【登場する人】
ナタク、太乙、玉鼎
【CP】
ナタ乙
【備考】
いつものナタ乙に玉鼎をプラスしただけの小話。
玉乙に見えなくもないけどそういう意図はないです。
破壊音がつんざき、土埃が舞う。今日も今日とていつもの乾元山だ。
しかし、お決まりの茶番が繰り広げられるのかと思いきや、今日はいつもと違う客が来ていた。
漆黒の美しい長髪に、しなやかな筋肉のついた長身、白くたなびく衣が風に舞う。抜かれた刃はひとつの綻びもなく、降りかかる岩砕を音も無く真っ二つに切り裂いていた。
「これがお前の弟子か。聞いていた通りの荒々しさだな」
「あははは、いつもこんな感じでさあ。私よく生きてるよねー」
咄嗟に太乙を腕に抱いて庇っていたらしい。長身の彼には傷一つついておらず、涼しい顔で太乙と共に空中を浮いたまま漂っている。
「おまえ、誰だ?」
「こんにちは、ナタク。私は玉鼎真人。君の師と同じ、十二仙を務めている者だよ」
土埃の舞う中、落ち着いた挨拶にナタクの眼孔が鋭く光る。
「お前はこいつより強い匂いがする」
「そりゃあ、玉鼎は十二仙でも屈指の強さだからねえ。とりあえずおかえり、ナタク」
もとより戦闘を想定していない太乙と違って、玉鼎は日頃から鍛錬や修行を今も欠かさず行っている、生来の生真面目さの塊のような男だ。
ナタクがその強さに気がついたならば、気になるのは当然だろう。強い者と手合わせをしたくなる気性は根っからの武人とも言える。
絶対に戦いたがる。それが勝てぬ相手であろうともだ。また一悶着あるのかと考えると、太乙は思わずげんなりしてしまう。
しかし、ナタクは武器を下ろすと、淡々と告げた。
「だが今はお前に用はない。そいつを離してそこをどけ」
「ん? 珍しい事を言うね」
いつも戦い一直線のナタクが、他に優先させるべきものへの判断を行ったのだ。太乙は驚きながらも、ナタクの小さな成長を素直に喜んだ。
そんな太乙を視界に収めながらも、玉鼎は構えた剣を下ろさずに返答する。冷静沈着なのも彼の取り柄である。
「ふむ。私と太乙とは古い付き合いでな、今は任を解かれているが、かつては彼の身辺警護も担っていたのだよ」
「それがどうした」
「聞くところによると、君は太乙に危害を加えようとするそうではないか。私の目の黒いうちは太乙に傷一つつけることも許さぬつもりだ。覚えておくがいい」
どちらも声を荒げていないが、緊張感を感じる二人のやり取りに、太乙は少し気後れする。変に拗れないと良いのだが。
「だ、大丈夫だよ玉鼎。今のところは殺されてないから」
弁明する太乙に、玉鼎は真顔で返して諭す。
「太乙、私は君に危害を加えようとする行為そのものがまず許せないのだよ。殺されていないというのは最低条件にすぎない」
「うっ、その通りだね……」
あっさりと言い負かされた太乙はぐうの音も出ない。身辺警護を担っていた頃の癖が出すぎなのではないだろうかと思いつつも、一瞬の油断で命を落としかねないナタクとのドタバタ九死一生生活を思い返すと言い訳すら見つからなかった。
玉鼎はナタクへと向き直ると、剣を構え直す。
「わかったかね。君が太乙を傷つけようと思う限り、私は彼の隣にいることになる」
玉鼎と太乙の様子を黙って見ていたナタクは、もう少しだけ沈黙を続けると、考えがまとまったのか、スッと地に降りた。
「わかった」
「え!? どういうこと?」
「俺は今日はもう何もしない。だからお前、太乙から離れろ」
困惑する太乙を余所に、ナタクは真っ直ぐに玉鼎を睨みつけている。確かに攻撃する気配はない。
「ほう。いいだろう」
玉鼎は剣を下げると、太乙と共にゆっくり地に足を下ろした。太乙が安定して着地したのを確認すると、そっと腕を離して剣を鞘に納める。
「今日は随分聞き分けがいいね。どこか調子悪いところでもあるのかい?」
「ある」
「おやおや」
「だから早く直せ。戦っている場合じゃない」
ナタクは顔を背けながら、ぶっきらぼうに答えると、踵を返して金光洞へと向かう。
太乙は玉鼎を見上げると、申しわけなさそうに苦笑した。
「そんなわけだ。せっかく来て貰ってたのにすまないね、玉鼎」
「構わないさ、茶を飲んで雑談していただけとも言うだろうしな」
「ナタクは凶暴で聞き分けのないように見えて、ウソはつかない子だから、たぶんもう大丈夫。ありがとね」
「ああ、困った事があればいつでも呼ぶといい」
玉鼎が太乙の頭を優しく撫でる。もう随分と長い歳月を生きてきたが、少しだけ玉鼎が兄弟子なのは変わらず、大概にして甘やかされるのは太乙なのである。地位は同じになっても、その関係はあまり変わらなかった。
「楊戩くんにも宜しく伝えておいて」
「了解した」
「太乙!早くしろ!!!」
洞府へ戻ったナタクが大声で急かすのを背に、玉鼎が離れる。
「ではな」
「まったね~」
太乙も玉鼎に片腕を振って挨拶すると、小走りで洞府へと戻って行く。待つことは得意でないらしいナタクが、口数多めに太乙を急かしていて、玉鼎は思わず笑ってしまった。
そして真相に行き着く。答えは意外と簡単だった。
「そうか、嫉妬か」
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