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眠り人と世話人のカプリチオ(幻水紡時 ザヴィドとゼフォン)

登場人物:ゼフォン ザヴィド 紡主

CP傾向:ザヴィド×ゼフォンに近づきつつある

制作時期:2012年4月


『魔術師と呪術師のエチュード』の続き物。
ただのgdgd会話です。
イチャラブしないのはもはや仕様。
ちょっと暗い雰囲気に繋がるのも使用です。







 日が落ちて、砦に明かりが灯される宵闇時だった。湖面を吹き抜ける風が、火照った体に当たって心地良い。彼の長かった一日が、ようやく終わろうとしていた。

 あの後、報告が終わったゼフォンは、眠そうにふらふらしながら、自室へと引っ込んで行った。
砦についた時と報告している時はやたら元気そうだったが、どうやらやせ我慢をしていたようで、魔力の枯渇が堪えているのだろう事が容易に想像できた。
 ザヴィドも疲れてはいたが、空腹だったので食事だけは採ることにし、厨房へ赴いた。今では周囲も彼も、慣れてきており、奇異な目線はあまり感じない。随分と気楽になったものだ。
 だが暖かい食事に一息つくと、次は身体の汚れが気になってしまい、結局はザヴィドは汗を流すことにした。どうせ、明日はゆっくりできるのだから、面倒な事は先に済ませてしまうに限る。

 湯に浸かると、昼に負った腕の傷がピリと痛んで、ゼフォンとのやりとりを思い出す。
まったくもって今日ほど疲れた日はないだろう。子供サイズとは言え、半日近く人間を背負って帰ってきたのだ。腕の筋肉がひきつっていた。だが、いつもより少しだけ気を使ったのは、あの術がかなり高位で負担がかかると、理解したからこそだった。口で伝えることは苦手なのだから、何も言わず、力になればいいとだけ思っていた。
 そうしてザヴィドは、烏の行水宜しくの速度で、早々と上がり、冒頭に戻る。


 ここ数日は情報収集などにあてていたため、砦の雰囲気は和やかで、耳を澄ませば食堂の方から楽しそうな笑い声が聞こえる。遠い談笑を背に、ザヴィドは薄暗い廊下を急いだ。
 借りている自室は、鍵が開いていた。それもそのはずだ、出るときに部屋掃除をしておくと言われて、そのまま出てきた。ザヴィドの私用品や貴重品は部屋にはないに等しい。呪石はこの砦で量産されているから、持ち物でも貴重品でもない。
敵側から寝返ってきたような呪術師のザヴィドにとって、後は普段着ているものと下着以外に必需品などなかったから、別段部屋に入られても困りはしない。まさに、盗るものすらないという状態だ。
しかし、一応おざなりではあるが、各部屋は施錠できるようになっていて、更に造りは頑丈だった。
 暗闇が支配する部屋に戻り、小さなデスクにランプを置く。
ほっと一息をつこうと、ベッドに腰掛けようとしたその時、ザヴィドは見たくないものを見て固まった。
ベッドを独占している、白い物体。いや、生命体。

「……ゼフォン…」

 脱力して手に握っていた杖が滑ってしまい、音を立てて落ちる。
規則正しく上下を繰り返す身体と、寝息がとても幸せそうだ。
そういえば彼が、責任取れだのどうだのと、旅の途中で喚いていたような気がする。
いやいや、ちょっと待て、他人のベッドを占領して爆睡の何処がどう責任を取った取らないの話に繋がる?
しかし、現に干されたばかりであろう、ふかふかの布団とベッドは完全に占領されている。ザヴィドは一瞬、蹴飛ばしたい衝動に駆られた。
 だが、昼の疲労を知っているからこそ、叩き起こすというのも気が引ける。さて、どうしたものか。
茫然とするザヴィドは、暫しの間思考を巡らせていたが、ふと気づいて顔を上げた。
そうか、ならばこの小僧の部屋のベッドで寝ればいいのだ。

