CP傾向:ボオタオ
制作時期:2022年10月
備考:ライザのアトリエのボオスくんとタオの馴れ初め話。
特に何もしてないけど2に続く。
続きはいきなり裏に持っていく事に……。
それは終わりゆく夏の暑さを少し寂しく感じる秋の始まりの頃。暑さは落ち着いたとはいえ、陽の光が燦燦と降り注ぐ中、木の陰で本を読んでいる彼を見つけた。
最初は構いたくて目で探すようになっていた金色の頭を、今日もまたつい目で追ってしまっていた。少し前まで、忙しそうにしていたり避けられていたりで村にいない事も多く、こんな落ち着いた姿を見るのは久々な気がする。
近づいて話しかけると、以前の怯える様子など全く忘れたかのように、にこやかにまだ読み解けていない本なのだと教えてくれた。
特に深く考えずに中身を見てすぐに読むのを諦めるが、どこか見覚えのある文字の羅列に首を捻る。だがすぐに思い出せた。そういえば似たような文字の本なら家にもある。そう教えたら目を輝かせながらのこのこと家まで付いてきたわけだ。
危機感がなさすぎるんじゃないのか。と思うも、田舎の閉じきった世界で危機も何もないのかもしれない。いくらいじめていたとは言え、同じ島民を傷つけたり命を奪うような発想もなく、精々嫌味を言う程度だった。
しかし、だ。いや、男同士とは言え、こんな事になるとは考えていないのだろうか。これまでずっといじめてきた男に対して警戒が薄すぎる。王都に向かう前に、少し忠告でもしておこうかと話しかけたらこうなってしまったのだ。
「え、……っと、ボオス? もしかして怒ってる?」
そう、誰も来ない地下の書庫で、本を抱きかかえた少年は男と壁の間に挟まれていた。
「あのなぁ、お前……」
「わぁぁぁ! ごめんってば、何かよくわからないけど!」
一緒に少しだけ旅をして、長い間隔てていたわだかまりが解けており、そして王都留学の声までかけるまでに至った。なので、目の前の男が何故に仏頂面で見下ろしてくるのか、機嫌を損ねた理由も分からないのだろう。
「誰かと二人きりになる時はもう少し警戒しろって言ってるんだ」
怯える少年を相手に怒りを通り越して呆れが来たのか、おもむろに溜息をつく。
「へ? なんで?」
「世の中にはお前みたいなのを好む連中だっているんだぞ」
じろりと睨む顔は近い。少年の造形はまだ子供で、手足は折れそうに細いし身長も低い。
「え、僕は男だよ?」
「それくらい知らないわけがあるか。だがお前、まだ声もかわってないだろうが、襲われてからでも知らないからな。常にあっちでも助けてやれると思うなよ」
この町は偶然平和で、そういう輩もおらず、閉鎖されているからこそ互いの目が光る空間だったとも言える。都会になど出たこともないのだが、少年はこちらの言いたいことを何となく理解したようだ。全く想像していなかったのだろうが、合点は行ったのだろう。
「へ? ……あ~、そういう事?」
「そういう事だ。自分の身は自分で守れ、と言いたいが体格的に無理なものは無理だ。くれぐれも気をつけろよ」
だから危機感が足りないと言うのだ。そも、自分がその暴漢だったらどうするつもりなのか。
彼らと袂を分かち、溝を深めてからは、互いにあまり良い思い出もない。
それでも執拗に構っていたのは何だったのか。嫌いなら無関心を貫けば良かったのに、いつも一人でいる彼を見つけては狙っていた。そうでもしなければ、全くの他人になってしまいそうで嫌だったのだ。
だが、夏のほんの一瞬とは言え、彼も様々な魔物を相手してきたようだ。今更、人間が怖いという発想がないのかもしれない。
「う~ん、僕もライザと旅してそれなりに魔物相手に戦ってたんだけどなぁ」
一人でなんとかなる。とまでは言わないが、仲間を助けられるくらいの力は確かにあった。普段の生活ではあまり使わない魔法もそれなりに駆使していたし、ライザに作ってもらった武器も派手に振り回していたのも知っている。
そんな少年の言葉を聞くと、男は再び眉を顰めて閉じ込めていた少年の利き手を掴む。まだ少年の腕は、このまま折ってしまいそうなくらい細い。
しかし、本人にそのような自覚がないのだ。致し方ない。
「じゃぁこの腕を解いてみろよ」
「え……?」
そう言われて少年は解こうにも、ぴくりとも動かない。試しに、んーだの、うーだの力を込めている事は分かるが、このくらいの力比べは造作もない。
「う……。ボオス、剣習ってるし、力あるよね」
「あのな、俺だって剣を極めたとかじゃないんだぞ」
はっきりと言えば体格差、既に成人の体格に近い男と、まだ成長期が終わっていない少年では当然としてある差だろう。だから言っているのだ。剣を扱うものも、他の武術を心得ているものも、世に出ればごまんといるだろう。
「ご、ごめん」
「謝るくらいないなら気をつけろ、ほいほい乗せられて付いてくるんじゃない」
そう言って掴んでいた手を開放する。本当に折れるように細かった。本気で傷つけるつもりなら、こんな少年の体くらいいつでも捻れたのだろう。
