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幻世にて、深愛を囁くは(エメトセルク×ヒュトロダエウス)

登場人物:エメトセルク ヒュトロダエウス

CP傾向:エメヒュ

制作時期:2022年1月


※暁月のフィナーレのネタバレを含みます。

勢いで書いてしまったエメヒュ『幽冥より、真実を求むるは』の続き。
それなりにシリアスだけど、私にしてはかなりイチャイチャしている!?
捏造・妄想・大暴走の続きなので、前作がOKだった方はどうぞ









「それで、だ。ここはどこなんだ?」

 立ち上がり、落ち着き改めて周囲を見渡すと、やはりそこは見たこともない空間だった。
 何も見えない真っ青の空間に、よくよく見れば実際には太陽かもわからない光源がある。髪や服をふわふわと揺らす風は清涼に思えるが、それは風ではないような気もした。

「そういえば言ってなかったっけ」

「気分が悪くなってそれどころではなかったのでな」

 そもそも『死ねば星海に還る』という事は知っているが、実際に見た者は誰もいない。当たり前の話だ。あくまで観測したらエーテルが星の循環に還ったからそう言われているに過ぎない。
 悪霊として世に残るものは、あくまでエーテルに還っていない状態である。ならば、そのような状態でないのにその星の循環から外れた者はどうなるのか。更に誰も預かり知らぬ話だろう。ここは未知の世界だ。
 だから悔しいことこの上ないが、こうやって死後の先輩としてヒュトロダエウスに問うていうのだ。

「ここはね、エーテルが循環する星海でいう……まぁ、駅のようなものかな? ワタシたちみたいに循環から外れた者が集う場所だよ。例えばあそこを漂っている女性のエーテル……おそらく伴侶の魂と一緒に星海に還りたいという願いが強かったんだろうね。相手をここで待っているんだ」

 エーテルの方の眼に切り替えて視ると、確かにここにはエーテルだけの存在がたくさん在た。それが自由に飛びまわり、風のような現象が起こっているのだ。動いたり飛び回るエーテルもあれば、じっと留まるエーテルもある。祈るように膝をついているものもおり、歩くような速度でウロウロしているものまで様々だ。

「他にも、親より先に亡くなってしまって、心配で待っている人とか。今ひとつ星海に還りづらい事情がある場合はここに留まるらしい。誰がどのように判断しているかは分からないんだけどね」

 要はワタシたちと一緒さ、と飛び回る子供のようなエーテルを彼は優しげな眼差しで追いかける。

「ワタシも最初ここに来たんだけど、そこで気づいたんだ。ここだけは存在を強固に保てば実体が持てるって」

「そういえば、他の者はエーテル体のままだが、私達は先程から触れ合えているな」

 本来、希薄なエーテル体ならば、ぼんやりと。あの風のように見えず、宙に浮いているような存在のはずだ。エーテルを視る眼も使えないはずなのだ。

「ワタシたちは互いの存在証明が強固なのもあるけど、ここはあくまで再会のための場だからね。ここから出たらワタシたちも同じようなエーテル体に戻るさ。まぁ、ちょっとしたオマケってやつかな?」

「おまけ……か」

 そう言われてみるとそうなのかもしれない。逆に言えば、生きている時の延長線のように思えたので、ここがただの死後の世界だと思ったのだ。最初からエーテル体であれば、なんとなく勘付いただろう。 

「あとここに来ればエーテルの回復も早いんだ。なんたって根源が循環している隣だからね。ワタシみたいにか弱いエーテル体だと、下手すると魔法を使う人の近くに居たらエーテル変換のために吸収されてしまったりしてさ。消えはしないけどヒドイ目に遭うから、出た後はエーテルを吸収するものには気をつけないといけないかな」

「なるほどな。肝に銘じておこう」

 エーテルで満ち溢れているアーテリスは、魔法を使える者や吸収する装置も多い。それは昔も今も変わらず、故にエーテルの結晶であるクリスタルや青燐水なんかも多く採れるのだ。