 手早く旅道具をしまい、寝るための軽装に着替えると、全く起きる気配のないゼフォンを尻目に部屋を出た。





のだが、すぐさま作戦は失敗に終わった。

「あの野郎……」

 思わず恨みがましい声と共に、ドアに怒りをぶつけてしまい、手が痺れる。
怒声も廊下に響くだけで、ザヴィドは更に虚しい気持ちになっただけだった。
そう、ゼフォンの部屋には鍵がかかっていた。ドアノブを捻っても、途中で硬くあたる感覚しかない。

「あれ?ザヴィド。ゼフォンに用なの?」

 そこに通りがかったのは、湯上がりらしいこの団の長たる少年だった。
髪を洗ったのだろう。降ろしたまま肩口で軽く結ってあるから、いつもと感じは違う。だが、浮かべる微笑みはいつもと一緒だ。
機嫌が良くないザヴィドの空気を読み取ったのだろう、穏やかな笑みを浮かべたまま、さりげなくザヴィドの隣に来る。

「もう寝ちゃったのかな?」

「いや、本人は俺のベッドを占領して寝入ってる」

「あらら……」

 軍主は、いつもの困ったような笑みを浮かべるが、どこか嬉しそうでもある。
他人事だと思っているのだろうか、ザヴィドにとっては今夜の寝床に関わる死活問題だ。

「笑い事ではないのだが」

そう睨みながら脅すと、軍主が慌てて取り繕う。

「あ、ごめん!……でも、ゼフォンがあんなに感情を露わにするの珍しいから。
さっきもね、君に怒りをぶつけてるのを見てびっくりした。初めて見たよ」

おそらく夕方の事だろう。
説明はするのに、きっちりと嫌なことを思い返して怒っていたのだから、器用と言うのか、何と言うのか。

「ほら、ゼフォンって、いつも飄々としてるって言うか。
……いつも自分はみんなと違う存在だって言ってる感じがするから、心配だったんだ」

それはそうだろう。本人も異質だと気づいている。
だからこそ踏み込めない。人との距離の取り方がわからないのだ。

「だからね、ザヴィドには自然に怒ったりできるんだって、ちょっと安心した」

それはたまたまの偶然だ。
いつも嫌なことを楽々とかわしている奴が、避けられない道に入り、そこに偶然自分がいたに過ぎない。と、思う。

「君のベッドを取っちゃったのも、部屋に鍵が掛けてあるのも、きっと一緒の部屋で寝たかったんじゃないかな?」

「そうなのか?」

「僕のベッドにも、たまに潜り込んで来てたし……」

「は? 子供じゃあるまいし」

これには少し驚いた。
あの奇想天外な脳みその中は、一体どんな思考回路になっているのだろうか。

「でも、まだ大人じゃないよ」

こいつ、騙されている。
良かったな、ゼフォン。

「とにかく、上布団なら僕のを持って行けばいいから、床寝でもいいから戻ってあげてくれないかな」

 この団長の利点の一つは、誰よりも他人を労わることのできる優しさだった。
あの不思議で、秘密だらけで、得体が知れない存在でも、彼はゼフォンを仲間だと認められているらしい。
その団長に請うように見上げられてしまい、瞳を交わせなくてザヴィドはたじろぐしかなかった。
堅い床よりか柔らかい布団の方が勿論好みだが、雨風さえ凌げるのであれば、大概は何処でも眠れるのだ。

「お前は?」

どうするのだ、と目で尋ねると、彼はにっこり笑って力強く頷いた。

「僕は大丈夫。ジーノの所に行くよ。少し待ってて」

団長は、すぐさま部屋から上布団を取り出して来た。オマケに脇に枕も挟んでいる。
そして、手渡しながら、朗らかにこう言った。

「あのね、ザヴィド。ゼフォンと仲良くなってくれて、ありがとう!」

その笑顔に、むず痒さを覚えて、思わず布団をひったくる。
そんな風にお礼を言われたことは、もうずっとなかったから、気恥ずかしい。

「仲良くしているつもりなどないのだが。それに、お前に礼を言われるような事でもないだろう」

「そうかな? 僕は好きな人と好きな人が、仲良くしてくれたら嬉しいよ」

「……恥ずかしい奴」

「え、あ、ごめん。変な意味じゃなくて」

「わかっている。だから余計に恥ずかしい」

「ごめんなさい」

顔が熱くなってしまって、暗闇に逃げ込むようにして慌てて背を向けた。
きっと、ここの者達は、こんな団長だからこそ力を預ける気になったのだろう。
その気持ちが、今のザヴィドには少しだけ解った気がする。

