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続・師と弟子の瞋恚(申公豹×老子)

【登場する人】
太上老君、申公豹、黒点虎、伏儀

【CP】
申老

【備考】
完全に『師と弟子の瞋恚』の続き。
今回は申公豹と老子の間に伏儀(not CP)が入るかたちになっています。








 どこともつかぬ青空広がる雲海の上、白い雲に包まれ宙に浮いた島があった。そこに一本だけそびえ立つ大樹の葉が、強く照りつける太陽の光を程よく陰らせている。そんな麓で微睡んでいたら、ふと見知った霊気を感じた。

「お主がわしの夢に来るのは珍しいのう」

 そう、ここは夢の中だ。他人の夢の中へ入ってこれるような高い力を備えた仙人は数えるほどしかいない。拒絶することもできたのだが、知った霊気なので止めておいた。
 揺らぎが淡い光りとなり、その霞が形となる頃には、それが誰だか彼は理解していた。今では夢の住人の長をも名乗れるであろう太上老君。その人だ。
 だが、彼は降り立つと同時に浮遊をやめて、力なくぺたりと座り込み、項垂れてしまった。様子がおかしい、と思いつつも極めて普通に声を掛ける。

「久しいな、太上老君。これまた一体、どうしたというのだ?」

 気持ち、帽子の耳の部分までヘタれている老子に、伏儀は話しかける。いつもひょうひょうとしている彼がここまで萎れているのは珍しい。喜怒哀楽が欠落しているわけではないが、それが外に出てくる事が極めて少ないのは確かな相手だ。
 老子は暫く小さくふるえながら黙っていたが、やがてぽつりと一言呟いた。

「聞いてよ伏儀。私、あの子を強く怒ってしまった」

 あの子。老子があの子と呼ぶのは、彼が面倒を見てきた相手となる。邑姜が人間界にいる今、間違いなくて『あの子』とは申公豹だ。そう言えば長年希薄だった師弟仲を、最近になって戻したような噂を聞いた。

「ほう、そなたが怒るのは確かに珍しいのう。まぁ、かつてこの宝貝を貰い受けた時も安眠妨害だと怒られた気がするが」

 あれはまだ太公望だった時の記憶だが、三大仙人もそんな事で怒るのだと妙に納得したものだった。

「やだ、過去と理由が一緒とか……私は何も成長していない」

「そうしょんぼりするでない、太上老君。人が怒るのは当然の感情だ。それは仙人でも然りである」

 仙人は人から生まれしものだ。感情もあるし、生きる時間が長い分、様々な答えを導き出せるであろう存在だ。勿論、悩む時も迷う時もある。間違える時もある。人は失敗をし、反省し、改善することによって前に進む生き物だからだ。
 長く生きる仙人だからこそ失敗は少ない。が、だからと言って決して間違わないわけではない。感情がある以上、何千年生きていても切り離せない話だからだ。

「でも、あの子がもし傷ついていたら……」

「何か、傷つけるような事を言ったのか」

「毎日毎日来るものだから、眠りを妨げないでほしいからという理由で暫く来ないでと言った。物凄く衝撃的な顔をされた」

 伏儀は小首を傾げる。聞いた噂と違う。

「…………む。お主ら、身体こそ繋げておらぬが、互いに好いておるのではなかったか?」

 当然、恋仲であれ師弟仲であれ、関係には各々の事情と言うものがある。その関係とは時間が紡ぐものであり、長く共に居たほうが紡ぎやすいのではないか、と思う。
 しかし、老子は力なく首を横に振った。

「だって……だって。毎日なんて会っていたら、あの子はすぐに私に飽きてしまうだろう?」

「むう、お主の道理がわからん。普通は暫く会わなかったら忘れたり飽きたりするものではないのか?」

 遠距離恋愛は破綻しやすい。そういう統計があるのかないのかは知らない。
 だが、人間界において、恋愛する男女の別離は恋愛の終わりであるほうが多いだろう。人間界は未だ女性に結婚を決める権利はなく、決めるのはその家主である方が多いからだ。それでも稀に、愛されて育った子女は恋愛で婚約者を決めることもある。
 勿論、そんなものは彼らに適応されない。それこそ好きにすればいい分野だ。だが、離れれば離れるほど、忘却するものではないだろうか。

「わからない。私はあの子に……少しでも長い間、傍にいてほしい。でも私には彼に返してやれるものは何もない。力も、財産も、栄誉も、魅力も、私は愛を曖昧にしか知らないから、与えてあげることもできない。だから、ずっと一緒にいるのは怖くて……」

