【登場する人】
高友乾、紂王、妲己、聞仲、李興覇
【CP】
紂王✕高友乾
【備考】
まさかの紂王✕高友乾です。女装あり。
物凄く捏造混じりで続きモノ。(未完)
段々と雲行きが怪しくなる予定なのでお気をつけください。
こんな城の警備など、ちょろいものだ。そんな賊のような事を考えながら、彼はこの禁城に潜入していた。
この宮殿は男子禁制、所謂後宮だ。入れる男子は紂王のみという、王の后妃と女官だけが住む世界なのだが、そこに忍び込んだ男にはその理屈が通らなかった。彼を俗世のしがらみに捉えることはできない。何故なら彼は仙人だったからだ。
そんな仙人が何故また男子禁制の宮殿を徘徊しているのかと言えば、それは彼が仲間内の賭けに負けて禁城にあるという酒を掠める罰ゲームの最中だからなのだが、忍び込まれる側としてはいい迷惑だろう。
「は~、歩きにくいイライラする脱ぎたい破りたい」
彼は人の気配のしない廊下を、これまた気配を消して早足で歩いていた。
例え見つかったとしても、この姿では男性には見えることはないであろう完璧な女装姿であるのだが、雰囲気は剣呑でとても后妃には見えなかった。
「ったく、なんだよ。このだだ広い迷宮は。腹のたつ! 全然酒倉に辿り着けないじゃん」
十字路に来ては左右を見渡し、庭に出ては陽の高さを計って奥へ進む。人の気配を探って鉢合わせしないように気をつけていたし、人には会わないが、その分迷ってもいた。既にここがスタート地点からどれくらい進んだかも謎だ。
本来ここは妲己の縄張りなのだが、二日前くらいに遠方に温泉旅行に行ったと確認しているので怖くはない。きっと一週間は戻らないだろう。
滅多に来るところではないので彼はそれなりに楽しんではいるが、想像以上に広くて殺風景なので少し飽きてきた。
だが、欠伸をかみ殺しながら歩いていた、その時。
「そこに誰かいるのか?」
まさか気配のない先の曲がり角から男の声がするとは思っておらず、ぎくりと足を止める。咄嗟に身を隠そうかとも考えたが、おそらくもう遅い。気配を感じないのに衣擦れの音がする。確実にこちらに近づいてきている。
こちらだって気配を消していないわけじゃなかった。ずさんな隠し方ではあったが、そこらの女子供ではわかるはずなどない。それなのに。
ここで男の声がするなど相手は1人しかいない。別の男が、普通に歩ける世界ではないのだから。
「気配が断てるとは珍しい」
「っ!!!」
侵入者としての警戒も同時にしているのだろう。男は隙のない足取りで、ゆっくりと姿を見せた。
紂王。
ここの絶対なる主。
いつもの腑抜けた顔つきとは、今日は少し違った。妲己が遠いからだろうか?
日中から禁城にいるだけでどうかとも思わないでもないが、いつもの顔つきよりかはいくばか端整に見えた。
しかし、そんな品定めをしている場合ではない。それよりも前の男をどうかわすかの方が先決だった。相手はたかが人間、捕まるなどと言うことはないだろうがバレたくはない。聞仲付きの男の仙人など覚えてはいないとは思うが、捕まるか男だとバレれば大目玉を食らうかもしれない。
否、大目玉を食らうのはいいとして問題はこの件で迷惑をかけてしまう可能性だ。ここでノーマークの城の主本人に出くわすなど、全くの誤算で、ミスだった。どうしたものかと、思案する。咄嗟に袖で口許を隠したのだが、紂王に無遠慮な女官だと思われるとまずい。
「ほう……」
舐めまわすような視線を感じ、とにかく何か女っぽい演技でもしておくかと、恥じらうように顔を隠して俯いた。
これで顔は見えまい。隙を見て適当に走ろう。もう目的は捨てて逃げるが勝ちだ。
しかし、世の中は甘くはなかった。眼前の紂王は気味の悪い笑顔を貼り付けていきなり飛びかかって来たのだ。
「プリンちゃ~~~ん!!!」
「はぁ!?!!」
思わず素が出て突っ込んでしまったのだが、細かい事はもう気にしていられない。己とて伊達に何百年も功夫を詰んでいるわけではない。軽く避けて、そのまま退く。――つもりだった。
避けるところまでは良かったのだが、退けなかった。利き腕を掴まれていたからだ。これには流石に驚いた。動きを見切られる予測などしていなかったのだ。
背中に戦慄が走る。強く掴んで離れない手に、純粋に恐怖が湧いた。そのあとは無意識だった。
気がつけば、その腕を起点にして型にはめ、そのまま背負い投げて地面に転がり倒してしまっていたのだ。
「な、なんと!」
「あ。」
しまった!
