登場人物:シェゾ レムレス
CP傾向:シェレム
制作時期:2012年8月
シェレムの馴れ初め話の一話目です。続き物。
途中からいきなり雲行き怪しくなりますのでご注意。
更にちょっとだけ血注意。
まさか、あんなに魔力を使ってしまうとは、想定外だった。
剣を杖代わりに、森の細い獣道をふらふら歩く。
幸いにして、怪我はない。魔力を失っただけだ。
だが悔しいことに、お腹が空いて、魔力の戻りはいつも以上に遅かった。
そんな時、ある匂いが鼻を掠めた。
ハッとして青年は顔をあげる。
甘い甘い、お菓子の香り。
バターの焼ける香ばしい匂い。
普段なら、さほど好まない匂いなのだが、この時は近くに人の住む家があるのかと、反射的に周囲を見渡した。
風上を確認すると、少しばかり進む。
すると、森の開けた所に、こじんまりとした一軒家が現れた。
ベージュのレンガ壁に、赤い屋根のこじんまりとした家。白い煙突からは、僅かに煙が出ている。
メルヘンチックなその家は、小人と姫が出てきそうな、柔らかな空気を放っていた。
残念なことに、見つけた青年にとっては、そんな事はどうでも良くて、ここから食べ物を奪い取ってやろうと不遜な事を考えていたのだが。
木の作りのドアを荒く叩いて、中の人間を呼び出す。
煙突から煙が出ているのだから、人がいるのはハッキリしていた。
いないならいないで、蹴破るつもりだったが、すぐに返事が戻ってきたので、その必要もないだろう。
「は~い、ちょっと待ってね」
知った声がして、ぱたぱたと音がする。
ん?
知った声???
まさかこの家は……
そう気づいた時には、扉は開いていた。
「おや、珍しいお客さんだ。いらっしゃい、シェゾ」
出てきたのは、思った通りの声の持ち主、彗星の魔導師レムレス。その人だ。
いつも崩れることのない気に障る微笑に、お菓子を作っていたのだろう、まくってある袖に素手、エプロンを身に着けて三角巾を被っている。
とりあえず、良かったと胸をなで下ろす。
こいつは好戦的ではないし、何よりお菓子を食べさせたがる。
本当はちゃんとしたディナーを食べたいところだが、まぁ背に腹は代えられぬと言ったところか。
息を吸って、第一声。
「お前が欲しい」
「……はい?」
ああ!しまった!
いつものクセで「お前の菓子が」というのが抜けていた!
だが、空気を読んだのが、読んでないのか、そこでお腹がグゥと鳴る。
「あはは、お菓子、食べてくかい?」
これはばつが悪い。
だが直入に言われて助かったので、俯いたまま返答した。
「馳走になってやる」
招き入れられたレムレスの家は、割としっかりした二階建ての木造建築だった。
一人で住むには少し広すぎるように見えるが、居間の広さに比べると、キッチンがやたら広い。
この男が何に重視して家を選んだか、一目瞭然だった。
「座っていて。丁度シフォンケーキが焼けたところなんだよ。すぐに出してあげるからね」
ソファーに座って待っていると、すぐさまそれらは運ばれて来た。
ふかふかそうなシフォンケーキに、トッピング用らしい生クリームやバター、そしてジャム。
手作りっぽいチョコレートクリームやピーナッツクリームなんかもある。
あと一応、お菓子以外に使う脳みそも存在していたらしい。やたら可愛らしいカップに、紅茶のポット。砂糖にレモンにミルク。
それらが次々に運ばれて来て、机の上を埋め尽くした。
キッチリ二人分……というには多いように見えるが。とにかくコイツも食べるらしい。
「ふふふ~。出来たてを食べてもらえるなんて嬉しいね。さぁさ、召し上がれ」
紅茶を注ぎながら、奴はルンルン気分だった。
正直、コイツの機嫌なんてどうでもいいのだが、一応貰う側として、礼くらいは尽くしてやる。
「いただきます……」
「どうぞどうぞ」
そう呟くと、フォークに手をかけて、早速がっついた。
甘くて、美味しかった。
が、それは言わない。
この美味しさは、美味しくする最大のスパイスである『空腹』がもたらすものであって、別に甘いお菓子はそこまで好きでもないからだ。
断じてそうだ。
ようやく腹が満たされて、一息をつく。
珈琲派だったが、温かい紅茶も悪くない……などと、おかわり分を啜る。
「ごちそうさまでした」
目の前の甘党大王は、フォークを置くと両手を合わせる。どうやらレムレスも食べ終えたらしい。
空腹だった俺より量を食べていたのだが、あの細身のどこに納まったのか……。異次元か?
などと考えていると、奴から話しかけられた。
「ところで、シェゾ。キミこんな所で何していたの?