「ふっふっふ、先に死んだワタシ、すっごく役に立つでしょ~! 何でも聞いて、知ってることは教えてあげちゃおう」

 ふふん、と得意げに鼻を高くするヒュトロダエウスを見ながら、なんとなく過去を思い出す。互いに嗜む分野が少し違ったこともあり、よくこうやって議論や雑談に華を咲かせたものだ。主に仕切っているのはいつも彼やアゼムの方だったが。

「その態度に多少の苛立ちを感じるが、まぁ良かろう。では聞くが、私が死んでからどれくらい経つ?」

 純粋な疑問。それにより今後が変わる事だからだ。

「殆ど時間は経ってないよ。キミがかの英雄と別れてから一日も経ってない。死んで星海に流され、そこで異物と判断されてここに流れ着くまで、何時間もかかってないんだ。つまるところ暫くはそんなにやることはないね。かの英雄はおそらく、遠くない未来に仲間と共に原初世界に帰るだろうけど、まだその布石が揃っていないし、まだもう一悶着あるんじゃないかな。それまでワタシたちは様子を伺いつつ力を溜めておくのが妥当な案だね」

 英雄は無事に水晶公を助け出し、様々な想いを胸に抱きながら再びあの第一世界を動きまわる事になるだろう。本体は原初世界に留まっている他の暁のメンバーを置いていく選択肢などないはずだ。
 居眠りがてらエーテルを溜めつつ、ゆっくり旅路を見ていられると言う事になる。なかなかに悪くない。そして同時に湧いた疑問を口にする。

「ふむ、ここから世界は見えるのか?」

「あー、それは無理。あくまでここは星海の流れの途中にある特別な空間だから、入るのも結構コツがいるんだ。外からも中からも、強い意志がないと行き来できないよ。一度、下を見てみるといい」

「ほう……」

 促されるままに、切り立った端から下を覗くも、確かに同じような青がただ広がっているだけだった。本当に変な空間だ。

「ねえ、やっぱり少し無理してでもアゼムの魂を持つあの子の往く先を見に行きたいかい?」

 下を覗いているエメトセルクに、彼は心配そうに問う。 
 ここにいれば何も知ることはできないが、エーテル体が脅かされる事はない。閉鎖された安全地帯。ここでゆっくりと、二人で世界の行末を待つ事も不可能ではない。
 だからあえてヒュトロダエウスはその事を聞いた。
 エメトセルクは他のアシエンとは違い、かの英雄に対し、道を同じにしなくても知るべきであると判断し、アシエンやゾディアーク、ハイデリンが何であるかを根本的に教えるために敵の中へ赴いた。
 絶対的な自分の力への自信もあるだろうが、歩み寄るように敵中に飛び込むなど、かつて誰も選ばなかった道だ。
 しかし、彼を追いかけて第一世界へ赴き、微睡みながらそれらを見ていたヒュトロダエウスは思わずクスリと笑ってしまった。何万、何千年経とうが、なんて彼らしいのだと。公正公平。彼の生き方、在り方。曲げない矜持。例え永い時を生き性格が多少変われども、それはどこまでも彼が愛した男のままなのだ。

「当然だ。死に際に焚き付けて来た手前、見に行かなくてどうする。……まぁ、しかし、ここを出れば力を行使しづらくなりそうなのが面倒ではあるがな。アシエンとて死ねばただのエーテル体にすぎんか」

「そりゃだって、ワタシたちはエーテル体。いわば思念の残滓。悪く言えば害をなさないオバケだもの。それでも世界に介入できる力があるキミがすごいんであって、普通はできないよ。わかってる?」

 それはわかっているのだが。見ているだけというのが、些か面白くないのだ。
 そんなエメトセルクの不満に気づいているのか、ヒュトロダエウスは苦笑しながらゆっくりとその場に座る。そして彼にも隣に座るよう、隣をトントンと叩いて見せた。

