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エトワール・ファタール(シェゾ×レムレス)

登場人物:シェゾ レムレス

CP傾向:シェレム

備考:また別の馴れ初め的な……。「!!」の後の話。








 入り口から入り込む微かな光が、洞内に反射して……そして何れは闇に吸い込まれる。
 ここは昼も夜も薄暗い、闇の洞窟だ。一般に洞窟とは、夏は涼しく冬は暖かい。そして、湿度が高くジメジメしている。
 勿論この場所も、類に漏れずひんやりと涼しく。それでいて、寒くはなりすぎない。そして遠くに響く水音と共に、じっとりしていた。
 だから彼は気に入ったのだろうか、生活するには灯りも必要とは言え、あまり光を好んではいなかった彼はここを選んだ。程よく薄暗く、ここはロウソクの灯りだけの世界だ。
 なのに今日は、そんな洞窟が光っていた。光の粒が、何かに呼応するように、ぴかぴかと光り、ほんのりと洞窟内を照らす。こんな事は勿論、ここへ来てから初めてで、不思議なこともあるものだ……と、星星のように光る天井を黙って見ていた。
壁が光ろうとも、この静寂だけは破られることはない。遠くで水が落ちる音以外、心を乱すものなど、何もない。

 だから、突如自分の声じゃない声が響いた時は、心底驚いたのだ。

「こ・ん・に・ち・は!」

「はあっ!?」

 がばりと身を起こせば、入り口から続く道に、爽やかな笑顔を浮かべた『先日見た姿』があった。

「お前は! ……俺のケーキを食べ尽くして行った彗星の魔導師レムレス! な、何の用だ」

 思わず説明口調になってしまったが、それはあくまで記憶を掘り起こすためだ、と付け加えておく。
 ここで会ったが百年目!食の恨みは万倍になって返るのだ!という形相で睨みつけ、ついでに抜刀する。

「うわぁ、怖い。えっと、ごめんなさいっていいに来たんだよ。家に帰ってから、あれは本当に悪いことしちゃったなって思って、いずれ君に謝ろうと、今日はケーキをた~くさん焼いて来たんだよ。だからそんなに邪険にしないで、ね?」

 確かに、両の腕には……かなりの量の箱が袋で吊られている。軽く三箱。
しかし、その手には乗らない。過去に何度、そんな甘い言葉で辛酸を舐めさせられたか。こいつだって、敵じゃないとは限らないのだ。
 けれど、前にケーキを食べていたときは、そんなに嫌な感じはしなかった。……いやしかし待てよ? あの時、ケーキを作りたがる奴を、無理矢理叩き出したから、やっぱり怒ってるかもしれんぞ。
 そして、出した結論は。

「帰れ」

 の一言だった。しかしその無碍な一蹴も何のその。笑顔は崩れない。

「そう言わずに、ねえねえ一緒に食べようよ♪」

「ふざけるな、誰がおまえなんかと……」

「ケーキは嫌いじゃないんでしょう? 大丈夫、絶対美味しいから」

何だその絶対の自信は。呆れて半眼で睨めつける。

「本当か?」

「本当だよ。だって美味しくなりますようにって、あとゴメンナサイって、たくさん思いを込めて焼いたんだもの。もし美味しくなかったら、何度でも作りなおすよ」

 先日作った俺の完璧なケーキにダメ出しをした男の、完璧なるケーキ。確かにそれは食べてみたい気もする。だがやはり何か入っていたら……。
 ああ、毒味させればいいのか。さすが俺。

「ふ、ふん。しょうがない……ケーキに罪はないからな、食ってやる!」

「わあい、ありがとう!」

「だがしかし、不審な行動をしたら、魔力を奪って切り裂いて縛り上げて地底湖に沈めてやるから、覚悟しろ」

 剣の切っ先を喉元につきつける。
 しかし、男は相変わらずも涼しい顔で笑っている。

「大丈夫。そんなことしないよ~。えーと、準備は僕がしたほうがいいかな? ……闇の魔導師……さん?」

「シェゾだ。名前で呼べ」

「じゃあ、そうさせてもらうよ。よろしくね、シェゾ」

 柄に剣を収めるのが終わる前に、レムレスは動き出す。脅したつもりが、ひょうひょうとしたままで、何だか肩透かしを食らった気分だ。
 何を考えているのか、さっぱり読めない。というのは、戦う者にとっては存外、怖ろしい事だ。気は抜かないように、剣は腰に携えたまま、軽やかに進む背中を追った。

