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白と黒のプレリュード(幻水紡時 ザヴィドとゼフォン)

登場人物:ゼフォン ザヴィド 主人公
 
CP傾向:なし

制作時期:2012年2月

ザヴィド×ゼフォンにいずれしてやろうと画策して滑った馴れ初め話の序章。
ただの出会って会話しているだけの話。







 この砦を、普通の者が見たら、おそらく十中八九は心優しい住民による和やかで暖かい雰囲気の街だと思うのだろう。
けれど、そのような平穏なる日々は、とうの昔に捨てたのだと、改めて実感した。

 如何に軍主が救った命とはいえ、つい先日まで敵として相反していた憎き存在が、突如として仲間に加わったのだ。
こちらも仲間になったつもりなどなかったが、どうやらそういう方向で話が通っているのか、鋭い視線は受けるものの、危害を加えたり迫害しようとする者はいないようだった。それだけでも、ここの住民の心は広いと言えるかもしれない。
 そう考え直しながら、暫し砦の中を歩いた。
しかし、見知らぬ室内に勝手に踏み込む訳にもいかず、何処に何があるのかサッパリなままで、気がつけば陽が暮れ始めていた。

 元朱キ斧の青年ザヴィドは、今日初めてこの砦に来た。
勿論歓迎されるはずなどなく、逆に孤独の方が心地よいと彼は心の中で開き直った。
自分が行ってきたことを否定できるほど、強くも弱くもなかったが、誰かを悲しませ、また憎まれる結果を招いた自覚くらいはあった。
そしてその報いは、きっとこうやって、生きて少しずつ返していくのだ。そう思っていた。
 砦から見える夕陽が、湖に跳ね返って、見てはいけないと思うくらい綺麗に見え、思わず顔を伏せる。

 さて、今日は何処で休むか。

 柔らかい布団など望んではいないが、雨風が凌げる物置きくらいは欲しいと思う。
先ほど歩いてきた道程で、休むのに丁度良さそうな場所はなかっただろうか?
そう記憶を辿っていると、突如として目の前が暗くなった。

「ねぇ、なんでこんな所に座りこんでるの?」

 声がしたので顔を上げれば、目の前には腰をかがめてこちらを見下ろす、真っ白の服を着た少年がいた。
そういえば、こんな風貌の奴がアイツのそばで戦っていたことを思い出す。

「俺に、何か用か?」

「うわ、質問を質問で返してくるとか、キミ性格悪いねぇ」

「黙れ」

「そろそろ夕食の時間なのに、キミが湖を見ながら黄昏ているから、わざわざ声をかけてあげたのに」

怪訝な態度を続けると、彼はさも心外そうに、わざとらしくため息をついて見せる。
少し苛立ったが、そこには噛みつかず、出てきた疑問について素直に問うた。

「夕食?の時間?……なんだそれは」

「あ、そっか。今日ここに来たばかりなんだっけ」

「は?」

「しょうがないなぁ、じゃあボクが一緒に厨房まで連れてってあげる」

「いらん世話だ」

 敵ではないのだろうが、味方とも呼べない得体の知れない奴に、施しを受ける気には到底なれなかった。
即座に断ると少しばかり彼の表情が曇る。
そこで多少の優越を感じたところで、全く空気の読めない腹の虫が鳴った。思わず顔をしかめるも、既に遅いらしい。

「ぷっ。とか言っちゃって、お腹の虫は正直じゃない」

吹き出して楽しそうにウフフなどと笑った彼は、軽い足取りで踵を返した。
その背中について行こうか迷っていると、まるでこちらの心を読んでいるかのように、彼は振り返る。白いローブがふわりと揺れた。

「ほら、おいで? 大丈夫、ちゃんと他のみんなと別の場所を選んであげるから」

「!」

どうやら、事情は察しているらしい。

「お前が勝手にしてるんだ、礼は言わんぞ」

悪態をつくも、それならばいいかと後ろに続く。
正直、敵意のある視線の中で食事を取れるほど、肝は座っていない。

「キミ、嫌われちゃってるねぇ。普段なら誰かが進んで手取り足取り、案内も食事も寝る場所も教えに飛んでくるのに」

「……」

初めから歓迎されるとは、思っていなかった。寧ろ迫害されないだけマシだ。
けれど、無言の冷たい隔たりと言うものは、存外心に刺さるものなのだと実感せざるを得ない。
だが、こういう奴もいるかと思うと、悪くないとも思った。






「ね、ちゃんと貰えただろう?」

 ほかほかと湯気が立ちのぼる料理を、適当に盛った皿や器をトレイに乗せて、二人は食堂から連れ立った出た。
先ほどまで困惑や嫌悪の視線に晒されて、食欲どころではなかったのだが、美味しそうな匂いが鼻を掠めて、再び空腹を強く感じた。こんなのは久しぶりだ。

「あ、そうだ!今日は忙しいみたいでいないけど、たまーに団長さんが一緒に食べたがるから」

「は?何だそれは」

「その時は嫌がらずに、一緒に食べてあげてね」

きっと浮いてるキミはすぐに呼ばれから。なんて笑いながら、彼はさきほどの湖が見える畔まで歩く。
その姿が、あまりにも他の者のような棘が含まれていなさすぎて、気づけば思わず問いかけていた。

