登場人物:カゲトラ クルト
CP傾向:カゲクル
制作時期:2009年春
先輩に見つかってしまいました編
「あ、あなたは……!!!」
「姿を眩ませたと聞いたが、まさかこんなところにいたとはな、車」
バストゥーク商業区のはずれで、偶然にも鉢会わせた男は随分と久しい顔だった。普段は「忍の教え」の通り無表情な彼も、流石に平常心を抑えられないのか驚きを隠せていない。
次の瞬間、奴はその姿を眩ました。
が
「遅い! すり足を教えたのは誰だと思ってんだ?」
「!!!」
闇に消えようとしたその腕を、強く掴んで止める。奴は直ぐさま観念したのか、それ以上の抵抗は一切せず、大人しく掴まれたままで顔を背けた。
「抜けてから、この国に居んのか?」
街燈でぼんやりと照らし出されたその衣装を見やる。彼の身に着けているのは、街のいたる場所で見る制服だった。では既にこの国の組織に組み込まれている可能性が高い。問い掛けに言葉ではなく、頷く動作が返ってきた。
もう何年前になるだろうか、この男が抜けたのは。筋は悪くなかったし、飲み込みも早かった。
仕事に不満を言うような性格ではなかったし、生真面目で冷静、忍としては文句のつけようがなかった。
技を叩き込んだ兄弟子のカゲトラも、それなりに信を置いて可愛がっていたくらいだ。絶対に裏切りなどしないタイプ、そんな奴が任務に出たきりぱたりと音沙汰を無くしたのは随分と前だ。
ノーグの秘技を受け継ぐ忍は、抜けただけでも重罪とされる。その技を守るため、抜ける折には長に話を通して了承を得て、技を外界に伝えぬと約束をして初めて外界での生活を許される程だ。
故に車は勿論のこと、追跡リストに乗った。ノーグへと送り返せば、よくて監禁、悪くて処刑だ。奴もその事を知らないはずがない。
「どこの部隊だ?」
「……第8鋼鉄銃士隊の隊長を勤めております」
「フン」
確か欠番とされている部隊だが、存在して奴が隊長となると隠密部隊か。そうなると手を出すのは少し危険だ、悪くすればバストゥークとノーグの外交問題に発展しかねない。
だが、ただ見過ごすわけにも行かない。……と、なれば。
「車、今は見過ごしてやる」
「カゲトラ…さま……?」
「勘違いすんじゃねぇ、利用価値があるから泳がせてやるだけだ」
その腕をぐんと引いて身体を寄せる。隠密とは言え、バストゥークで隊長格の力を持っている相手だ、脅しをかけて手駒にしてしまえばいい。そう、言わば遠国の拠点だ。
だが、奴は昔には考えられないような、淡い笑みを浮かべて静かに答えた。
「感謝……致します」
この男、ずいぶん変わった。そう思えた。
脳裏にヨミの姿がチラつく。国を出て、幸せになろうとする存在。
「この車、今はクルトと名乗り恩義あるこの国の将に忠誠を誓う身。この国の勝利が来るや、必ず御命に従いますれば、今は何卒ノーグ本国への報告をご容赦願いたい」
一切抵抗はしない、と示すがの如く、帯びていた刀を地に下ろし膝を折る。
「いいだろう、俺もここに居る時は力を貸してやる。ただし、俺を言うことを聞け、悪いようにはしねぇよ」
「は……」
頭を下げる相手を見て、胸が高鳴る。
これで、足場は完成した。
まさかのカゲトラ×クルト。
先輩に見つかってしまいました編(笑)
こんな返事をしてしまったがために、今後大変な思いをするわけです。
先輩のパシリをしたりワガママを聞く人になる残念なクルトがいました。
私の脳内だけに……。
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