登場人物:忍足 向日 芥川
CP傾向:向日×忍足
制作時期:2007年5月
何故かいきなり岳人×侑士です。
ダブルスを組んで、気づく心
ダブルスを辞めて、気づく心
そんな告白話です。
ちょっぴり侑士が別人かもしれないorz
※ この作品は古い作品なため文章が稚拙です。
本来なら削除したいのですがマイナーなので残してあります。
それでもいいよ!という方のみお読み下さい。
「なぁ、岳人」
部活後の更衣室で、突如声をかけてきたのは、先日ダブルスパートナーを組むことになった侑士だった。
忍足侑士。一年の時と、そしてこの三年で同じクラスになった、少し変わり者だ。同じクラス、同じテニス部のレギュラーというわけで、それまでも同年代のテニス部員として面識もあったし、友達としては親しいほうだったが三年になってから一気に仲が良くなった。
侑士は変わり者といわれる所以は、関西人とは思えない落ち着いた振る舞いとポーカーフェイス。何事にも一線を置いて、冷静に物事を判断できる大人びた顔。あと、独特の美学とセンスだ。
名前で呼び合うくらい仲良くなったが未だによくわからないところだらけだけれど、面白いし色々とサポートしてくれるから、よく一緒にいるのだった。
そんなある日のことだった。
家の方向が途中まで同じだから、いつも一緒に帰ることになっていて、先に着替えが終わった侑士は壁に持たれかけながら俺のことを待っていた。
他愛ない会話をして、軽く笑いながら話していたのに、急に話が途切れたと思ったら、すごく真面目な顔して侑士が声をかけてきた。
「なぁ、岳人」
「何だよ」
窓から夕日の赤が射し込み、部屋は橙の光と、暗い影に分かれている。
侑士も夕日に照らされて、黒い髪も綺麗に輝いていた。
「俺な」
侑士の口がゆっくりと紡いだ言葉を、一瞬理解できなかった。
「岳人のことが好きみたいや」
俺がぽかん、としていると、侑士は困ったように笑って
「ごめんな、いきなり。気持ち悪い……やんな」
そう、自嘲気味に言うものだからつい
「いや、気持ち悪くはねぇけど」
と返してしまった。いや、実際気持ち悪くなんかはない。
ただそういうことに興味もなかったから理解できなかったし、答えられないだけであって、素直にそのことを伝えた。侑士は軽く頷き。
「うん、いいねん。この事は忘れて? 俺も忘れるし」
と、あっさりと笑いながら身を引いた。侑士の静かな告白は、冗談ではないと思ったが、侑士もあっさりしていたし、俺もその時は毎日がテニスの事で頭がいっぱいだったから、それでいいと思ったし、文字通り俺は忘れるようにして、そして徐々にその事は考えなくなっていった。
侑士との関係は、全く変わることもなく、ただ俺たちは親友として仲を深めていった。
後に宍戸と鳳のペアにダブルス1の座を渡してしまうことになるが、間違いなく氷帝レギュラーの名ダブルスは、俺と侑士のペアだった。
しかし、その世界は容易く崩れることになる。
「全国大会二戦目、vs青春学園のオーダーを発表する。今日からこのオーダー通りに練習を開始するので、よく聞いておくように」
「「「はい!!!」」」
オーダーも何も、ダブルスは2ペアともほぼ固定しているし、入れ変わるのはシングルスだけだ。そう思っていたのに、俺にしてはいきなり予想外のオーダーを聞くことになった。
「シングルス3、忍足」
「ッ!!!」
余裕をかましていた俺は思わず、息を呑んだ。侑士がシングルス3に行くということは、俺とダブルスを組むことはないということだ……。そして、俺はダブルスプレイヤーだから、他の誰かと組むか控えに回ることになる。
ダブルス1の座を宍戸・鳳ペアに譲ったとはいえ、俺と侑士は氷帝の黄金ペアと言わしめたコンビだったのに。やはり、前の青春学園との敗戦が響いたのだろうか。呆然と考え事にのめり込む俺の耳に、続きのオーダーが響く。
「ダブルス2、向日、日吉」
は?俺が、日吉と……?
