登場人物:ジュダル、アラジン
CP傾向:ジュダアラ
33巻読了推奨。
付き合ってはいません!
ちょっとやましい方向に話が飛びます。
R15くらい。
「ちょっといいかな、ジュダルくん」
窓辺に腰掛けて月を見ていたジュダルに声がかかる。あまり聞き慣れたトーンではないが、その声はどこか懐かしく感じる。昔に比べると幾らか低くなったと思うが、まだ少年らしい高さを持っている。その声の持ち主を一度だけチラリと見やると、ジュダルはそっけなく答えた。
「何か用かよ」
「うん、そっちへ行っても?」
遠慮がちに聞かれて調子が狂う。
「べつに良いけど」
ふわふわと宙に浮いていたアラジンは見事な浮遊魔法で側に飛んでくる。そういや父親譲りで力魔法が得意なのだと思い出した。昔は空すら飛べないマギだったのに、いつしか支配していた空を奪われていたことに少しばかり嫉妬する。面白くない。
「こ、こんばんわ。良い夜だね」
そんなジュダルの感情に全く気付かないアラジンは、もじもじしながら当たり障りのない話をする。そう、昼間は気まずくては何も話せなかった。
が、アラジンは何か話したい事があるのだろう。空中でそわそわしたままだ。
それが鬱陶しくて、ジュダルはアラジンの腕を掴むと、勢いよく引っ張って地に落とした。
「わあぁっ!!!」
落としたと言っても窓の桟である。しかし、そう広くない箇所への意図しない着地は十分にバランスを崩させるもので、ジュダルがアラジンを抱えるかたちとなった。アラジンは不安定な足場で思わずジュダルにしがみつく。咄嗟にジュダルにぶつけまいとしていたアラジンの杖が内側へに落ちていった音がする。外側の片足が宙を浮いているのは見えなかったことにした。いい気味だ。
「ああああぶないじゃないか! いきなり力魔法への物理干渉はやめておくれよ!!」
抗議するアラジンに、涼しい顔でジュダルは答える。
「どうせ落ちても平気だろ~? 魔法もソロモンの知恵もあるんだからよ」
「そ、そうだけど、いきなりは困るよ!?」
もがもがしつつ、何とか体勢を立て直したアラジンは安堵のため息をつく。
「はー、ジュダルくんを潰してしまうところだった」
「潰れねーよ」
昔は上に乗られても平気だったろうに、それくらい小さかった彼の手足はここ数年ですらりと伸びた。少し重かったりもする。所謂、成長期を迎えたのだ。髪も随分長くなった。やはり魔法使いはそうではないと、とジュダルは漠然と思考する。
映像で見たことがある、かつての神と謂われたソロモンの姿にとてもよく似てきたように思う。身に着けている衣服も古き魔法使い達が好んでいたもので、その合間から脚が覗いていた。
「あのね、ジュダルくん。昼間は緊張してしまって、うまく言葉にできなかったけど。僕、ジュダルくんとお話ししたいことがいっぱいあって。ちゃんと言いたいことを整理してきたんだ。少しだけジュダルくんの時間を僕にくれないかい?」
対面に座わり、緊張した面持ちで懸命に訴えかけてくるアラジンを余所に、ジュダルはぼんやりと月明かりに照らされたその脚を見ていた。健康な色に焼けた肌とは対照的に、足首の金の輪がぴかぴかと光って見える。それが今のジュダルには、何故か蠱惑的に映った。
「ジュダルくん? あの、聞いてる?」
「あ???」
「って、ちょっと。ジュダルくん。何処さわってるんだい」
そして、気付けば脚に手が伸びていた。
「感覚あるからわかんだろ。脚」
「それはわかってるよ!? じゃなくて、なんで!?」
行動に深い意味はない。触りたいから触った。以上だ。
アラジンの脚は、魔法使いにしては程よく筋肉がついており、手の平からそれを感じ取る事ができた。浮遊魔法で空を浮かんでばかりでは筋力は衰えるはずだが、アラジンは自身を鍛えることを疎かにはしなかったらしい。
そのまま脚をなぞって、太股を撫でる。アラジンがくすぐったそうに身を捩るが気にしない。
「いや、成長したよなぁーって。……と、言うことはこっちも……」
あんなちんちくりんの子供が、こんなに成長するものなのだ。かつて自分もそうであったろうに。
アラジンが逃げないのをいいことに、ジュダルが服の下をまさぐる。何となく自分より成長していたら癪なので、調べておいてやろう、くらいの心積もりだったのだが、身悶えるアラジンを見ていると、何となく加虐心が満たされる気がする。
「ひやっ! ちょ、ちょっと、やめておくれよ!」
「いいだろ別に、減るもんじゃねえし」
触っている手をべしべしと叩かれるが、あまり痛くはない。
怒り方を見ていると、手足が伸びて成長しようがしまいが、アラジンはアラジンなのだと何となく理解した。本気で怒らない限りあまり怖くない。
「減る減らないじゃなくてだね!?……うう……変な、気分になるからやなんだよお……」
「本気で嫌なら俺の事なんて吹き飛ばせるだろ?」
と言いつつ、体を密着させて吹き飛ばせないようにはする。まだ体格と魔法なしの腕力では負けていないようだ。簡単にアラジンを腕の中に収めることができる。
「ああ、もう! ジュダルくんって、ほんとイジワルなまま、かわらないね!?」
「今更だろ~?」
