登場人物:ゼフォン ザヴィド
CP傾向:ザヴィド×ゼフォンのつもりだけど、さっぱり……
制作時期:2012年2月
本編のザヴィドとゼフォンのデート話が書きたくてやった、妄想の産物。
相変わらず全くイチャイチャしていない。
目的の為とはいえ、苦手なタイプを引き連れて、まさかの二人旅をすることになろうとは、三日前の自分ですら想像しなかっただろう。
おそらく、それは双方が思っている事であり。そして、避けられぬ事実でもあった。
「はぁ……」
もう何度目になるのかわからないため息が背後から聞こえて、青年にまた苛立ちが割増しされた。
あと20%くらいで怒り状態になれそうな気がする。
「ああは言ったけど、あそこまで行くのめんどくさいなー」
「うるさい、だまれ、そして遅い。喋る暇があるならさっさと歩け」
「じゃあ、ひっぱってよー」
「首に縄をつけていいならな」
「ひどいなぁ、しかも変態くさいよ」
「その思考がな」
「もう」
ボクはか弱い魔術師なのに。と、見かけだけの話をして後ろの少年は悲しげな声を出す。
安心しろ、おまえの神経の図太さと体力だけは、そこらのイノシシにも負けていない。
そう心で突っ込みながら、彼は目もくれないで、ザヴィドは歩く速度を早めた。
後ろの少年とは、フラッシュノヴァ軍に入ったその日からの付き合いだった。
けれど、実際に会話したのはあの時くらいで、普段は互いに会うことは少ない。
数回、軍の主に同行したりもしたが、一緒になったのは一度きりだ。
その時は、他の者が何やら真面目そうな話をしていたので、彼は話に混じりたくないのか大人しかったし、自分も触らぬ馬鹿に厄介なし、と進んで話しかけることはしなかった。
元々、この小僧……ゼフォンと言ったか。奴の纏う空気は異質で、それが奴に近付きたくない理由でもある。
しかし、今回は事情が事情だった。目的の為ならば、ある程度自分の意志や好き嫌いなど、封じるのは容易いことだ。
また、これまで生きてきた世界が、結界に守られているごく一部の地域だと言うことには驚いたが、この小さな少年に穴を空けるような力があるという事も驚きだった。少しばかりは、見て見たいという興味もある。いやいや、全てが好奇心なわけではない。
とにかく、悲しいことに嫌でも力を借りなければならず、尚更のこと嘆いて立ち止まっている場合ではない。前進あるのみだ。
「で、どうするつもりなの?」
日向ぼっこには丁度良さそうな小春日和のルシル平原を足早に抜けて、シダスの森に入る。
真昼だと言うのに、一気にあたりが暗くなった。
「俺は増殖して放たれたテラスファルマを操る術式を使える」
「なるほど。で、ボクに結界を解けってことだね」
「そうだ」
彼には、一を聞いて先を読む頭の良さはある。
説明する手間が省けて、内心ホッとする。話すのはあまり得意ではない。
特に慣れていない相手だと尚更だ。
「めんどくさー」
「おい」
「やっだなぁ、わかってるってば、ちゃんとやるよ。
でも念のために聞いていいかな?」
「手短にな」
「何回、開けるつもり? 一回だけなわけがないよね」
軍主からは、相当体力を消耗する魔術だとは聞いていた。
そしておそらく魔術の行使は渋ることも予想がついていたので、ザヴィドは平然とした態度でハッキリと告げた。
「三回だ」
百年前のワイバーンの巣は、幸いなことに快晴だった。
悪天候の中での作業となれば、更に苦労することになるので、願ってもない実験日和だ。
細く曲がった道を歩いて行くと、途中でゼフォンが足を止め、つと手を伸ばし、そして振り返って目配せする。
きっと、そこが境目なのだろう。そこから数歩下がると、おもむろに杖を構える。
「じゃぁ、やるよ。言っておくけど長くは保たないからね」
「ああ、小さいテラスファルマが一匹でも入り込めれば、それでいい」
どうやら彼も、ここに来てやる気を出したようだ。
ならば、己も己にしかできない事をするまで。操れなかった場合は、あいつを守るのも役目の内だ。
ザヴィドも呪石を数個、手に忍ばせると、白い背中を睨みながら杖を構えた。
だが、そんな彼の気の配りも虚しく、先ほどの真面目な空気は何処へやら。
「もーやだ疲れた。この嘘つき!三回だって言ったじゃないか!」
「だから次で三回目だろう」
「二百年前も行くんでしょ?だったら計六回じゃないか!」
「そうだな。合計を聞かれた訳ではないから三回と言った。
大体、二カ所を回るのに奇数の三回がおかしいと思わない方がどうかしている」
先ほどまでの気合いは何処へやったのか、すっかりとゼフォンはへばっていた。
杖をつき体勢を崩して息をついているが、決してテラスファルマに攻撃されたわけではない。奴らを操ることには成功し、既に葬っている。
「言い訳なんか聞きたくないよ!この技はすっっっごい疲れるんだよ!?