まさか紂王を型にはめて地面に転がすなど、これが平民なら軽く首が飛ぶ。もしかしたら忠臣でも飛ぶかもしれない。
正気に戻っても、時は既に遅い。そうして、彼――四聖の高友乾は逃げ出した。
大丈夫だ、バレなければ……。否、バレても仙人だからこの国の法は通らない。けれど、絶対に聞仲様に迷惑がかかる。とりあえず逃げなければ。そんな考えが浮かんでは消えるが、気が動転してそれどころではない。
走る、ひたすら光に向かって走る。廊下の先の青空は、もう少しだ。
だが、天は高友乾に味方しなかった。
ただでさえ着慣れない衣に足を取られた。更に裾を踏んで膝をつく。きれいに足を挫くオマケ付きだ。何故もっと早くこの服を割いてしまわなかったのかと激しく後悔した。追いつく足音。
「そなた、侍女ではないな? だが、余の妻でもない」
ゆっくりと近づく影が前に立ちふさがり、そして腰をかがめた。
その手が伸びて頬の髪を払い、ゆっくりと唇をなぞる。
「だが、美しいな。余のものになれ」
直球すぎて泣きたくなった。
お前の目の前に居るのは男だぞ、と心中で突っ込み、同時にまだ男とバレてないのだと悟る。
しかし、既に高友乾は限界だった。どうでもいい。とりあえずこの気持ち悪い男に一言いってから帰る。相手が手練れであろうと仙人の自分にしてみれば、人間など大した脅威ではないのだ。
「やめろ! 気安く触るな。あと全てがお前の意のままになると思うなよ!」
ぶわり、と紂王の視界を布で覆う。女装のために見繕ったそれなりに上物の羽織りだ。元より割いて走りたかった衣服になど頓着はしていなかったのだから、躊躇せず目くらましに使った。
「俺は、お前のものにはならない」
そうすれ違い様に呟き、そのまま風のように駆けて、空へ飛んだ。霊力を放ちそのまま空に浮かぶ。後ろは振り返らないが、刺さるような視線を感じた。
宝貝を使わないで飛ぶには技術的に少し辛かったが、とにかく離れたい一心で跳躍した。
今日のことは夢現で忘れてしまえと、願いながら。
命からがら――というほど生命の危機には陥らなかったものの、冷や汗もので仲間の元へ帰った高友乾は見事に笑い者になった。
王魔にも小さく吹かれ、揚森にまで苦笑され、興覇に至っては大爆笑だ。被害者本人としては笑えたものではないのだが、無事に戻れたのでそれでいいことにする。が、とりあえず興覇の頭は腹いせに一発殴っておいた。少しスッキリした。
幸いなことに禁城に賊が入ったなどのふれは出ず、どうやら穏便に事が終わりそうだった。まずは安堵だ。公に探すつもりはないらしい。
そうして何もないまま幾日が過ぎた。
参内が決まったのは、丁度あの事件も記憶の彼方になりそうな時期だった。
正直、あまり紂王には近づきたくなかったのだが、今回はかなり遠目であるし大丈夫だろう。元より護衛のために姿を見せておくのが目的であったのだから大きな前進となるし、もう過去の小さな事件に構ってはいられなかった。きっとあちらも忘れている。ましてや女装していた者の顔など覚えてはいないだろう。
ここへ来た理由は、紂王周辺の警護――という名目での妲己派仙道の牽制。王を守るには守るが常に傍に居るわけでもなく、この周辺で皇后の名を使って妲己配下が悪さをしないように見張る程度だ。
勿論、妲己本人もそこに含まれるが、政治的な内容になると四聖は踏み込めない。よって、やはり周辺仙道の牽制が第一目的になる。
とりあえず紂王の周辺に四聖が警護に入る。その了解を得るための形式的な面会だ。
この国に忠誠を誓っているわけではないのだから、へりくだる必要もなく、いつもの格好で適当に挨拶に出向いた。喋るのは聞仲様と、リーダーの王魔だけで、特に何も気づかれることもなく終わった。
と、思ったのは彼だけだった。
その夕方、紂王自らが供を殆ど伴わずに、聞仲様の屋敷にやってきたのだ。まさかと思った。
嫌な予感はよくあたる方で、一瞬逃げてしまいたい衝動にかられた。
どうか、関係ない話でありますように……そう願いながら、さりげなく部屋を後にした。
「聞仲様、高友乾です。お呼びでしょうか」
いつもなら、敬愛する方に会えるのだと心を躍らせて前に立つ扉は、今日に限って重々しく見え、思わずため息が漏れた。まるで死刑宣告をくらったような気分だ。
あの後、なるべく見つからないように息を潜めていたのに、李興覇に見つかり聞仲様に呼ばれていると知らされた。