後ろ斜めにいた日吉を見やると、あちらもこちらを同時に見ていたのか小さく会釈を返して来た。
日吉は生意気な奴だけと、それだけの実力は兼ね備えているし、冷静に見せかけて結構アツイ奴だって俺はしっているし、なんだかんだ言っても先輩にはちゃんと敬意は払っているし、俺にとっては可愛い後輩の一人だった。だから、ダブルスを組むのが嫌なわけじゃない。
それに日吉はダブルスを組んで公式戦に望むのは、今回が初めてなはずだ、だから俺がリードして補佐してやらなくちゃいけない。こういう時こそ、ダブルスプレイヤーとしての能力を生かして上手くやらなくちゃいけないとも思う。
けれど……けれど、俺は心のどこかで落胆していた。侑士とのダブルスは、突如として終わったのだ。
その日からの練習は勿論、日吉とのダブルス特訓に入ったし、部活終了後もちゃんとダブルスができるか心配だと言う日吉に付き合って居残る事にしたから、侑士と一緒には帰らなかった。
その時はテニスに夢中になっていたから気づかなかったけれど、きっと俺は、こうやって侑士と離れてしまうことに落胆していたんだと思う。
一人で帰る夜道はすごく寂しくて、離れていてもずっと隣にいる気になっていたんだと気づいた。
次の日、学校に行くと、侑士はいつも通りだった。
休み時間は友達も侑士も一緒にバカやって笑うし、授業だっていつもどおり宿題見せてくれるし
けれど、何かが違う……。
なんて言えばいいのかわからないけれど、侑士が他の奴と話をするたびにもやもやする。妙に不安になる。いや、侑士と一番仲がいい親友なのは俺なんだって自信はある。でも、侑士が遠くにいってしまう気がした。俺は授業もそっちのけで考えに考えた。
どうすれば、このもやもやした心が晴れるんだ?
あっという間に昼休みになり、なんだかんだで昼飯も一緒に食べた――他の友達も一緒だけど――。談笑しながら、侑士が次の歴史の授業の用意をしているのを見て、そこで俺は、次の歴史の授業の教科書を忘れていることに気づいた。
「あ、やべ……俺、家に教科書おきっぱで来たし」
「まだ時間あるし、借りてきぃや、ジローやったら全部置き勉してるやろ」
「おう、ちょっと行って来る」
そうして俺は教科書を借りに席を立つ。
しかし、教室をでる際に侑士が他の奴らに向けている笑みを見て、何故か無性に胸が苦しくなって、俺は慌てて足を速めた。
何だよこれ……妙に腹が立つ。なんで、そんな綺麗な笑みを他人に向けるんだよッ!
俺とのダブルスも解散になったのに……侑士は何も言ってくれない。朝から昨日の新オーダーの話は一度も出てきてない。侑士にとって、俺は親友だと思うけれど、だからこそ「残念だ」とか言ってくれてもいいじゃないか。
ああ、これが俺の腹が立つ理由?自覚したら更に腹が立ってきた。
2つ離れているジローの教室に行くと、案の定ジローはおらず、とりあえずジローの机から教科書を取り出すと、一言借りることを告げにジローのお気に入りの裏庭まで足を進めた。
「お~い、ジロー!!! 教・科・書・借・り・て・く・ぜ!」
思った通りジローは定位置の、涼しい風が通る木陰で気持ち良さそうに寝ていた。俺は丸めてメガホンにした教科書をジローの耳に当てて、一文字ずつしっかりと呼びかける。それでもジローは『ん~~~~?』と間の抜けた声を上げながら少しだけ瞼を持ち上げると俺を見てふにゃりと笑った。
「あ、がくと~。岳人もお昼寝しにきたの?」
「ちっげーよバカ」
バカといいつつも、しっかりと隣に座ってる俺も、バカの一部か……。でも、今はあそこに帰りたくなかった。侑士の綺麗な笑顔が心に引っかかって、そのたびに憤りを覚えるからだ。
「岳人~おれね~」
すぐに寝てしまうのかと思ったジローは、うとうとしながらも起きているみたいで、隣に座った俺の顔をぼんやり見ながら、気の抜ける声で話しかけてきた。
「何だよ」
「今回、控え選手なんだって……超ショックだCィ~」
本当にショックなのか、とても判別できないだるさでジローは渋ると、俺の腰に手を回して顔を摺り寄せて来る。昨日の帰りに他のオーダーは確認したが、確かに今回はジローが控えだ。前の青春学園戦で、ジローも不二相手に完敗していたから、その理由もあるんだろう。レギュラー落ちはしていなかったが、控えであるジローまで回る確立は極めて低い。
だが……悲しいのなら自分だって一緒だ。
「それ言うなら俺だって、侑士とダブルス組めなかったんだぜ?」