団長さんに頼まれた時だって二回でくたくただったんだよ!?それを六回!?
信っじられない!正気の沙汰じゃないよ!」
「残念ながら正気だ。次、さっさとやれ」
「おに!あくま!キミなんかだいっきらい!」
「好きになれとは言ってない。いいからさっさとやれ」
ぞんざいに言い放つと、それも癪に触ったのか、ゼフォンはカンカンに怒りつつも外へ向き直る。
ザヴィドはため息を堪えると、再び杖を構え直す。
六回は流石に怒るとは予想できたが、まさか二回目でここまでキレられるとは思ってもみなかった。
あの常にひょうひょうとしていた少年が、こんな感情豊かに怒りを表してくるとは……少し予想外だ。
常に世間とは別の次元に居るような、そんな存在に見えたのだが、案外人間くさいのだな、と思う。
人と付き合うのが苦手な分、自分の方が人間味には欠けているのかもしれない。
だが、それとは話が別で、ここでわがままを聞いていても仕方がない。やれと言える人間は、もう自分しかいないのだ。
今の所、二回中二回ともテラスファルマを操る事に成功している。この時点で森羅宮がテラスファルマを増殖させて放逐しているのは確かだった。
「あ~、もう!後で責任取ってもらうんだからね!」
「何のだ」
ヤケクソ気味に魔力を解放するゼフォンに続いて、自分も呪力を解き放つ。結界内に踏み込む前に、操れる事を確認すれば戦闘も避けることができるからだ。
ザヴィドとて、強力な魔術を連続して行使する事でかかる体への負担を考えていないわけではなかった。
「あー。だめ、ほんと、ねむい。」
ふらふらしながら歩くゼフォンの杖の先を引っ張りながら、来たときよりも、ザヴィドはゆっくりと山道を降りていた。
「ねぇ、無理だよ~。やっぱり考え直そう?」
弱気な声音にザヴィドは思考を巡らせた。確かに、予想以上に魔力消費は激しいらしい。
部分的に結界を解く術を、この目で見るのは初めてだが、考えていたより大掛かりかつ繊細さを要求されるようだ。あれでは仕方がない。
「では、休憩するか」
「え?」
時代樹の下まで来て、後ろを振り返ると、ポカンとした顔のマヌケ面に行き当たった。
合理的な判断だと思ったのだが、変な顔をされてしまうと、何か間違ったのかと気になる。
「なんだ、その顔は」
「いや、初めてキミからまともなことを聞いた気がして」
「お前に比べたら俺はいつもまともだ」
こいつが口を開くと、まともな事を言わないなと改めて思った。
「で、するのか?しないのか?」
「する!」
ゼフォンは即答すると、スタスタと隣を通り抜けて、時代樹の下に座り込む。本当は元気なのではないかと疑ってしまうくらい、変わり身の早さだ。
ザヴィドもその隣に同じように座ると、用意しておいた食事と水を鞄から取り出した。厨房で用意してもらった隠者のサンドだ。
その半分を黙って渡すと、眠そうにしていたゼフォンも無言のまま受け取った。そのまま一口かじる。
「用意がいいね」
腹は空いていたのか、あっと言う間にペロリと平らげる。
そして、一口水を飲んだ後、ゼフォンは直ぐに寝てしまった。人の膝の上に頭を置いて。
「おい」
重い。と言いかけて、やめた。
小さな体を猫のように丸めて、規則正しく上下させている。もうすっかり寝入っているようだった。早すぎて突っ込めもしなかった。
ザヴィドは一つため息をつくと、最後の一口を放り込み、鞄の中から薄手の毛布を取り出す。半分は自分で被り、もう半分はゼフォンに掛けてやる。
このあたりは夜に冷え込む。しかし、膝から伝わる温もりで、今はそれほど寒いとは感じなかった。
ふと見上げれば、岩肌の合間から陽が落ちていくのが見える。今夜はここで夜を明かすことになるだろうか。