ニヤニヤ笑いながら言い返すと、アラジンは昔ながらにむくれて怒る。思い返せば記憶上のアラジンは大体怒っていたりする事が多い。つまりこれは異常じゃなく正常だ。
「僕はジュダルくんとお話しがしたくて来たんだよ! 変なことしてはぐらかさないでおくれよ!」
「へーへー」
とりあえず、面白がりつつ、撫でていた手はおろす。アラジンはホッとすると、視線を合わせないままぽそぽそと喋りだす。
「僕は君を傷つけつけてしまった後、死ぬほど後悔したんだ。僕も、白龍くんも」
「お前らちょっと真面目すぎんじゃねえの? 敵は敵だろ」
あの時は敵だった。だから本気で戦った。目的のためにジュダルは手を抜くと言うことをしたくないし、それが正しいことだと信じている。
しかし、自分を宇宙に投げ飛ばして消そうとしたアラジンも、アリババの魂を異世界に送って殺した白龍も、強い自責の念に駆られているようだ。あのアリババも、白龍の足を切った事を深く後悔していた。おおよそジュダルには信じられない事なのだが、自分が選んだ王もそうなのだから、皆真面目すぎるのだという判断を下した。
その想いを特段慮るわけではないのだが、そういう感情があって、自分に都合よく働くならまあいいか、とジュダルは適当に考え、そして再び手を動かした。
「だから、僕はもう二度と君を傷つけたりしたくないんだ……って、聞いてる? ねえ、聞いてる!?」
「あー? 聞いてる聞いてる」
別に聞いていないわけではないが、あまりジュダルには関心がない。あのアラジンが、自分にものすごく申し訳無さそうな顔をするのは、悪くない。寧ろ気分がいい。だがしかし、今現在の関心事は則ち、アラジンへのセクハラであった。
「聞いてないねジュダルくん!? さっきから僕の体をべたべた触ってばっかり!! 何なのさ!!」
「お。勃ってきた」
「っっって、ばかーーーー!!!!! ジュダルくんのばかーーーーっっっ!!!!! どうしてくれるんだい!?」
赤面しながらジュダルから離れようとするアラジンの両腕を掴んで押さえ込むと、ジュダルはにっこりと笑う。楽しいオモチャを見つけた時の顔だ。
「見ろよアラジン、服の上からでも勃ってるのがわかるぜ!? イエー!」
「ひどいよ! さいてーだよ! まったくイエーじゃないよ! 恥ずかしいから離してよー!!」
ごんごんと頭を叩くアラジンの手を取ると、わざとらしく手の甲に口付ける。これくらい、落としたい町娘になら普通にやる行為なのだが、当のアラジンは困惑した顔のまま真っ赤になっていく。幼い頃はあんなに女とべたべたして浮かれていたのに、目の前のアラジンはそんな過去はなかったかのように今は清浄に見えた。
ある程度、男の体に成長したのだ、少しくらい手を出したって怒られないだろう。
「まあまあ、そう言うなって。責任、俺がとってやろうか?」
「え???」
「自分で処理できねえんだろ?」
笑み曲ぐ悪魔に捕らわれた賢者の子は、そこでやっと一つ悟る。とても逃げるのが困難であり、尚且つ己は武器を落としてしまっている事に。
煌帝国の空に驚愕の悲鳴があがる。しかし、駆けつけてくるものは誰もいなかった。
色々と終わったベッドの中。不貞腐れたアラジンと、すっかり興味を無くしてだらけるジュダルがいた。
「あのね、ジュダルくん。僕もいい歳なんだから、自分でその……どうこうくらいはできるんだよ」
「ふ~ん」
それなりに抵抗もしたと思うが、すっかり良いように手の上で転がされてしまったアラジンは、己の無知を痛感する。いやいや、これまでにそんな色欲にうつつを抜かしているほど暇ではなかったのだ。しょうがない。
「こんなの、ジュダルくんが僕を恥ずかしい目にあわせて楽しみたかっただけじゃないか! 僕はジュダルくんとお話ししたかっただけなのに、全部どこかへ飛んでいってしまったよ」
「べっつにいいだろ~、それに最後までヤってねえじゃん?」
確かに。確かに途中でジュダルは手を止めてくれた。性行為的には最後までやってないという状態なのだろう。だからと言って、腑に落ちるわけではない。貞操観念を説くほど娘のつもりではないが、ジュダルの気分で手を出されていたら心臓が保たない。
「そういう問題じゃないよ」
アラジンはため息をつきながら杖を引き寄せると、重たい体に叱咤して杖を掲げる。瞬く間に開いた亜空間に体を寄せる。帰るところは近くの部屋なのだが、今は飛んで帰るのすら億劫だった。
「最後までシたくなったら、また夜に来いよな」
そんなアラジンに、ジュダルはニヤリと笑いかける。
「ジュダルくんのばか!!!」
二度と来ることなんかない。と思うのに、それは声に出なかった。
いつだってジュダルに対しては怒ってばかりいる。考え方も立場も正反対のマギ。それなのに遠ざける事ができない。手を振り払う事もできなかった。
結局のところ、どこまで行っても嫌いになれないのだ。殺し合っても、後悔するほどに。
アラジンは歯がゆい想いのもと、何も言わず空間を閉じた。
さて、落ち着いて話し合いができるのは、いつのことになるだろうか。
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