聞仲様に会ってお話できるのは嬉しい事なのに、そこにあの愚王がいると思うと気が重い。いや、きっと前に会った無礼な女官だと感づいていない、と良い方向に思考をきり変える。
別の話だ。そうだ、そうに違いない!と、淡い期待を持って戸を開いた。
予想通り部屋には紂王と聞仲様が対面するような形でもてなしていた。
「わざわざ呼んですまんな高友乾よ。紂王様がお前に話があるそうだ」
金鰲の仙道は殷に味方してはいるが、妲己が皇后、聞仲が重役についているだけで決して全てが膝を折っているわけではない。
四聖も聞仲に心酔し従ってはいるが、だからと言って殷に従ってはおらず、それを聞仲も重々承知していた。形式的には配下だが、仙道の地位としては自由に命を下せるわけではない。あくまでも好意による従属なのだ。
だから、紂王へは会釈をするだけに留めておいた。そんな俺を視界に入れた紂王は、ぱっと笑顔になり立ち上がる。
「久しいな。十と四日ぶりだろうか。今日も美しい!」
「ほう、面識がおありでしたか」
「……」
何か嫌な汗が出てきた。聞仲様が近くに居る手前、無下に扱うこともできず、どうすればいいのか本気で困る。何なんだ、本気で何なんだこの展開は。
動くことのできない高友乾を置いてけぼりに、話はどんどんと進む。
「以前、とある場所で出会ってな。余はあれから1日たりともそなたの顔を忘れたことはないぞ」
「ほう、なるほど」
にこにこと嬉しそうな紂王と、おそらく顔が強張っているであろう高友乾を聞仲様は交互に見る。これは、かなりいたたまれない。
「あの。俺は、男だぞ……?」
かろうじて、この一言。
寧ろ、この格好を見て男に見えない方がおかしいのだが、前に会った時は女装していたが故に、一応確認しておく。頼むから間違いだったと言ってくれ。
「わかっている。だが余はそなたを気に入っている」
後頭部を殴られたような気がした。
ああ、これは、重傷だ。
奴の目はかなりマジだった。
「あ、あの場所に居たことは謝ってやる。でもその時に言っただろ、俺はお前のものにはならない」
この重傷さはハッキリと言ってやらないときっと理解しない。そう確信して、正面切って告げた。王が何だ。知ったことか。欲しいもの全てが手にはいるほど、世の中は甘くはないのだ。そんな事を考えながら、睨み付ける。
剣呑は雰囲気に聞仲様はたじろぐ事もなく、茶を啜っている。極めて冷静だ。それが逆に少し怖い。睨まれている王はと言うと、怯んだ様子もなく朗らかに笑みを浮かべている。
「謝らなくとも良い。今日は別の話で来たのだ」
「…………」
こいつ、人の話を聞いていたのだろうか。
「では紂王様は、どのような件で?」
沈黙が続きそうだったところで、聞仲様が道を拓く。相手の顔には全力で逃げたいと書いてあるのだから、まぁ先に紂王に問うのは正しいだろう。
「この者を、余の護衛に欲しい」
「ふむ。私としては警護を強化したいので願ったり叶ったりですが、私の判断ではできません。彼に否応を問うべきですな」
確かにそうなのだ。聞仲様の言うとおり、紂王の警護に入るのであれば、彼仕えの侍女などがふさわしい。王の性格上、取り入るならばそれが一番確実な方法だっただろう。これまでであれば。
まさかこんなイレギュラーな事態になるとは思わなかった。
高友乾は返答を迷いながら、心の中でとりあえず罵倒しておくことにする。この王は、頭がおかしい。
しかし、聞仲様が育てられた天子であることに間違いはなく、そんな不敬な言葉は言えるはずもなかった。
しょうがなく俯く。聞仲様、貴方の命令であれば多少の苦痛は耐えて見せる。ただ一言命令してくれればいい。その言葉を待った。
「高友乾は私が居ると話し辛いだろうから、私は席を外そう」
「聞仲様っ!?」
覚悟を決めていたところ、どうやら判断は自分に委ねられるらしい。通りすがりに、頭をぽんと撫でられる。
「紂王様。彼は私に力を貸してくれている同志に過ぎません。よって、私には命令はできません。もし、本当に望まれるのならば、貴方のお力のみで説得されるのがよろしかろう」
「もちろん、余はただ権力を振りかざしに来たのではないぞ!」
当然だと言わんばかりに、紂王が胸を張る。
言っておくが権力のないお前など、価値がないぞ。と心の中で付け加えながら紂王を睨んでいると、次は自分へ聞仲様の言葉が降りてきた。