ランプに火を灯そうかと考えたが、時代樹の花が白く輝いていて、思ったほか辺りは明るい。
何故かこの樹にはテラスファルマが近づかない。そして、普通の魔物も襲って来なかった。
樹の下は僅かに温もりがあり、そして爽やかだった。
不思議な樹だと、改めて思う。最初見た時もそうだったが、この膝で寝ている少年が傍に居ると、一層強く輝いている気がする。気のせいであろうが。
疲労はともかくとして、綺麗な夜だった。
おそらく、こんな幻想的な夜は二度と訪れないだろう。そんな気がして、ザヴィドは暫く眠らず、夜空に咲く花を見上げていた。
翌朝、ザヴィドは日が出る前に目を覚ました。
膝の上にはまだ頭が乗っかっていて、その彼は未だに完全に寝入っている。
見事に痺れて動かない足をなんとかずらし、暫くもんどり打った後、ゼフォンの頭を投げ捨てて彼を叩き起こした。
「わっ!!な、何っ!?」
転げるゼフォンから毛布を剥ぎ取り、軽くたたんで袋にしまう。
「起きろ、朝だ」
「まだお日様見えてないじゃないか!ひどい、乱暴的だよ!帰ったら、団長さんに言いつけてやる」
打ったらしい肩をさすり、恨みがましく睨んで来る視線を背中で受けながら、ザヴィドは身支度を整える。
「あいつは関係ないだろう」
「ふーんだ、ふーんだ」
「……」
ようやく朝日が顔を出し、暖かい陽の光が降り注ぐ。
そんな爽やかな朝だと言うのに、残念なくらい空気が微妙だった。
二百年前の本日は、曇天だった。
山の天気は移りやすいと言う。今の所は降りそうにないが、急ぐに越したことはないだろう。
先に例の場所へと歩きだすと、後ろからまだ眠そうなゼフォンが欠伸をかみ殺しながらついて来る。
昨日の消耗は完全に回復していないようだ。
「まだ眠いのか?」
「当然だよ。過去に一日で三回開けるなんてやったことないんだもの。
本当なら丸一日寝てたいくらいさ」
「帰ったら好きなだけ寝ればいい」
「勿論、そうさせて貰うよ」
眠気を払いきれなかったので、ゼフォンは器用に歩きながら伸びをした。
そして昨日よりは真摯的なザヴィドの態度に、少しだけ話をしてやろうかと思いあたる。
「魔術はね、基本的に魔石の力を借りて、術者と魔石の力で行使するんだ」
「それは知っている。呪術も似たようなものだ」
「でもあの結界解除の術は、全て術者だけの力で行わなくちゃならないんだよ」
ザヴィドも、呪石をなしに術の行使を試みたことがある。
術式を組むのは術者なのだから、行使できないわけではなかったが、呪石という媒介と呪力の補助があるとないとでは、かかる負荷が違うのだ。
そこで、ふと思った。
「俺にはできないのか?」
「んー。……無理かな。練習すれば出来るようになる可能性もあるけれど、時間がかかるし現実的じゃないね」
「そうか」
ザヴィドは、少し悔しかった。
例え違う庭だとしても、術者が二人もいるのに、片方だけに負荷がかかるなんて、フェアじゃない。
そんなザヴィドの横顔を見て、何かを感じ取ったのか、ゼフォンが諭すように笑う。
「いいよ。ちゃんとやるから。
ボクはそのために存在してるようなものだし」
「……どういう意味だ?」
「まあまあ。さぁ、行くよ!」
よく解らないが、どうやらスイッチが入ったらしい彼は、杖を振りかざすとずんずん歩いていく。
気まぐれな猫のようだと思いながら、ザヴィドもその後に続いた。
最初のテラスファルマは、操れなかった。
何となく予想はしていたから、襲い来る攻撃に受け身は取れたが、ザヴィドがゼフォンを庇い腕に軽い傷を負った。
相打つような形で、テラスファルマは呪術で仕留めたが、続けて結界を解くわけにも行かず、中断せざるを得なかった。