「だからさ、もう少しだけここに居ようよ。まだ英雄は動かないはずさ。急いては事を仕損じる……ってね」

「やたらとここに居たがるな」

「だって……ここを出たら、ワタシはもうキミに触れられないもの。キミはどうか分からないけど……なんたって規格外だし」

 それを聞いて、渋々と隣に座る。確かに急ぐことは何もないのだ。なら、ここでできることを、できる限りするだけだろう。

「エーテル体でも傍にいることはできるから、話せるし、何もできないよりずっとマシだけど。やっぱり寂しいじゃない。キミの眉間に寄る皺をぐりぐりする事すらできないんだよ? それじゃつまらないから、少しだけでもキミとここにいたい。それだけさ」

 そういいながら、ヒュトロダエウスは「えいっ」と早速眉間を突いてくる。今更治るものか、鬱陶しい。

「しなくていい、そんな事の為に肉体を求めるな」

「体温を感じるって大事な事だと思うんだけどなぁ~。ほら、くっついてると温かいでしょ」

 ごそごそとヒュトロダエウスが移動して、体が布越しに重なる。確かに温かい。もう人の体ではないのに、泣きたくなるくらい懐かしく温かかった。
 そこでふと思い出す。この体温。この人物。彼と最期に会った、あの夜更けとそのぬくもりを。少しずつ、その記憶は鮮明になっていく。掠れるようになっていたものも、深く刻まれているなら消えはしないのだ。
 彼に乞われた後は大した会話もなく、ただ隣にいて、抱きしめていただけの最期の夜。
 あれ以降、誰かをあのように抱きしめた事はない。彼と似た容姿を求めた、ただ一人の皇妃も、子こそ成せど慈しむように抱きしめたいとは思わなかった。

「ふむ、ところで……だ」

「なんだい、急にあらたまって」

「お前が生贄になる最期の夜、私に告白したことを覚えているか?」

 前から隣に居るのが当たり前になりすぎて気づかなかった感情。愛するということ。今も、これからも、ずっと愛しているということ。それを彼から伝えられた夜だった。ただその言葉に返す言葉を持たなかった。
 故に後悔したのだ。亡くしてはじめて、本当に何が大切だったのか。何を守りたかったのかを知った。
 だが、ヒュトロダエウスはその話を掘り起こされるのはバツが悪いのかしどろもどろになる。

「あ~~~。うん、したねぇ。そんな記憶をまだ覚えていたのかい」

「流石にこれだけの時間を生きたのであれば、一体その想いが何なのか、考える時間が山ほどあったのではないか、と思ってな」

 愛にも色々なものがある。それこそ千差万別なのだと、この長すぎる時を生きて嫌というほど思い知った。同時に彼の愛は何だったのか、わからず終いで悔しかったのだ。

「え、えええ!? それ、ワタシが言わないといけないの!? キミの答えじゃなくてワタシ!? ワタシが先なの!?! ちょっと不条理じゃない!?」

「お前が先に言い出したのだ、当然ではないか? そうでないと私もどう答えていいかわからん。的外れな返答はしたくないのでな」

「いやいや、先に返事を貰うって選択肢だってあると思うんだけど? 私のことが好きか嫌いか、愛してるかどうか、ただの大切な友人かどうかだけでもさぁ……あるでしょ」

 早口に慌てふためくヒュトロダエウスを見て、エメトセルクはにやりと笑う。いつもひょうひょうとしている彼が狼狽する姿というのも珍しいのだ。少しくらい困らせたっていいだろう。
 だから、エメトセルクは片腕を優雅に掲げ、芝居がけたように問う。

「おや、言っていなかったか? これだけ長く生きてきたというのに、わからないというのか、嘆かわしい事だ」

「一言もいってないしわからないよ!? まぁ、キミのことだからちゃんと再会できたことには喜んでくれてるってわかるし、私は別にそれだけでもいいんだけど。ホントにワタシが言わなきゃダメなのかな!??」