 結局のところ、途中まで準備は自分がした。
大した場所でもないが、勝手に厨房を荒らされても困るし、とりあえず飲み物用の湯やポット、カップといったものを適当に出した。
 面倒だから、こいつは水汲みに追いやった。といっても目の鼻の先の地底湖なのだが。
 そこで気がついたのだが、どうやら洞窟が光っていたのは、コイツのせいらしい。どういう原理かは知らないが、壁の鉱石がコイツの光の属性に反応して、淡く光りを放っている。そのおかげか、今日はいつもよりぼんやりと明るかった。
 綺麗と言えば、綺麗なのだが……寝る時には迷惑なので叩き出そうと誓う。
 沸いた湯を、ポットに注ぐ。何を飲むかなんて知らないから、適当にインスタントの珈琲豆と、紅茶の葉を置くと、それが合図だというようにレムレスが手を出し始める。
 一応、こういう事は器用らしい。ていうか食器割ったら許さん。客用はこの1つしかないんだからな。

「シェゾは珈琲派? 紅茶派?」

「カフェオーレ派だ。お前は?」

「ふふふ、そうなんだ。僕は紅茶派かな? だって、コーヒーは苦いんだもの」

「子供か……」

「珈琲は、ミルクとシュガーをたっぷり入れたら大丈夫だよ。割合は2:7:1くらいかな!」

「いや、それはもはや珈琲じゃない!」

「カフェオレも似たようなものだと思うんだけど」

「何か言ったか?」

「ううん、何も」

 ひと睨みすると、何がおかしいのかクスクス笑われた。全く、こんなお子様舌と一緒にしてもらいたくないな。甘いモノが嫌いというわけじゃないが、ものには加減というものがあるのだ。
 テーブルにつく頃には、すっかりケーキが用意されていた。
 華やかなショートケーキに、ベリーを添えたチーズケーキ、シックなガトーショコラ。お腹が空いていると、かなり美味しそうに見える。レムレスはそれぞれを綺麗に切り分けると――流石甘いもの好き、慣れた手つきだった―― 一種類ずつ、全部皿に乗せた。全部食べろと言うのか。これは夕食はいらないな。

「いただきます」

「おう」

 わざわざ手を合わせるレムレスにつられて、手を合わせる。
 さて、じゃぁ一口……というところで、危うく先に毒見されるのを忘れていたことを思い出す。ちらりと見ると、幸せそうに一口目を頬張る姿が見て取れた。……大丈夫か。ショートケーキを一口に切り分けて、いざ口へと運ぶ。

「ど、どうかな」

「ほう……確かに、大した腕だな。悪くない」

「っ! あ、ありがとう! 毎日美味しいお菓子が作れますようにって、願ってるんだよ」

 確かに……いや、予想外に美味しかった。ただ甘いだけなのかと思いきや、ちゃんと食べやすいように甘さを調整してあるのだろう。何よりケーキ生地はふかふか、クリームはかたさも甘さも丁度いい。何よりイチゴに一手間加えてあるのか、酸っぱすぎず優しい甘さがある。
 続いてチーズケーキも一口食べてみる。こちらも、美味しかった。ただ『美味しい』と一言で言うことは簡単だろう。陳腐だ。しかしながら、それくらいしか、言葉の引き出しからは出て来なかったのだ。

「この腕なら、パティシエになれるんじゃないか?」

 ぽつりと、心にもないことを言ってしまった。いや、口に出てきたと言うことは、そう思ったということだろうか。
 レムレスは一瞬だけ動きを止めたが、すぐに何事もなかったようにケーキを口に運び出す。

「うーん、そうだね。小さい頃はなりたかったなぁ。だって毎日ケーキが焼けるもの。お菓子だって作り放題」

 この前だって、今日だって、いつも見る時は菓子が絡んでいて、それだけで幸せそうに見えるのだ。きっと毎日それに囲まれて暮らせば天国だろうに。

「……どうして魔導師になった? 菓子職人なら、今のような危険な日々もなかったはずだ。その腕があれば……」

 魔導師になんて、ならなくて良かった。
 魔導師と言えども、能力も、強さも、善悪の観念すらもバラバラだ。しかし『それで食べていく』となると、話は違う。どちらにせよ、楽はできない。体を張って、自分の事は全て自分でしなくてはならない。魔導師に課せられるものは、大体そんなものだ。

