CP傾向:ルカ×ササライ
制作時期:2022年10月
備考:馴れ初めを書いてみたいだけだった特に何もないルカササ。
適当な2の時間軸。
「はぁ、しんど……」
客室に案内されて、開口一番。その言葉は溜息と共に漏れた。従者には夕食まで休む旨を告げて追い払ってしまった。ここまでちゃんと将としての役目を終えたのだから褒めて欲しいくらいだった。
ハイランド王国は荘厳な造りの建物が多い。とりわけ城や城内の雰囲気はハルモニアに近かった。隣国ということもあるが、付き合いも歴史も深く、大きな差はさほどない。言うならば、ハルモニアはガラス細工の窓装飾が多く、こちらは石造りの部分が多いくらいか。
真なる土の紋章を宿しているからといって、石造りの城内に心地よさを感じるはずもなく、彼を出迎えたのはただただ重い空気の廊下に冷たい謁見の間だった。
到着してから待たされる事もなく呼び出されたのだけは行幸だったのだろう。聞いていたとは言え、あの苛烈な狂皇子と対面するまでは、の話だが。
「皇子殿下におかれましては、拝謁の許可をいただき誠にありがたく存じます。この度、ハルモニア神聖国より馳せ参じました。神官将がひとり、ササライと申します。以後、お見知り置きを」
と、まあよくある定型句で挨拶する。荘厳に見えるように幾重にも布を纏い、儀式用の杖まで携えて膝をつく。何度も練習してきた言葉に完璧な礼。ハイランドとて同盟のハルモニアからの客将を迎えるのは初めてではないのだから、謂わばそう、これは普通の事だ。
しかし、来るであろうと読んでいた言葉を浴びせられる。
「若いな、いくつだ?」
「……十七にございます」
「まだ年端も行かぬ少年ではないか」
国によって成人となる年齢も変わる。母国ハルモニアではあと一年程で成人と見なされるが、神官として派遣される己にはそのようなものが当てはめられるわけもなく、致し方なくこうして来たわけだ。
子供扱いされるのは初めてではないし、子供という判断で正しいだろう。が、それを理由に毎度のように舐められると流石にうんざりもする。顔にはおくびにも出さないが。
「これでも神官将としての資格は有しております。これも国の勤めなれば、至らぬ点には目溢しいただきたく思います」
「良い。端から期待などしておらん」
「……。さようであれば、私どもは控えておりましょう」
同盟からの援軍などというのは形式だけのものという事か。それならそれで、こちらも国力を削ることはない。戦働きに期待されてないとなれば、願ったり叶ったりだ。
「まだ名乗っていなかったが、儀礼はいるか。俺の名はルカ・ブライト。俺の道を邪魔することだけは同盟国であっても許さん。首を刎ねられたくなければ肝に銘じておけ」
「は」
挨拶もなしに、マントを翻し早々に去っていく皇子を察し、頭を垂れる。そうして謁見はあっけないほど早く終わったのだった。
そもそもお偉い人というのはあのような謁見がやたらと好きで、ササライも耐性だけは付けている。母国の儀式も微動だにせず数時間、なんてことはざらだ。好きか嫌いかで言えば好きではないが、それが職務なのだから諦めも付く。
しかし、皇子との謁見は余計なものを全て削ぎ落としたかのような勢いだった。侮られた程度で大した会話もなく、明後日にはハイランド正規軍に参軍する手筈だと配下の者から伝えられる。
この城に皇子や側近が戻っているのも一時的なもので、あくまで同盟国を迎えるために体裁を整えたにすぎない、一寸の帰国なのだろう。
忙しない。と思いつつも案内に促されるまま神官将は退室した。
客室に案内されるまでに従者達と連絡を取り、部屋にて休む旨と軍の管理を任せておいた。小規模とは言え一個師団を率いてきたのだ、どれくらいの兵役を担うかは箱を開けてみなければわからなかったのだが、ここに来て戦闘はないと判断する。期待されていないと言うことは士気に関わるため伏せておくが、後方支援とだけ伝えておいた。これで問題はないだろう。
