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蕾の水辺にて(六花の勇者 ハンアド)

登場人物:アドレット ハンス フレミー

CP傾向:ハンス×アドレット

制作時期:2015年9月

※ 2巻途中の時間軸です。ネタバレ注意!!!







蕾の水辺にて




 七人の勇者たちはテグネウの猛攻から逃れ、〈永の蕾〉に到着していた。皆は安全なことを確かめるとそれぞれに食事を取り、見張りを交代しながら休んでいる。ここに凶魔は入り込めない。故にそこまで強い警戒は必要なかった。互いの警戒は解いてないが、そう広くないここで誰かが誰かを殺しても直ぐにバレて捕らえられるだろう。
 そんな謎の安心感の中、張り詰めた空気は少しだけ和らいでいた。
 〈永の蕾〉には湧き水が豊富にあった。一輪の聖者がこの場所に〈永の蕾〉を作ったのはこの洞窟と湧き水があったからだろう。流れている川であれば毒殺される恐れもあるからだ。
 汚れていない水で体を清められる機会は今後ないと思った方がいい。順番に水を使うものとして、まずは女性陣を先に水浴びさせた。そして程なくして男性陣にも水場が回ってきた。
 と、言ってもゆっくり入っているような時間はない。見張りをモーラに交代して、すぐさまハンスは洞窟へ向かった。
 洞窟に入ると先に着ていたアドレットが装備を取り外しているところだった。

「うにゃ……おめえと一緒でもなーんも楽しくねえだにゃあ」

「そりゃ残念だったな、諦めてくれ」

 ハンスはアドレットほど込み入った装備はしていない。腰に獲物を提げるために革のベルトを着用しているくらいで後は驚くほど軽装だった。この方が動きやすいのだから、これでいいのだ。
 獲物を下ろし、するすると服を脱ぐと無造作に床へ投げ捨てていく。あくまで水辺からすぐさま取れる範囲に、だが。

「ハンス、先に入っててくれ。俺は後でいい」

「りょーかい」

 自分より先に来ていたというのに、何をもたもたしているのかとハンスが見やると、アドレットが髪をほどいて手で梳いているのが見えた。
 アドレットの髪は長い。そういえば戦闘中にふさふさ揺れる赤い尻尾のようなものは髪だった事をハンスは思い出す。見事な赤毛だが、その長さは腰をゆうに越えて脚に達しており、栄養が届いていないのか先の方は色素が薄めだった。

「伸ばしてるにゃか?」

 ハンスは水に浸かりながら問いかける。このような長い髪は戦うのに適していないだろう。寧ろ危険な場合の方が多い。ここまでの戦い、身だしなみなどに構っていられなかった。手入れされなかったその髪は、砂や埃に汚れて櫛が通りにくいらしい。

「まあな」

「よくそんな鬱陶しい格好してられんだ。おらがひと思いに切ってやろうかにゃ?」

「やめてくれ、これは願掛けなんだ。俺が六花の勇者になって、魔神を倒す日までは切らねえって決めてる」

「にゃひ、じょーだんだべ。しかし願掛けたあ、ロマンチストなんだべな」

「馬鹿言え、そんなんじゃない」

 ハンスは会話をしながらも体の汚れを落としていく。水浴びなど魔神が目覚めてから殆どできていない。そんな隙などなかったからだ。
 本来、暗殺を生業とするハンスは、おそらく皆が思っているより清潔だった。体臭は仕事に差し障る。それでしくじる可能性とてあるのだ。できる限り身をきれいにしていた。但し汚すときにためらいはしないし、服にも頓着していないが。

「ハンス、お前の方は怪我はないのか?」

「昨日誰かさんに蹴られた背中がちょっと痛えくらいだにゃ」

「う……悪かったな」

 アドレットは髪を梳き終わったのか、服に手をかけはじめた。彼は様々な道具をつけた革鎧を身に着けているが、今は先ほどまで横になっていたのでつけていない。
 しかし、服の下から見えたのは、肌ではなく血のついた包帯だった。

