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それはただの口実で(申公豹×老子)

【登場する人】
太上老君、申公豹

【CP】
申老

【備考】
他の申老(師と弟子シリーズ)とは全く別物の短文です。











 それはまだ、彼が夢の中の住人で、誰かの夢を覗き見ているのか、はたまたいずれ来るであろう戦いのために力を温存しているのか、計り知れない時だった。
 本当に何となく、ただそれだけの理由で師に会いに行った。
 新たに変わった世界の情勢。人間界に現れた妲己という存在。浮世離れしている師にはどう見えているのか?それが知りたくてふらりと見解を聞きにいったのだ。
 彼はホログラムの姿でさえ数ヶ月という単位でしか現れることがない。だが、申公豹は知っていた。彼は夢の住人。ならば、郷に入れば郷に従えだ。 黒点虎に一週間ほどの暇を告げると、申公豹は羊の上にごろりと寝転ぶ。ゆっくり寝入るなんて何百年ぶりだろうか。申公豹は睡眠というものがあまり好きではなかった。理由は単純で、純粋に暇だからだ。よって体を休める以外に睡眠はあまり取らなかった。しかし、そんな彼でもここでは一瞬で眠りへと誘なわれる。抵抗はない。心地よい眠気がゆっくりと脳を支配していった。

 気づけば、雲の上のような場所に立っていた。歩けばどこかで落ちてしまうのかと思いきや、そんなことはない。雲は雲なのにふわふわとして、まるで羊の毛を柔らかく梳き敷いたようだった。太陽はないのにぼんやりと明るくて、眩しくも暗くともない。何とも言えない夢の世界だ。
 次の瞬間、空間から光が浮かびだし、収束していく。それは人の体を形どると、ゆっくりと姿を現した。
 そう、会いに来た本人、太上老君その人である。

「やあ、君がここに来るなんて久しぶりだね。どうかしたのかな」

 最後会った時と何ら変わらぬ姿のまま、神々しさを纏いながら彼は雲の上へ降り立つ。

「ええ、久方ぶりですね。お会いするのは五百年ぶりくらいでしょうか」

「うん、ごめん。覚えてない」

「まぁそうでしょうね。私も忘れてますから」

 こういうのは長命である仙人の挨拶みたいなものである。だが、それも真面目に返してくる老子は、真面目なのかボケているのか些か分かりづらかった。

「今回、貴方の元へ来た理由は、現状に関しての見解を聞きたかったからです」

「現状に関しての見解?」

「貴方はずっと寝ていますが、この世界の情勢は正確に把握しておられるのでしょう? だから、今の現状についてを……」

「申公豹」

 スッと老子が、隠れた裾から手を出して、そっと己の唇に人差し指をあてる。
 話してはならない。暗にそう言っているのだ。

「何故、教えてくださらないのですか」

「私が深淵を見ている時、深淵もまた私を見ている」

 その言葉を聞いて、ハッとした。この会話を聞いている者がいるというのか。

「いいや、おそらくここまでは見ていないと思うよ。けれどここは、そこに近い場所だから」

 老子は心を読んで、先に質問に答える。

「ごめんね、ここは一応私の夢の世界の中だから」

 心の声も聞こえてしまうのだ、と老子は詫びる。本当に申し訳ないと思っているのかは定かではないのだが。

「そうですか、なら収穫はなさそうですね」

「せっかく来てくれたのにすまない。……でも、そうだね。質問に軽く答える事くらいならできるよ。質問次第だけれど」

「ならば、いくつか。妲己について聞かせてください。彼女は何年も前に違う姿で殷王朝にいたはずです。今回も人間界でやりたい放題の贅沢生活をしたくて現れたのかと思いましたが、私がみたところ、どうやら今回は少し違うようです。目的はご存知ではありませんか?」

 前の妲己……いや、末喜の時代とは明らかに違う。それを何かの前触れのように申公豹は感じていた。何か大きな事が起こる。それは彼の心をわくわくさせたし、詮索好きの彼はこうして情報集めも欠かさないと言うわけだ。
 老子はその問いに、静かに目を伏せると。一言だけ告げた。

「……妲己は美しい仙女だね」

 なんとも的を得ていない返答である。

「貴方の美しさには敵いませんけどね」

 確かに妲己は美しい。その美しさは手持ちの宝貝の能力と合わせずとも、十分に通用する美しさだ。だが、申公豹には全く通じなかった。術は勿論、美しさの頂点に関してもだ。
 今も昔も、目の前にいる師が一番美しいと思う。