「ごめん、油断した」
「いい。これくらいは想定内だ」
薬使いがいなかったので、少しばかり薬を持ってきていたのが幸いだ。
ゼフォンが血を拭って、おくすりを腕に塗り込む。血止めの効果もあるそれは、痛みも同時に和らげてくれる。
それよりも、しょんぼりしている目の前のゼフォンの方が、困った。
「もし、眠くて避けられそうにないなら、もう少し下がってやれ。俺も術を使うから、咄嗟には動けん」
「何か、キミが優しいと気持ち悪いねえ」
「うるさい」
そういえば前に軍主が言っていた。仲間とは助け合うものなのだと。
その時は、そんなものごっこ遊びか何かだと聞き流していたのが。
得手不得手を補い合う。ただ、それだけの事なのだと、今はじめて気がついた。
「続けて行くぞ」
杖を拾って、立ち上がる。何故か不思議と、力が沸いてくるようだった。
二回目のテラスファルマも、操る事ができなかった。
前のモノよりも、少し大きかったテラスファルマを何とか仕留めて、ザヴィドは額の汗を拭う。
ゼフォンに余計な体力や魔力を使わせるわけにはいかないので、処理はザヴィドの役目と言っても良かった。
「この時代の奴らは、まだ放たれたものではないのか? だとしたら……」
三回目は無駄だ。という気持ちが心を支配して、続けるか躊躇した。
確率的な問題だ。二回とも操れなかったのだから、このまま操れない可能性の方が高い。
もう一度やったとしても、違う結果が出る確証などはない。
既にゼフォンは限界だ。軍主も無理をするなと言った。
やめるべきか、と息を荒くする彼に問いかけようとしたその時、ゼフォンが制止をかけた。
「いや、もう一回やろう」
「何?」
確かに、ゼフォンの眠さとだるさは限界に近かった。
けれど、先ほど開けた結界の外で、少しだけ見えた奥のテラスファルマは……何かがおかしかった。
何が変なのかは判らないし、もしかしたら疲労で見えた幻覚かもしれない。だが、調べねばならなかった。
二百年前の今、あそこに操れるモノが居るということは、つまり……。そこまで考えて、頭を振る。
そんなものは真実を見てから考えればいい。今はただ集中するだけだった。
これまでは目を背けていた。それが暴かれるだけなのだ。
「行くよ」
杖を掲げ、意識を集中させ術を唱える。
体中の魔力が干上がってしまいそうな気もしたが、それよりも開けたいという意識が強かった。
結界の外に居たテラスファルマは、直ぐにこちらに気づき、甘く香る生き物の匂いつられてか、勢いをつけて飛びかかってくる。
「ゼフォン!気をつけろ!」
迫り来るテラスファルマと、ゼフォンの間に、ザヴィドがすかさず割り込む。
緑に発光する陣が視界の前で展開され、強く輝いた。
そして、待てども来ない衝撃。
テラスファルマは、止まった。
「……効いた……のか」
ザヴィドも驚いているのだろう、頭を守ろうとしていた腕をゆっくりと下ろす。
テラスファルマは命令を待つように、ただ大人しく空を漂っていた。
「な……んで……?」
そこでザヴィドは、ゼフォンの様子もおかしい事に気づく。
「ゼフォン?」
彼は、屈んだ状態でテラスファルマを虚ろに見ていた。
奴が止まった。と、いうことは二百年前にはもう、放たれていたという事実が証明されたということだった。
では、既にあの時、森羅宮は動いていたという事なのだろう。
それを今まで、気づかなかった。気づけなかった。
否、気づけるはずもないと言うのは、きっと言い訳だ。
ずっと、君の傍に居れば、その変化に気づいてあげられたかも知れないのに……。
どうして、ボクはその手を離したの?