「じゃあな」

「うん、おやすみザヴィド。また明日」


 軍主と別れた後、ザヴィドは直ぐさま自室に戻り、横になった。
勿論、堅くて狭い、ベッドと壁の狭間だったのだが、暖かい布団を借りたので、文句はないことにしておく。
隣ではこちらの気配で全く目覚めようとしないお気楽なゼフォンが、くぅくぅと寝息を立てていた。

 明日、隣の彼が起きたら、許しを請うまで説教してやる。

 そんな不毛な想像をしながら目を瞑る。疲労が溜まっていたせいか、眠気は直ぐにやってきた。
そうして、ザヴィドは自室の床で一夜を明かした。




 朝、ザヴィドは嫌な夢で目が覚めた。
呼び出して使役していたテラスファルマが、言うことを聞かずににじり寄って来て、殺されるのかと思ったら上に乗っかって来るだけという、なんとも奇妙な悪夢だったのだが……。

 なるほど、起きてみて納得が行く。
ベッドで寝ていたはずのゼフォンが、狭いサイドに転がり込んでおり、ザヴィドを圧迫しながら健やかに寝入っていたのだ。

「おい……」

流石にこれは、見過ごしておけない。
仕方がなく、ザヴィドはゼフォンを頭を軽く小突いた。

「う、うーん……待って、もう少しで、テラスファルマを……潰せるから」

「こら、誰がテラスファルマだ」

逆に物騒な夢を見ているらしいゼフォンにゾッとして、次は強めに肩を揺さぶる。

「あ~……あれ、仏頂面なおにーさん……。おはよー」

「言っておくが、この顔にさせたのはお前だからな? いいから、起きろっ!」

「えー。……はぁい」

もそもそとベッドによじ登ったゼフォンは、まだ半分寝ぼけているようだ。
重しがなくなり、ようやく立ち上がれたザヴィドは、テキパキと借りた上布団をたたみ始める。

「で。何故、俺のベッドで寝ていたのだ。そして何故落ちてきた?」

くぁっ、と欠伸をして目尻を擦っているゼフォンを横目にしながら、手を休めずに話かける。じっとしているのは、どうも性に合わないのだ。

「うーん。何だっけ。……確か、嫌がらせ?」

「適当な言い訳をするなら、最初から言い訳などするな」

ぼんやりとしているゼフォンから、本来は自分のものであるはずの上布団を剥ぎ取ると、ザヴィドはそれもたたみ出す。
断じて世話を焼いているわけではない、と本人は思っているが、これでは面倒見の良いただのお兄さんである。
そんなちぐはぐなザヴィドを、意識を徐々に覚醒させながら見ていたゼフォンは、唐突に小さく吹き出した。

「あははっ!冗談だよ。それに落ちたのは故意だよ、故意」

「余計に悪い」

「だってここはキミのベッドなのに、入って来ないから」

手持ち無沙汰になったゼフォンが、枕を引き寄せて抱きしめる。
そのノリについて行けないザヴィドは、流石に動きを止める。背中が寒い。

「は? 俺は、男と一緒に寝る趣味はない」

「えー、据え膳なのに?」

ゼフォンは口元に妖艶な笑みを浮かべて、ザヴィドを見上げた。
姿は子供なのに、言うことマセていて、俄かに狐に化かされた気分になる。
そして、化かされただけの筈なのに、妙に恥ずかしい気分になった。顔が熱い。

「き、気色悪い事を言うな!」

「あっははははは!お兄さん顔が赤いよ。ははは、うぶだねぇ。かわいー」

「うるさい!」

断じて、こんな子供なんかにクラッとしていない。たとえ中身が年食っていようが、こんな外見に騙されるなんて、どうかしている。
ザヴィドはゼフォンに背を向けると、さっさと朝の支度を始める。
洗っておいた服と、そして今から洗濯する服をわけて……呪石の数を数えて……と、そんな程度しかないのだが。
無言で作業に入ったザヴィドの背を見ながら、ゼフォンは声に出さず笑っていた。気分はまだ夢心地で、気分がいいらしい。

