制作時期:2023年~2024年あたり
これの続きのような、そうでないような?
どこの時間軸かわからないふんわり設定(雑ともいう)のソルテスです。
当社比ではかなりイチャイチャしている。
※ フ/レア/リが好きな人は読まないほうがいい
※ 昔に体の交わりはあった(※セフレ以下)ような描写あり
※ 本番はないけど性交を匂わす描写あり
GGSTを完走する前に書きはじめていたので本当に細かいことを気にせずにいける方のみどうぞ。
テスタメントの対ソル二人称は「おまえ」にほぼ落ち着きつつ、たまに気分で「君」とか「貴方」とか言ってるといいなって思ってます。
別に気にかけているわけではない。断じて無い。だが、妖艶な美女に成長したテスタメントを見て、お茶を飲んで語り合い、ソルは口にできないモヤモヤした思考と戦っていた。
何がそんなに楽しいのか、目の前でにこやかに会話している姿にかつてのわだかまりは感じない。妖しげである事は昔と変わらないし、今の彼を見てかつての姿とのギャップに驚かない者はいないだろう。その変化を少しずつ見てきたなら話が別だが、ソルにしてみればいきなり別人に変貌した人物が現れたと言っても過言ではない。
人生を楽しんでいると、生を受けた事に感謝していると、そして今の自分が好きになれたのだと幸せそうに笑い聞かせる姿に、過去の陰湿さは微塵も感じなかった。それくらいは見れば分かる。
悪いことではない。悪いことではないのだが、何がきっかけでああなったのか……。それを考える度に過去を思い出して、心がモヤモヤする。
本当はなかった事にしたいし、見て見ぬふりをしたいのだが、どうにも性格がそれを許さないらしい。
腹を括って話すしかないか。ぐるぐると思考を続けている己とは違い、彼は優雅に紅茶とお喋りを楽しんでいる。ギロリと睨むと、その視線に気づいたのか閉じられていた瞳が開き、その双眸に己を捉える。そんな全く敵意のない眼差しに、逆にたじろいでしまう。
はっきり言ってしまうと、好みなのだ。好いた女が外にいようがいまいが、好みというものはそういうものである。単純に目に毒なのだ。ソルは照れ隠しに頭をガシガシ掻くと、いつもの無表情を装ったまま口を開いた。
「これまでに何があってこうなったかなど、野暮なことは聞かねえ。だがこれだけ答えろ」
「別に何でも聞いてくれて一向に構わないが。何だね、改まって」
曰く、会話は楽しむものらしい。
昔は寡黙に、多くを語ろうとはしなかったその口が、今は優しく弧を描いている。カップを置く仕草と相まって、不思議と綺麗に見えるのだから困ったものだ。
「……俺のせい、か?」
「うん???」
的外れすぎる事を聞いてしまっただろうか。過去の事など話にも出したくなかっただろうか。いや、だが、あの時の過ちを認めろというならば、認めざるを得ない。
そう、あの時、どうしようもなく求め合った時。彼には所謂、女役をさせた。
どちらも男を抱く経験などなく、互いにそのような関係を求めていたわけでもない。本当に最初は衝動的なものだったのだ。初めて秘密を知る時も、彼に覆いかぶさっていたように思う。
その後はさも当然のように、数度だが肌を合わせた。彼はギアだったから、ソルにとって女性を抱く時に必須であるような手加減というものを必要としなかった。
ゆえに互いに都合が良かったのだろう。多少、手荒く抱いても傷は朝には癒えている。
自分も決して彼の秘密を他人に喋る事はなかった。かつ、己の正体を知った上で、どうしようもない衝動を性欲として処理できる。テスタメントとて、ギアの優位関係を理由に身を委ねる事ができる。本当に都合の良い相手。その程度の認識だったのだ。会わなくなってからは記憶に蓋をしていた。
しかし、あの堅物な男を初めて抱いたのは、おそらく自分が初めてであっただろうとソルは確信している。秘密を知るものはいたかもしれないが、そこに触れた者はいなかった。つまり、彼の初めてを奪ったのは自分なのだ。
今の彼が良いとか悪いとかではない。寧ろ変わらずに憎悪の炎を宿した瞳で睨まれる方が困る。しかし、自分の挙動が元で女性……もとい雌としての本分に目覚めてしまったのではないかと邪推したのだ。
「いや、違うならいい」
思わず目を逸らす。あからさますぎたかもしれないが、本当に違うならそれで良かった。
少しの間、彼はきょとんとしていたが、ようやくこちらが言いたいことを理解したようだ。
「……ああ、そういう事か。違う違う。君のせいではないから安心したまえ」
