登場人物:シェゾ レムレス
CP傾向:シェレム
備考:クリスマス話題の話なのに、なんだかあんまり明るくないっていうシェレム短文。
降り立った時は、常春のように暖かかったこの世界にも、やはり冬はやってきた。聞くところによると、ここらは雪は滅多に降らないそうなのだが、北に行けば積雪する地方もあるらしい。
しかし、冬というものは雪を見ずとも十分感じることが出来るのだと、息が白くなった朝に気がついた。
今年ももう、この月で終わる。ここでどうやら年を越す事になるらしい。
どうしたものかと考えていたら、レムレスがやってきて、買い出しに連れ出された。
そして冬を越すために必要そうなものをあらかた買い、今に至る。時刻はすっかり夕方だ。もう少しで見えなくなる太陽が、やや赤めの輝きを放ちながら周囲を照らす頃だった。
「サンタクロースって、いいよね」
ふと、街中のイルミネーションが目に入ったのか、ぽつりと隣のレムレスが零す。
「はぁ? プレゼントが欲しいのか?」
「うーん、ちょっと違うかな。プレゼントをね、あげたい方」
「なるほど」
理由を聞けば、何となく察しはついた。
そう言えば、こいつは老若男女関係なくお菓子を配り歩く男なのだった。それなりに深い関係になった今も、いまいちあの行動は理解に苦しむのだが。
サンタクロースに想いを馳せているのか、レムレスは上機嫌に語る。
「だって、沢山の子供たちを一夜にして幸せにできるんだよ? とても素敵じゃないか」
「プレゼントなら、お前もいつもやってんだろ」
「そうだね。……けれど、夢を叶えられるものではないし、やっぱりサンタクロースは子供の……みんなの憧れなんだよ。それに僕は目に見える範囲しか手が届かないし、僕のお菓子はいらない人もいるしね」
確かに、よく気味悪がられて受け取って貰えていない姿も見る。
けれど、へこたれている姿は見たことがなかったように思う。
「僕にも、もっとたくさんの人に、幸せや希望を届けられたらいいのにな……って」
遠い場所を見ていると瞳は、夕焼けの色に染まって、少し寂しそうに見えた。コイツの博愛ぶりは、ちょっと異常だ。
きっと、拒まれても……拒まれ続けても、コイツの「他人を愛する心」は変わらないのだろう。何が返ってくるかもわからないのに、愛を届けたいだなんて。そんなの不毛だ。
胸が、ジュクりと熱くなった。息が少し苦しくなる。
「全く、お前は……見ていると、イライラする」
「え!? ……あ、ごめんね、シェゾ。君の事も忘れてないよ?」
「知っているさ」
冷たく言い放つと、レムレスの顔が少し曇った。その悲しげな微苦笑に胸が痛む。
違う、こんな顔をさせたかったんじゃない。博愛的なまでに他者に優しいのが気に入らないなんて、これはただの汚い独占欲だ。こんな優しい博愛者だからこそ、きっと自分にも優しさを分けて与えてくれたのだ。そして特別になってくれた。
心に感じた、あの輝くような暖かい陽の光は、彼を、彼たらしめている要素なのだ。
そこを否定しておいて、気に入っているなどと、本当に言えるのだろうか?
「けど、俺は、そんなお前だから気に入ってるんだ……」
小さく呟く、ほとんど自分にしか聞こえなかったであろう言葉は、自分への戒めでもあった。
全て欲しいなど、望んではいけない。
全て手に入れてしまうと、この光が陰ってしまうかもしれない。自分は闇だから。
それが怖かった。それは、避けたかった。
「え? ……いま、何か言った?」
「お前の好きにしろと言った」
何となく気恥ずかしくなって、適当にはぐらかす。全く、無情が信条の闇の魔導士が、とんだ罠にかかったものだ。
いつもの調子に戻ったと感じたのか、レムレスが胸を撫で下ろすのがわかる。
「うん、ごめんねシェゾ。僕はいつも、君に甘えてばかりだね」
甘えているのは、俺だと言うのに、何故気がつかないのだろう。この、お人好しめ。
「分かったのなら、俺へのプレゼントも忘れるなよ」
「あれ? そういう話だったの? りょーかい。めいっぱい頑張るね」
大量に買った食材をぶら下げて、レムレスは笑う。きっとクリスマスの夜は、今夜よりも豪勢だろう。
さて、あと幾日待てば……
レムレスは絶対サンタさんに憧れてそうだ!(プレゼントが欲しいのでなく、なりたい方で)
と、思ってメリクリ話を書いていたはずがこうなりました。
私の話は決まって、こういう雰囲気になりがちです……。
ちなみに、タイトルの意味はラテン語で「慈悲深い・寛大な」と「嫉妬」で……レムレスとシェゾを表してい……るつもりです。
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