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笑い転げたジュラ紀(不二観と跡観)

制作時期:2024年9月

不二兄と観月と跡部が買い物に行くトンデモキテレツストーリー。
跡観で不二観というカオス世界線だけど
厳密に言うと『跡部✕(不二兄✕観月)』です。
不二兄と観月さんはこういう過程で仲良くなっている予定です。

意味がわからないと思うが書いている人も分かってないよ。
ダメそうな人は絶対回避でお願いします。
今回も誰ともくっついていないのがポイント

あ、不二観プチオンリーおめでとうございました!
(というつもり書いてはいたけど大遅刻)










 それは夕飯とお風呂という日常をこなし、ほっと息をつくころだった。
 宿題を終えて明日の準備をし、後は余った時間を楽しむだけだと本を読みながらごろごろしていたところで携帯電話が鳴った。ディスプレイには登録して以来、あまり通話したことのない相手の名前が表示されている。
 色々あった相手ではあるが、今では少し特殊な、そこそこ距離のある友人といったところだ。無視することもないかと思い、手に取ると通話ボタンを押して耳につけた。

「あ、もしもし。こんばんは、不二くん」

「やあ観月。わざわざ僕に電話よこすとか珍しいね。どうしたの」

「夜分にすみません。……あの、あのですね、折り入ってお願いがあるん……ですけど」

「僕に?」

 観月にしては歯切れの悪い返答だ。いつもの高圧的な態度でも、捻くれた時の態度でもない。本当になんとか話を聞いてもらおうとしている。そんな空気を感じ取る。更にメールやメッセージじゃなくて電話だなんて、珍しいこともあるものだ。

「はい。跡部くんにその、次の日曜日に遊びに誘われたのですが、二人だと気まずいので不二くんも来てくれませんか」

「え、どういうこと???」

 告げられたお願いは、わりと予想していなかった部類だった。
 跡部? それってあの跡部景吾だろうか。

「跡部と観月って、そんなに仲良かったっけ」

「まぁ、色々とありまして、最近は仲が良かったと思います」

 やたらナルシストで高慢ちきそうな顔で笑っている跡部と、やたらナルシストで高慢ちきそうに笑っている観月が脳裏に浮かぶ。
 なるほど、同族嫌悪をしないのであれば、似た者同士というわけか。

「へぇ、そうなんだ。確かに、なんかタイプ的に似てるところあるよね」

「話題が合うとか、話していて気があうとか、まぁそういう友達でした」

 互いに綺麗で優雅で品格が高そうなものが好きそう、という勝手な思い込みをしているが、あながち間違いでもなかったらしく、それなりの友好関係であったらしい。
 そんな二人が破綻せずにいられるなんて奇跡ではないだろうか。いやいや、今なにか過去形に聞こえた気もする。

「それで? なんでそこに僕が混ざる話になるの」

「うっ……それが……。驚かないできいてください」

 仲が良いならいいで、別に間に入りたくはない。それで裕太が開放されるならそれもありだな、なんて思えてしまう。
 いや、裕太の観月を思う気持ちはそれなりに深いだろうから、跡部が出てきたところでそこまで何か変わることもないのかもしれない。
 ところが、はたまた予想外の展開に話は進む。

「先日、跡部くんに告白されたんです」

「え」

 流石に目を見開いて驚く、今日一番のびっくりポイントだったかもしれない。

「で、僕はお断りしました」

「振ったの!?」

 続く言葉にさすがにツッコミを入れていた。そんなトンデモ展開が見知らぬところであったなんて、現実は小説より奇なりだ。

「はい。端的に言えばそうなります。いきなり気持ちを問われてもわからないので、保留というか、断ったというか……」

 言葉を濁しているのは、思い出したからだろう。男が男に、という感覚はあまりないが、あの観月に!?ならある。
 更にあの有名すぎる俺様ナルシストボンボン代表の跡部景吾が!?もある。
 いや、ちょっと待ってほしい。理解が追いつかない。