「言ってる事とやっている事がちぐはぐなのが、お主らしいのう」

「ねえ伏儀。私はどうすればいいの?」

 しおらしい太上老君はまるで幼子のように身体を丸める。幾千、幾万の事象を見てきても、いざ自分の事になるとわからない。否、幾千、幾万の成功と失敗を見てきたからこそ、自分がどうすれば良いかわからないのだろう。

「そうじゃのう。…………良いことを教えてやろう。まずは悪いことをしたら『ごめんなさい』だ」

 悪いと思えば謝ればいい。人は年を取り、頑なになっていくにつれ、この言葉を忘れてしまうらしいが、初心と言うものは大切だ。

「あと、わしが思うにはな、お主らは少し会話が足らぬのではないか? 理解し合えないから諦めるのではない。妥協点が見つかるまで、とことん話し合い、相対するのだ」

「うう。そういうのはちょっと……怖い」

「気持ちはわからんでもないが、天下の三大仙人がそんな弱腰でどうするのだ」

「人は変わってしまうもの。特にあの子は移り気なタイプだ。私などという変化のない老いぼれなんて、きっとすぐに飽きてしまうよ」

 その価値は伏儀には理解できない。その価値を決められるのは申公豹だけだからだ。毎日飽きずに通っていたのならば、彼はそこに価値を見出していたはずだ。そう考えると彼の苦労が少し可哀想にも思えた。
 しょうがない、少しばかり背中を押そう。

「では、こう言うしかあるまい。太上老君。進化せよ。変化せよ。恐れながらも前に進め。少しずつでもいい。好きになるのも嫌いになるのもお主の自由だ。それが待てぬほど、あの男は矮小でも短気でもないぞ」

 寧ろ、この状態の太上老君を相手に、まだ手を出していないというのが伏儀には不思議なほどだ。手に入れようと思えばいつだって手が届く。迫っても、おそらく拒まれはしないだろう。
 その距離にいながら彼は耐えている。それほどに老子が大切で、譲れぬ挟持があるのだろう。きっと彼は待っているのだ。老子から手を伸ばしてくれる、その瞬間を。

「焦ることでもないのではないか。停滞せぬのであれば、それで良い。何故なら、我らに時間は山程あるからのう」

「あの子は待っていてくれるかな」

「必ずな」

 『必ず』や『絶対』という言葉を多用するのはあまり好きではない。しかし、伏儀にはこの言葉が今は必要であり、そして間違いでないと信じている。後で釘でも刺しに行くか、と思いながら、欠伸を一つ噛み殺した。
 元より夢の中なのだから、肉体は寝ているわけなのだが、それはそれだ。寝るのが趣味というのは伏儀とて同じだ。

「眠いの? 私も隣にいっていい?」

「別に良いが、あやつには言うなよ。蹴られたくはないからのう」

「ありがとう。少し……考えてみるよ。自分について考えるのは、そんなに得意じゃないのだけれど」

 のそのそと這いながら隣に老子が来る。
 太公望と王天君だけで構成されていた伏儀であれば話は別だが、王奕としての記憶も持つ伏儀としては、彼はかけがえのないかつての同胞であり、同志であり、そして息子のようなものだ。仙人として完成される前から彼を見てきた。
 彼にしかできなかった事とは云え、孤独に苛まれながら自らの心を壊し、夢を通して敵の間者で在り続けて来た太上老君を無碍に扱う事はできなかった。
 あの役割は必要だったし、そこにかかる精神への負担は理解していた。それを承知してここまで来たのだ。そうして全てが終わった。
 だが、もう既に人に戻してやることもできない。壊したものは簡単に治らぬものだ。後は少しでも癒しがあればと願うのみだ。

「お主はまだ生きておる。ならば考えよ。そもそもお主の中には多くの『解』があるだろう。なに、その中で一番気に入るものを選び出せば良い」

「……うん」

 夢の中で横になる老子を傍目で見ながら、青い空を見上げる。夢の空間。現実ではない空ではあるが、今このひととき、老子の心が静まればいいと伏儀は願った。
 頼むぞ、申公豹。そう心の中で呟く。呟いた後に、師の事を弟子に任せるという構図がどこかおかしくて、少しだけ笑ってしまった。