「僕はね。お菓子を作る人じゃなくて、お菓子をあげる人になりたかったんだよ。パティシエになってしまうと、お菓子は売らなきゃダメだよね。じゃないと生きていけなくなっちゃう。僕はそうじゃなくて、あまーい幸せを、みんなにあげたかったんだよ」

「苦労してまでか?」

「勿論だよ。魔導師はね、希望なんだよ。希望を届けるお手伝いができるんだよ。パティシエも、美味しいお菓子で人を幸せにできるけど、魔導師はもっともっと色々な事ができるから。あとお菓子は趣味で作れば、他人にあげ放題だよ! だから魔導師になれて、悔いなんかないよ」

 レムレスは笑っていた。さっきまで疑ってかかっていたというのに、この笑顔が嘘ではない事を、何となく悟る。
 全くもって正反対だ。属性も、考えた方も。

「……ふん。自己犠牲的な自己満足だな」

「そうかも……そう見えるかもしれないね。でもこうやってね、誰かとお菓子を食べていられる今が、僕はとても幸せなんだよ。だから、ありがとう」

「は?」

 虚をつかれて、変な声が出た。こいつ、今なんて……?

「だから、一緒に食べてくれて、ありがとうね って」

 礼を言われるなど、いつぶりだろうか。いやいや、今はそんな事はどうでもいい。一体こいつの脳内はどうなっているんだ?あれだけ邪険にされていたのに「ありがとう」?脳内がお花畑なんじゃないか?これが光の属性というものなのだろうか。

「礼などいらん。詫びならいるが」

「あはは、ごめんなさい。お詫びのつもりだったんだけど」

 とりあえず、胸が何故かむず痒くて、それを掻き消すために、残っているショートケーキを潰さんがの勢いでフォークで貫き、そのまま口に頬張った。そういえば、ケーキはいつの間にかなくなってしまった。あのだだ甘い食べ物を、全部腹の中に納めたというのか。認めたくないが、美味しかった。だが悔しいので減らず口を叩く。

「勝手に押し付けるのは詫びとは言わんぞ」

「うーん、そうだね。じゃぁ、どうしようか……? 僕は、君の力になりたいな。君の力になって……あと、君に希望をあげたいな」

「希望……」

「闇の魔導師の君だって、あるでしょう?」

 希望か。そういえばそんなもの、長らく考えたことがなかった。
 欲しいものは自分で奪う。それが自分のあるべき姿だったからだ。希望とは、欲しいものを手に入れる力がない弱い奴が望むものであって、自分は自らの力で何でも手に入れることができる。……はずだ。
そう思った。思っていた。これまでは。
 だから、漠然と『希望』と言われたところで、ピンと来ない。
 ただ、騙されることなく、対価なしに貰えるというのであれば……まぁ、貰っておいてもいいだろう、と思う。
 何故なら、きっとこいつには裏がない。こいつは裏切らない。陰ることがない。それはまさしく『光』だった。

「……考えておく」

「うん。また、来るね。次までに考えておいてよ」

「おう」

 そう言って、レムレスは席を立ち、手早く片づけを済ませると、笑顔を振りまきながら去っていった。
 それを立って見送るでもなく、ぼんやりと座ったままだったシェゾは、すっかり冷めてしまったカフェ・オーレを一口すする。

「欲しいもの……。『希望』か……」

 確か、遥か昔に、欲しくても手に入らなかったものがある。
 さて、あれは何だっただろうか?
 それはとても暖かくて、日向のように明るかったものなのだが。……今はまだ思い出せそうにない。







こんにちは、馴れ初めジャンキーひなさんです!
何度でも書きたくなるのが、馴れ初めってものでして……
くっつくまでの互いの思考や、摩擦、葛藤、そして好きな箇所の発見などなど、胸が踊るラインナップですよね。
その過程が大好きなのです。

ちなみにタイトルの意味は、フランス語で『運命の星』って感じです。まんまだな。


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