「で、それなのにデートに誘われて、観月はOKしたってこと?」

「僕はお友達でいてくださいって言ったんですよ。なら友達としてならいいよなって言われまして……その、うまく断れずに……」

 全然ダメじゃないか、完全に跡部のペースである。

「それ大丈夫? 押し切られてない?」

「そんな事いわれましても、僕だって人とお付き合いなんてしたことがないので、そういうのわからないんですよ」

 素直に観月が弱音を吐いていて、確かにそういう経験は豊富そうではないと考え至った。女性に興味のある男性なら、この年でも彼氏がどうだの彼女がどうだのあるだろうが、残念ながらテニスと学業と少しの趣味に耽るだけの不二周助においても、恋愛対象などいたことがない。
 そこに更に部活の統括やマネージャーという特性を併せ持つ多忙な観月が、その合間に恋人を作れるとは考えられもしなかった。

「まぁ、それもそうだね」

「で、友達として出かけるなら、そこに他の友達を呼んでも別におかしくはないじゃないですか」

 観月なりに考えに考えて出した結論なのだろう。

「なるほど、それで僕? 聖ルドルフのみんなは?」

「流石に言えませんし、近すぎる距離なのでちょっと……と思いまして」

 他校生の実質ボスに言い寄られてます、なんて仲間に言った日には……と考えると恐ろしい。
 ああ見て観月は聖ルドルフの中心である。それは彼が無理やりその座に就いているというわけではなくて、やり方に難がある時はあれど、部員に認められて慕われているからこそ、あのポジションにいるのだということは、少し中を覗いてみればわかる。
 あれでいて真面目で仲間思いであるし、何より責任感が強い。だから少し観月が威張っていたところで、仲間たちは「個性」で片付けるのだ。口ではなんと言おうと、絶対に誰も見捨てないことを知っているから。
 弟である不二裕太も例外ではなく、観月のことを慕っている。跡部が言い寄ったなどと聞いたら、噴火は免れないだろう。最初から邪険モード間違いなしだ。

「他に友達は?」

「僕は上京してきた身ですし、そんなに多くはありませんし、何より跡部くんの顔見知りという範囲に限ると厳しいですね」

 都大会や関東大会でも見知った顔は増えたが、友達という範囲に入るかはまた別だ。同じ学校内であれば間違いなく友達だが、連絡を取り合う仲といわれるとさほど多くはない。
 不二も弟の裕太を介して、わりと最近に観月とは仲良くなったのだ。それまでは憎き敵だとか、ライバルだとか、たかだかその程度だろう。

「ああ、それで僕」

「はい。あと、不二くんは不用意に誰かに喋ったりもしなさそうですし、僕も喋りやすいですし、僕が性格悪いのもご存知なので、その点を跡部くんに気づいていただいて諦めていただこうかと」

「ひどいシナリオだね、それ自分で言う?」

 それなりに気を許されているというのは少し嬉しいが、観月はああ見えてかなりおべっか使いである。毒舌を交えて気軽に話せる関係は、部外だと極端に少なくなるのだろう。それか極端に険悪かの二択というわけだ。

「相手はあの跡部くんですよ。いいところを見せて甘い汁でも吸おうと頑張りすぎたんですよ。人間の汚さに触れて少しは思いとどまっていただかないと」

 ほら、見事にそのパターンではないか。いい感じに取り入ったつもりで、騙しきれず大失敗しているのだ。相手を上げるにせよ下げるにせよ、観月のこのやりかたは正直に言って下手だ。相手が上手ならドツボなのである。
 自分との交流を得て、それにも気づいたと思っていたのに、詰めの甘さは直らないらしい。しょうがない。

