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甘くて優しい、白の夢(NARUTO/ナルネジ、ナルヒナ)

【登場する人】
ネジ、ヒナタ、ナルト

【CP】
ナルネジ、ナルヒナ

【備考】
ナルネジとナルヒナが同時軸に存在する上で更にネジヒナネジみたいな感じで仲良し。
途中ちょっとシリアスめ……? 濃さ的にはナルネジです。








「ネジ兄さん、ちょっとお願いしたい事があるの」

 如月に入って数日したある日、長期任務から帰還した旨を宗家に伝えに来た帰り、ネジはヒナタに呼び止められた。
 あれから強く美しく成長したヒナタは、ネジに対しても昔ほどおどおどした態度を見せなくなっていたのだが、この日に限っては昔のように縮こまっている。
 何となく、何が関係しているか察せるが、気にしないふりをしたままネジは応対した。

「どうかされましたか、ヒナタ様」

 怯えさせないように優しく聞いたつもりだが、ヒナタは変わらず緊張した面持ちで、一気にまくしたてる。

「あの、あのね。わたし、今年はナルト君に直接バレンタインのプレゼントを渡そうと思うの」

 やはり、とネジは思う。

「ああ、今年はナルトのやつ、里に居るそうですからね」

 現在ナルトは里の近くの森で毎日修行をしている。おそらく暫くは里にいるはずだ。里は現状落ち着いているし、きっと今年なら渡せるだろう。

「うん、それでね。ネジ兄さんも一緒にどうかなって」

「は???」

 ネジから素頓狂な声が漏れる。流石にそれは想定していなかった。
 世間のイベントごとに疎いネジでも流石に知っている。バレンタインとは女子が意中の男子にチョコレートなどの甘いお菓子を渡す日のはずだ。平和になったこの時代、誰の陰謀なのかは知らないがアカデミーの女子生徒を中心に毎年廃れることなく流行っているのだ。渡された事はあるが断ったし、渡した事は勿論ない。

「えっと、まだ想いを伝える自信はないから、日頃の感謝を込めて……って渡すつもりなんだけど、わたしひとりじゃ、心細くて」

 俯くヒナタは赤くなりながらもじもじと指をくっつけている。

「こんなことを頼めるのは、もうネジ兄さんしかいないの! お、お願いします!」

 困惑するネジに、ヒナタが勢いよく頭を下げる。ネジは驚きながらも思案を巡らした。
 ヒナタのナルトへの好意は、周囲の者から見ればバレバレなのだが、鈍感極まったナルトにだけは通じていない。ネジもさり気なく応援しているつもりなのだが、一向に進展はしなかった。
 ネジとてナルトの事は好ましく思っている。まだ少し頼りないところもあるが芯はしっかりしているし、努力家で実力も伴いはじめている。何より明るくて前向きな姿には好感を覚える。
 ヒナタの想いが届くのであれば、控えめな性格と相まって丁度良いのではないかとネジは勝手に考えていた。
 それに感謝を伝えると言うのは悪くない。元々そういう行動が不得手だという自覚があるネジは、ナルトに感謝こそすれ、これまで伝えた事がないことに気付いた。

「……わかりました」

「えっ」

 断る理由も見つからず、ネジは承諾することにした。菓子など作ったことはないが、普段から簡単な料理くらいはしているし、何より家事全般を得意とするヒナタが一緒なのだ。問題はないだろうと踏む。
 ヒナタは断られるのを覚悟していたのか、唖然としたまま顔を上げる。

「あまり力になれないかもしれませんが」

「ありがとう、ネジ兄さん!」

 パッと、花が開いたような笑顔をヒナタが見せる。それを見てネジの心も穏やかになった。この笑顔をナルトに見せてやりたい。そう思いながらネジも小さく笑った。



 そうしてバレンタインの当日。早めに朝食を済ませた二人は、宗家のキッチンを占領して菓子づくりをはじめた。
 ナルトは今日も修行だ。事前に今日の行動パターンはチェックして把握している。
 ヒナタはもとより家庭的で、家事や料理、裁縫など様々なことを卒なくこなす。何よりそれらの行動をしていると落ち着くのか、楽しげにこなしているのをネジは知っていた。
 彼女が日向の宗家の娘としてではなく、普通の一般家庭に生まれていれば『家庭的で女性らしい』と大きく評価をかえていただろう。
 勿論料理全般、菓子を作るのも得意で、たまに趣味で作られた菓子が日向家のお茶請けになっているくらいだ。
 こんなヒナタ様を嫁に迎えられるのだ、ナルトは果報者だな、などとネジは考えながら、それを現実にするため手を動かした。
 程なくして、的確なヒナタの指示のもと、チョコカップケーキが焼き上がったのだった。