「友乾。私に隠し事があるようだがそこは不問で置いておく。王の話を受諾するかどうかは、好きに決めるがいい」
「……はっ」
そう言い残すと、聞仲様は颯爽と部屋を出てしまった。
その背中が心なしか楽しそうだったのは気のせいだろうか。
「高友乾というのか、良い名だ」
視線を戻すと、朗らかに笑う王の姿が目に入った。
結局のところ、条件をいくつか付けた上で、用件を飲むことになった。
本音を言えば、関わり合いになりたくはなかったのだが。しかしこれで聞仲様の心が少しでも安がれるのであれば話は別だ。
また、勧誘してくる紂王の態度が思った以上に紳士的だったというのもある。権力を振りかざして来るかと思えばそうでもなく、あくまで真摯に交渉された。
その根底にあるのが俺が美人だとかどうとか、かなりくだらないのは確かなのだが。この美貌を理解できるというのであれば、まぁ悪い気はしない。ということにしておいた。
条件はいくつかあるが、主に自由を許すことだった。
無駄に命令されたくはないし、周囲に問題として見られるのも困るので表立つ事はしないし、そもそも目的は護衛と妲己の牽制なのだから別件で働く事もない。ようするに侍従の真似事はしないという事だ。
守りはするし、王という立場も理解するが、あくまで人間と仙人という立場上、対等でいるつもりだった。
そうして、登城1日目を迎えた。
あの報告に想像以上に喜んで下さった聞仲様が、わざわざ仕立ててまで官中服を贈ってくださった。軽く動きやすく、しかし見事な見栄えのそれに身を包むと少しだけ気が引き締まった。遊びにいくのではない。
あれほど嬉しそうにされると、普段着でいいとも言い出せなかっと言うのも一つあるのだが、それはそれだ。
門兵にも顔パスというのはなかなか気分が良い。
だがしかし、紂王を無視して護衛するだけのチョロい……じゃなかった、穏やかなる日々の始まりも、一瞬にして落転することとなる。
妲己が、帰ってきていたのだ。
帰ってくるまでにもう少し足場を固めておきたかったのだが、おそらくどこかから情報が漏れて予定を切り上げて帰ってきたのだろう。
宮殿に立ち込める甘い香りは、高位の仙道には効かないのだが鼻にはつく。残り香だと信じていたかったのだがどうやら本物らしい。
「いらっしゃいん! 友乾ちゃん」
その香りの中心にいる女性を見上げて、俺はげっそりした。一応コレの監視も仕事の内なのだが、正直……紂王より関わりたくない。
「魅了の術を止めろ、くさい。気持ち悪い」
「いやん。聞いたわよん友乾ちゃん! わらわの紂王様をたぶらかしたんですってん?」
「人聞きが悪い上に気持ち悪いデマを言うな! 断じてしていない! 偶然会っただけだ!」
本当に背筋が寒くなって来たところで、隣から紂王が口を挟む。やたら笑顔なのが尺に触る。
「ほう、そなた達は知り合いだったのか。おお、怒らないでくれ、妲己よ。余はただ美しい者が好きなのだ」
「なお悪いわっ! 目を覚まして現実を見ろ!」
「わかってるわん、紂王様。あなたが望むのなら、わらわは何を手に入れるお手伝いでもしますわん♡」
「おい、何いってんだよお前も! そもそもお前の旦那だろ!? ちゃんと手綱握っとけよ!」
「紂王様が好色なのは元からですもの、わらわにはどうしようもないわん。あと、わらわも美しいものは好きよん♡」
笑顔が怖い。初日にして厳しい職場になったと、改めて実感した。
書き始めて軽く数年たっている(いつ書き始めたんだろう?)っていうくらい古いです。
連載当時から高友乾がすごく好きで、常々右だなぁとは思ってるんですけど、特に左は決まってなかったりしてですね……色んな相手を考えてました。
今見ると四聖って右ばっかだなぁっという印象もあって、今も宙に浮いた感じなんですが
これはふと思い浮かんだネタの一つで、お察しの通り後半は血みどろフィーバーになります(笑)
しかし、それがいつ出来上がるんだ?あと数年かかるのでは?
というわけで尻叩き用に前半部分を上げてみるのでした。
読む人いなさげなんですけど、読みに来た奇特な方に少しでも楽しんで貰えれば幸いです。
続きは数年後になる可能性もあるので、未来も見据えて妄想用にでもしてください。
……今年中くらいに終わったらいいね!?
→続き
『無憂無風の裏で』
[1回]
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