持っていたティーカップを優しい手付きで机に返す。爪の先まで程よく肉づいた指はしなやかに美しい。そんな一つの行動を注視してしまうくらいには今の姿は様になっている。
元から女であったのなら、迷わず良い女になったと漏らしていただろう。だが、過去が過去だけに言えないでいるのだ。そんなソルの心中を察したのか、テスタメントはゆっくりと言い聞かせるように言葉を紡ぐ。
「私はちゃんと、君が関わっていないところで、この性を受け入れたのだよ。前の私を知っていたら、当然のように違和感を覚えるだろうさ。私という存在はもちろん過去の私の延長線上にある。昔の私が見ても、今の私は相当驚く変化ぶりだろう。君が驚くのも無理もない」
「そうかよ。なら、それでいい」
内心、胸をなでおろしつつも、ソルはぶっきらぼうに顔を背けた。そんな純情さは過去にとっくに捨てていると思っていたのだが、美しいと思う度に過去の彼を思い出すのだから仕方ない。
「しかし、そうだね。私も問いを投げかけていいのだとしたら聞きたいことがある」
「なんだ、1つくらいなら聞いてやる」
「今の私はどうかな? 綺麗になったと思うかい?」
それはもう、めちゃくちゃにどストライクの美人だ。と声に出すことはなく、ただ短く「おう」とだけ答えてしまったソルは真顔のまま、謝辞を述べて嬉しそうに笑う姿に全てを持っていかれていた。
「ところで、先程から感じる視線はおまえの知り合いか? 話しかけづらそうにしているが、声をかけてあげてはどうかな」
「あ?」
目の前の脅威に注力しすぎて周囲の事など忘れていた。敵意があれば反応できるのだから、街中くらいは許されたい。周囲を見やると見慣れた金髪の頭が見える。こちらをキラキラした眼差しで見ている、義理の息子だった。
「シン、何してんだてめぇ」
「オヤジ~! なんだよ、探しにきたらオヤジとめっちゃオヤジの好みそうな人がお茶なんか飲んでてさ。場違いそうに見えたけど美人のおねーさんが嬉しそうに話してるもんだから、思わず横目に素通りしちゃったじゃんよ」
ようやく見つけてもらえたと、嬉しそうに近づいてくる。犬だったら振っている尻尾が見えそうなくらい、うきうきしている顔がうざったい。面倒なものに見つかってしまった。
そんな息子を見ていた目の前の男は、既に警戒というものを解いている。まぁ、どう見ても敵意はないし、こういう属性に疑いを持つほど尖ってもいないのだろう。
「どうも、こんにちは」
だからと言って、初めて会う人物にそんな柔和な微笑みを見せるのが解せない。まるで道端で子供に会った朗らかなお姉さんだ。この変わりようはやっぱり嘘だろ。
「こんにちはー! ねえねえ、オヤジの知り合い? お姉さん、すんごい綺麗だねー!!!」
「ありがとう、そう言って貰えるのは嬉しいよ」
「……はぁ」
自分にはわざと言わせたのに、息子に言われて満更でもなく嬉しそうなのも解せない。いや、実際に綺麗だと思うのだが。子供という生き物は、下心なく好きなだけ言ってられるのだから楽であるし質が悪いとも思う。ずるすぎる。
「ソル……おまえ、子がいたのか。全然似ていないな」
案の定、かけてくる疑いを一言で一蹴する。
「違ぇよ。これはカイとてめぇの娘のだ」
「ああ……なるほど。これがカイとディズィーの……どうりで優しそうな面影がある。おまえに似ないわけだ」
「うるせえ」
今のは絶対に後付された面影だろうが、と心で突っ込みながらも、訂正するのも面倒で放置する。
シンは母の名を出されたことで、テスタメントもディズィーの名を出されたことですっかり打ち解けたのか雰囲気とノリに最早ついていけない。何故こんな面倒な事になったのか。
「へへっ、言われてやんの。まぁ、オヤジには戦い方とか、生き方を学んだぜ!」
力いっぱいに空に拳を入れて、ドヤってキメる頭の悪そうな息子を見て、他人のふりをしたくなるのを堪える。
「ふむ。もうこんな歳になっていたのか」
月日が経つのは早い、という顔をするテスタメントに即座につっこみを入れる。
「まだ十にもなってねぇよ」
「なんと。ソル、ちゃんと大切に育てているのか? そも、おまえに育児などできたのか?」
子育てなど知らん、やったこともないし適当だ、とも言ったら怒られそうな気配を察する。実際には適当だったのだが。判断は直に見て、勝手にやっておいてくれと軽く片手を振る。めんどくさい。
育つスピードが早すぎて子供の時代なんてあっという間に過ぎてしまったので、面倒な育児は省けたのだが、子供が順に体験していくはずのものを大幅にすっぽかしてしまい、今では手が付けられない。
「知るかよ、見ての通りのバカに育ったが俺のせいじゃねぇ」