 木の葉の里の外れにある森の奥、小高い丘になっているその場所で、今日もナルトは修行を続けていた。ここのところ手詰まりを感じているが、バカな自分は考えるよりも行動だと、懲りずにチャクラを練り続ける。
 さっきまで真上にあった太陽も、そろそろ少しばかり傾いてきた。先ほど食べたばかりの昼食は既に腹の中にはなく、そういえば早弁をしたことを思い出す。流石に空腹で居続けるのは辛く、もう少ししたら何か食べに里に降りるか。……そう思った矢先、感じ慣れた二つのチャクラが近付くのに気付いた。

「ナルトくん!」

「ん? ヒナタ……にネジか。珍しいな、二人揃ってどうしたんだってばよ」

「修行の邪魔をしてしまって、すまない」

「それは別にいーってばよ。丁度休憩しようと思ってたとこだしな」

 森から出てきた影、ヒナタとネジは軽く走ってきたようではあるが息は切らしておらず、火急の用でないことをナルトは悟る。

「あの、あのね。ナルトくん」

 不安げにちらりとネジを見るヒナタに、ネジが一つ頷いて見せる。

「日頃、ナルトくんにいっぱい元気を貰ってるから……その、差し入れに……食べて欲しくて……えっと」

「へ?」

 まるで合点がいかないといった風のナルトに、そっとネジが助言する。こういう時のために自分はいるのだろう。

「ナルト、今日はバレンタインだそうだ」

「あーーーっ! マジで!?! すっげ忘れてた」

 流石の鈍感大魔王も、その日の意味は理解していたらしい。

「あの、感謝の気持ちを込めて。……ネジ兄さんも一緒に作ってくれたの」

「ヒナタ様、それは別に言わなくても……」

「やった! 丁度腹もすいてたんだってばよ!! サンキューな、ヒナタ、ネジ!!!」

 ナルトが嬉しそうに満点の笑顔で笑いかける。その向けられた笑顔にネジとヒナタは顔を見合わせて表情を和ませた。

「じゃあさじゃあさ、ついでに一緒に食べてこーぜ!」

「え? でもナルトくんの分が……」

「そりゃあ数は減っちゃうけどさ、一緒に食べた方が楽しいじゃん」

 バレンタインに菓子を貰えた事がよほどご機嫌なのか、ナルトは気さくに誘いをかける。

「良いのではないですか、ヒナタ様」

 ナルトが喜んで食べるところを、ヒナタに見せてやりたい。やはり料理を作った者は、美味しく食べてもらえる姿を見られる事が一番なのではないだろうか。
 それで更に仲が深まってくれるのなら、ネジは言うことがない。
 それに、ナルトはすぐ食べるだろうと考慮して水筒にお茶も淹れてきた。準備は万端だ。

「では、俺は先に戻っています。ヒナタ様はナルトとごゆっくり」

「え、ネジ兄さん?」

「おい、ネジってば……」

 半ば押し付けるようにして、ネジはその場を発った。やるべきことはやった。空気も読めたはずだ。
 少しばかり寂しい気もするが、当初の目的を考えればこれが一番良かったはずだ。
 残されたナルトとヒナタはカップケーキと残された水筒を持ちながらぽかんとしていた。

「あいつ、どうしたんだってばよ。用でもあったのか?」

「ううん、ないと……思う。長期任務だったから、今は休暇のはずだもの」

「ま、とりあえず、お腹空いたし食べるか」

「そ、そうだね」

「いっただっきまーす!!!」

 ナルトが大きな口でカップケーキを頬張る。その姿を見ながら、ヒナタも嬉しそうにカップケーキを一口齧った。
 今日のお菓子は特別上手く出来たはずだ。何より、自分と手伝ってくれたネジの想いが詰まっているのだ。ぱかぱかとカップケーキを腹に収めていくナルトを見ながら、しかしヒナタは思案する。本当はネジ兄さんにも一緒にこの場にいて欲しかった。最初は敵のように見下していたナルトのことも、今はとても優しい眼で見ているのを知っている。それがどこか憧憬を含んでいる事も。