 隣でゆらゆらしながら頭を抱えだした彼が面白くて、つい口元がにやついたままになってしまう。人はこの感情を優越感と言うのだろう。
 だが、あえて真面目な声音で一言告げた。芝居の芸当でもある。人をも騙す技を厭でも磨かざるを得なかった。それがたまたま外にでているだけなのだが。

「私はな。生きてきた中で、一番後悔した」

「はい???」

 芝居がけてはいるが、それだけは真実だ。

「お前を生贄として捧げ、失った事をだ。お前は忘れるなとあの時、私に言ったな。だが忘れたくても忘れることなどできなかった。それが真実だ。私はあの時、お前を無理矢理にでも伴侶として連れていけば良かったと後悔した。永い孤独のような時間も、お前となら苦もなく乗り越えただろうと、そう思った。時、既に遅かったがな」

 それは生前の関係と何ら変わらなかったかもしれない。けれど、娶った皇妃よりもやはり愛したいと思ったのは彼で、抱きしめたいと思ったのもやはり彼だ。いくら姿や性格を近づけても全くの別人、違う魂なのだ。
 実際に人肌に触れるまでそれに気づかなかったというのだから、我ながら朴念仁であったと、エメトセルク本人も認めざるを得ない。
 隣でわあわあと転がっていたヒュトロダエウスが、その言葉を聞いてぴたりと止まる。

「え。じゃぁ、ワタシのこと……それなりには愛してくれてるってコト?」

 聞き間違いではないだろうか。そんな事は絶対に言ってくれない気がしたのに、その言葉はあまりにも甘い。

「あの時の私は愛の定義を知らなかっただけだ。これが愛でなくて何になる? お前は見なかったのか、私が創り上げた過去のアーモロートを模した建造物と擬似的な昔の者達を」

 海底に造られた模造の都市。過去を懐かしみ、かの災厄を事実であったと見せつけるための箱庭。誰も名を持たぬ昔の情景。ヒュトロダエウスもぼんやりと見ていた記憶はある。

「見たよ。うまくできてるなーって、流石はエメトセルクだな~って。……でも、きっと辛いんだなって思うと、胸が痛かったから。だからあんまり隅々までは見てないかな。外観だけワタシも楽しんで、あまり深入りしちゃまずいかと思ってこっちに来たから」

 だって、あれはエメトセルクの心の傷だ。癒えることができずに、ずっと疼き続けている傷跡だ。模造だとしても、あれは彼が造った箱庭。帰ることのできない昔の情景、トラウマ。そんなところにズカズカ入っていくほど、ヒュトロダエウスは無神経ではない。
 彼の最期の戦いは見ていたし、己は見なかったアーモロートが崩れ往く様も遠目に見た。けれど、ギリギリ平穏だった都市は見ていなかった。

「まるで私が負けるとわかっていたような言い方だな」

「そりゃぁ……あそこまで来て、未来と照らし合わせて、キミに勝てる要素が見つからないんだけど?」

 実際、ヒュトロダエウスが彼の転身を見たのはあれが初めてではない。本来なら他人に裸を晒すような赤裸々な行為と言われていたが、過去に何度か彼が転ずるところを見たことがある。それだけ心を許されていたと思うと嬉しくもあるが、転身ができなかった己にとっては羨望の的でもあった。
 これまで見てきた彼はおそらく本気を出していなかったのだろう。やはり、転身したエメトセルクは強く、そして畏れを抱くほどに美しかった。自分もあれほどの力があれば、彼と共に十四人委員会として未来を創れたかもしれないのにと、少しばかり感傷に耽る。
 けれど、未来を知った今、それすらもただの夢でしかないのだ。勝って欲しい、負けてほしくなんかないという気持ちと同時に、やっと会えるのだという感情がぶつかり合わさりぐちゃぐちゃになった。
 それでもなんとか見届けて、先んじてこっちに来たというわけだ。