「相変わらずだね、君は。では、私があの宝貝を使ったら、君は魅了されるのかな」

「さあ、どうでしょう」

 これもまた、何気ない呟きに過ぎない。
 老子が一つ、ため息をついた。ゆっくりとその金色の相貌が開かれる。

「とりあえず、彼女は君の敵ではないよ。けれど、味方するなら、その背後に気をつける事だね。彼女は一枚岩ではないから」

 やはり、妲己の背後には“何かがいる”。老子に言及させない程の何かが。

「おや、私が妲己の手先になってしまってもいいのですか?」

 そんな事は万に一つもないのだが、ついからかうように問うてしまう。これでも三大仙人である彼の唯一の弟子であるという自負と挟持はあるのだ。

「私に君を止める権利はないよ。君は君のしたいようにすればいい。ただ忠告はしておくというだけ」

「私は、私のためにしか戦いませんよ」

 だが、やはり返答は淡白なものだった。

「そう、それでいい」

「本当なら貴方にも出てきていただきたいのですが」

 最強の道士である自分の師は最強だと思っている。故の発言だ。彼が出てきたらきっともっと世界は面白くなる。彼が美しく輝く様を早く見たい。
 しかし、太上老君はその感情を知りながらも、首を横に振った。

「今はまだ、できそうにないかな」

 そのまま何もない青空を見上げて、少しだけ悲しそうな顔で一言漏らした。

「さあ、もうおかえり。君の無事を祈っているよ」

「わかりました。また時が来た時に、迎えに参ります」

 感情に乏しい彼が、何故あのような顔をしたのか、その時の申公豹にはわからなかった。






 そして、仙界大戦が終息したその後……。
 行き場を失った彼らは、蓬莱島にいた。これからどうするかも決まっていない。

「私がこれを持つ日が来るとはね」

 彼が戦いの最後に手にしていたもの。それはかつて妲己が使っていた宝貝だった。
 何の因果かわからないが、この宝貝は美しい者に所有されることを好むようだ。使用された際も何の抵抗もなく、本来の力を振るっていた。

「でもこの力は世界の均衡すら崩すものだから、もうただの羽衣になってしまっても良いのかもしれない。この島を統べる彼らに託す事もできるだろうけど、使い道を誤れば均衡を崩しかねないものだ。ねえ、申公豹。君はどう思う?」

 老子は慈しむように傾世元禳をひと撫ですると、そう呟く。
 そんな老子を恍惚とした表情で眺めていた申公豹は、聞かれた質問にも答えず笑みながら問いを返す。

「老子、あの時の事、覚えてますか?」

「あの時?」

「私が妲己の目論見について聞きに行った時の事です」

「ああ……」

 遥か遠い昔にも思えるが、仙人の時間間隔にしては比較的最近にも思えた。あの日、あの時、何も収穫はないと言いつつ、申公豹はそれなりに老子との会話を楽しんでした。
 その時に出た彼のセリフを今でも覚えている。本当に何気ない呟きだっただろうに、今でも声音まではっきりと思い出せる。

「『私があの宝貝を使ったら、君は魅了されるのかな』。傾世元禳を指して、貴方はそう漏らしました。現実、今あなたの手元にはそれがあります」

 指差すスーパー宝貝は、新たな主を守るかのように宙を漂い、太上老君を守っている。
 そんな好奇心に光る申公豹の目をさらりとかわしながら、彼は呟いた。
 
「使わないよ、君には」

「何故です? 私は貴方の魅了にも耐えうるか試してみたいのですが」

「だって、君はそれを理由に私を抱くつもりなんだもの」

 シン……と時が止まったように沈黙が降りる。

「おや……バレバレですか」

「そういうのに勢いを借りるのは、良くないと思うなぁ」

 のんびりとしていながらも、確信を確実に突いてくる。いつも見て見ぬ振りをしているだけで、この師の観察眼は鋭いし、驚くほど聡い。

「い、良いでしょう……いつか正面から、私の事を好きにさせて見せますから」

「挑戦くらいならいつでもどうぞ」

 そう言って欠伸を噛み殺す事もなく、大口をあけて一つ。

「いいんですか、本気にしますよ?」

「それくらいじゃないと、君、暇でしょ? 少しだけなら付き合ってあげるよ。気が向いた時だけだけどね」

 太上老君はふわりと宙に浮かぶと、パキパキと空間に溶け始める。傾世元禳を使った空間移転の術だろう。

「第一回はかくれんぼかな?」

「ほう」

「それじゃあ、おやすみ」

 彼が目を閉じると同時に、彼が入っていった空間も全て閉じられた。それはあっと言う間だった。

「かくれんぼですか……そういや、そういう事をしたことがなかったですね」

 これは楽しくなりそうだ。と、残された彼はくつくつと笑う。そういや、黒点虎に助力を求めるのはアリなんだろうか。そのあたりもあやふやなまま始まってしまったゲームについて考えながら、申公豹は軽いステップでその場を後にした。







だらだらと二人の会話を書きたかっただけとも言う。
こういう作品と呼ぶには短いようjな、中身があるようでなものの欠片がいっぱいあるんですよねぇ……
しかも1ジャンル1CPじゃなくて、多岐に渡って無数に……。
困ったものです^^;




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