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汝の罪は8 (TOA アッシュ×ディスト)

登場人物:アッシュ、ディスト、ジェイド、ライナー、モブ兵士

CP傾向:アシュディス、ジェイディス

制作時期:2018年2月


ディスト、アッシュ共に別人警報が鳴らしてある
ED後200%捏造してあるアッシュ×ディスト
精神的なジェイディス要素が入りますが、二人はくっつきません!苦手な方は注意。
長引きましたがようやく完結です。






 ジェイドの言っていた通り、マルクトから来た兵士たちは皆、それぞれ何かしらの縁のある者たちばかりだった。マルクトに属していた時に発明した研究や薬で家族の病が治った者や、単純に譜業技術に対しての功績を称える技術志願者。あと、優しくしてくれていた牢屋の監視兵だったりと様々だったが、ジェイドが選んで連れてきたことはわかった。最初からあまり戦闘する意志がなかったのは本当だろう。読みは当たっていたわけだ。
 その後はライナーや兵士たちと十人分に近い夕食を作り、座る席がないので思い思いの場所で夕餉を食した。あまり備蓄がないため、燻製肉と豆のスープに、芋をつぶしてこねて焼いたものだけだが、この雪原で温かい食事が摂れるのは貴重だととても喜ばれた。更に酒もないのに大いに場は盛り上がった。日中に対峙した時には考えられなかったような光景だ。
 ディストの作ったシャワーも好評で、こんなところで体を洗えると思っていなかった兵士達は大いに喜んでいた。交代で順番にシャワー室へ入っていくたび歓声があがるのは正直面白かった。そんなもの、大体の宿には用意してあるように思うのだが。

「この雪しかない中で、譜業技術を大して使わず作ってしまうのがすごいんですよ。ほんと、こういう物を作らせたら天下一品ですのにねえ。いやー、勿体無い」

「人生をだいぶ棒に振ったということは、さっき認めたじゃないですか」

「そうでしたね」

 ディストは物置部屋から毛布になりそうなものを出してくると、居間に降ろす。ライナーも後ろに続いて布団を抱えていた。

「さあ、早く寝る用意をなさい。明日、朝一でここを発てば夜までにケテルブルクに戻れるでしょう」

「なんだかあなた、母親のようになりましたね」

「なんで母親なんですか。確かにアッシュやライナーとはそれくらい歳差ありますけど」

 確かにアッシュに関しては少し親のような気分になる時はある。彼は若いし、何より彼をああさせてしまったという自責の念があるからだろうが。ライナーは昔から、子供のような部下ではあった。

「残念ながら来客を想定していなかったので、布団が足りません。できるだけ寄せ集まって布団に入って寝てくださいね。断熱されていても夜は多少冷えますから。あ、湯たんぽも用意させます」

 ライナーやアッシュや兵士に指示を出しながら、ディストは的確に寝支度を整えて行く。一応あれでも師団長であったのだ、細やかな気遣いは潔癖な性格故のものだろうか。

「サフィール、私はどこで寝れば良いですか?」

 からかうように声をかけると、間に割って入るかのごとくアッシュが出張ってきた。

「俺がディストと寝る」

 誰も「自分とディストが一緒に寝る」と言ってないのに、やたらと威嚇してくるのが面白くてつい笑ってしまう。

「おや、あの狭苦しいベッドでですか? いやー、お若いですねー」

「違ぇよ! お前がいるからに決まってんだろ! お前はライナーの部屋で寝ろ」

「あれ? じゃぁアッシュ様、僕は……」

「お前は俺の部屋で寝ろ。一夜たりとも俺のベッドでこいつに寝られるとか、反吐が出る」

「私、随分嫌われてますねえ。ルークはもうちょっと素直な子だったんですけどねー」

「あくまでも基礎はアッシュですからね」

「言っておくが、ルークの記憶のお前も大概だぞ」

「そんな、あんなに優しかった私に酷い仕打ちです」

 一同に笑いが起きる。ジェイドが軍属者としてそこそこ厳しい事は知れ渡っている。勿論、個人としてはお茶目なところもあるのだが、本人の性格的に更に裏返っているのは間違いない。ここにいる兵士らはそれも分かって付いてきているのだろう。