「……それもそうか。見ていないのならいい。実はあのアーモロートにはな。お前だけは……特別に作ったのだ。お前の名を持つ残滓を一体な」

 そこで転がっていたヒュトロダエウスががばりと身を起こす。

「はい!? ナニソレずるい! 私も見たかったーー!!! ってことは何? キミってば独りでお人形さん遊びしてたの!?」

 詰め寄ってくるヒュトロダエウスを、エメトセルクが面倒くさそうに手を振って追い払う。

「馬鹿を云うな聞こえが悪い! 私は!! あくまで!!! 創造魔法で歴史的建造物を昔の人ごと生み出したに過ぎん。性格は私の記憶に準じてしまうが、私はお前の残滓とは一切関わっていない。己が作ったものに小言を言われたらイラっとして消しかねんのでな。あくまであの英雄を案内し、記憶や知識を与える上でお前の性格が適任だと思ったまでだ!」

「え~~!!! ちゃんと起きていれば良かったーー!!!! うわーん、エメトセルクのばか、いじわるー!!!」

「良いではないか、お前の自慢の性格と語りで、色々と伝えて欲しかった事を正確に伝えてくれたようだしな。あの英雄も本人ではないとは言え、アゼムや十四人委員会が何だったかくらいは知る権利があるだろう? だが私から語るのは癪だったのでな、使わせてもらったまでだ」

「そんな勝手に、人権侵害だよ~!!!」

「亡き者に人権も何もあるか。死人に口なしとも云うだろう」

 ゆさゆさと揺さぶられるが、エメトセルクの知ったことではない。当然ながら死んでいると思っていたし、エーテル体で見られるなら隅々まで見学しなかった方が悪いのだ。
 自分が逆の立場であれば、どのようになっているか細かくチェックしていた事だろう。

「あるよー!! まぁアゼムの事を伝えられたのならいいけどさぁ」

「まぁ、それほどにもお前のことは鮮明に記憶して覚えていたし、人形だとしても、お前がいないアーモロートなど耐えられなかったのだ。私の答えはこれでいいか?」

「えええ~~~…………うーん。なんかちょっと腑に落ちないけど、キミなりの好意だと思って受け取っておくよ」

 不満そうにしているが、答え自体は納得したらしく、ヒュトロダエウスは大人しく引き下がる。生前は本当に友と思われてるのかも怪しいくらいそっけなく扱われていたのだ。なんだかんだで隣に居ることを許されている事は感じていたが。優しい言葉など殆ど聞いた覚えがない。

「ふん、ならば次はお前だな」

「ずっる~い。めちゃくちゃずるい。エメトセルクってば、アシエンになって邪悪さが増したよね!? ずる賢くなったっていうか、悪い意味で人間味が出たっていうか」

「それで? 嫌いになったのか?」

「そういう所はもっとずるい……。なるわけないでしょ」

 それを知っていながら聞くのだ、確かに性格がいいとは言えない。

「でもさぁ、ワタシの事って言われても、何度考えても結局わからなかったんだよね」

「何だそれは」

「いや、ずっと考えてはいたんだよ? キミを遠くから見ながら」

 好き以外の気持ちなんて湧いてこなかった。その好きがどういう愛情なのか考えないわけではなかったが、いつも答えは浮かんでこないのだ。

「でもそもそも愛って何なのだろう。そんなに区別をつけなきゃいけないものかな。友達としては勿論愛しているし、家族のようにも愛してるよ。恋愛もあると思うけど、キミが結婚して子を成しても悔しいとか寂しいとかは全くなかったし、幸せになってくれて嬉しかった。そりゃ触れられたのが自分だったらもっと嬉しいだろうけど、キミがそういうの嫌がるなら別に求めたりしないしな~って。とにかく好きなものは好きなんだから、傍にいられて幸せなら、それで良くない? って思うんだけど。キミはどれがいい? もういっそキミが欲しい愛でいいよ。それにしよう、そうしよう」