「いいよ。いってあげる。なんか面白そうだし」

「本当ですか!? ありがとうございます。恩に着ます」

 明らかにほっとした声が届く、案外わるい気はしない。

「観月から僕にそこまで言わせるなんてね。当日は何も知らない友達のフリしてればいいんでしょ?」

「それでお願いします。はぁ、良かった。このままストレスで胃が焼け落ちるかと思いました」

 身から出た錆だ、とは思うけれど、なんだかんだで見捨てておくこともできなかった。
 何より、彼は誰よりも不二裕太を理解する者だ。そのために生きていると、自分の前で啖呵を切った男を、不二周助はそれなりに信頼していた。
 それにやっぱり、何か面白そうなのである。このわくわく感には、ちょっと逆らえなかった。





 そして当日の朝が来た。
 日曜日、待ち合わせの場所。周囲にも同じく待ち合わせをしている人の間で観月をみつけた。周囲にまだ跡部景吾が来ていないのを確認して、近寄って声を掛ける。

「おはよう観月」

「不二くん、おはようございます。早いですね」

「そわそわしてる観月が見れるんじゃないかと思って早めに来ちゃった」

 丁寧に軽く会釈してくる観月に、軽く手をあげて挨拶する。

「んふっ、冷静沈着な僕に対するセリフとは思えませんね」

「うん? 僕かえろっか?」

 いつもの高慢ちきな髪をいじる仕草に、少しイラっとしたので冗談をいう。

「わーーっ!!! 待ちなさい、嘘です!!! 気に病んであまり眠れませんでした!!!」

 思い通りの反応をされて、さらっと溜飲を下げた。こういうところが面白くて好きなんだよね。

「うんうん、素直でよろしい。しかし酷い格好だね。どういうセンスしてるのそれ」

 観月の服装はやや奇天烈だった。
 薔薇の模様がかなり目立つ七分袖のカッターシャツは袖のところからフリルが二重に出ている。赤の中にピンクも混じっていて、正直に言って目に痛い。首から太めのシルバーアクセサリーをつけていて最高に本人にあってなくてダサい。それに付け加えられた太めの黒縁の眼鏡が、普段はさっぱりして見える観月の顔の良さを程よく殺している。
 間違いなく町中で前から歩いてきたら横に避けるだろう。

「失礼な、これもシナリオのうちですよ。持っていた服の中でも一番派手なのを選んできました。アクセサリーは部員からダサそうなのを借りました。伊達眼鏡は変装です。バレたくないので」

「それってつまり、センス面でがっかりさせる方向?」

「そうです」

「それならアタリかも」

 あまり隣に並んで歩きたくない雰囲気をしっかり醸し出している、という意味では大正解だ。変なところでシナリオに冴えがでている。
 跡部も可哀想に。自他校ともに女子なんて引く手あまたであろうに、こんな変わり者に惹かれてしまうだなんて不幸だ。早めに友達に戻ってもらうのが吉だろう。
 そこに、思考の端にいた男の声が響く。

「待たせたな、てめぇら!!!」

 そこに現れた跡部の声のする男は、黒のグラサンに黒の帽子、ファーのついた濃い灰色のジャケットに高そうなジーンズ、それらをインさせたロングブーツ。さりげなく胸のポケットに赤い薔薇が差してある。という超目立つ風貌だった。
 思わず二度見した。その間に目を開いて固まっている観月が見えた。
 こんな中学生いたらいやじゃない? と一瞬不二は感想を抱いたが、目の前も観月もどっこいどっこいなので平静を装おうしかない。
 これははっきり言って、正直おもしろい。二人だけでなんちゃって仮装パーティなんてありえない。既にちょっと笑えてきたのを我慢する。普段にこやかにしているのだから、これくらいはお手の物だ。