「なぁ、おまえは俺が憎くないのか?」

先ほどまでの空気が変わり、少しばかり沈黙を感じた。

「うーん、キミは無愛想で口は悪いと思うけど、ボクはこれまで何にも属していなかったから、特に何もないよ。
それに、あの彼がキミを助けたんだから、きっとキミは星として必要な人だったんだろうね。
だからボクも、キミを無下には扱わないよ」

星で必要な人だった?さっぱり解らない。
ので、面倒なので話を変える事にする。

「では何故、俺に優しくする?」

「やだなぁ、ボクはキミの知らない事を教えただけ。優しくしたというより放っておけなかっただけだよ。
でも、そうだね。一つ理由を挙げるなら、孤独が苦しいって知ってるから……かな?」

「は?別に俺は……」

一人でも寂しくなどない。
そう言い終える前に

「なんてね。冗談冗談。ボクはキミと違って友達いるもの」

満点の笑顔で一言。先手を打たれてしまった。
邪気のない笑顔で邪気がある言葉を言われるというのは、なかなかに腹の立つものだということを、この時ザヴィドは初めて体感した。
ただ、黙って流してやるほど、自分も気が長いわけではない。

「貴様……! 言っておくがな。お前の性格、かなり悪いぞ」

「知ってるよ、よく言われる。
ほらほら、そんな無駄話してないで、食べようよー。冷めちゃったら美味しくないよ?」

今の話題は既に湖の彼方に放り投げたらしい彼は、すっかり気分を切り替えて湖畔に座り込んでいる。
相手のペースにすっかり巻き込まれてしまったザヴィドも、何となく冷めたような空しいような気分になり、黙って隣に座り、暖かい料理に手を付け始めた。
子供に丸め込まれるなんて情けないが、それよりも空腹を満たす方が先だ。





「あ、ザヴィド!」

 暫くすると、不意に背後から声がした。
男性にしては、少し高めでよく通る声……ここの軍主だ。
どうやらザヴィドを探していたらしい彼は、ほっとした様子で近寄ってくる。
逃げるつもりも場所もないと、更にここでやることがあると、あれほど強く言っておいたというのに、信用がないというのはこういう事なのだろうか、と考えながら最後の一口を飲み込んだ。

「何だ」

「……良かった、ここに居たんだ……姿が見えなかったから心配して……って、あれ?ゼフォンも一緒?」

「やぁ。迷っている子羊を見つけたから、保護しておいたよ」

「おい、誰が迷子だ」

「迷子だなんてボクは言ってないよ?迷ってる子羊だよ~」

「迷ってる子には違いないだろう!」

空言にまともに付き合っても疲れるだけだと、この短期間に学習したつもりでいたのだが。
どうやら認識が甘かったようだ。思わず突っ込んでしまった自分に、ザヴィドは少し後悔をした。
しかし、二人の雰囲気を見ていた軍主は、空気を読んでいるのか読めていないのか、止めるような素振りは全く見せずに、何故か勝手に一人和んでいる。

「なんか、仲良くなったんだね」

「はぁ!?誰が!誰とだ!!!」

「えっと、ごめんなさい……」

 困ったように笑う軍主を、目で威嚇して素早く立ち上がる。
全く、この砦に居ると調子が狂わされて困る。迷惑だ。
別に孤高でありたいわけではないが、馴れ合うにはまだ時間が早すぎる。

「それよりも、彼に用事があったんじゃないの?」

そんな二人の様子を、スープを啜りながら見上げていたゼフォンは、相変わらず落ち着いた様子で話題を変えた。

「あ、うん。ザヴィドの部屋、決めておかなくちゃと思って。
確か、ゼフォンの隣、空いてたよね?」

「空いてるねぇ」

「そこでいいかな?他はまだ物置状態だし」

正直、この得体の知れない子供が隣だというのは、気が置けない。
しかし、願ってもない雨風凌げる屋根の下なので、あからさまに拒否するというのも憚られた。

「…………。」

よって、軍主の顔を睨み続けるだけで気晴らしをしておく。

「なんかごめん、でもそこしか今は空いてなくって……あとはゼフォンか僕と相部屋くらいしか」

「それはもっと嫌だ」

「そうか。……うん、じゃぁゼフォン。案内任せていいかな?
僕、食事がまだで……ミュラとか待たせちゃってるからもう行かないと」

「いいよ。請け負ってあげる。ついでに砦の案内もしておいてあげるよ」

「おい勝手に話を進めるな、案内など余計な世話だ」

「宜しく頼んだよ。あと術使っての喧嘩だけは許してね」

 申し訳なさそうに、二人を置いて立ち去る背中を、ザヴィドは半ば呆然と見送ることとなった。
こちらの話など、聞く耳全く持たずだ。

「そんなわけで、食器返したら行こうか」

人懐こく見える彼の笑顔が、何故かババ抜きのジョーカーに見えた気がして、ザヴィドは湖畔を吹き抜ける暖かい風に、何故か身震いした。




 結局のところ、一刻も早く部屋に戻って休みたいザヴィドは、延々とくだらない空言付きの案内に付き合うことになり、今後に一抹の不安を覚える。
この日の彼の日記には、疲労を滲ませた字で「俺は負けない」と、一言だけ書かれていたという。






今日も起承転結が迷子。
とりあえず会話させてみたかっただけの馴れ初め以前のお話に……orz
もしかしたら、そのうち続くかもしれない。たぶん。

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