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暴けよ闇夜を、俺達は生きている 後 (TOA 後編)

登場人物:ディスト ジェイド ピオニー

CP傾向:ディストが愛されているはず

制作時期:2007年春

相変わらずのED後捏造話。
暗くもなく明るくもなく奇妙な雰囲気の中
ジェイドが色々あって昇進するんだぜーって話の後編。
すごい勢いで話がぶっとんでます。












「策ねぇ」

「一体なんですか?陛下」

「まぁ、落ち着いて聞け」

ディストが落ち着いたことを確認すると、ピオニーは一つ頷いて、偉そうに足を組みかえた。
牢の中までも威厳に満ち溢れている様は、流石というべきか。

「俺としてもジェイドの言い分はわかるし、だが正式に評価が認められたサフィールの研究の功績も捨てたくは無い。ではどちらも納得できる方法に話が傾けばいい……な?」

珍しく真摯な表情で、交互に二人の顔を見やる。
ディストとジェイドはちらりとお互いを一度見てから、頷いた。
それができないから揉めているのだ。
納得できるなら、無駄な言い合いはしない。
ただどちらも信念が強すぎて、一歩も譲らない。

「俺はサフィールに功績を与えたいと思う」

ピオニーは最初にざっくりと持論を口にした。
考えなしに無理な提案をするような男ではないと、理解はしているが
無理にしか聞こえない提案に、ジェイドは少しだけ表情を曇らせる。
マルクトの皇国民ではないディストでも、無理な事だとわかっていた。

「ですがそれは……」

「無理ですよ、陛下。ディストは囚人の身、しかもダアトに籍を置く例外的な囚人です。
功績を受け取ることができる身分ではありません」

多国籍で囚人であっても、軍に籍を置き替えるのであれば軍功を受け取ることができる。
軍に属したと同時に籍も自動的に移ることになるからだ。
だが、ディストは以前から、それを頑なに拒否し続けていた。
軍属の研究員の座を約束し、何度二人が説き伏せようとしても
「それと同じ事をいわれて、私は軍を動かしましたよ」と、決して首を縦には振らなかったのだ。

「それはわかってる」

「私は軍属になる気は、もうありませんよ」

ディストは過去に神託の騎士として軍を動かし、直接的ではないものの人を殺めた過去を恐れていた。
どれほど根が穏やかであっても、たとえ虫を殺せぬような者でも、
権力や軍事力を手にした人間は変わってしまうことがある。
一度、暴走してしまった自分を知っているからこそ、ディストは二度と人の上には立たないことを決意していた。

「それもわかってる」

「では、どのようにして身分を取り繕うというのですか」

ジェイドの問いに、皇帝はにやにやと笑う。
ピオニーがこういう顔をしているときは、大概ろくでもない提案をする前だ。
不吉な笑顔にジェイドが怪訝に顔を顰め、ディストはびくりと肩を竦ませる。
二人の反応に気分を良くしたピオニーは、にっかりと笑うと、一段と大きな声で

「俺の名の下に、サフィールにネイス家の爵位を返還する」

そうはっきりと告げた。










「なっ!!!」

「ネイス家の爵位!?」

突拍子も無い発言に、目を丸くする二人を見て、満足したように頷くピオニー。
暫し、驚きによる沈黙が牢屋を支配したが、我を取り戻したジェイドが厳しい口調で横槍を入れる。

「何バカなこと言ってるんですか!」

「でもネイス家は元男爵家だ」

その言葉に、やっと我を取り戻したディストも口を挟んだ。

「男爵とは名ばかりの貧乏貴族ですよ、ネイス家は!しかも父が死ぬ前に私は名を変えて家を捨てました!」

ディスト、と名を変えて、失踪する形でマルクトにある籍を放棄したのだ。
母を失い、貧困に喘ぎながら、家のか細い財産を投げ打ってまで飲んだくれていた父は
母を失う原因になった自分を忌み嫌い、疎み、どうしようもない世界に絶望していた。
そしてディスト自身もそんな父を、そしてネイス家を忌み嫌った。
父が死んだと聞いたのは、教団に入ってすぐのことだったと思う。