 相変わらずペラペラと一人で喋り、問いかけ、そして自己完結する。昔ながらのいつものヒュトロダエウスだ。悩むのも束の間、エメトセルクに答を求める。互いに答えを打ち合っている有様は滑稽だと思いながらも、投げやりな空気を感じてエメトセルクは溜め息をついた。
 以前の……彼を喪う前の自分ならおそらくここで熟考したことだろう。
 だが、今の自分は十四人委員会として、アシエンとして、ソル帝として、永くを生き、様々な『新たなもの』を吸収してきたエメトセルクだ。欲がなければこんな永い永い時間を正気で生きてくるなど不可能だっただろう。
 高慢、貪欲、そのような我欲をちゃんと満たすことで精神を保ってきた側面も確かにある。

「言っておくが、私はかなり欲張りだぞ」

「へえ、じゃぁどれがいいか、あえて聞こうかな。キミが望むものはどれだい?」

 エメトセルクは不敵にニヤリと笑うと、大げさなまでに天に向け両手を広げた。

「当然、全部だ、全部。全て私が貰い受けよう!!!」

 そんな芝居がかったエメトセルクの発言に、ヒュトロダエウスは一瞬きょとんとした顔をするも、次の瞬間、口元を抑えて吹き出した。

「ぷっ……ははははは! ほんっと、ひどい欲張りだね! あははは、何それちょっと反則じゃない!? どれかって言ってるのに全部とか、無理矢理にも程があるし!!!」

「お前が言ったとおり、邪悪になったからな」

「しかもそれ理由にしちゃうの!? あっはははははは!!! こんなに笑ったらエーテル漏れすぎて溶けて消えちゃうよ。あ~、おっかしいのー!!! フフフ、かつてのキミを知る人が聞いたら全員漏れなく笑い死にモノだよ……ふっ、フフフ……ワタシも死ぬ……フフ……」

 ひとしきり笑い転げたヒュトロダエウスが落ち着くのを待ち、尊大なるソル帝の威風を漂わせるエメトセルクは尊大な態度で聞く。

「して、答えは?」

「ひゃ~、久々苦しいくらい笑ったよ。フフフ、わかったわかった、私の負けだよ。そもそも惚れた方が負けなんだろうけど。ワタシの全部、キミにあげるよ。もう出涸らしだけどね」

 ゾディアークと共に捕らわれて月にいる本体の、魂のほんの一部にすぎない上に、何もできない。ただ見届けるために配慮されただけの淡い存在だ。記憶もどんどん消えていくし、まともに長時間動くことすらできない。肉体さえない。正に出涸らしと呼ぶに相応しいだろう。
 だが、そんな事は関係ないのだ。

「何、私の栄養にはなるだろう。これからまだ、この灯火のようなエーテル体で動かねばならんのだからな」

「そうだね。ワタシもさ、キミと居られれば何も怖くないんだ。だから、いいよ。好きなだけ持っていくがいいさ」

 やっと、ここに来て想いが重なった。二人の結論はつまり、愛に名前などいらないという事だ。

「では……」

「と、待って? ここではダメ」

 当然のようにヒュトロダエウスの腰を引き寄せるエメトセルクに、当人がストップをかける。距離は縮まったが、彼の両手が行く手を塞ぐ。

「は??? しかしお前がここでしか体はないと」

 今の流れは愛を確かめるべくキスくらいする流れではないのか?
 そう不満げにエメトセルクは引き寄せた相手を見下ろすと、すっかり元の柔和でいまいち考えていることが掴めないいつもの姿に戻っているヒィトロダエウスと目が合う。
 ほら、こんな間近で目が合うではないか。

「そうだけど、こんな沢山のエーテル体が見てる中とか、彼らの記憶に残らないとしてもダメだよ。公然でやるのはだめ」

「私とて生前は男だったのだが?」

 流石にここまで来てお預けなのだろうか。というか、この機を逃したならば、いつ手を出せばいいのだ。

「ワタシもだよ? ほらほら、ぎゅってしてあげるからさぁ。そんな面白くないって顔しないでよ」

「据え膳か、もう後がないのだが」

「据えてないからだーめ。あとそんなコトしてたら、ワタシ最期まで保たないだろうしね。体まであげられないのは残念だけど、でも……それでもワタシの全てはキミのもだからさ、我慢してね」