「ねえ、ナルトくん」

「むぐ? どうしたヒナタ、大丈夫だぞ、すんげー美味いってばよ!」

「ありがとう。でも、そうじゃなくて……あの」

「ん?」

「食べて、修行が終わって帰るときでいいから、ネジ兄さんを探してあげてほしいの」

「ネジを……?」

「うん。わたしね、あんまり喋るのが得意じゃないんだけど。……でも、だから、わかるの。ネジ兄さんも一緒なの。上手く言葉は紡げないんだけど、本当はナルトくんとお話ししたかったの。ううん、話せなくてもいい、一緒に居たかったと思うの」

「んあ? 俺と?」

 ヒナタは嘘をつくような者ではない。ましてや冗談でそんな事を言う事もないだろう。

「わかった。もうそろそろ暗くなってくっしな。今日はこれくらいで切り上げて、ついでにネジの奴を探してくる」

「ありがとう、ナルトくん。私は他にもチョコ配ってこないといけないし、夕飯の用意があるから帰らないといけないのだけど、ネジ兄さんを宜しくね」

 そうして日が傾きだす頃、ナルトとヒナタは里へ降りた。配り物と夕飯の支度があるヒナタは別方向へ向かっていったが、ナルトはヒナタから言われた通りにネジを探した。ネジは普通に里へ帰ってきていたらしく、周囲の忍に聞くとあっさりと向かった方向を教えてくれた。
 やっと見つけたネジは、屋根の上に座って西日を見つめていた。

「おーい、ネジ! なんで突然逃げるんだってばよ!」 

 隣に降り立つと、いつもの微かに紫みを帯び白く透き通った瞳が驚きと共に見上げてくる。

「ナルト、なぜここに? というか、逃げた覚えはないのだが……」

「お前がいきなりどっかに行くから、ヒナタが心配して帰りに見てきてくれって頼まれて、探してたんだって。よっと、隣座るぞ」

 さも当然のように、さりげなくナルトが隣に座る。そこから見える景色をナルトは一望する。

「ヒナタ様が……? ……。そうか、私に気を遣って……。俺は、ヒナタ様とお前を二人きりにしたかった。邪魔したくなかっただけなんだが、裏目に出てしまったのか」

「なんでだよ。一緒に食べるくらいいいだろ。別に」

 ナルトが面白くなさげにむくれる。確かに、ネジにはナルトの隣にいたい気持ちもある。だが、それよりもヒナタの恋が成就する方が先決なのだ。そのためならば、自分の心を殺すことなど造作でもない。元々、忍びとはそういう生き物だろう。
 そんな事を考えながら、眉間に皺を寄せているネジの横顔を見ながら、ナルトはごろりと屋根に寝そべった。

「俺さ、ヒナタからチョコとかクッキーとか、バレンタインに貰ったのは初めてじゃねぇんだ。里にいなかったりで貰えない年もあったんだけど、だいたい毎年貰っててさ。……ほら、ヒナタって誰にでも優しいだろ? だからキバとかシノとか、女友達にも友チョコって感じで渡してて、きっと俺もそこに含まれてるだけなんだって、ずっと思ってたんだ。それでも嬉しかったけどな」

「ヒナタ様は確かにお優しい方だ。だがお前だけには……」

 本命のものを渡している。渡せていない年は、要するに渡すのを失敗した年だ。だがそれを自分の口から言うのはどうかと思い、ネジは口をつぐむ。

「いや、わかってんだ。もう。ヒナタの気持ち」

「なんだと!?」

「あ、今ちょっと馬鹿にしただろ。流石に鈍感な俺でもあれくらい見られてたらわかるんだからな」

 確かに、ヒナタ様は昔からナルトの事を陰ながらも凝視していたように思う。幼い者なら気づかないだろうが、それなりに視線に気遣うようになった忍であればバレバレだろう。

「そ、そうか」

「でも、まだ応えてやれねーんだ。俺はまだ、忍として弱ぇから」

 ナルトは練習中の術なのか、手のひらに風の玉を一つだすと、チャクラを込める。だがそれは直ぐに収縮して萎んでしまった。それを見て、一つ溜息をこぼす。 

「強くなりてえって粋がって、忍術の練習も体術の練習も血ぃ吐くほどして、それでも全然足りなくってさ。体の中の化物の能力以外はからっきしで、操れもしねえし。まだまだ自分で半人前だってわかってんだ。それに、この世には俺より強いやつが五万といる。でも俺は、その中で一番強い忍者にならなきゃいけねぇんだ。なんたって、火影になる男だからな!!!」

