登場人物:ディスト ピオニー アッシュ
CP傾向:アシュディス
制作時期:2007年 1月
ED後200%捏造アッシュ×ディスト!4の続き。
尚も登場人物全員に、別人注意報発令中!(特にD)
またもや会話さえないアッシュとディスト……orz
穴だらけ注意!
『元神託の盾が、脱走犯ディストを捕縛しました』との報せを受けたのは今朝方のことだった。牢屋へと連行されたのは昨日の深夜とのことで、既に自室にて休んでいたピオニーには朝に報告が回されたのだった。
その報せを受けた皇帝ピオニー九世は、部下達に咎めを受けないように、通常の政務の速度は何なのだと思われんばかりのスピードで日程を全て片付けて牢屋へと向かっていた。
久々にサフィールの顔を見るなと、ピオニーは複雑な思いにかられた。最後に会ったあの日は、手も付けられないくらい暗い影を背負っていた。全てを拒んでいた彼は、もはや自分の声すらも届かなくなっていたのだ。
諦めたというわけではない、ただ彼が頭を冷やしてくれれば良い方向に進むのではないかと、そう信じていた。
そして彼が脱走したことを聞かされるまで、長いこと彼について考えることはしなかった。脱走した時も、確かな喪失感に見舞われたが、これで良い方向に進めばいいと思っていた。
結局、手の付けられなかったディストの拒絶が怖かったのだろう? そう自問していた時期もある。確かにそうだったのかもしれない、昔とは別人のようになってしまった彼が怖かった。
陽の目を見て、彼自身を取り戻すことはできたのだろうか? 脱走して捕まって、また脱走してまた捕まって……彼は昔のように悔しがってはくれないだろうか? からかえるような余裕はあるだろうか?
思考を繰り返しながら、牢屋への階段を下りていく。その世界は相変わらず、肌寒い質素な空気を漂わせて、皇帝を迎え入れた。
「サフィール、サフィール! 来てやったぜ」
牢番から聞いた牢屋へと話しかける。滝の静かな音だけが響く牢屋の奥から確かに人の気配があった。
「……ピオ…ニー?」
「どうだ元気にしてたか?」
「随分とお久しぶり、ですね」
暗い陰から、人影が動きく、それはひどくゆっくりと動くと静かに姿を現した。
ピオニーは、ただ息を呑んで驚いた。
「サフィール……」
確かにそれは、サフィールであり、ディストだった。だが、あまりのもこれまでの雰囲気と、持つ空気が違っていた。
少し色を戻したかと思われる肌色に、健康を取り戻しかけているが、相変わらずの線の細さを覆い隠すように落ち着いたシンプルな服に身を包み、肩からショールを羽織っていた。
長く伸ばされた白銀の髪は丁寧に括られ、柔らかに肩にかけられている。
しかし、何よりも変わったのは、その瞳だった。ここ数ヶ月、彼が脱走していた間に何があったのだろうか?