「俺の血が混じると不衛生だ。先に入っちまってくれ」

 包帯を解いていくと、まだ治りきっていない傷の数々が無数に出てくる。先に頭の傷を優先させたため、体の方はロロニアに止血してもらっただけの箇所も多かった。モーラのおかけで痛みも殆どないが、流石に一日で完治は無理だ。傷の数が多すぎる。ナッシェタニアに受けた傷が一番多いが、ハンスと戦った時に刻まれた傷もあるだろう。大きな損傷を受けた腕も、血は止まっているが全回には至っていない。
 そんな傷の数々を、ハンスはしげしげと眺めていた。

「何だよ、男の裸に興味はないんじゃなかったのか?」

「うんにゃ、まあその通りだにゃ。おめえが怪我だらけすぎて言葉を失ってただ。いやー、さすがは地上最強」

「褒めてないだろそれ。ちゃんと褒める時に使ってくれ」

「やーだにゃ」

 アドレットは服を脱ぎ終わると、最初は体を拭くだけのつもりなのか泉のそばに腰を下ろす。そしてそのまま動かなくなった。

「入らないんにゃ?」

「いや、俺は後でいい。水が血で汚れちまう」

「とか何とかいって、しみるのが怖いだか?」

「……」

 図星のようだ。

「おらは別に血が混じってもかまわないだよ。何なら手伝ってやろうかにゃ?」

 思わず笑みが零れてしまう。地上最強とて、まだ少年だ。

「余計なお世話だ! いいから先に入っちまえって」

「遠慮はなしだべ」

 ハンスは躊躇しているアドレットの腕を掴むと、思い切り引っ張った。

「やめっ!!!」

 勿論、不意をつかれて踏ん張れるはずもなく、アドレットは頭から泉に突っ込んだ。水しぶきが上がる。地上最強がこのような浅いところで沈むことはないだろうが、手を貸して引き上げてやる。

「~~~ッ!!!」

 相当しみて痛いらしい。水から顔をあげた今もアドレットは硬直している。

「にゃはははは!! こういうのは勢いが大事なんだべ」

「ハンス、てっめえ……!」

 恨みがましそうにアドレットが睨んでくるが、気にせずにハンスは体を洗う。アドレットもすぐに気持ちを切り替えたのか、面白くなさそうな顔をしながらハンスより下流へ行くと髪を洗いだした。
 先ほどの戦いでアドレットがテグネウに受けた頭部の殴打は、頭蓋骨にヒビを入れた。その時に血も流している。ロロニアがすぐに止血しただろうが、髪に付着した血は乾いてそのままだった。
 一方ハンスの水浴びは直ぐに終わった。髪も短いし、女性陣に比べると着ている衣類も少ない。アドレットのような傷も殆どない。体を洗ってしまえばおしまいだ。
 しかしハンスは水から上がらず、水辺に腰掛けたまままじまじとアドレットを見ていた。

「だから何だよ。男の裸に興味はないんじゃなかったのか」

「そうだべにゃー」

 本日二度目のやりとりである。アドレットは頭部の髪を洗い終えたのか、次は髪を横に垂らして手の平で洗っている。髪が長いと誰しもこの洗い方になるのだろう。ハンスはどうせ見るならモーラでも覗いておけば良かったと軽く後悔した。
 だが見方をかえてはどうか。アドレットは鍛えられた体をしているし、肌の色も薄めだが健康的だ。胸がないところと下半身さえ見なければ、後ろからならばなかなか見れるものなのではないかと考える。言わば脳の小休憩だ。常に脳みそをフルに動かしていると、いざという時に使えない。

「洗い終わったなら早く出ろ、体を冷やすぞ」

 アドレットは真正面から見られたくないのか、背を向けて体を洗い始めている。ハンスは自分が七人目だったらどうするつもりだろうと思うが、互いに七人目でもここで動くことはないだろうと踏んでいたので何も言わない。
 ふと、背中に目が行った。無数に浮かぶ傷の中に、夢幻結界でハンスが負わせた傷が塞がらずにあったからだ。

