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境界線上で手を(過去 レオノアーヌ×ヴァレンラール)

登場人物:レオノアーヌ ヴァレンラール

CP傾向:レオヴァレ

制作時期:2008年11月

初めてまともに言葉を交わす二人。
最初は互いに嫌悪しまくりです。









 彼との出会いは険悪そのものだった。




 新しく登用された傭兵騎士団の一つで、荒々しい氷を扱う猛将なのだと聞いた。遠くから部隊の姿は確認していたが、今回初めて同じ箇所へ出撃し、防衛線警護のために野営を張る事となり顔を合わせる事となったのだ。
 共同戦線を張っているのに、お互い完全に協力することはなく、奇妙な関係だった。
 陣営も微妙に距離を離しているし――隊員に女性が多いので、プライバシーを守るためと言われた――近付く事も互いになかった。
 夜になり、朱髪の公子は見回りのために巡回をしていた。王族と言えど、部下のみに見回りをさせて休んでいられるような性格ではなかったからだ。

 そんな時、女性兵の談笑が弾む中、覚えたばかり声が聞こえた。隣の猛狗傭兵騎士団だろう。

 女性を気遣い、向きをかえて場を立ち去ろうとしたその時、軽い男性の声がしっかりと耳に入った。

『クフフ、戦争バンザーイ! 俺らにはビッグチャンス~ってね』

 それに続いて引き起こる笑いなどもはや遠くに聞こえていた。

「不謹慎な……!」

 邪魔をする気はなかったというのに、気付いた時には小さな集まりの中へ割って入ってしまっていた。





 隊員達と情勢について面白おかしく談笑してる中に、剣呑は空気を隠しもせず、横槍を入れて来た人物を見て、場は一気に静寂に包まれた。知らぬ者はいないであろう、この国の近衛騎士団率いる公子だ。
 王を守っているだけではない、実質王立騎士と神殿騎士、地方騎士まで全てを統括できる能力を持つ、唯一無二の存在。
 酒を煽っていた猛狗傭兵騎士団隊長レオノアーヌは、軽く隊員達に目配せた後、ゆっくりと声を発した人物へと目をやった。

「これはこれは公子殿下、立ち聞きとは趣味の悪いことで」

「見回りに通り掛かったら声が聞こえたのだ」

 隊員の女性は直ぐさま立ち上がると陣営の方へ戻って行く。それを気にも止めずにずかずかと近寄り居丈高に見下ろして来るその顔は、端麗で些か冷たい印象を与えた。

「貴公、聞いたのが私だから良かったものの、そのような事が民の耳に入りでもすれば……」

 クソ真面目な顔に、クソ真面目な考え方、そして物言い。出撃する前に会った、神殿騎士団隊長補佐の少年をどこか思い出させてくれる。
 虫唾が走る。大嫌いだ。だが同時にどうしようもない高揚感を覚える。
 現実を知ったら、どうする?
 とても意地悪な気分になって、口許を歪めたまま切替えした。

「どーなんの? 俺をクビにすんの?」

「!?」

「このご時世、ここじゃなくても傭兵を雇ってくれるところはあるしいいけどねぇ。兵力の足りないサンドリアさんは困るんじゃねーの? ん?」

「それは……」

 そんなのは劣勢である今だけなんだと嫌と言うほど解っている。戦人の価値が高いのは、戦がある時だけだからだ。

「どーせ戦が無ければ俺たちゃ御払い箱なのさ、民の世論なんて関係ねぇんだよ」

 『雇いの騎士団』だと、冷めた目で見て来る上流階級も
 『天の救い』だと、羨望のまなざしで見て来る貧困層も忘れはしないだろう。
 傭兵とは、それ以上でも以下でもないのだ。

「アンタらは良いよなァ、何もせずとも民が生かしてくれる」

 王族の出であるのに、わざわざ戦場の最前線で剣を振るう聖騎士。普通のお偉いサンでないことは知っている。
 だが戦場の意思を汲めないのであれば、自分に取って価値は一緒なのだ。

「けどね、俺たち市民権もない傭兵は生きるために稼がないと生きていけねぇのよ、わかる?」

 俺とお前では住む世界が違う。生まれも生きて来た世界も。
 理解しろとは言わない、だが否定はするな。
 これは俺が生きる道なのだ。

 突き放すように空を見る。虫の鳴き声だけが場を支配し、静寂に包まれる。少し苦しそうな顔で押し黙っていた赤髪の公子は、やがて声を絞り出すように問うた。

「……戦で……戦で人が死んでいるのだぞ?」

 それを笑うことなど、許されていいはずがない。そう言いたいのだろう。
 だがそれに対し、レオノアーヌは酷く冷めた目をして、一言呟いた。

「俺らは戦があろうがなかろうが死ぬ」

 空気が重い。彼はいたたまれなくなり、地面に視線を落とした。これほどまでに世には隔たりがあるのだと、知ってはいるのだが、上手く自己処理ができないのだろう。

「稼がないと、飢えて死ぬ。特に女子供は稼ぐ手段すらままならねーのさ。なら、何もしないで死んで行くより戦って死にてぇだろ? あわよくば命儲けて生きてぇだろ? ま、温室育ちには一生わからないかもしれないねぇ」

 嘲笑うような語尾に、普段ならば「無礼な!」と声を荒げていそうだが、そんな気はないのか、否定もしないまま俯き続けているだけだった。

 深い、とても深い溝。
 何もせずとも、食べるには困らない者と、身を削いで働いても、食べ物に困る者。かつては、歯牙にもかけなかった存在だった。
 高貴なるエルヴァーン族の、最も誇れる王家の血こそが至上だと思っていた。守るために手段すら問わなかったほどだ。
 それを崩したのは、今の王だった。
 その内気で弱いと言われた優しき王の事を考える。こういう時、敬愛する王ならば……何と答えるのか。
 思いだし、吟味して……公子はゆっくりと言葉を紡いだ。

「確かに、私と貴公では生まれは違うし考え方も違う。だが私は……だからと言って袂を分かったままで良いとは思わぬ」

「はぁ?」

「今の我が国の格差情勢が宜しくないことは私も懸念している。私は国政に携わることはできないが、王へ情報を伝えることならば務まるであろう」

 何を言い出すのかと、目を丸くした相手と、ようやく目を合わせる。

「なぁに? 橋渡しでもする気かよ?」

「それだけではない。我が国は貴公の部隊の力を必要としているのだ。だから……というのか、もう少し…こちらの力も信用しては貰えまいか? たとえ国が裏切ろうと、この私は絶対に貴公を裏切りはしない」

 公子は膝を折り、目線すらも合わせた。それは王に対するような跪拝ではなく、立場を同じと知らせるためのものだ。

「それって……俺と仲良くしたいってこと?」

「ふむ、そうなるのか」

「確かにアンタ、変わった王族だねぇ」

 ようやく、目に映った。
 『貴族騎士のお偉いさん』を見る目ではなく
 『国を見る一騎士』として
 レオノアーヌは、膝を折った公子を品定めするようにまじまじ見た後、真っ直ぐに流れる朱い髪を一房掬うと、おもむろに口付けを落とした。

「いいぜ、話くらい聞いてやるよ。座りな」








レオヴァレ第一弾です。馴れ初め話が好きなので、馴れ初めから。
この二人は、ものすごい身分差というか
あらゆるものに違いがあって、そこが好きです。

そういうのを書いていければいいなぁ……なんて思いつつ
まだまだ先は長い……

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