消えた。

「き、きさま、な、なにっ!!? 何をした!? わ、わわわ私を誰だとおもっ、」

 驚いたユリウスが、すぐさま立って猛烈な抗議をしかけてくる。
 不安そうにしてたから、慣れない治療もどきを施してやったというのに。
 別にいい、どうせ言ったって聞きやしないだろうから。

「っせーな、攻撃はしてないだろうが。ほら、傷口を焼いてやったんだよ」

「っはあぁぁ〜〜〜???」

「止血だっつってんだ! このボンクラ!」

 念の為に腕を取って傷口を確かめる。大丈夫だ、傷口だけ綺麗に焼かれている。
 この寸分狂いない延焼を起こすのは結構難しいのだ。

「ボンクラァァァ!? 貴様、私の事か!?」

「こんなところでエプロン着て、庶民様の手伝いして、皿で手ェ切って半べそかいてる奴がボンクラでなくて何だってんだよ」

「………うううっ」

 驚いて噛みついてきただけで、掴まれた手も振り払わないくらいには、おそらく怒っているわけではないのだ。
 そこでなんとなく察しがついた。この人間は存外甘い。貴族の高慢さゆえだろうか。いや、少し違うか。

「血は洗えば落ちる。そろそろ居ないことに気づかれて探されるんじゃないか? もう行け」

 手を離して帰る方を示してやる。
 わかっていると言うかのように、ユリウスは怒りながら自分から離れていった。
 くだらないが、ここに来てしまった事実は一人の人間に確認されてしまったわけだ。
 事実を揉み消すように背を向けたところで、彼から捨て台詞が届いた。

「貴様、後で覚えておけよ!」

 いや、いいから忘れろ。






 翌日、授業の合間に友人を待っていたところで、ユリウスに見つかった。
 彼はこちらの姿を見つけると、足早に近寄ってくる。一応周囲の目は警戒しているらしく、動きがおとなしい。そのまま人目につかない方へ隠れると、話しかけてきた。

「あの、昨日はその……助かった」

「は?」

 こいつ、礼が言える性格だったのか。というか、特に助けたわけでもなく。いや、助けたか。
 見過ごせないからそうしただけで、特に礼を言われるほどの事じゃない。
 そもそも、忘れてくれたほうが良かった気すらするのだが。

「礼を、言いそびれたから、いま言っておく。貸しなんかじゃないからな!」

 そういって、おもいっきり照れながら足早に逃げていった。なんなんだあれは。
 恥ずかしがるくらいなら最初から言わなければいいのでは、と思うが昨日のあれで察しがついた。あの男、育ちのせいか、どこにその要素があったのかは不明だが、ものすごく根が善良で真面目なのだ。機知の効いた悪知恵を使っているように見えて、たまにそれが剥がれ落ちてしまう。高慢に装っているのは、その方が都合がいいからだろう。
 なかなかに、自分と同レベルで面倒くさい生き物だな、という感想を持つ。
 だが、あの必死に取り繕う様子を思い返すと少し愉快な気分にはなった。







シオユリ馴れ初め習作~~!!!
まだちょっと書き慣れてない感じだけど許してほしい!
という時期に書いた手探り中の話です。

いや、色々ついったーでキャラを語っているうちに
シオンもかわいいしユリウスもかわいいけど喧嘩してるしくっつけたら楽しいのでは?
とふと思い至って馴れ初めを書いてみることにしたのです。
だぁれもシオユリとか言ってない世界でたった一人ですよ(笑)
またそれかー!……慣れたわ。

そして
ユリウスを虐めて遊べるのはすごく楽しいという快感を得ました!(最低じゃねぇか)

ちなみにシオンは、ウィル以外には理知的で冴えの効くかっこいい男なので
その部分が出るシオンを二度楽しみたかったというのもあります。


そしてシオユリは続いていくのであった。
うっかりユリウス沼にも来てしまうことになるとは~


なお、タイトルは何も考えつかなかったので、蒼穹のファフナーHEAVEN AND EARTHの真壁一騎イメージソング『FORTUNE』からです。

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