登場人物:王子 ユーラム ルセリナ ルクレティア
CP傾向:王子×ユーラムのはず。
制作時期:2006年秋?
王子×ユーラムが仲良く甘くイチャついているかもしれない
とある話の序章。続いてません。
いつか幻水5を再プレイしたら書くかも?
ちなみにうちの王子の名前は「カラハヴァルハ」です。
※ この作品は古い作品なため文章が稚拙です。
本来なら削除したいのですがマイナーなので残してあります。
それでもいいよ!という方のみお読み下さい。
寒い、そう思いながら、彼は王宮への通路を歩いていた。
決して今の季節が寒いわけではない、ただ漠然と空気が冷えていて
ユーラムは息苦しさを覚えた。
前に足を運んだときは、このようなことはなかった。
貴族同士の対立は熾烈ではあったが、確かに前ファレナ女王アルシュタートが玉座に居た頃は町中が明るく、王宮も暖かかった。
「ユーラム卿、こちらへ」
「あ、はい……」
前を歩いていた役人と思われる出迎え案内人が、表情無く先を促す。
役人の他に警備は一名、予想通りまだ自分が王子に下ったという情報は来ていないらしい。
元より命の保障は無い任務であるし、実際ユーラムは命をかけて、この任を受けた。
行きさえなんとかなれば、後はどうにでもなればいい。
既に失ってしまった権力、だがそのバロウズという家名だけはまだ王宮への参内を許されているのだ。
何の力も持たぬ、かつての政敵と彼は会ってくれるのだろうか?
敵とみなし、会う前に殺されるだろうか?
立場を哀れみ、無力と判断されたまま面会を許されるだろうか?
できれば後者であることを祈りながら、ユーラムは足早に役人の後を追った。
ソルファレナ訪問が決まったのは、つい三日前の事だった。
「ギゼルに個人的な文を送りたい」
そう、王子カラハヴァルハが言い出したのはユーラムが軍に加入して暫くした日の事だった。
と、いっても彼が直接聞いたわけではなく、軍議の終わり間際に公に言ったらしい。
「敵軍の頭であるギゼル・ゴドウィンに、個人的とはいえ文を送るのは難しいですよ
届けるまでに消される可能性もありますし、絶対な方法は使者を使わせる事でしょうけど……
使者を送る場合、使者の安否の保障は……できないでしょうね」
軍師ルクレティアは、羽扇を口にあて諭すようにそう告げる。
「普通の敵軍であれば、使者を傷つけずに返すのは道理なのですが、
王子の敵はそのような生易しい相手ではありません。
まぁ、私も……サイアリーズ様やゴドウィン卿に届くのであれば文を送りたいのですけどね」
ふむ、と王子が思案してて、口を挟む。
「じゃぁ、敵に睨まれない様な中立的な使者であれば問題なくはないか?」
「いえ、中立を保っていても……寧ろゴドウィン寄りであってもドラートは潰されました」
皆が、気まずそうに眉を顰める。
王子も打つ手がないと思ったのか、沈んだ顔で視線を落とした。
「王子……」
「いや、いいんだ。あくまでも私的な用事だから……」
「ふむ、そう……ですね。…使者を出すとすれば、かなりの条件がつきますが……」
はっと、王子が顔を上げる。
ルクレティアは目線をあげると、かなり絞られてしまいますが、と微笑んで提案した。
使者の条件は、こうだった。
・まず第一に、こちらの軍についていると公に知られていないこと。
・次に、過分な手続き無く、王宮に参内できるほどの身分であること。
・命、共に身体の安否の保障はされていないことを承知であること。
・最後に、王子と軍師の文を預かるほどに、信をおける者であること。
以上の四つであった。
最後の二条に叶う者は多数あれど、最初の二条をクリアできるものが、いない。
カラハヴァルハは困ったように額に手をやると、頭を押さえたまま溜息をついた。
その場の誰もが王子の望みを叶えたいにも関わらず、その条件に当てはまらない事に