「と、言うわけで老子と会ってきたのだが」

 突然、視界の前に黒い空間が現れたと思ったら、にょきりと這い出てきたのは伏儀だった。寸のところで黒点虎が止まる。

「うわぁ、びっくりしたー!!!」

「はあぁぁ!?! 伏儀!? あなたちょっと現れ方がいきなりすぎるんですよ!! いくら次元を移動できるからって目の前に逆さまから現れないでいただけますか!? しかも老子と逢瀬してきたですって!? 良いでしょう、武器を取りなさい!!!」

 ここまで一気だ。言葉通りに空気が帯電し始めるが、伏儀は小手先ひとつで傍から直ぐに放電させる。老子の事になると一気に沸点が上がるのだろう。それが今はなぜか、少し嬉しくもある。

「チッ」

「冷たいやら熱いやら……。まあ、おおよそ予想通りの反応だが、今日は戦いに来たわけではないのだ、申公豹よ」

 どおどお、と宥められて、申公豹は掴んでいた雷公鞭から手を離す。戦う気があるにしてもないにしても、太極図を持っている伏儀が話をしにきたからには戦闘はできない。無効化されるのがオチだからだ。
 申公豹は相手の言い分くらいは聞いてやろうと一呼吸置く。気に入らなければ肉弾戦のデスマッチに切り替えればいいだけだ。

「で、あの森を抜けて来たんですか? あそこの扉にかけた術が破られれば私にはわかるはずなのですが」

「いや、夢の中でだ。……って、お主のそれは過保護なのか嫉妬深いのかどっちなのだ」

「どっちもです!!!」

 声高らからにドヤ顔で申公豹は豪語する。
 正直、伏儀は引いたが、あの交流を不得手とする老子を相手にしているのだ。さぞ気苦労は多い事だろうと、多少のことは目を瞑ることにし、一つ咳払いをした。

「言っておくが、老子の方が弱音を吐くためにわしの夢にやって来たのだ、断じてわしは悪くないぞ。そもそもせっかく報告に来てやったのに……そのような嫉妬に燃えた目線を向けられるのであれば、わしは即刻帰るとする」

「な、なんですって!? ちょちょちょっとお待ちなさい!! 何帰ろうとしているのですか!!! 知ってることを全て話してからにしてください!!!」

 くるりと身を反転させ、空間に引き返そうとしたところを無理矢理に服を掴まれ引き戻される。

「しょうがないのー」

 暫く二人と一匹でもだもだしていたのだが、その執着心に折れて伏儀は佇まいを直した。まあ、ちょっとした前座。お決まりのスキンシップのようなものだ。元々パフォーマンスではあったし、こうも引き止められると悪い気はしない。

「あやつがな、お主に対して怒ったことを後悔しておったのだ」

 宙にくるくると浮きながら、伏儀は思い返しながら語る。

「怒ったこと??」

「え、老子って怒ることあるの?」

「覚えておらぬのか?」

 黒点虎の素朴な疑問も無視して話は続く。申公豹が一瞬で思い返せないと言うことは、老子の取り越し苦労である可能性が高い。

「あ! ああ、もしかして、毎日通っていたら怒られた件ですか」

 記憶からそれらしきものを発掘したのか、手をポンと打ちながら申公豹がひらめく。

「それじゃそれ。実際のところ、お主はどう思ったのだ」

「それはもうめちゃくちゃ怖かったです」

「で、あろうな。他には?」

 率直な感想に思わず哀れみを感じる。伏儀も太公望であった頃に怒られて、夢から強制退出させられたが、あんなものと比べ物にならないだろう。最強を名乗る仙人が怒られて怖がるはずがない、なんてことはない。いつになっても弟子を叱る本気の師とは怖いものなのだ。

「怒られるのも道理だと思い、素直に謝りましたよ? 我が師の仰る事は理にかなっています。眠るのが趣味と言われましたら、私とて配慮しますとも。その後、特に何事もなかったので、その件は終わったものだと思っていたのですが……」

 話が終わっているではないか。怒られた当の本人は全て受諾し、既に配慮している。
 おそらく、老子は話が終わった後々になって、思い返して自己嫌悪でもしたのだろう。

「うぬぬ。面倒くさい性格だのう」

 思わず本音が零れてしまった。

「私の悪口ですか、それとも老子の悪口ですか。後者なら許しませんよ」

「これこれ、雷公鞭を取り出すでない」

 久々に会った申公豹はすっかり老子贔屓で、とてもじゃないが出る幕などなさそうだ。仲介どころか馬に蹴られる役なのではないかと邪推する。
 しかし、あれだけ凹んでいた老子を見た手前、何も告げずに帰るのも気が引けた。何とかしてやりたい気持ちがないわけではないのだ。