「アドレット」

「なんだ、ハンス」

「傷を見てやるにゃ」

「は? 見てどうするんだ」

「いいからこっちこい」

 と、言っても近寄っては来ないだろう。ハンスは泉に入ると自らアドレットに近寄っていく。アドレットは戸惑ってはいるものの、逃げることはないようだ。

「何だよ、傷ぐらい自分で見られるぞ」

「おめえは背中に目でもついてるだか」

「あるわけないだろ」

「だったら、いいから見せろにゃ」

 惑うアドレットを後ろに向けて、背中を隠している髪を片手でよける。そこには数日前にハンスが投げた剣の刺し傷が生々しく残っていた。アドレットもどの傷を見たがっているのか気がついたのか、大人しくなる。

「どうだ? ロロニアやモーラに大体は癒やしてもらってるから、今は派手に動かなければそこまで痛くはないぜ」

 そうだ、それを知りたかった。ハンス自体はそこまで大きな傷を負っていない。二人の治癒能力はどんなものか、自分の負わせた傷で見ておきたかった。
 他の箇所より少し色が薄い肌に、傷の赤がよく映える。あの時、致命傷を狙ったのに、一瞬の判断で外された。傷の位置を確かめるとそれがよく分かる。あの細身の体の急所に命中していたら、今頃アドレットはここにいない。

「しっかし、細っこい体だにゃあ」

 筋肉こそついているが、アドレットの体は細い。幼い頃からの食生活もあるが、生まれついたものもあるだろう。

「いや、それだけはお前に言われたくないぞ」

「にゃにゃ、おらはこう見えておめえより力はあるべ。何なら力比べでもしてみるだか?」

「本調子に戻ったら地上最強の名をかけて受けて立ってやるよ」

「その名は別にいらねえにゃ」

「じゃあやっぱり、地上最強は俺のもんだな」

 他愛ない会話をしながら、ハンスは傷を調べて行く。傷口は塞がりかけていたが、よく見ると糸で縫合してあった。誰かが縫ったのだ。おそらくは腕の縫合もしていたフレミーだろう。そちらの腕も見ておきたいとハンスは何も考えず傷口に指を突っ込んだ。

「いっ!?……てえええぇ!!! ハンス、てめえ何しやがる!!!」

「おっと、わりいなアドレット。触りすぎただ」

「軽く冗談で済まそうとするなよ! 滅茶苦茶痛かったぞ!! もういい触るな!!!」

「減るもんじゃねーべ! 大人しくするにゃ~!!!」

 ハンスの腕から逃れようとアドレットがもがく。それを阻止しようとハンスが後ろから羽交い絞めにする。水しぶきと揉み合う声が洞窟に響く。
 そこへ一発の銃声と共に氷のように冷たい一言が降ってきた。

「うるさいわね。喋る暇があるなら手を動かして、さっさと出てきて」

「「……」」

 声は洞窟の外からだが、躊躇いがなさすぎてアドレットは焦る。二人は動きを止めると、どちらからともなく離れた。おそらくもう一度やったら洞窟内に爆弾が投げ入れられるに違いない。

「にゃひっ、フレミーに怒られただよ」

「お前のせいだからな」

「へーへー」

 アドレットは急ぎ体を洗い始める。ハンスの勢いに乗せられてしまったが、全くもって遊んでいる場合ではなかった。気絶していた分、自分には使える時間が少ないのだ。秘密道具の補充、剣の手入れ、情報収集に地理の把握、やらねばいけない事は山程ある。

「悪かったにゃぁアドレット、後で付き合ってやるだぁ機嫌直せにゃ」

 ぽん、と後ろ頭を撫でて、ハンスは上機嫌で泉から上がっていく。

「子供扱いするな」

 ぶすくれるアドレットを尻目に、ハンスは素早く衣服を身につけると洞窟を去っていく。

「なんなんだよ、あいつ……」

 取り残されたアドレットは、ただ呆然と見送るしかなかった。








六花の勇者にハマりましたよ~。
アニメが一巻部分なので、二巻からのネタバレをできなくてTwitterの裏で一人でぎゃんぎゃん言ってます(笑)

アドレットくんが可愛くてハンスさんがかっこよすぎて辛いです。
5~6巻あたりのエグい展開も最高に楽しいですね!
でも6巻まではアドフレありきなので書きにくいです……。

今回の話は二巻ネタだったのですが、どう読み返しても「どこはハンアドやねん」って感じで申し訳ない。
でも大体私の書く話ってそんなのだったな……諦めよう。

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