「さ、では皆さん寝ますよ。夜の灯りは貴重なんです。あとトイレの位置だけちゃんと確認しておいてくださいね。おやすみなさい」

 室内を順々に消灯していく。兵士たちが就寝態勢に入っていくのを確認すると、ディストたちも二階へと上がり、一つだけ廊下の灯りを残しつつも、消灯しながらそれぞれの部屋へと入った。
 ディストとアッシュも部屋へ入ると、衣服を整えて早々にベッドへ潜り込む。断熱できていても寒いことに変わりはない。布団へ潜ってしまうのが一番だ。
 実はディストとアッシュの部屋だけ、少しだけベッドが大きい。大人が二人で眠るには少し狭いが、入れないこともない、といったところだ。勿論、工作したアッシュが勝手にそう設計したのだが、今のところ二人で寝るまでには至っておらず今日が初めてだ。
 本当は手を出したい。その気持ちはあるが、今ディストに無理をさせるわけには行かなかった。今日もこうして腕の中に納めて眠れるだけで良い。それにこの距離なら、何かあっても一番に守ってやれる。

「こうやって二人で寝るのは久しぶりですね」

「そうだな」

「何もあんなに牽制しなくたって。ちゃんとジェイドとは話をつけましたから、大丈夫なのに」

 おかしそうにディストが笑う。そんな彼を腕の中に納めて抱きしめながら、アッシュは毛布を被せる。明かりはもう、窓から入る月光しかない。

「もしもって事もあんだろうが。俺の中のルークのあいつの記憶、本当に大概なんだぞ」

 無知なところもあるルークが、よくあんな大人と『仲間』になっていたと逆に感心するくらいだ。

「大丈夫ですよ。きっと何も起きません。明日も早いでしょうから、寝てしまいなさい」

「何かあっても俺が必ず守ってやる。だからお前も安心して寝ろ」

「ありがとうございます、頼りにしてますよ」

 寝返りは打てそうにもないが、こうやってくっついているとひどく安心する。一人で眠るには寒いが、互いに暖を取っているととても暖かかった。

「暖かいですね」

「ああ」

 そこからディストから寝息が聞こえるまで、そう時間はかからなかった。自分とて緊張したが、彼は今日一日、相当疲れたはずだ。アッシュも剣の置いてある位置を思い出しながら、すぐさま対応できるように内心シミュレーションをしているうち、いつの間にか意識は遠のいていた。


 陽が上がる前に、コテージの朝は始まる。それが板についてきているアッシュとライナーの目覚めは早かった。ディストは低血圧のため一歩遅れるが、それでものろのろと布団から出ると、衣服を正して髪を梳き、括り直して部屋を出る。
 ついでに今はジェイドが使っている隣の部屋を覗いた。アッシュが起き抜けにドアを蹴り開けてジェイドを起こしたらしく、丁度身を正しているジェイドと鉢合わせる。階下ではライナーが灯りを付けながら兵士の皆を起こしていた。