 意気消沈しても、そこだけはやはり曲がらないらしい。その真っ直ぐさにネジは少しだけ苦笑する。そんな所に惹かれたのだとも思う。出来なくても諦めない。その意志の強さこそがナルトの強さなのだ。
 ナルトはそんなネジを横目で見ながらも、話を続ける。

「今は無理でも、いつか俺が火影になって日向を変える。それは絶対だ。だから俺が本当に強くなって火影になって、その時までヒナタが俺を想い続けてくれいたら、俺も想いを打ち明けるんだ。それで、お前とも家族になるんだってばよ!」

 ナルトには家族がいなかった。だからこそなのだろう、余計に憧れが強いのだ。
 ネジも日向家にありながら、幼き日に父を亡くした。そこからは一人で忍になったのだ、強くなるという孤独はよくわかる。家に帰っても、給仕の者は居ても父も母も居ない。だからこそ、憧れるものがある。そう、家族だ。

「ナルト……」

「だから俺が強くなるまで、待ってろよ! 絶対お前に『お義兄さま』って言わせてみせっからな!!」

「お義兄さま、か。悪くはないな」

 ニシシ、とナルトが笑う。不可能そうな夢でも、この男なら現実にする。初めてあった時には夢ばかり語る奴だと思ったのに、今では何故かその日が来る気がした。
 いつかきっと、ナルトが火影になって、この国に蔓延る様々な闇を打ち払ってくれる。その一つ、日向の伝統とする陰鬱な関係も。自分とヒナタ様がようやく信頼できる関係になったように、きっと。この男なら。

「でもさー、ほんっと全然強くなんなくてさ。俺ってば気合いと根性くらいしかねーのに、それでも落ち込む時があるんだってばさ。でも、今年はお前もくれただろ? すんげー嬉しかったってばよ。明日も頑張ってやろって思った。サンキューな。改めて俺は火影になるんだって、思い出したぜ」

 ナルトが空に拳を突き上げる。隣にいるネジには、そこには星があるのか月があるのか検討もつかなかったが、ナルトを少しでも激励できていたならばと、嬉しく思った。

「男が男にあげるのはおかしいのかもしれんが、ヒナタ様がその、日頃の感謝を込めてと言うからだな……」

 恥ずかしくないわけではない。ヒナタ様に「一緒に」と言われても、かれこれ生まれてバレンタインに物を贈ったのは初めてだ。そもそも里の女たちの行事であって、男なんて蚊帳の外だ。ネジも何度か渡されそうになったことならあるが、後から面倒な事になるのが嫌で、この日は大概隠れていた気がする。

「でも、俺嬉しくってさ。ほんと、ありがとな。ああ、あと俺ってば来月まで里にいるかはよくわかんねーから」

 がばりとナルトが身を起こす。そして……ちゅ、と頬に温かいものがあたる。それが何か一瞬で気づくも、ネジは咄嗟に動けないでいた。

「先にお返ししとくわ。あと、ヒナタには返せないからごめんって伝えといてくれ。何か面白いもん見っけたら修行先から贈るってばよ!」

「なっ!?!!!?!!」

 ナルトはそのまま屋根から身を躍らせると、軽々と地面に降り立つ。

「じゃーな! 俺飯食って帰るわ、まったなー!!!」

 そのまま家の方向へ、走っていってしまった。残されたネジは何も喋ることができないまま、暫く真っ赤になりながら、その場で凍っていた。
 あれがヒナタ様でなくて良かったと少しだけ思う。自分でも爆発しそうだった。今でも胸が忍者がこれでどうするのかというくらい脈動している。
 あと、気がついてしまった想いに歯噛みする。誤算だった。とりあえず暫くナルトに会うことはないだろう。その間に、ゆっくり気持ちの整理を付けながら黄昏時の空を見上げた。









最初『バレンタイン日向』という仮題目で書かれていました。(笑)
何だよソレっていう。ダメだタイトルセンス死んでるゥー。

で。

私はナルネジとナルヒナとネジヒナネジが同軸で存在できると思っている人なので、こうなるわけです。
ただネジ兄さんの最期がああだった事を除けば、BORUTOを見ていたらこのナルトの言う言葉はちゃんと叶っていて。
ただ、そこにネジ兄さんがいないっていう。それだけなんですね。
そこが最大の悲しみであり萌えなんですけどね。ちきしょう。


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