「でも、お兄さん優しいねぇ。ボクのこと、一度も起こさないでいてくれたし」

「起きそうになかったからな」

「やだなぁ、流石に殺気を感じたら起きるし、叩かれたら起きるよ?」

「疲れて寝ている者を叩き起こす趣味もない」

「はいはい。……ありがとね」

 ゼフォンの言葉ぶった切るように、ザヴィドは最後にマントを羽織った。これでいつ声がかかっても戦闘に出られる。
なのに傍でポヤポヤしている奴と言ったら……さて、どうやって追い出してくれよう。
しかし、チラリと見たら、何故か目が合った。意識は覚醒しつつあるらしく、にこりと満点の笑顔ではっきりと話しかけてきた。

「で、お腹が空いたなぁ!おにーさん!」

「……」

これは、有無を言わさぬ命令なのだろうか。
とにかく、とんでもなく面倒くさい何かに懐かれた事は確からしい。
どうせ、団長の少年に呼ばれるまで何もすることはなく、ザヴィドは渋々とゼフォンに待機を命じると、厨房へ向かうべく借り物の布団たちを脇に挟んで部屋を出た。

 結局のところ、布団を返すついでに今後の予定を聞きにいったザヴィドは、厨房で二人分の朝食を手に入れて戻ってくる羽目になった。
団長の彼は、とてもゼフォンの体調を気遣っており、浮城に攻め入る準備が整うまで休んでいていいそうだ。
布団を返すついでに世話まで頼まれてしまったのだから、何もやることがないザヴィドは何も言い返せなかった。

 食事をトレイに乗せて部屋へ戻ると、だらだらしていたゼフォンが、雛鳥宜しくの態度でご飯にがっつき始めた。よほど腹が空いていたらしい。
一緒にザヴィドも食事をとったが、パン一個とサラダ半分はゼフォンに取られた。
 食事の後は特にやることもなく、ザヴィドは借りていた本を机に開ける。
ウッツェという、独学で呪石職人になった男から借りたもので、この本は呪術書だった。
この戦いが終わって呪石が手に入らなくなった時、自分で生産できるようになっていれば、困らないと思ったからだ。
 そんな勉学に励むザヴィドの後ろで、ゼフォンは相変わらずだらだらしていた。どうやら自室に帰る気はないらしい。
そして何をするでもなく、部屋で寝そべりながら、空を見上げている。
鼻歌を歌ったり、微睡んだりしていたのだが、不意に思い出したようにゼフォンが話しかけてきた。

「キミは見た目よりずっと優しいよね」

「はぁ?」

重要そうな箇所を、メモに書き写していたザヴィドは手を止める。
自分には似つかわしくない言葉に、思わず訝しむ。

「いや、ね。最初は理屈の通らない無愛想で偏屈でどうしようもない馬鹿な人だと思っていたんだけど」

「怒るぞ」

実際はそこまで怒ってはいないのだが、これは条件反射というものだ。
ゼフォンもそんなことは分かっているのか、気にした風もない。

「でも、天魁星の彼が認めただけのことはあるね。キミは、宿星だったんだ」

「どう関係がある?」

ザヴィドが振り向くと、ゼフォンはやはり何をするでもなく、腕を天井に向けて自分の手を見ていた。

「無条件……とは言わないけれど、ある程度はボクの信頼を勝ち取りやすいよ」

「そういうものなのか」

「うん」

 それは暗に、信頼しているという事なのだろうか?
自分も、そうなのだろうか。
こうして、人と何気なく会話をする日常が来るなんて、あの時には考えもしなかった。
 昔、街の者が「何気ない毎日があるのが、幸せなの」と言っていたのを思い出す。
だとしたら、こうやってご飯を食べて、人と接して笑い語り、暖かい布団で眠って明日を迎えるのが幸せの一つなのだろうか。
ずっと、酷く遠いものに感じていたのに。触れては許されないとさえ思っていたのに。不思議なものだ。
その思考に気がついたのか、口を開かないザヴィドに代わって、ゼフォンが問いかける。

