登場人物:忍足 向日
CP傾向:向日×忍足
制作時期:2007年5月
『信じていた黄金の羽根』の続きです。
乙女ではないつもりですが……
泣いちゃうような侑士が嫌な方にはおすすめできません。
※ この作品は古い作品なため文章が稚拙です。
本来なら削除したいのですがマイナーなので残してあります。
それでもいいよ!という方のみお読み下さい。
授業が終わって、放課後になる。放課後になって部活が来る。
そして、部活が終わって、下校時間が来る。
俺は、妙に気合が入っていた。
今日は侑士と一緒に帰る約束をしていて――普段から暗黙の了解で一緒に帰ってはいたが、今日はしっかり取り付けた――帰りになったら、忘れ物をしたといって教室に二人で戻って、そこで告白するのだ。
今はその教室へ向かう階段を駆け上がっているところ。思わずウキウキして二段飛ばしで上がってしまうが、侑士を置いていくと付いてこなくなったら困るから、後からゆっくり上がってくる侑士を何度も待った。三階のクラスの教室まで、今日の部活の事とかを話しながら歩く。
「せやけど、教室に忘れ物とか……今日は岳人、忘れてばっかやなぁ」
「それなんだけど、お前のせいなんだって」
教室に着いて、俺は自分の席に駆け寄り、あらかじめ忘れておいた筆箱と教科書を取り出す。
「何やそれ、なんで俺が関係してくんねん」
軽く笑いながら侑士は自分の机に片足を上げて座りかけた。俺は、それを横目で見ながら、リュックに忘れ物をつめこむ。
「だって、俺、昨日は侑士の事が頭にいっぱいで殆ど眠れなかったし」
「はは、何の冗談や」
可笑しそうに笑う侑士を、夕日が赤く染める。
「なぁ、侑士」
この状況は、そう……侑士が俺に告白した時と同じシチュエーションだ。二人っきりで、夕日の射す部屋に居る。
俺は、先ほどのおちゃらけた空気を全部吹っ飛ばすくらい真面目に、熱く侑士の名前を呼んだ。
「何や岳人、いきなり」
侑士も過去の告白をもしかしたら思い出したのかもしれない、珍しく驚いた顔をしていた。でも、そんな驚きも綺麗にすっ飛ばして、俺は言い切った。
「俺、侑士のことが好きだ」
「え?」
「今日気づいたばっかだけど、ずっと好きだった。ダブルスでペア組んでたから気づかなかったけどさ、俺は侑士が好きだったんだ。友達としてじゃない、ずっと前、侑士が言ったのと同じ意味の『好き』……だぜ?」
侑士は相変わらず、驚いた顔のままぽかんとしていた。
俺は実は、この告白が上手く行かないなんてことはないと思っていた。だって、侑士はずっと前に俺に告白していたから、成功して当然だろ?
でも、侑士は……言葉を発しないまま、泣いた。涙をぽろぽろ零して。
「そんなん……そんなん、ずるいわ……」
最初は嬉しくて泣いてるのかと思った、それくらい自信はあったのに。
「岳人、ずるいわ……俺、とっくに諦めてんのに……何で今更……」
それはどちらかといえば、悲しさに近い涙のようだった。はらはらと零れる涙に気づいた侑士は、眼鏡をとって腕で一度目を擦ると、逃げるように扉に向かう。
「ちょ、おいっ」
バタンと乱暴に閉められた扉に慌てて駆け寄って、逃げた侑士をすぐさま追った。
「逃げんなよ! 何で逃げんだよ!!!」
俺の言葉を無視して侑士は階段を素早く下りていく。そういえば、と、ジローが言っていた言葉を改めて思い出した。
「忍足は感情を殺すのすごく上手いから……だから、ダブルス解散しても悔しくないんだ」
そうだ、侑士は感情を隠すのも殺すのも上手い。それはテニスのプレイにも活かされている。
あの日、あの後、本当に……本当に侑士は俺を諦めることに成功していたんだ。本当に感情を殺して、殺しきって、全てなかった事にしていたんだ。
俺は忘れるだけで良かったかもしれないあの告白。でも告白した侑士は、忘れるなんてだけでは済まされない、だから殺したのだ、その感情全てを。
だから、その殺した心を再び呼び返すことが、怖いのか?
とにかく、逃げる侑士だけは捕まえなくちゃいけない。俺は、本気で、階段を飛び降りた。もう十段くらい一気に。
そして、侑士の腕を掴んで止めた。びくりと肩を揺らして止まった侑士は、目に涙を滲ませながら軽く睨んでくる。
「だから諦めなくていいっつってんだよ!」
「無理や、もう諦めたんや! 諦めて、岳人の事は今はもうそんな風には見れへんのや」
「だったら、何で逃げんだよ! 何でこんなに泣くんだよ! いつものお前だったら、淡々とそう言えば……いいだけだろ?!」
「……ッ!!」
ほらやっぱり、まだ想いが残ってんじゃねぇか!だったら、少しでも残ってるんだったら、俺にはいくらでも望みはある……だろ?そう信じて言葉を探す。
「侑士、俺……ダブルス解散になってすっげぇショックだった。俺な、ダブルスペアって肩書きだけで、侑士は絶対俺のもんだと思って安心してたから。ごめんな、好きだってこと自覚すんの遅れて」
何もいえないでいる侑士をいいことに、抱き込んで、ゆっくり刻み付けるように話しかける。
「でもな、俺は侑士のことが大好きだ……嘘じゃねぇ、俺の全部をやるよ」
――だから、お前を全部くれ――
優しく、なるだけ優しく、でも焦がれる思いをいっぱい摘めて。そう、耳元で囁いた。
「ずるいわ……ほんと、何やのそれ……ほんと綺麗に忘れられた思たんや。やのに……」
涙の混じる声で、不満そうに侑士は言葉にすると本当に小さい声で、侑士は一言だけ呟いた。
「やっぱり俺も、好きや」
あれだけアツイ告白をしておきながら、次の日の侑士は普段どおりだった。
いつもの澄ました態度に、たまにおちゃらけたセリフ、薄い……けれど本当に綺麗な微笑。でも、それで俺は満足だった。今の侑士は遠くない、俺の近くにいる。
もう怖くはない。この気持ちを知った俺達は絶対無敵のペアだから!
終
『信じていた黄金の羽根』の続編、岳人×侑士です。
ずばり直球告白編。
岳人は気持ちに気づいたらストレートなタイプ希望です。
侑士泣かせてごめんね!
いつもクールに装うポーカーフェイスな落ち着いた侑士が理想なんですよ。
本当に装うだけのあたりがポイントなんです!!!
なんというか、ちょっと不器用?な感じがいいんです。えへへ……
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