「良いか、申公豹。寝るのが趣味というのは、あながち間違いでもないが、どちらかと言えば方便だ。真意は別にある」

「……ほう」

「だがな、この場合は太上老君に合わせてやるのがわしは良いと思う」

「言われなくともそのつもりです」

「うむ。期待しておる」

「何なんですか、その上から目線。ちょっとイラっとするんですけど」

 老子は「自分が飽きられたらどうしよう」等と悩んでいたが、この申公豹の様子を見ると、暫くは問題ないような気がしてくる。生きてきた年月を鑑みると遅すぎるであろうが、彼らにとってはようやく平和な時代に迎えられた春なのだ。

「カカカ、そう怒るでない。こう見えてわしは老子の味方なのだからな。あやつか悲しむ未来は見たくはない。お主もそうであろう?」

「当然でしょう」

「ならば、わしはお主の味方でもある。何かあれば相談くらいになら乗ってやるぞ」

「……私、一応まだあなたへのライバル宣言は取り下げてないんですけど?」

「好きに秤にかけるが良い」

「勿論、老子が優先です」

 その答えに、自然と笑みが深くなる。本当に、どうやら暫く心配はなさそうだ。自分より優先させるべきものができた。これまでの申公豹には考えられなかったことだ。

「お主は太上老君の事がいっとう大切なのだな。既に聞いたかもしれぬが、あやつの生き様は長命の真仙であっても、心は幼い。否、一度壊れてしまった弊害とも言うのか……。だが見てきた事象は普通の仙人より遥かに多い。賢く聡いが、時に緩慢で思考を放棄する。とにかく、焦りは禁物じゃ」

 今回の件は思考を放棄したからこそ、時間が経つに連れて自己嫌悪したのだ。だが、人とはそういうものだ。

「わかっています」

「それと、これだけあやつがお主の事を気にしておったのだ、希望は捨てるでないぞ。あやつは長く生き過ぎた、そして自分に魅力がないものだと思いこんでおる。そしていつか、自分に飽きたそなたが自分の前からいなくなるのが怖いと嘆いておった」

「そんなこと、あるわけがないでしょう」

「わしも、そうならないように祈っておる。大事な盟友だからのう。……ではわしは往く。力添えは出来ぬが、相談事くらいなら気軽にすると良い」

 突如、黒い亜空間がぱかりと開き、そこに伏儀がぬるりと入っていく。

「え、もう行くのですか?」

「わしも忙しい身でな。ではな」

 最後に手をひらひらと振って、その黒い靄はあっさりと消えた。

「なんか、突然出てきてすぐ帰ったね。嵐みたい」

 退場が唐突で早すぎて、追いかける気すら起きなかったのだが、どうやら敵ではないらしいと判断した申公豹は息を吐いた。知らぬ間に緊張していたらしい。
 今や伏儀は師にも負けず劣らずの神に近い仙人の一人だろう。元々太公望にライバル宣言していたとは言え、若干分が悪い感じもする。
 まあ、あんなに面白い存在を封神する気はないのだが。
 ひとつだけ大きなミスが残されている事に気がついて、申公豹は黒点虎の頭を撫でながら呟いた。

「相談に乗ると言われましたが、どうやってあの人を呼べば良いのか、私、知らないんですけど」

「ぼくも……」

「ですよね」

 適当に呼べば出てくるのだろうか。なんたって相手はあの伏儀だ。
 とりあえずは現状維持、次はどんなハッピーサプライズを老子に送ろうか、まずはのんびり考える事にした。







今回はいきなり出てくる助っ人マン伏儀氏による仲介……というか喧嘩収めに見えて
実のところ「こいつら惚気けてるだけじゃないのか」案件話でした。

私は書いててそこそこ楽しいのですが、前の話は反応がさっぱりなかったし
そろそろマンネリが過ぎてきたのかな~なんて思いつつ。
いきなり芸風は変わりません!!!

そして彼らがいつ進展するのかどうか、本当に自分でもわからなくなってきたw
イデアの神よりまた天啓を得ましたら(つまりネタを思いついたら)続きを書くことにします。

ちなみに支部の方は悲観的になって一時非公開にしてあったので、普通に文字追加だけしてきましたwww
面白がって貰えるといいなぁ……はぁ……。



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