登場人物:周瑜、甘寧
CP傾向:策瑜前提な甘寧×周瑜。でも恋人未満
旋風江シリーズ。
舞台背景は赤壁戦あたり、凌統と甘寧の衝突事件後の傷負い周瑜と
さりげなくセクハラしている甘寧氏の話。
※ この作品は古い作品なため文章が稚拙です。
本来なら削除したいのですがマイナーなので残してあります。
それでもいいよ!という方のみお読み下さい。
星が出はじめていた。
長江を見晴らせる高台に紫紺の戎服を来た青年が座っていた。
名は周瑜、字は公瑾。此度の赤壁の戦で左都督を勤める呉の武将である。
北から吹き付ける風は凍えるほど冷たく周瑜の弱った身体の体温を奪っていく。
しかし、そんなことを気にとめるもなく、丘から遙か遠くに浮かぶ大要塞、禁軍の大船団を眺めていた。
先日の先攻を取った禁軍との戦で、大勝利を収めた自軍の未だに興奮している陣営から、周瑜はそっと一人で抜け出して来たのだ。
大分時間が立つな、少し騒ぎになっているだろうか?
誰にも行き先を告げずにそっと出て来たため、ふとそんなことも思ったが、
今に始まったことでもなしにと思い直し遠くを見やる。
持久戦……これからの戦、これに持ち込まれてしまうと自軍は必ず敗れる…。
戦力差が違いすぎる、およそ二十万の禁軍と三万の同盟軍では桁すらも違っていた。
このままこの長期戦が続けばより補給の弱いこちらが疲弊していくのは子供でも分かる。
時間の問題もあった。
しかし、そう分かっていても、ほいほいと策が浮かぶわけではない。
先を思い悩み、ふと溜息を漏らした。
「…ぅっ」
ズキリと凌統に刺された傷が痛んだ。
あれから三日もたつというのに周瑜が幾度と動く為、傷はまだ塞がっていない。
「あなたにまた叱られてしまいそうですね。自重しろとか、馬鹿なこと考えるなとか
………ねぇ、伯符さま」
ふっと零した微苦笑は風に呑まれて消えていく。
自身を愚かに思ったのか、組んだ腕に顔を埋めて 小さく願いの言葉を呟く。
「――巫陽――」
数年たっているのに、未だに祈る。戻ることを願う。
忘れられない笑顔を思い出すたびに、人知れず呟く巫女の名前。
知らず知らずに、手に力が入り、服を強く掴んでいた。
「私はまだ あなたの影を追っているようです…あなたの死に顔を涙も流さず見ているのに
いつかあなたが帰ってきてくれることを 祈り、願っているなどと…。
……もう帰る躯もないと分かってもいるのに…私は…。…?」
その先の言葉の呑み込んで、ふと周瑜は顔を上げた。
わずかに近づく、馬の足音が聴こえる。
続いて誰かを呼ぶ人の声、複数ではなく単騎…。
瞬時に立ち上がる。
無意識に肩に力が入る、背を伸ばして顎を引く。
人が近づくだけで感情を封じ、すべてに対して冷静になれる自分を苦笑すると共に、まだ都督としてやっていける自身を確かめた。
「左都督殿!……やっぱりここにいやがったか。
使者殿に聞いてやっと場所を突き止めたぜ……ったく…」
「これは興覇殿…」
上り坂を栗毛で疾走して来たのは、先日の水戦の勇将が一人。
甘寧、字を興覇。その人だった。
水戦や弓の扱いは大したもので知略にも長けている、馬術もなかなかのものだ。
軽い足取りで馬を降り周瑜の葦毛の隣に降りて木に手綱を繋ぎ、鼻の上を撫でてやりながら甘寧は振り返る。
「わざわざこのようなところまですみません。騒ぎになってはいませんか?」
少し傍に寄り、周瑜は少し首を傾げながらもやんわりと微笑む。
その顔に先ほどの痛い微笑みは残っていない。
甘寧は戎服の上に羽織っている布の着崩れをなおしながら、目の前の上官にまじまじ目をやった。
「騒ぎにはなってねぇけどよ、上の連中がえらい探し回ってたぜ?