「やあ跡部、今日はよろしくね」

 極めて爽やかに跡部に声をかける。観月も平静を取り戻したのか、真面目に挨拶した。

「こんにちは、跡部くん」

「時間丁度に来たつもりなんだがな、早いじゃねーの」

 やたら高そうな腕時計で時間を確認する跡部に、観月がぴしゃりと言い放つ。

「身についた五分前行動ですよ」

「あれ、観月もっと前からいなかった?」

 思わず茶々を入れてしまったが、観月の性格からして一番乗りしそうだなとは思った。

「うるさいですよ、僕は後から来るのは嫌なんです。しかし跡部くん、僕は「変装して来てください」って言いましたよね?」

「アン? グラサン、似合ってるだろ」

 澄ましたように帽子のつばに手をやった跡部が見事なウインクを決めている。え、それ観月に対してだよね。本気なの。

「堂々とアピールして来るなといってるんです。見る人が見たら跡部景吾だと即バレですよそんなの」

「俺の存在感が変装なんかで覆い隠せるわけねぇだろうが」

 それをドヤ顔で言ってしまえるのが跡部景吾だな、と客観的に笑う。そのあたりの采配は観月に任せておこうではないか。

「がんばって隠してください。身バレしたら僕かえりますからね」

「待て待て、はやまんな」

「わぁ、なんかデジャブ」

 何か、そういうやりとりを先程した気がする。まぁ、いっか。

「まぁいいだろ。今日の服も似合ってるじゃねーの。かわいいぜ」

 不二は剛速球が頭に衝突したかのような衝撃を受けた。今なんて。この格好の観月を見てストレートに褒められるどころか、本気でそれを言っている。……本気で、いっている???
 思わず笑いをこらえて、口元に手を当てて真剣に考えこんでしまった。そうこうしている間にも、跡部と観月の会話は進む。

「かわいいはやめてください、そういうのじゃないんで」

 どこを見てかわいい判定を出したのか。フリルかな? きっとそう。

「そのダセェ眼鏡は変装なんだろ? まぁ、そんなものでお前の魅力が消えるはずもないがな」

 まってシルバーアクセはいいってこと? 本気で?
 いや、あの眼鏡はダサいと気付いただけでも及第点なのか。
 ああ、これか、観月が恐れていたものは。と直感で思った。跡部景吾は嘘を付くタイプではないし、根っからの陽キャだ。単純にこれは観月を褒めているのである。もちろん、惚れた上で。それが厄介極まりないのだ。
 なんだっけ、海外では自分の気持ちを素直に口に出す文化があって……好きな相手を褒めるのは当然、としてもだ。流石に威力が高すぎる。
 ほら、観月が心もとなさげにこちらをチラチラ見てくるではないか。こんなに不安そうな観月はなかなか見れるものじゃない。

「あ~、もう! ちょっと、不二くんも何とか言ってやってください!」

「え? 観月の服のセンスは正直にいってないと思うから」

「そうなのか?」

「言い方!」

「なんとかするために服屋さんに行こうか」

 どうしてこの場に巻き込まれてしまったのか、を少し考えながらも、面白さでは今週トップの話だなと思わざるをえない。
 跡部に戦慄を感じながらも、なんとか口に出した言葉は、あっさりと二人に認められた。
 観月にシナリオがあったかもしれないが、まあいいだろう。
 とりあえず、何とかしなくては。普通の自分が浮いてしまうという恐ろしい事態に直面しているのだ。






 そうして三人が向かったのは、近場のショッピングモールだった。
 跡部がもっと良い店を知っているだの、車を出すだの言っていたが、観月が奢られるのは断じて却下した上で、服への予算を提示していたので折れたらしい。観月とてそれなりに裕福な家で育っているだろうが、お小遣いを服に費やすとなるとそれなりに庶民の心得もあるようだ。

「そもそも、観月ってセンス悪いよね。薔薇は薔薇として、もうちょっと主張を抑えた方が絶対いいよ」

「面と向かって失礼すぎじゃないですか不二くん」

 今日は特に例外なのだと知っていても、普段から本当に趣味じゃない柄ばかり着ている。
 かといって自分も特におしゃれに興味があるわけでもないので、どこをどうすれば良いかと聞かれたら悩みはする。