ただ弱気に潤む目や、鋭く睨むような眼光や暗い絶望を映した瞳しか、知らなかったのに、今ここにあるのは、そう……何かを悟ったかのような、ただ落ち着いた瞳だった。ただ穏やかに薄く微笑む彼を、ピオニーは見惚れたかのように見ていた。
「あなたは、無精髭を生やしたのですね」
威厳があるように見えて、よくお似合いですよ。揶揄でもなんでもなく、ディストが笑う。自分がどうやっても取り戻すことができなかった、昔のような彼の本当の笑顔を脱走している間に、彼は取り戻していたのだ。
「ああ、そろそろ若さを売りにして皇帝はやってられないだろうと思ってな、もう四十路だろ?」
「そうですね」
穏やかにディストが笑う。こんな笑顔も見たことがなかった。
「サフィールは、変わったな」
「ええ、自分でもそう思いますよ。人は四十路を前にして尚、変われるものなんですね。私はつい数ヶ月前まで、この牢屋で、世界を呪いながら朽ちていくものだと思っていたのですが……。ほんと、人生はわからないものです。こんな穏やかな気持ちで死を迎えることができるなんて」
笑みを浮かべたまま、サフィールは瞼を閉じる。ピオニーの心がチクリと痛んだ。サフィールの心境がどう変化しようが、ここに戻ったからには死か終身刑しか与えられない。重罪の身で被害を出し脱走した彼に対しては、死を唱えるものの方が多いだろう。
そして、それを全て承知で彼は生を諦めて微笑んでいるのだ。
「なぁ、サフィール。一つ聞いていいか?」
「どうせ、生い先長くはないのです、遺言とばかりに何でも答えましょう」
「……ここを出て、何処で、誰と、何をしていたのか」
「……」
サフィールは顔を上げて真っ直ぐ、ピオニーを見た。
「では、これから出す名前の者には、一切手出しをしないということを、守ってくださいますか?」
それは、誰かを愛する者の瞳だった。その瞳を真摯に見返して、ピオニーは頷いた。
「必ず守ってやる。ピオニー・ウパラ・マルクト九世の名にかけて」
それは、脱走犯の話にしては、極普通の家庭の話だった。違う点を上げれば、国から逃げて、隠れ住んでいるということと、そこの誰しもが血の繋がっていないという程度。
そこには人を愛する気持ちに溢れていた。それは人として生きていく中で、当然のように与え、与えられるものだ。
だが、それをサフィールは長い間、求めてもがき続けていたのだと言った。
そして、それを諦めた絶望の中で、現れたのが紅い髪の彼なのだと。寒い牢屋の中であるのに、彼の声音はひどく暖かかった。
話が終わった後、暫くピオニーは考え込んでいた。その様子を、静かに待つようにサフィールは眺めている。彼はこの男が、話を聞いてくれた事を素直に嬉しいと思っていた。
「ああ、話してくれてサンキューな」
「いえいえ……心のどこかに止めておいて頂けると幸いですね」
ああ、分かった。と彼は頷いて、ちらりと腕時計を見やる。
「そろそろ行かないとな……なぁ、サフィール」
「まだ何か?」
「お前は今も、幸せか?」
これから死ぬかもしれない男に、この問いは愚問だろうか? だが、ピオニーは聞かずにはいられなかった。
「ええ、ピオニー。私は今、とても幸せなんですよ」
その問いに、サフィールは笑って答えた。それは、本当に嬉しそうに。
そしてこう言葉を続けた。
「もうあの人に会えることはないでしょう。ですが、幸せを知った私は、ただ世界を恨んで死んで逝くだけではないのです」
ピオニーは、そんな彼を見て鼓動が早まるのを感じていた。だが、そんな様子を微塵も外に出さずに、一つ頷くと、牢屋を背を向けた。
「そうか……また来るな」
おやすみなさい、という優しい声を背に受けて、ピオニーは階段を駆け上がっていた。早足で廊下を通り過ぎ、一直線に自室を目指す。嫌な気持ちがぐるぐると腹の底を渦巻いていた。
自室に戻ると、憤りを込めて、部屋の壁を拳で殴る、ジンと痛みが広がるが、それすらも心のモヤを掃うことはできずに、さらに拡大させるはめになった。
この根性無しの皇帝め。これまで自分はサフィールに何を与えてやれてこれた?勝手な友情。押し付けの生。彼が幸せになることなど何も考えていない、ただの選択肢。
サフィールに何も罪がないとは言わない。ただそれは、マルクトだけで裁ける罪でもない。それを云うなら、この世界全てが罪だ。
このまま死なせるのか? サフィールを。
自問して、ピオニーは唇を噛んだ。確かにサフィールはマルクトの罪人にして二度にも及ぶ脱走犯でもある。死刑は、免れないだろう。だが、それは国の判断であった。