「キミの心には孤独もあるよね」

己の手を見つめていたゼフォンの視線が、ザヴィドに定まる。
不思議な瞳の色が、いつもより澄んで見えた。

「孤独?」

「そう、孤独。人と相容れてはいけない。1人でいなくてはいけない。自分は幸せになってはいけない。って、そう思ってない?」

何故、知っているのだろうかと思う。
この瞳は、人の心を見透かす事ができるのか?
いや、そんな事はないはずだ。だから、答えた。

「当然だ。俺はそれだけの事をしてきた。今はどうであれ、過去は拭えない」

 人を殺めてきた。物心ついた頃から、憎むべき相手がいて、憎むべき社会があった。
だから、それを殺すために力をつけて腕を磨いたし、振るってきた。あの頃は、何も間違っていないと、本当に信じていたのだ。
 今でも、憎い気持ちは消えていない。燻り続けている黒い心がある。だからこそ、戦っているのだとも思う。
けれども、人を傷つけてきた過ちへの後悔はあった。不義を働いて来た償いは、するべきなのだ。
人の命を奪っておいて、人の幸せを奪っておいて、奪った人間がおめおめと平和で幸せな暮らしをしていいと、ザヴィドは思っていなかった。
きっと、この戦いが終われば、然るべき処断を下される。
たとえ下されなくても、自分で決める。

「そうだね。過去の過ちは、消えないんだろう。償って、簡単に消えるものじゃない」

ゼフォンは、少し悲しそうに、ザヴィドに笑って見せた。
誰か、違う人を重ねているのだろうか、それは何かを慈しむ者の目だ。

「でもね。いつまでも孤独で、幸せを感じてはいけないなんて、それは違うよ。
それだと、心がもっと歪んでしまう」

「そう、言われも、解せぬ」

「いいよ。別に。今は解らなくても」

 ゼフォンは寝返りを打って、ザヴィドに背を向けた。
まだ起きてから何もしていないのに、魔力が完全に戻っていなくて眠かった。
こんな日溜まりのベッドの上で、空腹に苦しむことなく、誰かの傍で眠れるなんて、幸せだと感じながら、ゆっくりと瞼を閉じて、思考に耽る。


僕は過去に、友を無くした。
独りにさせて、隣に居なかったばかりに、友を無くした。

ずっと一緒に居れば、君を救えた……なんて、傲慢なことは思わない。
もしかしたら、一緒に堕ちるだけだったかもしれない。

けれどね。少なくとも手は握ってあげられたよね。
寂しくないよ。独りじゃないよって、言えたよね。

もう二度と、あの日の君は戻らないから。
ならば、せめて

「今度こそは、守りたいんだ」

 光の中で、微睡みながら、小さく呟く。
ザヴィドは、勉強に戻ってしまったらしい。ペンの走る音と、小鳥のさえずりだけが遠くに聞こえた。
先ほど窓から見えた空を思い出す。湖を渡る風が、少しだけ冷たくて心地よかった。
 あの優しい朝の空色は、彼の髪に似ていると思った。ずっと忘れていたんだ。
そして、意識が混濁していく中で、遠い遠い、記憶の彼方にいる彼と、近くに居るのに触れることすらできない彼に、心の中で呼びかけた。



ねぇ、人を嫌わないで、怖がらないで。

そして、孤独にならないで。






だって、キミは、こんなにも優しい人なんだから。












前の話から、時間が開いてしまいましたが、ようやく二人の話になれそう……
な、気がしてそうでもないというザヴィゼフォ話になりました。
EDまであんまり時間がないけど、たぶんこんな雰囲気のまま駆け続けそうです。


ゼフォンがレネ陛下に対して感じている、過去の失敗による後悔や抱いている希望みたいなものを、ザヴィドに重ね合わせて、過去を繰り返したくないと思う流れが書きたかったのです。

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