「あ、ひどいぜオヤジ! オヤジはさぁ、俺にジュース一つも買ってくれねぇごくあくにんなんだぜ!」
「それはひどいな、大人げない」
確かにジュースを買う金をケチったことはあるし、それでカイとディズィーには何度か怒られていたりもする。だが、そもそも育児をしたことがない粗雑な男に赤子を押し付ける方がどうかしているのだ。それに他所の育児に口出しするなら、そっちが面倒を見ればいいのだと思わないでもない。致し方なかったとはいえ、とんだ貧乏くじを引いたと今でも思っている。こんな事態になるのも含めて、だ。
しっかり結託したシンとテスタメントは一緒になってヤジを入れてくる。
「もう黙れクソが」
絞り出すようにドスの利いた声をあげるも、全く怯む事もなく話は進む。
「こういう言葉遣いはマネてはいけないぞ、青少年。品が落ちるからな」
「うぃーっす!」
すっかり近所のお姉さんと元気盛りの子供の雰囲気を醸し出している。なら、さしずめガラの悪い近所のおじさんか。とんでもない。
「ほんとめんっどくせぇな。それ以上は帰ってから喋れ」
とりあえず人通りのあるところから場所を移したくて席を立つ。伝票をちら見して、懐から余分なくらいのチップを机に置いた。
「え、もう帰んの?」
シンが面白くなさそうな声をあげるが、どう考えても人の往来があるところでやる会話ではないのだ。脅威が去ったとしても、いまだにギアへの恐怖は人の心に根付いているし、ここにいる全員がギアの血を有している。
それなりに話すなら、やはり人気が無い方が良い。ならやはり、王城だろう。
「てめぇ、宿はとってあるか」
「いいや。私は空間を渡っていつでも家に帰れるのでな」
「なら、来い。城にも用があんだろ」
すっかり顔パスで通れるようになってしまっている城には、部屋も用意されているし、シンに限っては実家と言っても過言ではない。
それに、きっと会いたいだろう。
「ふむ、特に呼ばれてはいないのだが、私も行ってよいのかな?」
「嬢ちゃんは知らんが、カイならいるだろう。来たなら会っていけ。余計な手間は省いてやる」
招待されて正式に入城するなら、身元確認も含めて山のような手続きをする事になるだろう。が、最近はソルの連れて来る客についてはある程度は不問であった。確認するとアウトな件が多すぎたのかも知れない。その分はそれなりに貢献して返したのだから許されたい。
「では、お言葉に甘えて」
おおよその意図を汲み取ったテスタメントも、カイかディズィーの耳に入れば入場許可が降りるであろうと判断したらしく、素直に頷いた。
「えーーーーーっっっ!?!! あ、あのテスタメントさん!? 母さんがたまに話してた男の人。ええ!? えええええ!? だって、めっちゃキレイなお姉さんで……えええええ!?」
「そんなに驚かなくても。ギアだから長生き故に方向性もガラリと変わることもある。ディズィーが儚い少女から生気溢れる空賊団なったように。そして母になったようにな」
城の応接間で入城の許可を取り付ける間に、勝手に話は弾んでいた。入るまでは何も喋るなと念押ししておいたのだが、ようやくテスタメントの正体を知ってしまったシンが大声で話している。だから人の往来があるところではまずいと思ったのだ。殴って黙らせようかとも考えたが、今はただ部屋の外に声が漏れてない事を祈る。
「ふおおお、なるほど……! これがギアのパワー!!!」
「それで納得できんのか?」
とは言え、こいつの出生も含めていまだに納得できない事だらけではある。シンの生い立ちも、テスタメントの性別不明も、ディズィーの例外的な出産も、等しくギアの謎としか言いようがない。
「いや、よくわからないけど、綺麗なお姉さんは俺も好きだし、細かくはいっかなって」
「まあ、その認識で構わないよ。性別が変わっているわけではないのだが」
豪華な作りのふかふかのソファーに座っているテスタメントは、やはりどこからどう見ても美女にしか見えない。ナニがついているのを知っているにしてもだ。
「え、え、じゃぁ……その。お尻とかちょっと触ってもい、でっ!!! 殴んなよ親父!!!」
「いきなり他人の尻を触りたがる阿呆がいるか!」
思わず迷わず手が出ていた。
デリカシーがないのは認める。そういう育ち方も育て方もしなかったのだから、息子にそんなものが備わっていないのは当たり前だ。だが、そんな。幼さを盾に体を触るとか、ないだろうが。許されないだろうが。羨ましい。
なので秒でげんこつを飛ばしていた。
「いやだって、気になるでしょ。親父だってさ」
「気になるのか?」
テスタメントはあまり気にしていないのか、穏やかにシンに尋ねる。