「そうか? 華やかで可愛いじゃねーか」

「前言撤回します。もう少し地味に、ですね」

 一瞬噛みついてきた観月だが、跡部のさり気ない一言であっさりと牙を収めた。ダサい格好をしている事を思い出したのだろうか、まさかそれが褒められるなんて想定外だったのだろう。
 まぁ、でも、今日は二人の横やりを買って来たのだ。観月にはもしかしたら他のプランがあったのかもしれないが、友達とショッピングという体を考えると状況はそれほど悪くない。このまま付かず離れず、お友達ごっこを楽しめばいいのだ。
 その流れで、それぞれが観月に似合うものを仕立てる流れになった。メンズ服エリアに入ると、様々なタイプのチェーン店がぞろりと並ぶ。

「観月は顔とのバランスを考えると……うーん」

「バランスか、なら俺様も考えてやるよ。コーディネートなら任せな」

「選ぶのはいいですけど、ちゃんと値札を見てから持ってきてくださいね」

 そうして、跡部と連れ立って店に入り、様々な服を物色する事になったのだった。





 結果として、観月は着せ替え人形になった。
 これが始めるとなかなかに面白かった。自分のためのオシャレではなく、他の誰かを着飾るためにあれやこれやと考えるのは楽しくて、普段は考えないような小物まで色々と見たり試したりをくり返した。
 途中からは跡部と方向性を違えると台無しになる気がして、跡部もつかまえてあれやこれやと見聞を広めながら、とっかえひっかえで着せ替えて遊んだ。
 段々と観月が面倒がりはじめ「もう試着はしませんからね」なんて漏らす頃にようやく落ち着きを見せた。

 跡部景吾が最終的に選んだのはダークグレーのベストだ。
 派手すぎる薔薇のシャツの面積を減らし、体のラインを出すことによって観月の姿勢の良さがよく分かる一品となっている。
 それを見て不二周助が選び追加したのが、淡いくすんだピンクのストールだった。
 かっちりとキマりすぎている中にふんわりとした曲線を取り入れることによって、さりげないオシャレ感を演出している。ついでにダサいシルバーアクセもさり気なく隠し、パンチの強さを抑えてある。

「ああ、うん。いいね、派手すぎるシャツもこうして部分的に隠せば丁度いい塩梅になるし、顔の濃さとも調和してる」

「褒めてるんですかそれ」

 観月は顔が整っててまつ毛も長いし圧が強いから、淡い色味の方が似合うと思うんだよね。と思っているがそちらは言わない。

「そうだな。派手にかわいいのも良いが、より優雅に精錬された美しさも悪くねぇ」

 跡部も気に入ったようで、観月の全身を見やりながら頷いている。
 跡部にとっては安物なのだろうが、庶民のショッピングはそれはそれで楽しかったらしく、彼は最初から全力で観月に似合うものを探していたのだから面白い。
 根が真面目というか何と言うか、これだから観月はやりにくいのだろうなと思ったりなどした。現に観月はいたたまれなさそうにしている。

「歯が浮くので跡部くんはそういう褒め方しないでください」

「なんでだよ」

 まあ、同年代男子相手に言うセリフではないよね。と思うがあえて突っ込まないようにしている。こうして見ると跡部からの好意はダダ漏れだな、と近くにいるだけで感じるのだから恐ろしい。
 観月、がんばれ。想像以上に難敵だ。
 観月本人も奇抜な格好からそれなりにオシャレな見立てになったと感じているのか、そのまま追加したアイテムをお買い上げしてくれた。