「おはようございます、ジェイド。邪魔してしまいましたか?」」

「いえ、おはようございます。あなたも随分早いのですね、サフィール」

「いつもなら私だけ二度寝してるんですけどね」

「おや、それはがっかりです。まあ、アッシュが軍属の私より早いのには驚きましたが」

「残念ですが若さには勝てませんよ。ささ、準備を終えたら降りてきてください。簡単に食べられるものを用意しておきます」
 
 ジェイドと普通に会話ができる。それがただ嬉しかった。だが、それも最初で最後だ。今日が、彼と会える最期の日となるのだ。
 ディストは階段を降りると、そのままライナーと食物庫へ降りる。
 食物庫の備蓄と言っても大したものはない。普段から質素な食事ばかりだ。それでも最大限、力をつけて祖国へと帰ってほしい。そう思い、一番良い食材を選んだ。
 塩漬けしたワカサギと根菜のスープに、このあたりで唯一採れる果物を乾燥させたものと、炒めたキノコと雪の下に埋まっている名も無き葉野菜のサラダ。味付けは塩と胡椒しかない。二日目もスープかと言われたら困るが、本当に食材が日々ないのだから致し方ない。雪と濾過器があるため、水に困らないのだけはここの利点だ。
 それでも皆、喜んで食べてくれた。もうここへ人が来ることは稀だろうが、次はもうちょっとまともな食事を出せるようにしようと、ひっそりとディストは誓った。あまり得意分野ではないのだが。
 食べて一息つくと、いよいよ出立だ。窓の外も少しずつ白けてきた。太陽が昇りだすと雪の白さが一斉に際立つ。雪が光を反射し、とうとう朝焼けが訪れた。
 今日も、どうやら晴天のようだ。



「随分と世話になってしまいましたね」

「こんなところに住処を構えてしまった者の当然の責任でしょう。流血沙汰にもなりませんでしたし」

 昨日の一触即発だった空気を考えると、随分とのんびりしたものだ。
 ディストは真っ直ぐ居直ると、頭を下げる。この友に自ら頭を下げたのは、そういえば生まれて初めてかもしれない。

「ジェイド、ありがとうございました」

「おっと、そうだ。ピオニー陛下からの誕生日プレゼントを渡すのを忘れてました」

 そんなディストを横目に、ジェイドは思わせぶりに預けていた袋の中から大きな包みを取り出すと、ディストへと投げて渡す。

「陛下ったら、私があなたに会いに行くと分かれば、あなたへの誕生日プレゼントだと言ってあれやこれやと押し付けてきましてねえ。持てないくらいの量でほんと困りました。だったら私にもアルビオールくらい貸し出せって感じですよ」

「は、はあ」

「で、一番軽くて重要なものだけ持ってきました。ピオニーからです。あなたが使いなさい」

 ディストが包みを少しだけ解く。中に見えたものは大量の薬だった。そう、マルクトで処方されていた例のものだ。これがあれば、かなり長い期間、病を抑えていられるはずだ。
 目頭が急に熱くなるのがわかる。嬉しいのか、悲しいのか、辛いのか、わからない。ただその感情を抑える術をディストは知らなかった。

「貴方……」

「ほらほら、泣かないでください。ハナタレサフィールに戻っちゃいますよ~」

「ピオニーも……ほんと馬鹿ですね、私たち」

 もっと早く素直になっていたら。もっと早く愛を知っていたら。違う未来もあったかもしれない。『今』に後悔はないが、こんなにも優しい『過去』を捨てなければならない選択をしてここまで来た。二度と会えない人々の愛を胸に、ディストは泣きながら笑った。
 それがあまりにも悲しくて、幸せそうで、つい思わずジェイドはディストを抱きしめていた。元々皮と骨でできているような印象だったが、腕に抱くと尚か細く感じる。勢いで包みが雪の上に落ちてしまったが、それでも離したくはなかった。

「会うのはこれが最期でしょう。きっと次はありません」

「でしょうね。……でも私、最期まで足掻いてみせます。罪を償うためにも、抗って、めいっぱい幸せに生きますから!」

「そうですよ。そうでなくては、私が赦した意味がありませんから」

 ゆっくりとディストを離す。隣でアッシュがあまり面白くなさそうな顔をしているのが逆に面白いが、やはり邪魔する気はないらしく佇んでいる。その隣でライナーがさり気なく包みを拾い上げていた。本当に出来た部下だ。

「アッシュ、サフィールを最期まで頼みますよ」

「当然だ、覚悟はとっくにできている」

 その言葉を聞き、ジェイドが兵士たちに号令をかける。彼らは貰い涙をしてしまったのか、鼻を啜る音が所々で聞こえるが、それぞれ口々に礼を言うと、頭を下げた後に踵を返した。