見たところ、僕のお菓子が目的ではないように思うのだけれど」
それはそうだ、こんな所にコイツの家があるなど、知らなかったくらいだ。
しかし、本当の事を言うのも腹がたつ。
わけあって魔力を切らして空腹で迷子になっていたなどと……
ん? 魔力? そうだ。空腹で忘れていた。
「探し物をしていてな」
「さがしもの?」
なんだ、これもここにあるじゃないかと気付く。
小首を傾げている奴は、空気の変化を感じとったのか、少し背を正した。
今度は間違わないように、落ち着いて、ゆっくり話す。
「レムレス。お前の、魔力が欲しい」
「……え」
よし、誤解を与えずにちゃんと言えた。
「えええ…っと、それは困る……かな~」
はぐらかすように頬をかいているが、逃がさんぞと睨みつけていたら、言い訳するように肩を落とす。
「ほら、僕も仕事で魔力を使うから、あげてしまったら商売上がったりなんだよ。
それにお金がないとお菓子も作れないし……」
商売よりお菓子の方が残念に聞こえたのだが、そこは無視しよう。
「そんな事はどうでもいい。魔力がなくて困っていてな、丁度探していたところなんだ。くれ」
「わぁ、横暴だなぁ。美味しいもの食べて、寝てたらちゃんと回復するよ?」
今食べたから、もう大丈夫という事だろうか。
しかしそんな言い分もあっさり拒否。
「今すぐ欲しい!」
「うう……なら……」
「ぷよ勝負だ!」
お決まりのパターン。
何かあった時はジャンケンでなく、ぷよ勝負!
これがこの世界の掟。
「俺が負けたら今回は引き下がってやる」
「そ、そういう事なら、受けて立つよ。僕が勝ったらキャンディあげるから、ちゃんと家に帰るんだよ?」
どうやら、それでいいらしい。
レムレスは三角巾とエプロンを瞬く間に脱ぎ去ると、どこからともなく出てきた帽子を被り、箒を手に取る。
「あ、でも外でね? 家の中がぷよだらけになったら困っちゃうもの」
そうして戦いの火蓋は切って落とされた。
面倒なので結論を言う。
本来、あんな横暴な事を言えば負ける……ような気もしたのだが、何故か勝ってしまった。
空腹なら負けていた気がする。
体の隅々まで、力が湧いて来るような、何でもひらめけるような気分だった。糖分は偉大だということだろうか。それともレムレスが魔法でもかけているのだろうか。
それなら、これも奴のおかげであるとも言えるし、奴も同じ条件下だったはずだ。
そもそも、敵でも味方でもないが、俺のような怪しい奴を抵抗なく家に招いてお菓子を振る舞うなど、コイツの危機管理能力はどうなっているんだ?
そんなだからこんな手痛いしっぺがえしを食らう事になるのだ。
全部のほほんとしているコイツが悪い。
と、責任を転嫁しながら、ぷよに埋まっている奴を掘り出した。
「あいたたた……」
「約束通り、いただくぞ」
「うう、全部はダメだよ? ダメだからね?」
袖をまくって、腕を素手で掴む。
ふわりと、コイツの放つ柔らかな気質の魔力が伝わって来た。
その光の魔力を自分のものに変換して、取り込む。
しかし、これでは予想以上に変換に手間がかかりそうだ。相反する属性だからだろうか。
もっと早く、欲しい。
そう思った時には、次の行動に出ていた。
腕を引いて、頭を固定する。
首もとまであるハイネックを少しずらすと、その首筋に噛みついた。
「ぴゃッ!!?」
流石に驚いたのか、身が大きく跳ねた。それを抑え込んで、魔力を啜った。
魔力を奪うには、幾つか方法がある。
一つは、対象者が纏う魔力を、自分の属性に変換して取り込む方法。
同じ属性だと変換する必要はないが、違うと面倒くさい上に時間がかかる。
二つ目は、対象者に傷を負わせて、傷口から魔力を吸い出す方法。
血は出るが血を吸う必要はなく、まだ対象者の属性に変換されていない魔力を直接吸い出すことができる。
欠点は、動く対象物にはできないこと。
他にもあるが、割愛。
レムレスの魔力は、ケーキよりも美味しかった。
魔力が腹ぺこの状態だから、と言うのは、少し違う気もする。
奴は、抵抗はしなかった。うっかり吸い過ぎるところで、口を離す。
あまりキツく噛んだつもりはなかったが、傷が無ければ意味はないので血は出ている。
うっすらと付着したソレを舐め取ると、ふるりとレムレスが震える。その姿に、劣情を抱きそうになってしまって、慌てて離れた。
「うー、目が回る。ちょっとだけって言ったのに~」
「言ってない」
奴は気だるそうに座り込んでいるが、倒れはしなかった。
「世話になった」
やりすぎただろうか。
奴の望みとはいえ、馳走になったのに、礼がなさすぎただろうか。
だが、今更だ。
俺は闇の魔導師。
俺は闇の魔導師!
俺は闇の魔導師!!!
と、心の中で三回唱える。
闇の魔導師だから、これくらい悪いことをしても後ろめたさなんて感じないのだ。
だから、言及を恐れるようにして、俺はその場を足早に去った。
背中に、取り残された奴の視線を感じながら……。
途中から何故あんなゲリラ豪雨になったのか……。
こんなシェレムの馴れ初めが読みたい!馴れ初め!馴れ初め!
と思って、ないか探したんですけど……やっぱりなかったので書くことにしました。
すごいゲスい展開になりますのでご注意ください。
既にゲスい感じがしておりますけれども……。
あとハマったばかりで書いたので、捏造オンパレードです、すみません。
ご都合主義的に話が進みます、すみません。
[4回]
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