部屋まで案内される途中にも、目だけで城内の様子を観察する。この国にも真なる獣の紋章があるはずだが、微かに気配を感じるだけで、先程の皇子からは感じ取れなかった。王は息子にほぼ全権を与えているらしく、謁見には現れなかった。だとしたら、何処にあるのだろう。
そうして話は冒頭に戻る。
一人であれば移動に時間などかからないのに、軍と共に行動となればそうもいかず、ここまで長旅をするはめになり、着いたら着いたでこの扱いだ。楽といえば楽なのだが、あの場の空気の重さに、張り詰めていたものを全部持っていかれた気もする。
一気に疲れた。本当に苦手なタイプだと痛感する。寧ろあれが得意なタイプがいるのかと自問する。絶対いない。邪魔などするつもりもないが、首を刎ねると脅されもしたし、謁見早々に破天荒すぎて咄嗟に返し文句も見誤りそうになった。型にはまっていないタイプはこうだから嫌なのだ。まだ未熟な身には有り余る。
疲れのままに、もう寝てしまおう。きっと誰かが呼びに来るだろう。彼は邪魔な祭具を一通り脱ぐと、柔らかそうなベッドにゆっくり倒れ込む。ようやく一息つける。
流石は客間用、天蓋付きのベッドだ。絨毯もカーテンも一級品だろう。清潔な匂いのするふかふかのベッドも久しぶりで、溜息交じりに息を吐き出せば、まどろみなど一瞬で訪れる。
だが、次の一瞬で覚醒した。微かに石から伝わる人の足音、強い人の気配を察知する。
すぐさま身を起こすと、立てかけてある杖に手を伸ばした。儀式用だが使えなくはないし、これで人も殴れるから鈍器には間違いない。
早々に刺客などウンザリだ。だが、名目だけであっても同盟国に出てこられるとやっかむ組織もあるのだろう。罠でも張るかと床に杖を落とす。使える植物などあれば話は早いのだが。
と、そこまで考えた時に、睨んでいた扉は開いた。
「入るぞ」
断りと同時に入ってきた人物に、ササライは言葉を失った。というか、最早それは断りでもなんでもない。
「皇子殿下!?」
最早、呼ぶのと認識を同時に行っている。流石に声が上擦るのは許されたい。意味が不明すぎる。客間にいきなり飛び込んでくる王侯貴族など聞いたことがない。見るのも体験するのも初めてだ。
「な、何かご用でしょうか?」
思わず目が泳ぐ。視界の端と捉えるのには慣れているが、ルカ皇子は先程の鎧を脱いで来たのだろう。手にこそ剣を持っているが、軽装に身を包んでいる。というか、何故剣を持ってきた。何を斬るつもりなのだ、彼は。
「先程は謁見の間でしか見れなかったのでな。あのような場では碌な質問さえできまい」
「何かお知りになりたいなら、下の者を使わせれば良いでしょうに。何故、御身自らお越しに?」
いや、本当に何故来たのだ。偶然でもなく必然。来るべくして来た。来てしまった嵐に立ち向かう気力はあまりない。何をすれば帰ってもらえるのだろうか、検討もつかない。
「自分の目で確かめるほうが早いし確実だろう」
「召喚くだされば私から赴きましたのに」
「それでも構わんが、追い払った手前、な」
それでこんな心臓破りをしにきたと。ルカは部屋を見渡して人が居ないことを確認した後、次はササライをじろじろと見ている。咄嗟に杖を下ろすのを忘れていた事に気づく。下ろすべきか否か。
「曲者かと身構えましたので、ご容赦の程を」
「良い。腑抜けでは困るからな。この程度気づかぬなら、頭と体を切り分けていたところだ」
いやいやいや、このタイミングで帯剣した国の皇子が来ると思う人間はいない。寧ろ先に仕掛けなかっただけ褒められたいくらいだ。
この皇子、聞き及んではいたが、規格外すぎるし怖すぎる。結局のところ命の危機だったとか、知りたくもなかった。
「もう斬らぬから武器は下ろせ。あと、その喋り方も辞めろ、普通で良い」
「は……。え、と。申されましても私にも立場と言うものがあり」
「くどい」
圧が怖い。どうしろと言うのだ。あくまで外交をしに来た神官が、タメ口で気安く話しかけられるわけないだろう。
「では、ルカ……さま」
合っている?これで合っているのか既にわからない。何が正解で何が不正解なのか。何が逆鱗に触れるもので何をどうすればいいのか。いつ首が飛んでもおかしくない状況で武器を下ろすべきなのかも分からず、杖を両手で抱え込んだ。