「その格好なら帽子なんか被せても悪くねぇな」

「色付きグラサンとかも良くない?」

「もう予算オーバーなのでナシです!」

 その後もあちこちのブティックの展示に引っ掛かりながらも、ワイワイと言い合いながら店内を歩いた。
 あまりこういう買い物はしたことがなくて、友達と遊びにショッピングに行くという体験を初めていている気がする。
 跡部もこのようなショッピングモールに来ることは多くないのか、なんだかんだで色々買い物を楽しんでいるようだ。
 確かに、自分一人なら眼鏡の試着なんて一生しないところだったのだけれど、ブルーライトカットの眼鏡くらいあってもいいのでは? なんて観月に言われて、色々試着して、似合うと言われた眼鏡をひとつ買ってしまった。いや、でもこれは思い出に残る品にきっとなるな。
 次第にメンズフロアは雑貨店が混ざるようになり、次は足を休めに喫茶店にでも入ろうかという話に流れた。そんな中、ふと綺麗な白が目に留まった。

「観月、これも似合うんじゃないの」

 なんて、冗談なのだけれど声をかける。
 ディスプレイに展示されていたのは、真っ白のひらひらのワンピースだ。すらりとしたマネキンが着こなすそれは、真夏の浜辺を歩いている清楚な女性像のあれだった。

「似合うわけないでしょうが!!!」

 即座に的確なつっこみをもらう。頷かれたら逆に怖いよね。

「いや、似合うだろ」

 怖いやつがここにはいた。跡部はマジ顔だ。絶対これは脳内で着せている。
 ドン引きしたの顔に出てないといいな。

「女性用ですよ!? 僕に入るわけがないでしょう!!!」

「え、入ったらいいの?」

 思わず揚げ足を取ってしまう。サイズ的にフリーであれば、いけなくはないと思うのだけれど。似合うかどうかは別の話である。

「よくありません! そも体格なら僕とあなたで違いはないでしょう。なら不二くんが着ればいいじゃないですか」

「それもそうかも。じゃあ、僕が着たら観月も着てくれる?」

 強気に言い返してくる目が面白くて、ひょうひょうと言ってのける。

「いいですよ、着れるものならどうぞ」

 冗談だと思っているのだろう。まぁ、冗談なんだけれどね。
 そんな誰も得をしないような事に、金や時間を注ぎ込むほど僕たちは暇人ではないし、そんな趣味もないし、酔狂でもないのだ。

「よし、言質は取った! 俺様が買ってきてやる」

 ……いや、ここにいた。そんな金と趣味を併せ持つ酔狂な男が。

「ワア、ヤッター」

 思いが籠もっていない返事をついしてしまった。

「跡部くんをのせないでください不二くんのバカーーー!!!!!」

 ずかずかと店の奥に入っていった跡部を、観月が叫びながら連れ戻しに追いかけているのを見て盛大に笑ってしまった。
 いや、うん、僕はもうなんでもいいや。観月を道連れに遊べるなら白いワンピースの一着や二着どうってことないでしょ。
 似合わなさに慄いて跡部の目を潰す作戦にしよう。そうしよう。
 いやぁ、これは想像以上に楽しいかもしれない。






「買い物、思ったより楽しかったね」

 足を休ませるために適当な喫茶店に入り、ようやく一息ついた。
 それなりシャレた店内はそれに賑わっている。跡部はこんなところに来たこともないのだろうな、なんて思ったりもするが、観月が選んだ店なので特に不満もないらしい。注文は観月と同じものでいいと言い残して彼は携帯を持って店を出ていった。何かと忙しいのだろう、連絡をつけに行ったようだ。
 ティーセットを二つとチャイを一つ注文して、観月は肩の力を抜いたらしく溜息をついた。これくらいで疲れるような鍛え方はしていないが、気疲れというものだろう。