どうして、キミはこんなことをしたの?
「バカだよ……」
もう眠くて、何も考えられなかった。
まるで、白い闇に引きずられるようにして、ゼフォンは意識を手放した。
その時、遠くで、自分の名を呼ぶ声が聞こえた。
陽が傾きかけている。
その下で、赤い夕日に照らされながら、ザヴィドはゼフォンを背負って、ルシル平原をゆっくりと歩いていた。
あの後、気を失ったかと思ったゼフォンは、健やかな寝息を立てて転がっていた。ほっと安堵したところで、ポツリと雨粒が頬に当たり、天候が本格的に崩れてしまう前にあの場所を離れる事にしたのだ。
本当は起こしても良かったのだが、声を掛けても目を覚まさないので、仕方がなく背負った。
人間の子供にしては、ゼフォンは軽かったのだが。それでも意識のない人間とは重いもので、術者の自分では少し荷が重い。
それでも、暫くは背負って行こうと決めた。
歩きながら、先程の事を思い出す。
眠ってしまう前のゼフォンが、テラスファルマが止まった折に、一瞬だけ泣きそうな顔をしていた。
何か呟いた気もしたが、そこは聞き取れなかった。
しかし、まさかあんな顔をするとは思わなかったのだ。
何の関係があるのかは、さっぱり分からないし、聞くつもりもない。
だが、もしかしたら、この面倒くさがりやで脳天気そうに見える、この得体の知れない存在が協力している事に、きっと関係しているのだろう。
「あ……れ?」
「起きたのか?」
あれこれ考えていたら、背中から寝ぼけた声がした。
どうやら背負い直した際に、目が覚めたらしい。
「う~~~ん……」
意識がハッキリとしないようで、微睡んでいるようだ。
「眠いなら、寝ていろ。砦の前で起こす」
実際は腕が痛いのだが、自分も甘くなったものだと少し呆れる。
その様子を感じ取ったのか、背後から嬉しそうな気配が伝わる。
「君って、見かけは無愛想なのに、たまに意外なほど優しいよねえ」
「落とすぞ」
「やっ、やだなあ!冗談だよー」
声の険を聞き取ったのか、肩に回っていた腕が強く締まった。
少し首が苦しかったが、運び手としてみればこの方がやりやすいので、もう黙っておくことにする。
「あーあ。……テラスファルマ。操れちゃったね」
「そんなに驚くような事だったのか?」
「……」
聞かない方が、良かっただろうか。
だが、答えたくない事は、きっと絶対に口を割らないのだから、言いたくないならはぐらかされるだけだろう、と思い直す。
ゼフォンは暫く、歩みに揺られて沈黙していたが、そのうち腹を括ったように溜め息をついた。
「そうだね。キミは口が堅そうだし、あと話す友達もいなさそうだから、少しだけ話してあげるよ」
「一言余計だ」
何故に彼は、いちいち険のある言い方をするのか、理解に苦しむ。
いや、決して自分も話し上手ではないのだが。
「ボクはねえ、若そうに見えるけど、本当はキミよりもずっと年上なんだよ。歳はヒミツだけど」
「知っている」
「え、なんで!?」
これには驚いたらしい。
いきなり前のめりになって、横から凄まじい視線を送ってくる。
それをあえて気にしないふりをした。
「二百年前のテラスファルマが操れると知って、驚いていたからな。まるで、あの時代のテラスファルマは操れてはいけないと思っているようだった。
