登場人物:アーデルハイトとバストゥーク共和国軍の一部
CP傾向:―――
制作時期:2008年初夏
水晶大戦後、学者としてジュノに向かおうとするハイジ
「お願いです、そこを退いて下さい……」
荒廃が進んだ北グスタベルグに冷たい風が吹く。
青い羽根を持つチョコボに跨がった軍学者の女性の前に、立ち塞がる男が二人。
「何処へ行く気だ、アーデルハイト!」
声を荒げる腰に細剣を携えた男に、アーデルハイドと呼ばれた女学者は落ち着いた声でポツリと返す。
「ジュノ大公国へ」
「今、グリモアを持つ学者はアルタナ連合軍の下、全て謹慎の命にあるはずだ!それを知らぬお前ではあるまい?」
「……。知ってますよぉ、そんなこと」
その静かな答えに、男に困惑の色が浮ぶ。
止まることを知らぬ風が谷の合間をヒュウと通り、女性の正装がひらひらと揺れる。
「それでも、それでも私はジュノへ行かなくちゃならないんですぅ」
少女が腕を横に伸ばすと、その手の先に黒い本が現れる。
本は光を放ちながらひとりでに数ページぺらぺらと捲れると、パタンと音を立てて消えた。
「ならぬ、アーデルハイト!!!」
「よせ!嬢ちゃん!!!」
「バインガ!!!」
二人の男は咄嗟に地面から離れようとしたが、強力な束縛の術が足にかかり、重みでガクリとその場に崩れる。
代わりに叫ぶように、両腰に剣を指した男が声を上げた。
「嬢ちゃん、行くな!殺されっぞ!!!」
その声が届いているのかいないのか、アーデルハイドはゆっくりと手綱を引いて歩き出す。
「ごめんなさい、マクシミリアンさん、バルトロメウスさん。
いつも、優しくしてくれて。あたし、嬉しかったですぅ」
少しおどけて笑ってみるも、上手く笑顔が作れなかったのか寂しげに見えるだけだった。
「……でもみなさんには絶対迷惑はかけませんから、行かせて下さい」
チョコボはゆっくりとした足取りで、隣をすり抜けて行く。
「あたし、こーみえても軍学者なんです。
シュルツ先生の教え子なんです。
だから…………行かなくちゃ!
同じ門弟の徒を見捨てるなんて、絶対できないもんッ!!!」
悲鳴に近い叫びは谷に木霊して儚く消える。
アーデルハイトは、俯いて無言のまま手綱を握りしめた。
「アーデルハイト……」
「分かってますよぉ、行ったら捕まっちゃうことくらい。だって様子を見に行ったニックが帰ってこないもの」
チョコボの歩を止めたアーデルハイトが、振り向く。
その目尻には溢れんばかりの涙が揺れていた。
「だからわかってるんです。その先に何があるかも。
でも、マクシミリアンさん……前に言ってましたよね。
『人には引けない戦いがある』って。
あたしにとって、今がその時なんです」
「嬢ちゃん……」
「絶対に、迷惑はかけないって誓いますぅ!
……だから!お願い、私をみんなのところへ行かせて!!!」
「ばかものッ!!!!!」
その時、泣き叫ぶ声を止めるように、谷に大きな大きな声が突如として響いた。
アーデルハイトはぽかんと涙に濡れた顔を上げ、マクシミリアンとバルトロメウスも周囲を見渡す。
「……え?この声……」
この声は……。
「勝手にバストゥークを出ては危険だろう、アーデルハイト」
「る、ルートヴィヒさまっ!」
バルトロメウスやマクシミリアンと違い、チョコボに跨がり追いかけて来たのか、小高い段上に立っているのは、第二共和軍団隊長ルートヴィヒだった。
それに続くチョコボの影は、見慣れた戦友達の姿だ。
「全く、世話をかけさせて」
「ごめ……なさ……でもっあたしっ!!!」
「分かって居る。無理に戻れとは言わん。
しかし共和国軍として正式に見送るわけにもいかんのだ」
びくりとアーデルハイトの肩が震える。
「やだ、あたし……っ!」
戻りたくない、と彼女の目じりから涙が溢れるのを見て、言葉を間違ったかとルートヴィヒは肩の力を抜いた。
「だがな、軍の者は皆、おまえの気持ちを理解して見送りたいと思っているのだぞ」
「ッ!!!! ルートヴィヒさま……みんな……」
「あくまで極秘だが、我が隊はお前を見送る、だから必ず戻って来い」
ぱぁ、と広がる彼女を見て、胸を撫で下ろした。
「んだよ、ルートヴィヒ!おまえさんだけかっこつけンな!
嬢ちゃん、俺だって待ってっからなー!」
「マクシミリアンさん……」
「助けるのはいいが無理はするな、最大の武器は筆であることを忘れてはならぬぞ!」
「バルトロメウスさん」
「ハイジちゃん!前向きな気持ち、忘れちゃだめよ?寂しくなったら私の踊り、思い出してね」
「ソニアさん」
がやがやと声をかけられて、アーデルハイトは涙を拭いた。
これほど力強い声援があるだろうか?
そうだ、弱気になってはいけない。
グリモアならいらない、ただ愛する人々を、返してもらいに行くのだ。
「行って来い、アーデルハイド」
「はい!行ってきます!」
絶対に、戻って見せる。愛するバストゥークへ。
アーデルハイトの旅は、始まったばかりだ。
本当は護衛にクルトがついてきたりとかする話だったんですが
これにて終了……だいぶ放置してました。
学者関連の最後は暗すぎて戦慄を覚えます。
でもそういうところがたまらなく好きなんですよね。
アーデルハイトかわいいな~
ちなみにこれ執筆してた時、まだあまりニックが出て来てなかったんで
最後にとってつけたような出番になっちゃいました。ごめんね。
ニック←ハイジ大好きだよ!
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