「最後にどっと疲れましたよ。跡部くんを止めるのに僕がどんだけ苦労したと思ってるんですか」

 へなへなと座席に背を預ける観月を見て笑う。
 いや、あんな展開になるとは思わなかったんだよ。面白いよね。言ったら怒られるから言わないけども。

「ごめんごめん、軽い冗談のつもりだったんだよ」

「そういうのを全部真に受ける人なんですよあれ。皮肉も通じない時もあるくらいです」

 それはなんとなく想像ができる。跡部景吾の陽キャレベルが高すぎる上に、観月はじめへのプラス補正が強固にかかっている。逆にどうやったらそこまで補正をかけられるのか気になるが、それは裕太を含めて聖ルドルフのメンツを見ているとそれなりに理解はできる。
 観月が周囲との間に作っている壁は高い。それを越えてみると、一見して冷たく理知的で高慢に見える性格とは真反対の属性が見えるのだ。
 冷めたふりをして情に厚い性格だとか、性格が悪いように見えて素直なところとか、尖っているように見えて思いやりがあるところとか、天才のふりをしているが努力家で研鑽を惜しまないところだとか、あとは気が強いように見えて意外と脆いところだとか。そういう側面を見てしまうと、人は許してしまうのである。
 跡部の場合はそこに趣味が合うだとか、見た目が好みだったなんてのもあるだろう。なんかこう、勝手なイメージだけど清楚だけと気の強そうな子がタイプな気がする。ううん知らないけどきっとそう。
 そうなるとまぁ、男女の別を考えなければ観月は間違いなく視野に入るわけだ。

「だよねぇ。あれ、かなり本気だと思うなあ」

「怖いこと言わないでくださいよ」

 色ガラス越しに店外で電話している跡部を見ながら会話をする。遠目に見てもスタイルが良い。相手が観月でなくて普通の女性だったら断る人なんていないだろうに、あえて茨の道を進んでるあたり彼も相当な変人だ。

「どうするの観月、君のシナリオぜんぜん効いてない気がするんだけど」

「どうにかできたら今頃してますって」

 それどころか一緒になって思いっきり楽しんでしまったのだけれど、別に邪魔をしろとか盾になれとか、そういうオーダーは出ていない。
 頑張れ観月。取られるのはちょっと癪だな、とは思うけれど、この様子を見るに観月の態度はそう簡単に軟化しないだろうと踏む。

「僕もお手洗いに行ってきます」

「いってらっしゃい」

 観月を見送って、手持ち無沙汰になり携帯を取り出す。時間的にお茶するにはぴったりな時間だと確認する。
 確かにこれで二人きりだったら完全にデートだよね。観月が窒息死を怖がる気持ちも理解できるというものだ。
 そこへ入れ違いになるように跡部が席に帰ってくる。

「観月は?」

「おトイレだって。ねえねえ跡部」

 このタイミングを逃さない手はないと話を切り出す。

「観月のどこを好きになったの?」

 まさに直球だ。こういうのって自分の事じゃない方が聞きやすいよね。
 跡部は一度だけ知ってたのか、みたいな顔をしたけれど、特に怒ってはいないようだ。

「てめえも分かってんじゃねぇの。まぁ、色々気に入っているところはあるが、俺様がそれを教えてやる義理はねぇしな」

 それもそうだ。でもそれこそが答えでもある。そこそこ嫉妬はするタイプかもしれない。

「ふぅん。まあいいけどね」

「それに俺様は懐が広いからな、あいつが好むものも含めて愛してやるぜ」

 ん、ちょっと方向がおかしくなりつつある気がする。

「おまえの事も俺はそれなりに気に入っているし」

「うん? そうなんだ」

 ほら、やっぱり来た。視野が広すぎるんだよね。
 しかも初耳だよ。そこまで接点はなかったように思うのだけれど。あえて挙げれば手塚国光の信奉者じみたところだろうか。まあ実力を認めている相手というのもあるけれど、彼は真面目でブレない性格であるから、良き理解者という面もあるし、ライバルであるという面もあったりするのだけれど。
 でも、一体どこが? という疑問を持つと共に解答がおりてくる。