それに、現代にはもう増殖されたテラスファルマしかいないはずだ。なのに、増殖されたテラスファルマを見て『どこか違う』と感じるということは、過去にホンモノのテラスファルマを見ていると言うことだ。違うか?」
あくまで、これは推測だった。
ゼフォンが、あの操れた最後のテラスファルマを見たときの反応で、ぼんやりと確信に近づいた……くらい拙劣な推測だった。
時代樹による時間の逆行、テラスファルマの謎、森羅宮の暗躍など、もう常識という範疇で考えることは止めにした、その結果でもある。
息を呑んで聞いていたゼフォンは、次の瞬間笑っていた。
「やだなあ、鋭い人ってこれだから!」
そして、ひとしきり笑い終えた後、困ったように呟く。
「……ねぇ、団長さんも気づいちゃってるかな?」
「さあな、知らん」
どうやら、それは嫌らしい。
今更、些細な事だと思ったが。
「そこまでバレてるなら話は早いね。
昔ねぇ、ボクにも友達がいたんだよ。辛い時を一緒に乗り越えた仲間だった。
けれどね、その後に道を違えてしまったんだ。
だからその友達が、道を踏み外してしまったと、気づくのが随分と遅くなった。
もし、一緒に居てあげられたら、真の時代樹は別の枝を伸ばしてくれたかも知れないのにね。
ってまあ、たまにそういう事を考えるんだよ」
昔を懐かしむ声は、ルシル平原に吹く風に消えていった。
「……もしかしたら、そういう枝も、あるかもしれんぞ?」
「え?」
「枝は無数にあって、いいのだろう?」
「そう……だね。あるといいねえ。そういう枝も」
もしかしたら、違う世界のボクとあの人は、隣に並んで歩いているのかもしれない。
それは、気休め程度のお粗末な空想かもしれないけれど、わざわざそんな事を言ってくれる人がいるのが、ゼフォンには嬉しかった。
確かにこの世界は、その未来ではなかった。
けれど、こうして背中に乗っけて歩いてくれる人や、自分を信じて傍に置いてくれる人が居るこの時代も、悪くないのだと思えた。
「ほんと、キミってたまに優しいよね。ちょっとこそばゆいなあ」
「うるさい。さっさと寝ろ」
このやりとりも、そろそろ日常茶飯事の風景になってきたように思う。
それに、何だかんだと言いつつ、その嫌みを実行されたことはないのだし。
「はあい、じゃあおやすみー」
再び顔を伏せて目を瞑ると、先程よりもその背中が温かく感じられた。
強制的に落ちてしまうような眠りより、こうして温もりの中で微睡みながら落ちる眠りの方が幸せだ。
人と話してからかうのも楽しいし、美味しいご飯を食べるのも幸せだった。
今だけでいいから、もう少しだけ。
そう、ささやかに願いながら、ゼフォンは意識を沈めていった。
了
本編をプレイした時から、主人公とのデートに続き、ザヴィドとゼフォンがデートしに行った事は激しく動悸を覚えたのですが……
いつかあそこを書いてやるぞ!と、思いつつ、時間がかかってしまいました。
個人的に馴れ初め話がカップリング小説の中で一番好きなので、なかなかたどり着けない感じで^^;
実は書いている途中でも矛盾を幾つか見つけているのですが、もし見つけられても、そっとしておいてあげて下さい。
いやー、タイムトラベルものって難しいですね!
力量のない奴が書くとこうなるのか、と思い知らされました。ぐすん。
しかし何故、本編でデバガメできなかったんだろう……悔しい。
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