注意:元気封神というサ終したソシャゲの二次創作です! 詳しくはこちら
【登場する人】
燭竜、太上老君、太上魔君
【CP】
燭老
【備考】
相変わらず燭竜と老子が喋ってるだけの短いお話です。
原作からして死ネタなんですが、魔君を出したのは初めてです。
「この状況で笑って対局したいだなんて、本当に君は変わっているね」
パチ、と音を立てながら碁石を置いて燭竜は呆れなが呟いた。
つい数年前、不意を打って彼の力を根こそぎ奪った。その後も続けて、彼の力が回復するたびに奪い続けている。
彼の偽物を作り、彼の代わりに人界や仙界に出しているから、本物の彼が最早自分の手に堕ちたことなど誰も知らない。
それなのに、いつも彼は笑っていた。まるでこうなるかと予見していたように。
「そうじゃのう。わしとて手は打ってある……そなたがそうしたようにな。だから例え、わしが死んでも後を信じる事ができる。ならば余生を楽しんだ方が良かろう?」
少し考えた後、喋りながら太上老君も碁石を打つ。いつもながら守備によった打ち方だが、これはこれで彼は好きだった。
「まぁ、付き合ってる僕も僕だけどね」
本当は失いたくないだなんて、どの口で言えるというのだろう。でも力を奪い続けなければ、彼の力は強すぎて危うくなってしまう。致し方のない処置なのだ。
光り輝く彼の仙氣は、衰えることなく今も一定に放たれている。
「燭竜よ。そなたも長い時間を生きてきた神じゃ。そう悪くない人生であったと思わぬか?」
「何それ、ここにずっと封印されている人生なのに?」
切り崩すように攻めの一手を切り込む。
確かに、自分の思うようにいかず癇癪を起こすこともあった。この世界を出て、自分のやりたいことをやる。そうやってここまで来た。全ては自分のためなのだ。
自分が自分であるために、自分で自分を肯定させて、自分が自分で在り続ける。それで邪神と呼ばれようとも、その生き方こそ自分の本望だ。呼びたければ好きにするが良い。そう思っていた。
「そなたは自分が本当に悪だと思っておるか?」
「誰から見てもそうでしょ」
切り崩され、明らかに勝敗が見えつつあっても、彼は健気に防戦を続ける。
「わしには、そうは思えぬ」
「ここまでされて、よく言えるよ。君のお人好しももはや病的だね」
「わしとて、誰しもそう見えるわけではないよ」
「はい、これで僕の勝ち」
パチン、と強く碁石を置いて、対局を終わらせる。碁盤をまじまじと見た太上老君は、すぐに困ったように笑った。
「わしの負けじゃな、燭竜は強いのう」
「君が弱いの。ってか本気で勝とうって思ってないでしょ」
「防戦の末に勝つ事もあるのじゃよ」
「ふぅん」
負けても太上老君は決して不貞腐れる事はない。純粋に対局してくれた事を喜んでいるのだ。
「のう、燭竜よ。先の話じゃがな……。そなたはこの世界の嫌なところがたくさん見えてしまうのじゃろう。だが、この世界はそれだけではなく、優しくて美しいところもある。わしはそなたに、それも見て欲しいのじゃ」
「そりゃだって、僕は邪神だからね。そういう負の感情の方が拾いやすくできているのさ」
話しながら、彼が碁盤の上の石を白と黒にわけて片付けを始める中、燭竜は黒い碁石を数個、手で転がして遊ぶ。
「だからじゃ。わしの力を得た今ならば、少し優しくなれるのでないかとな」
「そんなこと……あるわけ……ないでしょ」
本当にそうだろうか。と自分に問いかける。
何故なら、ここに閉じ込められた頃の自分はもっと剣呑としていた。荒れていたとも言えるだろう。それこそ世界の全てを呪いそうな勢いで、邪悪に染まっていた。それが何だ。今じゃ呑気に碁を打っている。
優しくなった自覚などない。暴れても無駄だと悟っただけだ。自分は邪神で、今もこの世界が本当は汚いということを見せつけたいがために動いている。
でも、目の前にいる美しい生き物だけは認めざるを得なかった。