日吉と組むのが嫌なわけじゃねーけど、と付け足すも、やっぱりショックで不満顔になってしまう。そういえば、オーダーの話をするのはジローとが始めてだった。
「うん、でも忍足はおれよりシングルスも強いC……」
確かにそうなのだ、現氷帝の天才と跡部に言わしめるほどに侑士は強い。
「そんなの解ってる。なのにさ、侑士の奴はぜんぜん悔しそうじゃねーんだぜ? 親友なのに薄情な奴」
ダブルス解散してしまったのはショックだけれど、言われてみれば仕方が無い。俺はそのことに対して侑士が何も言わずに離れていってしまうのが悔しいのだ。俺はこんなにも落胆したのに。
腐れていると、暫く黙っていたジローがぽつりと呟いた。
「岳人、もしかして……忍足のこと、好き?」
「はぁ? ……そ、そりゃ好きだけど」
突拍子も無い質問に目を白黒させるも、好きといわれたら勿論好きだから頷く。
「……いや、友達としての好きじゃなくって」
「……」
ここで『他にどんな好きがあるんだよ』と返すほど、俺は子供じゃない。そう、それはかつて侑士が俺に言った類の「好き」と同じ意味のものだろう。
「岳人さぁ、気づいてないと思うけど……忍足に結構依存してる」
「依存? 俺が侑士に?」
「うん。……知ってた? 忍足も…前は岳人に依存……ていうか恋してた」
それは知ってる、直で告白されたし。
「でもさあ。諦めたんだよ、岳人のこと……。あれ何時頃だったっけなぁ。忍足は感情を殺すのすごく上手いから……だから、ダブルス解散しても悔しくないんだ。とっくに恋っていう依存を諦めてるから。だから、依存したまんまでいる岳人だけが、悔しいんだと思う。俺には岳人の依存が、友達の『好き』なのか、違う『好き』なのかわかんないけど……」
でも、もし友達としての『好き』なら、忍足を許してあげて
じゃないと、あまりにも……報われないじゃん―――。忍足はちゃんと諦めたのに。
ぽつぽつと紡がれた言葉は、やがて涼しい風に流されて消えていく。萎んでいった声音の代わりに寝息が聞こえてくる、またジローは寝たようだ。
しかし、俺はそんな事も全く気にせず、今ジローが言った言葉を反復していた。確かにそうだ、俺は……侑士に依存してる。侑士はいつも傍に居て、クラスでも部活のダブルスも帰りも一緒だった。それで満足していたし、それが当然だったから何も問題はなかったのだ。
でも、その一つを無くしただけで、ここまで不安になるとは思わなかった。普通に友達と……親友としていくなら、ダブルスが解散しただけで何なのだ。それからも友達でいれば、このままエスカレーターで上がる氷帝のことだ、ずっと親友でいられるだろう。
でも俺は侑士にそれ以上の物を求めていると気づいた。それはダブルスのペアに及ぶまでの強い絆。
侑士の傍にいたい。
侑士のペアでありたい。
侑士のものでありたい。
そして同時に、侑士を俺のものにしておきたい。
誰にも、侑士を渡したくない!
そうか、これって『好き』ってことなのだ。
そう自覚した途端、妙にスッキリしたと同時に、慌てた。思わず、勢い良く立ち上がって、半分俺に抱き付いていたジローの体と頭がごとりと地面に落ちる。
しかし一向に起きそうに無いジローに、俺は一瞬だけ振り返ると。
「サンキューなジロー! あ、教科書あとで返しに来るぜ!」
そういって、クラスに戻るために走る。もう何だってできる気分で、階段も軽く三段飛ばしで駆け上がった。
今日中に伝えよう、侑士に、好きだって!
愛してるって!
俺の物になれって!
俺も、お前の物になってやるからって!
気分は超ハッピーだった。
続く
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自分でもいきなり岳人×侑士かよ!
とびっくりな思いつき話です。
うちの忍足は、ミュの影響を受けてややクールビューティ(?)のようで
さくっと玉砕してさくっと諦めてます。
途中で忍足は岳人への友情的な依存は全くないように書かれてますが
私は……友情の愛も、恋心の愛も同じベクトルにあると思ってるんですよ
友情でも嫉妬しますしね!
なので、忍足は恋心による依存を諦めたと同時に
友情的な思いも相手にぶつけないようにセーブしてます。
故に忍足は淡白に見えるのですよ!
描き方がへたですみません、解説で説明とか字書き失格だよなぁ(´д`)
ちなみにこれだけでも読めると思いますが続き物になる予定です。
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