だが、何故あの時に、いじめようと思いつつもけして傷つけなかったのだ。つい先日までの事なのに、既に理由を思い出せないでいた。無自覚だったのだ。あれは仲の悪かったライザやレントへのあてつけだったのだろうか。確かに、一番鈍くて捕まえやすかった記憶はある。
そんなかつてのいじめっこを前にして、彼は臆する事なく朗らかに笑う。
「でもボオスだったし、平気だなって」
もう完全に信頼しきっている顔だ。
しかし、彼にとっては宝物なのだろうが、本ごときで付いていくようでは不安すぎる。自分じゃない誰かにホイホイついていくなと忠告しているはずなのだが、通じているのだろうか。
「……。」
「それともまだ僕のこといじめたいって思ってたりする?」
「そこまで子供なわけねぇだろ」
「だよね。大丈夫、ちゃんと人は選ぶようにするから」
理解しているのは分かるが、なんとなく不安すぎる。人を疑うということを学ぶべきなのに、気がつけば全く知らない外部の者とも親交を深めていたりして、本当に心配になる。
これは過保護とか心配性というものなのだろうか。これまでいじめていた少年相手に何を今更、と思うが、そんな変化も見逃したくなくてつっかかっていたのかもしれない。
溝ができた日から、疎遠にはなれど、ずっと彼らの成長を見てきた。それはおそらく、一つの意地だったのだ。
「本当だろうな。少しでもあやしいと思ったら俺に言えよ」
「あはは! ほんと、ボオスって変なところで真面目だよね」
「うるさい。ここの跡取りなんだぞ俺は、不真面目な方が問題だろうが。そもそもお前たちが適当にやってたからそう見えるんじゃないのか」
軽やかに笑う少年のあしらい方を知らない男は、体勢を入れ替えて隣に座りこむ。いつまで見つめ合っているのだと、内心自分につっこみを入れたところだった。
いや、笑った顔を近くで見るなど、久々すぎて呆けてしまった。存外にかわいい顔をしている。
「そうかも。問題児とか言われたら繕うのも面倒になってさ、いっその事ならって好き放題してたよね」
「で、何か目ぼしいものは見つけたのか?」
あえて話題を変えるように、積まれた本を見やる。読める文字でも難しく書かれていたり、そもそも読めない文字もあった。
「うん、いっぱいありすぎて出立までに読み切るどころか、気になる本リストを作るだけで終わりそうかも。やっぱりボオスの家は昔からこの土地の領主だったんだね。僕の家はもう少し踏み込んだ書物が多いけど、ここは昔のここの暮らしとか食べ物とか、そういう日常に関わる事を多く綴ってあるんじゃないかな」
「そもそも何の本かも読めないが?」
本の事となると途端に目がキラキラと輝いているように見える。本の虫とは昔から言われていたが、虫なだけあってこの文字をかろうじて解読できるのも今や彼くらいだろう。興味がなければ伝承も何も継がれることはないのだ。そう思って留学も声をかけた。
「それを読むのが僕の家のお仕事だったはず……なんだよね。僕も独学だったわけだけど。ってわけで、留学から帰ったらまた来ていいかな? その頃にはスラスラ読めるかなって」
「おまえ、帰ってくるつもりはあったのか」
学者になりたいというぼんやりとした夢を聞くだけで男にもわかる。この少年は知識欲の塊のような存在なのだ。楽しいことがあれば、きっとこの島に帰ってくる事もない。この島の継承者になるべくして留学を決めた男とは違い、何にも縛られずどこまでも自由に生きられるのだ。世界は未知で溢れている。だから、少し意外だったのだ。
「う~ん。未来の事なんてわからないし、楽しい事を見つけたら話は別かな~って思ってたんだけど。この島の事は、僕にしかわからないことも、あと調べる人もいなさそうだからね。そのうちには帰るかなって」
「適当だな」
「まぁ、ライザもレントもそんな感じだからね」
「悪い影響ばかり受けやがって」
あのままいじめて、ずっと手元に置いていたとしても、このような未来には絶対にならなかっただろう事は想像できる。どこまでも自由に、思うままに。だからこそ、腹がたつほど羨ましく輝いて見えたのだ。
男は不貞腐れた顔で他所を見やる。小さい頃に守らねばならないと思った心は、手を離れている間にすっかり自分の足を地につけて立っていた。
「怒らないでよ。たくさん勉強して、ちゃんとボオスにも恩返ししに来るからさ」
「わかったわかった。それまで残しておけるように言っておいてやるさ。いずれここの本もお前にやるから、必ず戻ってこいよ」
隣でにこやかに頷いた少年の頭を、わしゃわしゃと撫でる。ふわふわの髪がもさもさになるのは少し気分が良かった。眼鏡がずれたのか少し迷惑そうに困惑した表情をしているが、異論もない。心は既にここの本のものらしい。
「がんばろうね、ボオス」
「お前こそ、根をあげんなよ」
来月にはこの島を出る。
そこからこの関係がどうなるか、王都に出てみない事には読めもしない。
だが、一つの約束で、いずれこの地に帰るなら、何があってもまたこの距離に戻れるのだと、少しばかり安心した。
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