俺にはそんな事どうでも良かったんだが……まぁ、私用でな」
そうですか、とそう口が言葉を紡ぎ出した瞬間、強風が突然二人を襲った。
強い風が髪を揺らし服を激しく揺らす。
同時に双方の体温を急激に奪っていく。
「ぶわっっ寒ィっっっ!!!」
羽織っている布ごと肩を抱いて、甘寧は寒さに耐えた。
「興覇殿、ここは風も強く冷えます。…お戻りになったほうがよろしいのでは?」
吹き付ける風に髪を押さえながらも問いかける、自身も薄着だと言うのに。
寒いなどとの感情は決して顔には表れてはいなかった。
「ハッ……都督殿の話しに来たってのに、あんたを連れて帰らないでどうすんだよ」
「いや、私はもうしばらくここに残っていますので
陽が完全に落ちてしまう前に、先にお戻り下さい」
首を振って否を示す。
しかし弱くなった風がまだ、二人の身体を冷やしていた。
「おいおい、無茶言うな。確かにここはえらく寒いがここにずっと居る
あんたはどうなんだ?傷に響くんだろ?」
呆れたように、大げさに頭をがしがし掻きながら甘寧は周瑜の手首を掴んだ。
「ほら帰るぜ」
「それは平……ッ!!」
瞬間かくんと膝をついて屈み込む、無意識に片手が右脇の傷口を庇っているのが見えた。
「わ、悪ぃ……」
ひっぱったわけでもなく、捻ったわけでもなかったのに予想以上の反応と、
怪我の深さに驚いて甘寧は一瞬顔が強張ったと感じた。
実際、傷を負わせたのは凌統。
そうしたのは周瑜本人。
しかし、自分にも非があったと、今なら認めることができる。
自分を庇うために、愛しい人が犠牲に、
しかも、庇われた自分が気づいていない傷を負ったのだ。
「いや、これは平気です……しかし…興覇殿、何故この怪我をご存じで?
私の怪我は、その場に居た者意外は他言無用にとしておいたはずです。
使者殿に傷の手当てもお頼みしたから、外部に漏れるはずはないと…
「俺に口割る奴なんてアレしかいないだろ?」
「………子明、ですね。」
しゃがみこんで手を差し伸べ、ニヤリと笑みをたたえる甘寧を見て、
周瑜は大きく溜息をつく。
傷を庇いながらも手をとってゆっくりと立ち上がった。
呂蒙は隠し事をするのがヘタなのは分かっていたことだ…。
しかし、こうも簡単にバレてしまうとは思っていなかった。
甘寧の性格は大体把握している、粗雑で自分勝手に見えるが
決して、血も涙もない性格ではないことを、少しづつ見抜けていた。
知ってしまえば、必ず負い目を感じる事だろう。
「知られてしまったのは仕方ありませんが…。
くれぐれもこの事は兵に気取られぬようにお願い致します。
この時期、いたずらに士気を下げたくはありませんので…」
できれば、気づいて欲しくはなかった。
「それぁ、分かってるけどよ」
申し訳なさそうに視線を外して呟く周瑜に、栗毛から降ろした上着を肩にかける。
難しい顔で何か考えながら、ありがとうございます、と控えめに声が返ってくる。
しかし、何を思ったのか甘寧は そのまま周瑜を抱えこんで耳元で低く囁いた。
「でもな、そんなあからさまな庇い方じゃ、鋭い奴だったらすぐに気付くぜ?
それじゃ怪我してるって言ってるようなもんだ。」
そうだ、少なからず甘寧は腹を立てていた。
傷をひた隠しにして何も言わない周瑜に。
前のことに気が行きすぎて、それに全く気づかなかった自分に。
少し腹いせに困らせてやろうかと思い、冷えた頬に手をかける。
ぴくりと身体が強張るのが分かり、すぐに身体を押されて戻された。
やんわりと、しっかりと拒絶を表している。
「隠して居るつもりでしたが…やはり分かってしまいますか?