憤りを感じ、顔を曇らす。
誰も名乗りだせず、かといって思い当たる人物も出てこない。
無言の時間も潮時だと思われたその時、一人の少女が静かに呟いた。
「あの、王子……」
「ん?なんだい、ルセリナ」
「最後の一条に叶っているかどうかはわかりませんが、最初の二条にであれば
叶っている者がおります」
小さいながらも落ち着いた声音で話す、その少女に、一斉に目が集まる。
「ここには居りませんが」
「誰だい?」
「……兄です」
「!」
議室にどよめきが走る。
ユーラム・パロウズ、もうこの城では知らない者はいないだろう。
散々王子と仇名して、つい最近心を入れ替えて参軍した現パロウズ家当主だ。
心を入れ替えたとは言え、昔の行いが全ての者に許してもらえたわけではなく
今でも多くの者に目の敵にされている。
それでいてその者達から報復を受けないのは、ユーラムを許した王子と
彼の妹であるルセリナへの信頼と気遣いによるものだ。
王子が彼を許した事は周知であるが、彼を良く思わない者はとにかく多い。
信におけない者の方が圧倒的多数なのだ。
そんな彼を?
そう、疑問をぶつける視線が王子に集まる。
「ユーラム……か……」
カラハヴァルハは、あの妙な儚さを纏わせてしまった青年の事を思い浮かべた。
自分は彼の事が好きだと断言できる。
権力を失い、まともに生きることさえ難しくなってしまった、不器用な元貴族
彼の心を知ったとき、護ってやりたいと思った。
そんな彼を、殺されるかもしれない敵地に送り込めと?
冗談じゃない……。
「王子、私は王子が信頼した人であれば、私も信用します」
ルクレティアが顔を向けて柔らかく頷く。
それを横目で見て、王子は目を伏せた。
「いや、とりあえずは保留にしておこう……できれば彼、ユーラムを
ソルファレナへは行かせたくはない、彼は戦えないから……」
捕まったらそのまま殺されてしまうかもしれない。
ただでさえ、あちらではかつての政敵として見られているというのに。
それだったら、まだ軽蔑の目で周囲に見られていても、手元において置けるほうがいい。
自分の我が儘で彼を危険な場所へは行かせない、行かせたくない。
元より提案自体が自分の我が儘だからこれでいい。
「わかりました」
「では、今日はこれで解散しましょう」
ルクレティアが解散を告げ、みながそれぞれの持ち場や仕事へと散っていく。
カラハヴァルハも肩の力を抜いて席を立つと、一つ溜息をついて部屋を後にした。
その夜、カラハヴァルハは控えめに叩くノックの音で意識を覚醒させた。
諦めたつもりで、諦めきれていない「ギゼル宛の文」に書く文章を、机に向かいながらうとうとと考えていたのだ。
「誰だい?」
そろそろ皆の就寝時間になるという夜更けに、来客とは珍しい。
カラハヴァルハが椅子から立ち上がると同時に声は返って来た。
「ユーラムです」
「ああ、今開けるよ」
どきりと心が跳ねる。
これまで、彼の部屋に自分が足を運んだことは幾度とあれど
彼からここに来ることなど一度もなかったのだ。
扉を開けると、そこには黒いマントを被ったユーラムが申し訳無さそうに立っていた。
「あ、あの……王子殿下、少しお話したいことが」
「いいよ、中で聞くから、早くお入り」
しどろもどろに俯いて話すユーラムの腕を掴むように引き入れると、ベッドへと促す。
何か飲む?何か食べる?と聞くも、相変わらず大人しい声で「いえ……」と返って来るだけだった。
「御前、失礼します」
そういってフードを下ろすと、ランプの明かりしかない薄暗い部屋の中に、白金の髪と白磁の肌が現れる。
カラハヴァルハは小さく息を呑むと、先ほど使っていた椅子を引っ張って来て
その正面へと座った。
「で、ユーラム。こんな時間に何の話だい?」
「はい、あの……先ほど、ルセリナに会議での話を聞いたんです」
