登場人物:シェゾ レムレス
CP傾向:シェレム
備考:永遠に未完成です!
レムレスが実家に帰るお話のプロローグ部分です。
投げっぱなしなので妄想で補える方のみどうぞ……
それは、食後のティータイムをゆったりと過ごしていた休日の朝のことだった。
「郵便でーす!」
外から声が聞こえると共にポストの開閉する音がする。それを聞きつけて奥からエプロン姿のレムレスが手を拭きながら出てきた。パタパタとスリッパの音を鳴らして玄関の戸を開ける。
「はーい、いつもありがとー!」
配達人の背に呼びかけたレムレスは、その足で郵便物を取ってきたらしい。チラシやダイレクトメールと共に手紙の束を持って戻ってきた。
それらをチラチラ見ながら確認していたレムレスが、ある一通の手紙で手を止める。
「うわぁ……」
「なんだ?」
後ろから手元を覗けば、そこには蝋で封がなされた、重厚そうな手紙が一通。差出人の名はない。
「誰からだ?」
「これはちょっと面倒な事になるかも」
レムレスのいつも穏やかな顔が、険しく研ぎ澄まされている。嫌なことは一気にとでも言うように手早く封を切ると、これまた高そうな手紙を取り出して目を落とした。
一体何なの手紙なのかと、紅茶を啜りながら見守るシェゾを尻目に、レムレスは大げさなほど溜め息をつきながらその場に崩れ落ちた。
「あああああ……やっぱり」
「どうしたんだ。前向きなお前にしては大げさだな」
「うーん、実家からなんだけど、年末年始は家に帰って来いって……」
「はあ? 俺に家はないからよくわからんが、世間では普通にあることなんじゃないのか?」
これまで色々な世界を見てきたし、色々な国や文化も見てきたつもりだが、年の瀬に家族や親しいものと過ごすと言うのはよく聞く話だ。一人で暮らしている学生に、年越しの間くらい帰ってこいと言うのは道理だろう。
「ご、五年くらい帰ってないんだけれども……」
「そりゃ怒られるだろ」
深刻そうな顔で何を言うかと思えば、そんな事。
「色々と理由があるんだよ~」
「よし、じゃぁ聞いてやる」
椅子に座り直すと、おもむろに足を組む。親しい仲になったとは言え、あまり互いのことは詮索して来なかった。話を聞くには良い機会だろう。
「君にはあんまり家のことは話してなかったと思うんだけれど」
「出生に関してはどうでも良かったからな」
欲しかったのはレムレスのみで、生い立ちや家系や血筋などはどうでも良かったから。
「うん……僕の家は、ここから一日くらいかかる街のはずれにあるんだけれども」
「年末年始には帰れる距離だな」
ならば、帰らないのは怠慢だ。
「うん……その……闇の魔導士の家系なん」
「はあぁあぁ!?!」
「……だよね。びっくりするよね」
レムレスが苦笑する。シェゾはただ驚く他なかった。そんなこと、これまでに一度だって聞いていない。いや、尋ねることもなかったのだが。会った時からその力は光のもので、闇の力なんて微塵も感じなかったのだ。
「おま、光の魔導士なんじゃなかったのか!?」
「僕は今でも光の魔導士だよ。それは間違いない」
「なんで道を過った!?」
「光の魔導士を間違いみたいに言うのは止めよう? 一応小さい頃は闇の魔導士になるはずだったんだけど……」
「ほう」
「幼い頃に見た光の魔法がかっこよくって……ほら、闇の魔法って、呪いとか吸収とか変化とか、そういうものが多いから、誰かを守ったり癒やしたりという分野は不得手だし」
「文句あるか」
シェゾの目が座る。
闇の属性。様々な力の吸収や呪詛、闇の力での汚染、影の力による束縛、負の力を糧に力を行使する事が多い魔法系統だ。
光の属性は浄化や回復を基礎とした魔法が多い。
確かに、性格的には圧倒的にレムレスは光の属性だ。疑う余地もない。故に驚いた。
「ないけど、性格的な方向性の違いというやつだよ」
「まあいい。それで方向転換して家に滅茶苦茶怒られて帰りにくいとか、そんなところか」
「うう、ご明察のとおりでございます」
「そりゃ怒られるだろ」
本日二度目のツッコミ。
「勘当はされなかったんだけど、視線が痛くて……それから家に帰らずずっと寮に居て、それからそのまま飛び出して来てしまった感じかな」
「で、手紙には何と?」
「絶対帰って来いって」
がっくりと肩を落とすレムレスだが、五年も家族と音信不通となると怒られるのも当然だろう。
「ねぇ、シェゾ。お願いがあるんだけど」
「聞くだけきいてやる」
「えっと……僕と一緒に実家に来てくれないかな」
「!」
レムレスの実家。おそらく闇の魔導士の系譜を組む家系。興味が無いわけではない。それに、この男を貰っていくと告げに行くのも悪くない。
「お前の実家にも興味はあるし嫌ではないが、理由を聞こうか」
「現在の僕は君の弟子、または協力者という事にしておいて、闇の魔導士の君を立てておけば、少しは実家で息ができるかなーって……」
打算的な話だが、いきなり男が男の恋人を連れてくる展開よりかは自然だろう。
「…………はあ。まぁ、いいか」
「本当!? ありがとうシェゾ、すごく助かるよ!」
ぱぁっとレムレスに笑顔が戻る。その顔にやけにほっとしてしまう自分に気づいて、思わず苦笑した。
やれやれ、惚れたほうが負け、というやつだ。
この後、レムレスの実家に連れて行かれ、散々な目に遭うのだが……それはまた別のお話。
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