 たぶん、理由は彼の脆さだ。それに気づいているからこそ静止をかけられる。ここで抱いて彼を散らすか、ただ傍にいるだけだが最期まで共に在るか。これはそういう選択肢なのだ。
 歯がゆい思いでエメトセルクは思いっきり舌打ちした。

「くそっ、こんな事なら早く気持ちに整理をつけておけば良かった」

「そう思ってるのは同じだよ。でもワタシたちはもう。言い訳が聞かない子供じゃないでしょ。悲しいけど、我慢しないと。その代わり、最期までちゃんと踏ん張ってキミの傍にいるからさ。キミが隣で歩く音、消え果てる時まで聴かせてよ。ね、ダーリン?」

 理由がわかると、いつもの笑顔がひどく儚く見えるのは何故だろうか。触れたい、混じりたい。そんな気持ちが彼にもないはずないのに。
 己から離れて、後ろ手を組みながら首を傾げてにこやかに笑ってみせる姿に、胸が軋んだ。

「気持ち悪い呼び方をするな」

 面白くなくてそっけなく返すも、もう無理に手を出す事はしないと誓う。そんなものがなくたって、今の奇跡と幸せを噛みしめることはできるのだから。

「キミだって気味悪いぐらい芝居がかったキザなセリフ言うくせに、ワタシはダメとかずるいじゃないか、これくらいはお返ししないと」

 そう言って、ヒュトロダエウスは片手を真っ直ぐ差し出す。それが何を意味するかくらいは、何となく察しがついた。

「さあ、そろそろ最期の冒険の旅に出ようか。かの英雄がどのようにしてワタシたちの元に来るのか、そして何を選び、世界をどう動かすのか、ワタシたちの還る星はどうなるのか。ほら、考えただけでドキドキの旅じゃない?」

 エメトセルクはその手をしっかり握り返すと、同時に青い空間が見える、足場の淵に立つ。

「それがキミと一緒に特等席で見られるなんて……ありがとうね、ハーデス。ワタシはそれ今、これ以上望むことはないくらいに幸せさ!」

「安い幸せだな……と、言いたいところだが。そうだな、私にとっても最高のおまけなのだろうな」

 同じ言葉は使わないが、気持ちは同じだった。そうだ、幸せなのだ。死んだ身なれど、本当に欲しかったものはここにある。後は世界の行末を見届けるだけだ。
 同時に宙へと躍り出る。落下とは違う不思議な浮遊感が身を包み、ただただ下へ落ちていく。過去に何があったかを思い出せども未来は依然、不透明で何も見えない。だが、手を繋いだ先には心強い友がいる。もう何も怖くはなかった。
 そして、いつものように彼が笑う。

「キミと」

「お前と」

「「居れば、この先も最高に幸せだ」」

















※ 以下どうしようもなかったおまけ部分です。



「落ちて死んだりとかはしないから安心してね。そもそも実体がないから重力で落ちるという概念そのものがないんだけど。まぁ星海が星の外側を周っているなら、当然あそこは天空の異空間にあるのさ。戻る時は浮上に力を使うから大変でさぁ」

 緩やかに落下を続けるヒュトロダエウスの髪と服が、隣でふわふわと揺れる。風圧で声が聞こえなくなる事もなく、まるで空を飛ぶように地上に向かって降りていく。
 はぐれないようにだろうか、繋いだ手は離さずにいるも、どんどん温かさが薄れていくのがわかった。
 そう、実体のないエーテル体に戻るのだ。

「ヒュトロダエウス」

「なぁに? もしかして、怖い? すぐに慣れるからだいじょう……」

 最後の発音が終わる前に、その口を口で塞いだ。驚いたように肩が跳ねるも、逃さないように力を込めた手で髪に手を差し込んで頭を固定する。合わせた口内は温かさを失いつつあるも、かろうじて歯や粘液を感じられた。
 最初で最後なのだ、これくらいは良いではないか。
 落ちながら、合わさって、重なり合いながら消えていく。例え感覚がなくなっても、ぬくもりを感じなくなっても、何度もエメトセルクは角度を変えて、その唇を貪った。