「綺麗なテニスをするやつは嫌いじゃねえ」

 ああ、そっちね。なるほど。感性だけでテニスをしている身としては嬉しい言葉ではあるけれど、跡部景吾に言われるのはちょっとね。
 あ、今なんかちょっと観月の気持ちが理解できたかもしれない。

「あと、そうだな。あれがおまえ相手だと言葉を濁す事がないし、怒ったり笑う時がある。俺が欲しいのはあいつのそういうところだからな。なら、一緒にいたほうがいいだろ。おまえもこっちに来いよ」

 それを聞いて思わず言葉に詰まってしまった。
 ああ、ダメだこれ。二人の間に入る隙があるとかないとか、そういう次元ではなくて、全てを越して直球に全部を好きになるタイプなのだ。実際それができそうだから怖い。
 うわぁ、これはちょっと、いや、かなり照れるな。え、僕も逃げていい?
 僕は躱すことやカウンターならそこそこ得意かも、なんて自惚れていたのだけれど、強敵すぎてこれはちょっとかなわないや。





「と、いうわけで、今日の結論としては『跡部は僕がくっついていても気にしない』そうだよ。どうする観月?」

 買い物とささやかなティータイムを楽しんだ三人は、あれから特に何事もなく解散した。
 何もなかったように思わせておいて、夜になって結果報告の電話をしているわけだ。
 仲良く買い物して終わっただけに見えて、実にでかい爆弾を抱えてきましたなんて今更ながらに事実をつきつけ合っている。

「どうするもこうするも。……どうすればいいんですか僕は」

「お手上げだよね」

 作戦は失敗、観月のシナリオは白紙に戻る散々な結果だ。
 まさか自分を含めて好きになれるとか、言われる事があるとか思わないじゃない。でもあの瞳は冗談じゃないんだよね。
 じゃあ、別に僕は間に挟まることはなくない? と思いかけもするが、それはそれで味気ない気もする。少し深入りをしすぎたのかもしれない。
 愛だとか恋だとか、そういうものはまだよく分からないけれど、ああやって遊ぶのは悪くなかった。そう考えると「ナシ」とは言い切れないのかもしれない。

「んー、僕は一緒でもいいんだけどね」

 ぽろりと溢れた呟きは、誰にも届かないくらいの声だった。

「はい? すみません、今少し聞こえづらかったんですけど」

「なんでもないよ。まあ、友達で突き通すしかないよね」

 そして、もう少し付き合ってから決めようだなんて呑気に考えだした。
 なるようになるでしょ。交友関係で悩むとからしくないことはやめよう。

「そもそも友達以上なんてないんですよ。次こそ僕のシナリオを決めてやります」

「がんばってー」

「不二くんも一緒に頑張るんですからね!?」

 さり気なく巻き込まれていて、思わず笑ってしまった。
 あと、観月に必要とされているのは悪くない気分だったから。
 ああ、聖ルドルフのメンバーはこういう気分だったりするのだろうか。実はさっきのセリフも聞こえてたんじゃないか、なんて邪推してしまう。

 なお、この後に跡部から『白ワンピースの件について』というメッセージが送られてきて、観月が絶叫し、僕は腹がよじれるほど笑うことになるのだった。








不二観のWebプチオンリーがあると聞いて、実は不二観そこそこ好きなのでは?
と思った人が書いてみよう……のつもりで書いていた不二観と跡観が混ざったカオス話。

私の不二兄は根が善良で優しい男で裏なんてないし(あるぞ?w)
観月さんに対しても優しいんですよ!!!(優しくないぞ?w)
って言いたかったのに出来た作品がコレなのでもうだめかも知れない。
私の理想の不二先輩はまだ遠い……。

そのうち色んな方向のファンに刺されそうだなって思って書いてたけど
書いていた人は結構楽しかったです。
タイトルはなぁんにも思いつかなかったので、その時に聞いていた『さよならDINO』から。

あ~、誰か白ワンピースの話とか書いてくださいよ~(笑)


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