ああ、嫌な予感がする。
「私を、王子の使者としてソルファレナへ使わせて下さいませんか?」
やはり的中した。
今の彼であれば、こう言うと思っていた。
自分の為であれば、できることはなんでもする、そういっていたことを思い出す。
「嫌だ」
「ッ……王子…」
だが、やりたくない。あまりにも危険すぎる。
「確かに、私はまだ信頼にたる人物ではないかもしれません」
「そんなんじゃない。僕は君を信頼しているし、大切に思ってる。
わからないかい?僕は君を護りたいと思っているし、危険な目に遭わせたくないんだよ」
「私には……勿体無いお言葉です」
ユーラムが困ったように目を伏せる。
優しく手を回して抱きしめると、さらりと揺れる白金の髪から、石鹸の香りがして胸が苦しくなった。
「あれは僕の我が儘なんだよ」
「私は殿下の我が儘を叶えてさしあげたいです」
「僕は君が危険に晒されてしまうのなら、我が儘なんていわないさ」
腕に力を込めて、髪に頬を寄せる。
王子相手に抵抗などできるはずもない彼を良い様に扱って、我ながら少し意地悪いと思うが
この気持ちがユーラムに伝わればいいと、力は緩めなかった。
「聞いて……下さい、王子。
わたし…は……今とても無力です」
上からで表情は読み取れないが、耳が微かに赤く染まっているのがわかる。
「王子とルセリナの力に頼りっきりで……何一つ力になることができません」
そんなことはないと言おうとするが、確かに今ユーラムは実質この城の中でも生きにくく
二人の保護の下に暮らしていると言っても過言ではなかった。
ユーラムは、そんな慰めを聞きたいのでは……ないだろう。
「私は王子の力になりたい、それが私に適した任務であれば尚更……」
はっとユーラムが顔を上げる。
その真摯な青い瞳にぶつかった。
「王子殿下、お願いです。私にその任をお与え下さい!
命に換えてでも、必ずやギゼル殿に文をお渡しして見せましょう」
「ユーラム……」
ああ、何故彼はこんなに純真になってしまったのだろうか。
少し前であれば、命が危険に晒されるような事は一切しようとしなかったのに……
変化は嬉しいと素直に思うが、自愛する心をすっかり無くしてしまった彼に
言いようのない保護欲を感じてしまう自分が情けなかった。
彼を護りたい。
だが、彼を護るということは、その心も護るということではないのだろうか?
彼が、ユーラムが今望むものは……?
部屋に、沈黙が流れた。
「……わかった」
「!! 王子、あ、ありがとうございますっ!」
「ただ、一つだけ約束して欲しい。
必ず僕の元に帰っておいで……命に換えるなんて許さない」
嬉しそうに輝いた顔を、凛と引き締まり頷く。
「はい、承知致しました。
このユーラム・バロウズ必ずや王子殿下の下に帰りましょう」
ユーラムが淡く微笑む。
なんて綺麗なんだろう……
自信に満ち溢れて生き生きしている君はこんなに素敵なのに。
願わくばこの旅で、君に自信が付けばいい。
そして、願わくばこの旅で、君が無事であることを……
そう心から祈り、カラハヴァルハはユーラムの横髪を愛おしそうに手で梳くと
その白い額に静かに口付けを落とした。
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ギゼル×ユーラムに餓えて書き始めた、王子×ユーラム前提のユーラム小説。
長編になるはずが、序章を書いただけで勿論そのまま放置プレイ中!
この一作でも読めないことはないか!と開き直ってup。
話の展開もまだ頭の中にあるので
気分が乗ってきたら書くかもしれないし、一生このままかもしれない。
ユーラムは改心前も後もどっちも好きです。
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