流石は興覇殿ですね」
苦い笑いしかできないのか、困ったように首を傾げる仕草がまだあどけなさを感じさせる。
「いや、俺も朝あんたを見た時、様子がおかしいと思っただけで、
呂蒙の奴に吐かせて気が付いたんだがな。
あの時もおかしかったが今はそれ以上におかしいな……本当に平気か?」
もう一度周瑜を強引に掴んで引き寄せ、訝し気に懐を手で探る傷の上を手の甲でなぞると、苦悶の表情が周瑜の面に表れた。
「傷、開いてるんじゃねぇか?」
無意識であろうが、痛そうに身をよじって逃げようとするので押さえつつも問うてみる。
この男、無頓着なのだ。
「え?ぁ、ああ…そうですね。
また開いてしまっているかもしれません」
「またぁ!!!???」
過去にも幾度となくあったことを表す言葉を聞いて、つい大声をあげてしまった。
すぐに風にかき消されたが、余韻は山彦のように広がっていった
このように。自分の事については無頓着。
温かい甘寧の手が懐からわずかに離れる。
「しっ……興覇殿、声が大きいです」
そして、こういう事については敏感。
「これで三度目でしょうか?色々、やらざる得ない用事をしていたら開いてしまいまして」
けろっとした顔で周瑜は返答するが、片手は甘寧の手をのけて右脇をしっかり庇っていた。
視線の隅でそれを確認していた甘寧の頭に血が上る。
「莫迦じゃねぇのかあんた!!!?」
またも大きい声で怒鳴られて、周瑜は身を強張れせた…驚いた調子で申し訳ありません、と小さく呟く。
甘寧は顔を怒りで朱に染めて荒く息をつく。
ああ、自分はこの、自重しない左都督が好きなのだ。
言うなれば自己犠牲の癖がある。
聡明で、儚く、美しい、花のような人。
自分の力を必要としてくれる大切な存在。
だからこそ、自身を大切にしてほしい、もっと自重するべきだ。
「すみません。やはり、怒っておられますか…?」
「ったり前だ莫迦野郎!」
私用とは言え部下である甘寧に叱られて、驚いたような悪気を感じたような、
微妙な顔でしばらく甘寧の説教を受けるのだった。
「興覇殿…あの、私は一人で馬に乗れますので……」
陣営に戻るまでの道のりは、そう遠くもなく…だが決して近いと言える距離でもなかった。
傷に障ると結論を出した甘寧は、周瑜を自分と同じ馬に乗せたのだ。
しかし、周瑜は流石に羞恥を感じているのか不満を口に漏らす。
「煩い、怪我人がとやかく言うんじゃねぇよ。大人しくしてろ」
降ろしてやるような気配を見せず、極力揺らさないようにゆっくりと、甘寧は栗毛を進めていた。
あの後、さんざん莫迦だと自重しろだと説教くらった後、
戻るようにと言われた周瑜は、逆らえずに渋々帰路についた。
「しかし、どちらにせよこれでは…私に何かあったと気付かれます。
陣営の前で、どうか降ろして下さい」
「………………」
二人重なっている為、寒くはなかったが…夕刻の風はひんやりと吹き荒れていた。
「それに、この姿だと…あの、少し恥ずかしいので」
周瑜は横座りをしていた、これも甘寧の考慮である。
「ったく、仕方ねぇ奴だな…俺は別に気にはならないが…そう言うのならしょうがねぇ」
「すみませ……いや、ありがとうございます」
「莫迦野郎…。この言葉を何回言っても言い足りないくらいだぜ、本当」
声に少し怒声を混じっているのに気づいた周瑜は、また 申し訳ありません、と頭を垂れた。
「興覇殿は…少し伯符さまに似ておられる」
「は?」
ぽつりと周瑜が声を漏らした。
「伯符?……ってぇと。確か先代の討逆将軍だったっけか?名は…孫策」
甘寧が返答を求めるように視線を落とすと、周瑜は少し微笑んでこくりと頷いた。
「はい。私の友であり、かつての主であった者です。
………だから、叱られてしまうと、私はきっと逆らえないのでしょう」
その笑みはどこか寂しげで…面白い話ではないことは容易に分る。
甘寧は視線を前に戻して、語り出された話しに耳を傾けた。
「伯符さまは…私が怪我や病気にかかると、酷くお怒りになるのです。
御自身だって、無茶はするし…私にも『ついて来い』と言うのに……。
私が倒れると莫迦だ莫迦だと罵るのです」
彼が呼ぶ、亡者の名はどこか切なく……掠れている。
暫く周瑜は、懐かしいことを思い出すかのように、
瞼を閉じて揺れに身を任せていた。
「私が、伯符さまに『御自重下さい』と申し上げたら、あの方
『俺が心配だろう?俺とともに来い』…ですよ?