 地上に降り立つ頃にはヒュトロダエウスは完全に固まっていた。否、感覚がなくなるまではちゃんと呼応してくれてはいた。嫌ではなかったのだろう。
 しかし、それとこれと話は別なようで、エーテル体に戻った彼は地上にへたり込んだまま叫んだ。勿論エメトセルクにしか聞こえない。

「ずっる~~~~~~~~~~~い!!!!!!! え、何? そんなのアリ?!?」

「何がずるい。消えないならばあれくらいはしても良いだろうが。誰もみていなければ良いのだろう?」

「なにその俺様理論! ていうか、ワタシはもうキミに触れられないのに、もしかしてキミはワタシに触れるの!?」

「できるが、かなり力を使うな。今後は温存しておいた方が良いだろう」

「気づいてるなら途中でやめてよね!? 余計な事に力を使うだなんて……もう、めちゃくちゃ心臓に悪かったんだから~!」

 喚いているヒュトロダエウスに、あえて意地悪く聞いてやる。

「余計な事ではなかったんだがな……厭だったか?」

「そうは……言ってないけど」

 しどろもどろになるヒュトロダエウスに、エメトセルクはしてやったりという顔をして笑う。
 降り立ったのは不気味なほど鮮やかな紫の樹木が広がる大地。第一世界だ。散々気味悪がられていたが、この色の木々が存外嫌いでなかった事を思い出す。
 きっと彼がいたら、この樹木よりも綺麗に映える瞳で笑ってくれるのだろう。そんな事を夢見ていた事もある。
 座り込んだヒュトロダエウスに手を差し出すと、仕方がないというような溜め息をつきながらも手を握ろうと差し出してくれる。勿論、その手は空振りに終わるのだが、彼はそれを見て思い出したかのように笑うと、いつもの調子で立ち上がる。

「行こっか。……それとも、午睡にする? いい天気だ」

「バカを言うな。まずは状況確認だ。ついてこい」

「はいはい、仰せのとおりに……っと」

 さっさと歩き出すエメトセルクの横へ、追いかけて来たヒュトロダエウスがかつてのように隣に並ぶ。
 少し早足なエメトセルクの歩調に合わせて、いつもヒュトロダエウスが合わせていたが、その速度が今になって同じであることに気づいた。
 そう、昔とは違う。二人の想いが重なって、彼らは体もなしに新たな旅路へ繰り出すのだ。
 何にせよ終焉を迎える身に、何の躊躇もなく。ただそこには、掴むことのない幸せだけが漂っていた。


 彼らの終わりは、まだもう少し先。 







というわけで、妄想と捏造が激しすぎて
とっても不人気なエメヒュが爆誕しましたありがとうございました。

え、読んだ人いるんですか?
私しか楽しくないやつじゃない???

やっぱり最後までお手つきしなかったCPの仲間入りをしてしまいましたが
個人的にエメちゃんが1万2千年間でめっちゃくちゃ拗らせてしまったところが大好きで
それをヒュっくんに伝えて貰うにはこうなってしまいました。
あと私が好きになったのはやっぱり漆黒で一緒に旅をした、あのエメちゃんで
昔のエルピスで会った時よりずっと擦れていて、捻くれていて、色々覚えた事もあって
でも根本は一緒っていうエメちゃんなので、こうなりました。

ゾディアークの設定まで捏造するとは、そりゃウケないわな~^^;
誰かの琴線に少しでも触れれば嬉しいです。
たぶん未来の私にだけは大ウケ(笑)

まだこの先も書けるし、気力があれば書きたいのですが
反応なさすぎると流石にしょんぼりしちゃうので今後次第ですね。
結構、互いに触れられないって書いててしんどいんだなぁ……と痛感しました。

ちなみに幻世は「げんせい」ではなく「まぼろよ」と読みたい11出身者です。


誰か……エールをください……。

拍手[3回]

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