「私に確認したい事とは……?」
「なに、貴様から良い匂いがしたものでな」
一歩、二歩。距離が縮む。
「それを確かめに来たまでよ」
三歩、そこで腕を掴まれた瞬間、それは作動した。どきり、と心臓が脈打つ。
「あっ」
瞬時にして力が膨れ上がり、石床を割いて蔦が無数に走る。真なる土の紋章の、無意識から来る防御装置だ。右手の甲が熱を持ち、視界を埋め尽くしそうな植物の蔦は恐るべき急成長を遂げていく。まずい、とまれ、と脳が叫ぶ。
そうして意識的に止めたところで、力はようやく沈黙した。
シンと静まり返る部屋の中で、目の前には相変わらず読めない男が利き腕を掴んで見下している。その頬から一筋、血が流れ出した。
やってしまった。これは死か。一気に血の気が引く。
「申し訳ありません! 魔法が暴発しました!!!」
「構わぬ。真なる……土の紋章か。面白いものを見た。そうか、この匂いか」
皇子は物珍しげにいまだ淡く輝く紋章を眺めているようだ。そのまますんすんと匂いも嗅がれている。いたたまれずに掴まれた手を引こうとしてもびくともしない。力で敵うとは思っていないが、いきなり懐に入り込んで来る方がおかしいのだ。とも、言っていられないのだが。
そっと植物たちに引くように命令すれば、たちまちに部屋の緑は消えていく。だからといって、割られた石畳はどうしようもないのだが。
「あの、傷を治しますので、手を離してください」
「些末なものだ、気にするな」
些末どころではなく大事だと思うが、歯牙にもかけず皇子は右手を楽しんでいる。常人に推し量れぬのは天才か狂人か。
「気にします。その顔で戻られるおつもりですか」
一国の皇子が顔に傷をつけて客間から出てくるなど、初日にして話が悪すぎる。本人は本当に痛くも痒くもない顔をしているが、怪我は怪我だ。不可抗力でつけたとしても、責任くらいは感じる。
いっそ斬られるならばと強気に出たら、案外と簡単に折れてくれた。
「……そうだな。なら、治せ」
顔は相変わらず不遜なままだが、何とか承諾を得た。
まさか、来て早々にこの国の問題児と部屋のソファに並んで座ることになるとは夢にも思わなかった。が、ようやく手から剣を離した相手に、一息付く。本当に、死ぬかと思った。
傷の具合を見るにさほど深い傷ではない。それでも傷を付けて返すなどできず、ゆっくりと血の流れる頬に左手をかざす。自分でも少し震えているのがわかるのが情けない。流水の紋章が輝き、じわりと傷を癒やしていく。
「痛みますか?」
「まったく」
治されている側は本当に痛みを覚えていないのか、暇そうな顔をすると、ソファについている右手を勝手に掬い上げている。一瞬引こうともしたが、あっさりと捕まってしまった。溜息の一つも付きたいが、相手がいる手前ぐっと堪える。力を消した右手には紋章の痕跡は一切残っていないが、それすらも楽しそうに彼は眺めている。
ついでかとも思い、口を開かぬ皇子に変わって言葉を紡ぐ。
「見ての通り、私は真の土の紋章を右手に宿しています。術者とは、非力がゆえに身を守る術を使いますし、罠も多用します。時間を掛ければかけるほど威力も高まります。容易に近づいてはなりません。以後、気をつけてください」
土の力は、直接地形を変えてしまうような大掛かりなものから、石つぶてを呼び出して当てるような簡単な術まで様々である。植物は土の力に隷属しているため、支配下にあるものも多い。ゆえに紋章が己の意思で発動すると、勝手に動くときもある。先程は罠を仕込もうとしていたのが失敗だった。土の紋章の尖兵として刃を翻したのだ。
なので、暗にお前が悪いと釘を刺しておく。主を守る紋章を宿す術者など早々いないが、真なる紋章は話が違う。容易に近づかないで欲しい。最悪、地が割れる恐れとてあるのだ。そんな最悪は見たくもない。
「命令か?」
「忠告です。真の紋章には意思があります。主を守ろうとする力は、私にもまだ制御し難いのです。どうかお許しください」