私が伯符さまほど俊敏でないことも、私のことも十分承知してらっしゃるのに…。
ほんと聞いて呆れますよ……」
かつての主君への愚痴ともつかない発言に甘寧はどうすればいいか分からず、少し眉をしかめたまま、前を向き続ける。
「ふふ、でもそんな大胆で無鉄砲で、
神経が図太いようなところが、とても興覇殿に近しい感じがするのです。
世間一般では、これを気性が荒いというのでしょうね」
あからさまに甘寧は怪訝な顔をしたが、その下で周瑜はくすくすと笑っていた。
「あのなぁ…俺に喧嘩売ってんのか?」
「………ぇ?いいえ?」
きょとりと顔を上げて、ふんわりとまた微笑みを見せる。
「確かに伯符さまも文台さまも愚かだと思います。
こうしてお二人が亡くなったと後も、私の考えは変わりません…永遠に」
甘寧はぶすっとした顔で馬を歩かせていた。
この言い分だと遠回しだが「自分も気性の荒い愚か者だ」と言われた気分だ。
「しかし…しかし私が……」
そこで、ふと話が途切れた。
「いえ、やめておきましょう。私の殿は、今は孫仲謀さまのみです」
「………って、おい!何なんだよあんた…最後まで言わないと気になるだろ?」
ふるふると首を振られて、途中で話を完全に切られた甘寧は流石に怒りを覚えた。
話を大人しく聞いていたというのに、愚か者扱いされた挙げ句に、話打ち切り。
何を考えているのか全く分からない、大切な左都督殿。
「陣営が見えて来ましたか。興覇、ここでいい…降ろしなさい。」
むらむらと怒りを感じている甘寧に、ぴしゃりと何事もなかったように命令される。
口を噤むしかなかった。
怪我の傷を思わせないように、軽やかにふわりと着地した周瑜は、自分の葦毛の縄をほどくと一言、ありがとうございました、興覇殿と供手して葦毛を連れ陣営へと去っていった。
その姿に、怪我を気取られるような仕草は含まれてはいなかった。
「……してやられたぜ…」
故意的に逃げられたことを悔しそうに舌打ちしながらも、栗毛の腹を軽く蹴り、冷たい風が吹く道を駆けて行った。
自分の私用を伝えるのを忘れたまま…。
=終=
結構修正したあとがあるんですが、わりと穴だらけな過去作です。
一応孫策×周瑜前提の甘寧→周瑜です。
私は甘寧×周瑜が好きなんですが(特に旋風江では)あまり見かけませんね……。
特にこれ書いた時期とか、無双でもなかったくらいです。
旋風江の甘寧てかっこよすぎですよね、周瑜はひたすらに美人だし。
二人ともいい年してるから、もっとアダルティーなのでもいいけど
書けないわけですよ。
旋風江シリーズ自体、あまり見ないですけどね。めっちゃ好きです。
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