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時計の針を戻す魔法があれば(幻水紡時 300年組)

登場人物:ゼフォン レネフェリアス 紡主一行?

CP傾向:なし。

制作時期:2012年3月

300年前のレネフェリアスとゼフォンの短文。
ゼフォンが賢者設定になっております。 微妙にほの暗い感じ






人の住める世界は狭まってしまった。
けれど、キミの世界はもっともっと狭まってしまったんだ。
だからね、少しくらい贅沢したって、いいじゃない。





「ねぇ、レネフェリアス。庭園が欲しいな」

 厚い書類の山に目を通していたレネフェリアスは、その少年の声に視線を上げた。
そこには、机の上に乗り上げて、足をプラプラさせている見慣れた姿がある。
彼は設計図を眺めながら、珍しく真面目そうな顔をしていたものだから、レネフェリアスは話を聞くことにしてペンを置いた。

 この少年、ゼフォンは最年少の賢者であるが、中身はまだ成人もしていない子供だ。
いつも、面白くない毎日が続いていたから、少しくらいのわがままは聞いてやってもいいだろう。
しかし庭園とは、遊び場か何かだろうか。

「庭園?」

「そう、キミのための庭園。だって、家に閉じこもってばかりいたら、身体が鈍っちゃうでしょ?」

 つい数ヶ月前に、最後の人間たちは、この土地に越してきたばかりだった。恐ろしき化物から逃げて、身を隠すようにして生き延びたのだ。
 人々は今、この新天地での生活に必要な物を急速に造り、暮らしを立て直している。そして、対テラスファルマの基盤になる、この森羅宮も同じく発展途上だった。
 ざっと一年前、世界樹から、大いなる力を引き出して結界を張り、レネフェリアスは自らのくびきを作った。
その事実を知っている者達は、感謝の意を込めて、彼と世界樹の為の宮殿を真っ先に造ったのだ。

「いずれ森羅宮は今より大きくなるだろう、わざわざ造ることもないのでは……」

まだまだ森羅宮には増築の余地や構想はあるが、レネフェリアスにとっては、今この段階で必要なものとは思えなかった。

「駄目だよ。ちゃんとお日様の光を浴びないと」

「……時代樹の部屋には天窓もついている」

「それも駄目、ちゃんと花や樹木に囲まれて散歩できないと」

どうやら、予め返答は用意されていたらしい。ゼフォンからは言の葉がスラスラと飛び出て来る。

「ふむ、花程度であれば植木鉢でも……」

「あー、もう!屁理屈ばっかり!」

「屁理屈ではないと思うのだが」

「いいの! ボクが、キミに、緑の中を歩いて欲しいから、言ってるの」

 快い返事が貰えなくてふてくされたのか、ゼフォンは机に頭を落としてしまった。
 賢者の中でも引けを取らない頭脳を持っているのに、行動はまだ子供だと、おかしくなってレネフェリアスは柔らかく苦笑した。
弟がいたら、こんな感じだったのだろうか。

「あのね、ボクがね。キミの代わりに、この世界の素敵な花や草や木を、ここに持ってきてあげるよ」

 ゼフォンはごろりと寝転びながら、傍にある新たな新天地の地図を手に取った。
その殆どに、レネフェリアスは行ったことがない。そして、恐らく半永久的に……この身が滅んでも、見ることができない世界になってしまった。そんなことを、ゼフォンの言葉でぼんやりと思う。


「この世界は閉じられて狭く感じるかもしれないけれど、まだまだ素敵なものが沢山あるって、キミが忘れないように教えてあげる。それが、ボクの役目」

ゼフォンの腕は、真っ直ぐ空へ伸びていた。

「だからね、庭園が欲しいな」

 体を起こして、にっこりと笑いかけてくるゼフォンは、ただ無邪気で可愛かった。
そうだ、こんな笑顔を守りたいのだ。
勿論、人類の存続が第一だが、最初の願いは、ただ大切な者を笑顔にしたかった。それだけだったはずだ。

「そうか、ゼフォンには適わないな」

ようやく、レネフェリアスも微笑んだ。
優しげで、幸せそうな笑顔だった。




そうしてしばらくの後、出来上がった庭園には、数々の花や木が溢れていた。











「ゼフォン?」

「え?あ、なに?」

 遠い記憶から引き戻されて、ゼフォンは現実に戻った。
何故、今更あんな事を思い出してしまったのだろう。ずっと忘れていたのに。

「大丈夫?どうかした?」

「ううん、何でもないよ。いきなり明るいところに出たからびっくりしただけ」

「そうか?中も明るかったぞ?」

 茶々を入れるデューカスの声が、酷く遠くに感じられた。
心配そうに顔色を伺う団長を余所に、ゼフォンは再び眼前に広がる中庭を見やる。そこは、すっかりと姿を変えている庭園があった。背丈を超える植木が、侵入者を阻む迷路のように立ちふさぎ、全て均等に刈り揃えられている。
昔はもっと、様々な花が咲いていたのに。
光が注ぐ、憩いの場所だったのに。


そして、遠いキミは笑っていたのに……。





ああ、どうして、ボクは

キミの手を離してしまったのだろう。







『時計の針を戻す魔法があれば、この無力な両手を切り落とすのに』








ネタが降りて来たときはキターーー!!!という感じだったのですが
いざ書いたら、どんな妄想に萌えて書いたのかわからなくなってました。
最後のフレーズはあの歌のあの歌詞なんですが、他は別にかすってもないので、そのフレーズのイメージだけだったみたいですw
何か分かった人は、そっと心で封印しておいてください。

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