「では行きます。……さようなら、私の愛した人」

 ジェイドがしんがりを務めるのか、一言そう告げると兵士たちへと続く。その彼に届くように、ディストも言葉を返した。また目頭が熱くなる。泣き虫サフィールは、いつまでも変わらないままだ。

「ええ、さようなら、私の愛した人」

 その愛が間違っていても、歪んでいても、届かなくても、潰えても、それは間違いなく愛だった。大好きだった。それだけは本当はだった。偽りではなかった。だからこそ、こんなにも胸が苦しいのだ。とっくに決別したと思っていた想いは、ここに来て掘り返され、そして昇華された。
 ディストの頬が涙に濡れる。溢れる涙はとめどなく、アッシュはただ何も言わず寄り添い、凍りつかないように時たま拭ってやった。
 彼らの姿が雪原から見えなくなるまで、ディストたちはずっと彼らの姿を見守っていた。










エピローグ



 それから約二年、ディストはその生命を過酷な雪原の中で生き抜いた。
 最期は薬で痛みもない中、アッシュとライナーに手を握られながら、安らかに眠るように息を引き取った。
 彼の墓はコテージが見える『ネビリムの岩』の近くに作られた。彼がそこに眠ることを生前に望んだのだ。
 その最期を看取り、埋葬したアッシュとライナーは、前々から三人で話し合っていた通り、コテージを去り世界へ帰る事となる。アッシュはマルクトに寄ってキムラスカへ、ライナーはダアトへと。一年に一度、雪原にあるこの家と彼の墓へ帰ることを約束して。
 彼らにはすべき事があった。ディストが残りの人生をかけて創り上げたものと、込められた平和への想いを世界へ届けるのだ。

 結果、彼が亡くなるまでに書き上げた譜業なしでも動く動力源や様々な発明は、ダアトの公平な発表により世界的に広まり、停滞気味であった世界の機械技術は飛躍的に進歩を遂げる。
 その数々の功績は、生前の罪すらも霞めてしまうほどで、『故サフィール・ワイヨン・ネイス博士』の名は更に世界へ知れ渡ることとなった。
 また、ディストが構築したが資材が足りず確立できなかった技術を、マルクトのジェイド・カーティス博士が後に次々と確立していった。彼は「昔の逆ですね」と零していたそうだが、その意味の真相を知るのは時の皇帝くらいだったと云う。

 雪原の家は今も残してある。天才の作ったただのコテージは強い吹雪にも耐え続け、十年の時を得ても崩れそうにもなかった。そこには彼らが暮らしていた形跡が今でも残してある。増築を重ねたらしく、雪原でも安定して食料が補給できる完璧な室内庭園まで、今でも枯れずにあるくらいだ。
 そうして、ようやく雪解けが始まったロニールの大地は、亡き偉大なる博士の隠れ住んだ土地として、港が開かれ観光地化すら始まっていた。ネイス家滅亡と共に皇帝領に返還されていた土地が、雪解けと共に開発される事となったのだ。

 世界は続く。全ての罪と罰を背負い続けながら。








ようやく完結です。
その昔に『続き読みたいです』って言ってくれた人に、いつか届くと良いんですけどね……。
ハハハ、無理かな。

そんなわけで、アシュディスやっつってんのに、最後までジェイドさんが出張っていました最終回です。
私はね、何もくっつくだけが愛じゃないと思うんですよ。
「その人の真の幸せを願うこと」がひとつの『愛』だと思うわけです。
だから間接的に言えば、この話はピオディスの話でもあるんですね。

ディストは、サフィールは、ちゃんと誰かに「幸せになってほしい」と願われている事を知って、初めて幸せになるのです。

まぁそんなわけで、文才はないわ気づいたら会話ばっかしてるわ、かと思ったら地の文だらけだし……。
読んでて面白いのか、誤字脱字とか日本語変なところとか、推敲とかもうね、後で考えますw

とにかく!ここまで読んでくださった方、おられましたらありがとうございます。
4万字に近い規模の長編になりました。だからなかなか手が出せなかったんですけどねー;;
少しでも楽しんで貰えてましたら幸いです。







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