本当に、いいのか? 自分は、それで本当に納得できるのか? ここは自分の国だ、皇帝を絶対とする封建制度の国だ。
だから、自分の好きなようにしていいのではないかと魔が差す。しかし、それでは歴代の低脳な皇帝たちと自分は一緒になってしまう。独裁をすることは、ピオニーの正義には反するのだ。ピオニーは、それだけはしたくなかった……。
だが、国や世界が許さなくとも、ピオニーは友として、愛するものとして彼を殺したくはなかった。それが例えわがままでも。
それから数日たった、ある日の夜。ピオニーは静かに、夜空の月を眺めていた。
部屋の明かりはともさずに、月の光だけがその褐色の肌を照らしている。昼は暖かかったが、流石にまだ夜は冷え込むのか、吐き出す息は白かった。
不意に小さなノックの音がし、答えを返すまでに開かれて、閉じる。臣下であれば叱責を受けて当然なような無礼だったが、ピオニーは気にすることなく振り向いた。その必要も、ない。何故なら彼は……
「よぉ、こんなところに呼び出して悪いな、ルーク」
キムラスカの王位第三継承権を持つファブレ侯爵だからだ。
国が違うからといって、位が高いからといって礼を欠かしていいものではないが、今宵はピオニーが、個人的に密会を求めたのだ。
「別に構わねぇぜ」
彼も、あの戦いが終わり、キムラスカに戻ってから随分と雰囲気が変わったと聞いた。実際、あれからそう何度も会った事はなかったが、確かに今なら理解できる。
「いや……アッシュ……か」
「……なんだ、知っていたのか」
彼はルークの名を受け継いだアッシュなのだ。正確に言うならば、ルークの記憶を持っているアッシュが、ルークだと偽っている。ルークの持っていた様々な苦悩と、アッシュとして生きてきた様々な苦悩が混ぜ合わせれて形成された人格は、基礎にアッシュの冷厳な熱さを持っていたが、外見の年齢とは大きくかけ離れたものとなっていた。そう解釈すれば、今の彼がよく理解できる。
人生を違う性格で二回やり直したとも言える性格は、若さゆえの熱さもあるが、とても冷静だ。今ではすっかり親善大使としての顔を持っている落ち着いたルーク、もといアッシュはピオニーの言葉に、すぐ正体を現した。
「サフィールに、聞いた」
「……」
「お前達のこともな」
「そうか……」
「安心しろって、俺はどうこうするつもりはない」
一瞬、張り詰めそうな空気を崩すように、ピオニーはおどけて笑って見せた。
「で、用は何だ? こんな時間に非公開に呼び出されたんだ」
何かあるんだろうが? と目で問われて、ピオニーも真顔に戻った。どうしても彼に、できれば早くに会って頼みたいことがあったのだ。
「ああ、その前に一つ確認しておきたい事がある」
「なんだ?」
だが、焦ってはならない。焦れば全てが無に返す。
「アッシュ、お前は……サフィールの事が好きか?」
好きなどと、なんと滑稽で、安い言葉だろうと思う。だが、これしか言葉が思いつかなかった。これだけは確かめておかねばならない。それはサフィールを想う、アッシュの気持ちだった。
「当たり前だ」
アッシュの回答は早かった。
しかし、それだけでは足りない。愛しているなど誰でも口先だけなら言えるのだ。
「諦めては、いないか?」
「当然だ、世界の一国でしかないマルクトなんかの法で、殺させるものか!」
落ち着いていたと思っていた、アッシュの瞳が一気に燃え上った。どうやら、こちらと考えは一緒らしい。この一言で、ピオニーは不思議な安堵感と、確信を抱いた。
この男なら、きっと大丈夫だ。
「はは、あっはっはっはっはっはっは!」
「……何を笑う?」
「悪い、嬉しかっただけだ。俺も同じだからな」
怪訝に潜められた眉が、無表情に戻る。ピオニーも皇帝の顔に戻ると、確かな声音でこう告げた。
「アッシュ、お前に頼みがある。……もう一度、この国からサフィールを浚ってくれないか?」
汝の罪は 6 へ
やっとこさ「汝の罪は5」です!長らくお待たせいたしました。
誰も読んでないと思っていたら、密かに人気(?)なようで……
ハチャメチャ設定のままに突き進んでますが、嬉しい限りです。
でもまた二人が会えてません。
ピオニー陛下でばりすぎです!
でもピオニーはピオニーなりにサフィール好きなんだと書いて置きたかったんです。
ちなみに今回最後のセリフが、一番書きたかったシーンです。
とりあえず8割くらいまで来ました……こうなったら完結させないと鬼ですよねorz
がんばりまーす……。
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