「実質、無いに等しかった領土も、男爵位も跡継ぎがいない為にマルクトに返上されたはずです」

「無いとかいうなよ、一応あるんだぜ?ネイス家領土は」

「あんな、人が暮らせない荒地が領土だから、ネイス家は領地に暮らせず貧乏なままケテルブルクで朽ち果てることになったんですよ!」

一度だけ、父に連れられて見に行った事がある。
草木一本生えていない、荒れた海の見える風の強い荒野だった。
父が自嘲気味に笑っていた「こんな世界に住めるかよ」と。

「まぁ、いーじゃねーか、領土なんて建前だ、タテマエ。
サフィールがマルクト国民であり、マルクト貴族の末席に名を連ねている、その事実が必要なんだ」

「確かに、マルクトの貴族であれば功績を受け取ることは可能ですが……
だからといって、現在の囚人としての罪が軽くなるわけでは……」

ディストも幼い頃は皇国の法を多少は学んだが、詳しいことは知らない。
それを見越してか、ジェイドが問題を提議する。
貴族になったからといって、罪が軽くなるなどキムラスカでも聞いたことが無い。
むしろ人を導く側である貴族が罪を犯すなど、更に重くなることもありえるくらいだ。
そんな道理に適わぬことが、あっていいはずがないのだ。

「そーれがドッコイ、軽くなるんだ」

「何ですって?」

ピオニーが目を鋭く細めて笑みを浮かべる。
アイスブルーの瞳が冷たく輝いたように見えて、ジェイドは背筋に寒気が走るのを覚えた。

「マルクトの歴史ある悪法でな」

「悪法……?」

まだよく話が理解できないという顔で、ディストが首を傾げる。

「なんでも、貴族は皇帝と貴族院の意思により罪が軽くなるらしいぞ?
何代も前に、マルクトにのさばっていた傲慢な貴族共が自らを保護する為に進言して作らせたらしいけどな……こんな悪法、いつか消してやろうと思っていたが、こんなところで役に立つとは」

「……随分と傲慢な法があったものですね」

揶揄るようにディストが呟く。
これは正しく悪法だ。
貴族や皇族が身勝手で罪を犯しても、地位を盾に罰を免れることができる、悪法だ。
身勝手な、しかも特別な地位というものを利用した、不平等な保護法。

「だろ?俺の先祖も大概、腐ってるよな……皇帝が聞いて呆れる」

「で、貴方もそれを使うというのですか?それでは一緒じゃないですか」

ジェイドは至って冷静だった。
しかし、それ以上にピオニーは冷静だった。
ジェイドの言葉に怯むことすらなく、ただ笑みを浮かべたままディストを見る。

「俺だって、そこまで綺麗な皇帝じゃない。
俺の大事なものを守る為なら、悪法でも何でも利用してやるさ」

「……そうですか」

良くも悪くも、傲慢な皇帝の態度にジェイドは
一つだけ理解したような、聞き様によっては理解したような溜息をつくと、ディスに目を向けた。
ディストはというと、未だに展開についてこれてないのか顎に手を当てて、真剣な顔で俯いている。

「お前はどうなのですか?ディスト」

「えっ」

弾かれたように顔を上げると、蒼い瞳と紅い瞳がこちらを向いていることに気づき、僅かに動揺が走る。

「私は面白くないですが、陛下の提案を飲んでも構いません」

「っと、言われましても……実感が沸きませんよ!爵位が戻ったら、私は……私はどうなるんですか?」

「どうって……」

「領地があっても、私には財産がありませんし
いや、そもそも無くすものとかはもう何もないんですけど……その」

「その?」

「あの……」

「あの?」

覗き込むようにしてこちらを見てくる二人に気圧されながらも
ディストは指を組んで、おそるおそる呟いた。

「もしかして、というかやっぱり、ここから追い出されますか?
こ、この部屋、割と気に入ってるんですけ…ど……」

しどろもどろに紡がれた言葉に、ジェイドとピオニーは目を丸くして顔を合わせると同時に小さく吹き出した。





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この後におまけみたいな話もあったんですが、そこは気分が乗り次第でupします。
とりあえずオチてないオチだけど、完結!(ぇー)
昇進ついでにディストが男爵さまになるという意味不明な話でした。
話は思いつきでかきますが、思い付きをどうツジツマ合わせてそれらしく見せるか……
が力の振るいどころです。
ツジツマが合ってない妄想だけならいくらでもしてるんですがねぇアハハ

姉に銀英伝くさい感じといわれましたが……
丁度その時期に銀英伝はまってたんで、何に影響されてるかはいわずもがなですよね。


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