これが彼で言う剣であり己の矛なのだ。彼とて襲われたら刺客を叩き切るだろう。正当防衛。咄嗟の反撃。言い訳くらいはしなければ、本当に国が傾きかねない。早々に外交失敗など目も当てられない惨劇だ。
「良い。そうでもなければこの力も眠ったままなのだろう。俺が確かめたかったのはこの力だからな」
「感謝します」
確かに、何か隠しているなら見せろと言われても、おいそれと使える力ではない。できれば保持している事も伏せておきたいくらいなのだ。
それはそうと、傷ももう塞がるのに利き手は依然として開放されない。
「さ、治りましたよ」
「ご苦労」
一言。労われはしたが、居た堪れない沈黙が続く。
「目的はもう果たされたのでは。この手はいつ開放していただけるのでしょう」
先程のように強く掴まれているわけではないのだが、何となく振りほどくのをはばかれる。そんなに見つめられても、何があっても渡すことなどできない代物だ。
その言葉にようやく視線を寄越してくれた皇子は、口元を歪ませてにやりと笑う。
「なに、この腕を切り落せばこれも手に入るのかと思ってなぁ」
「ひえ」
その一言に恐怖を感じて思わず腰が浮く。逃げようとするも腕を引かれて、もつれてソファに倒れ込む。
「なりません! お離しください!!!」
こんなに近くては力を発動させることもできず、判断をまずったかと後悔する。利き手を取られたままでは逃れようにも逃れられず、顔でも叩いてやろうかと思うも近すぎてままならない。
「暴れるな、軽い冗談だ」
男が楽しげにくつくつと笑う。遊ばれているのかと思うと、思わず言葉に詰まった。どさくさに紛れて一発くらい殴っておいても良かった気もする。
「貴方様が言うと冗談になりませんよ。皇子殿下」
初めて見る違う顔がこんなものだとは。嫌味にすらなっていないのに、本人は実に愉快そうだ。もしかして、もしかすると、この男はとても人が悪いのではないだろうか。噂と違わぬのだが、何かがずれている。
「フン、青いな。これしきごとき」
「なんとでも」
こうなればヤケだった。死なばもろとも。痛いのは本当に苦手なのだが、役目を果たせぬまま死ぬよりかはずっといい。なるようになれと、重心を預けたまま問いかける。顔は見てはいけない気がした。
「で、何を見ておられるのですか。紋章以外には何もついていませんよ」
本当に何が面白いのだろうか。次にその手が光る時は、二人して串刺す覚悟なのだが。
「綺麗な手だと、な。働くことも、剣も知らぬ手だ。妹に似ている」
流石に男の手と比べるのはどうかと思うが、確かに何も苦労していない手と言われればそうなのだ。食うに困った事もなく、働くこともなく、学ぶに至り、ペンは使えど荒れたこともない。恵まれたといって問題ないだろう。だからと言って苦労がないわけでもないのだ。現に、今、このように。
「ルカさまは、働いた事がおありで?」
「ないな」
握っている手は武人の手だ。剣を扱うことに長けた、ごつごつとした男の手。それを聞いて、ササライは少しだけ笑って見せた。
「では同じでしょう。血で多少汚れてはいますが」
「皮肉か。その性格、悪くはないな」
為政者とは、時に残酷で、血も浴びる覚悟がいる。その血が多かれ少なかれ、手を汚すことはある。そういう意味なら、同じ生き物だ。そう思うと、目の前の男がひどく可哀想に思えた。
だが、これだけは言っておこう。この男の性格、少し理解した上でのやっとの揶揄だった。
「良くもないのでは……?」
これまで特に支部でキャラ名検索とかしてなかったんですが
ふと調べて見たら……世の中にはルカササなるかわいいCPがあるのか!と
驚きと萌えをいただきました。え、かわいくない?
自分なりに書けないかと頑張ってはみたけど、面白い要素はゼロですね。がっかり。
楽しかったけど、細かい時系列とか全然覚えてなくて全てがでっち上げ捏造です。
ササライ様がルカ様相手に「僕」って言えるまで書いてみたい気持ちもあります。
他人が個人になる瞬間みたいなやつー!やつーーー!!!
[1回]
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