とても、とても優しい方法で閉じ込めた慈しみの神。縛り付けることもなく、痛めつけることもなく。ずっと、ずっとただ傍に居た三清の末の子。癒やしの太上老君。
無視しても話しかけつづけ、何かと世話を焼いてきた。閉じ込めておけばいいはずなのに、そんなことは一切せず。普通の住居に普通の家、普通のご飯。たまに食べる人のご飯。神にはどれも必要がないのに、ましてや一緒にいる必要もないのに、時間があれば彼はここに来た。
ほだされたつもりなどない。けれど……
「君も連れて行く。それで、教えてあげるよ。この世界がどれだけ残酷で醜いかって」
「無理じゃ、わしはここで死ぬしかなかろう」
あっさりと否定されて、思わず奥歯を噛んだ。最後までこの美しい慈愛の神を汚すこともできずに、ただ喪うしかないのだ。ほら、やっぱり残酷じゃないか。
だがこれは、つまり敗北なのだ。美しいものを消して世界が汚いと言うのなら、それは即ち『美しかったものがいた事を認めていた』ということなのだ。
「ここにいては、そなたは美しいものが見れぬ。そうじゃろう? だからわしは、そなたをここから出す。だからこの世界を再び歩むそなたに、ちゃんと正しく公平な目で見れるように、諭し続けて来たのじゃ。この世には汚いものもある。だが美しいものもある。そのどちらもあって、はじめてこの世界なのじゃ」
「僕には美しいものなんて見えないさ」
否、本当は見えている。とっくの昔に見えている。それでもなお、邪神は邪神だっただけだ。
「いいや、見えるはずじゃ。そなたは邪神である前に、一人の賢き神じゃ。わしが醜いものも理解するように、そなたにもできるはずじゃ。もし本当に見えなければ世は滅びるであろう……しかし、そうはならぬ」
そう彼は断言し、すっとか細い手が伸びる。碁石を片付けるから渡せということなのだろう。
とっくに興味を失っていた碁石をその手にコロンと乗せてやると、太上老君はその碁石をさぞ大切そうに、丁寧に布で磨きはじめた。
「僕の計画のこと、何も知らないくせに」
「ふふふ、おおよそ検討はついておる。これでも神仙ぞ」
「それでも、止められないでしょ?」
「わしには、のう。だが美しいのは、優しいのはわしだけではない。世に溢れておる」
そう、彼には止められないだけ。
何故なら、彼の死が計画の前提だからだ。
ああ、これは呪いだ。美しきこの神を殺す代償として。最も手に入れたかったそれを永遠に喪って。自分は世界の美しさ知る。悲しみと切なさで彩られた呪いだ。
どうして、こうなってしまったのだろう。
愛するものを失って、絶望に染まれたら良かっただろうに、彼はそれすらも許さないのだ。
「燭竜よ。わしは、そなたを愛しておった。だから、生きておくれ。わしがみれなかった世界を見て、わしが歩めなかった世界を歩き、そして感じておくれ」
汚くも美しくて、残酷なのに悲しいほど優しさを抱く、この世界を。
何かを思い出していた燭竜が、ふと足を止める。行く先の荒野に、小さな双葉が芽を出していた。後ろをついてきていた太上魔君が背中にぶつかって少しよろける。
「どウ しタの?」
朝日を浴びて、懸命に伸びようとしているそれを、そっと避けて歩く。
あの時の言葉が今になって抉るように胸に刺さる。
「なんでもない。なぁ、魔君よ」
「なぁに?」
「この世界は綺麗に見えるか?」
「ん? ……わか……ラない……けど、燭竜がいルから。シアワセ。だかラ、きっと、キレイ、だヨ!」
まだ覚えたての言葉と笑顔で、ぎこちなく微笑む太上魔君を思わず抱きしめる。
呪いは消えない。だが、この太上魔君に美しいものをたくさん見せて、ずっと共に歩んでいけば、いつかきっと……きっと、また、彼に会えないだろうか。
ああ、この世界は残酷なれども、悲しいまでに美しく、そしてそれは真実だった。
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