「うん!!!」
「気になっても触るな!!!」
元気いっぱいの返事に思わずつっこむ。確かに気にはなるのだ。ふくよかな臀部、そこからチラチラと見える肉付きの良い脚。昔の彼を知っているから尚の事、気にならないはずがない。
「おまえも気になるのか?」
だが、その心を読んだかのように、次はテスタメントがこちらに視線を投げて問いかけてきた。
ぶわっと、心が焦燥にかられる。まてまて、冷静になれ。
「…………ねぇよ」
取り繕うように、なんとか一言だけ絞り出した。
その後はカイの耳に入ったようで、トントン拍子に話は進み、無事にディズィーに会わせることができた。
特に有事でもないこの時に、偶然見つけられて良かったのかもしれない。そのまま夕食を共に摂ることになり、楽しく談笑しながらの席になりそうなのでソルは辞退した。
が、捕まり部屋の隅っこで黙っていてもいいからと半強制的に夕食を食わされた。
散々な目に遭ったと思うが、カイやディズィーに対して丁寧にされる身の上話を聞いて、ようやく納得がいった。聞き上手では決してないため、あの場にいなければ彼の今など知ることはなかっただろう。
彼はあの後、ディズィーを保護していた老夫婦と生活を共にしていたらしい。人として生きていくためのかけがえのない愛情を注がれた彼は、ようやく人らしいギアになったというわけだ。
人として考え、暮らし、働き、そして優しさを知り楽しみを知った彼は、すっかり一般人に溶け込んだというわけである。
世界の危機を何度も越える中、当たり前の幸せを教授していた。だが、あの凄惨な生い立ちを考えればそれでいい。めでたしめでたしで締めくくられて良い話だと思った。
「泊まっていくのか?」
窓から平和な灯りをともす城下を眺めているらしい男に声をかける。先程までの賑やかさは遠のき、今はからりと気持ちの良い、静かな夜風が吹いていた。
「いや」
彼は空間を渡る術を使える。長距離だとそれなりに疲れるらしく頻繁には無理だろうが、家の近くまでならすぐに帰れるのだろう。
ただ、少し名残惜しそうに月を眺めている。懐かしい家族に会い、昔でも思い出しているのだろうか。
もう関わる必要もないはずなのだが。それは一つの賭けだった。
「なら、俺の部屋に来い」
「また直球な誘いだな」
「好きなだけ泊めてやる」
正直、持て余し気味なくらい広い客間を、今はソルが個人用に使っている。すっかりソル専用になった一室は、カイのお墨付きで城に来た時の住処となった。シンの義父でもあるのだからと、そのまま使わせてもらっている。
何故誘ったかなど、聞かれても困るが、まだどうしても聞いておきたいことがあった。人前では聞けずにおり、わだかまりがあったのだ。
なんとなくそれを察したのか、テスタメントは素直に頷いた。
「いいだろう、乗ってやらないこともない」
部屋まで案内するまでに、これまた一方的に色々と世間話をされた。
かなり多趣味であるらしく、話題には事欠かないらしい。
「夜の住人は辞めたつもりなのだが、どうも夜の方が得意でな。朝が苦手なのは昔とそう変わらないのだ」
彼は上機嫌で、その足取りは軽い。今も昔も黒を基調にしているのも、夜の住人を連想させる。
「しかし、良かったのか? 私を連れ込んで。泊めるだけなら、シンと同じ部屋でも構わないのだが」
何かと因縁があるといえばある、という気遣いなのだろう。見上げてくる赤い瞳は、ギアらしく綺麗な血の色をしている。思わずごくりと唾を飲み込んで、自室の扉を開けた。それと同時に灯りがついた部屋は、1人用にしては些か豪華で広々としている。
「アイツにおかしな事を吹き込まれても困る」
「失礼な、他人の隠し事を喋るつもりはないし、ディズィーの子に手を出すような事もしないぞ」
いや、逆だ。まだ未成熟な息子のところにこんな妖艶な色香を放つ存在を放り込むわけにはいかない。子どもの発育に悪すぎる。いや、あの幼さを武器にしてきっとテスタメントをベタベタ触ったりするのではないかと思うと、気が気でない。なんでだ。
「俺なら理解しているが、その姿で野郎と一晩過ごすのは止めておいたほうがいいだろうな」
「己の身くらい守れる。と、言いたいのだが……そうか」
「大体の奴は返り討ちに遭うだろうさ。なら殊更近づけてたまるか」
ソルは自分でも何を言っているのか段々わけがわからなくなってきた。いや、奴は男だ。男なのだが、その色香でうっかり……なんて事も考えられるかもしれない。シンとて幼いが男なのだ。
まぁ、そんな男なのに妖艶と言い切れるような彼を部屋に招いておいて何なのだが。
「ふむ、ならおまえが触ってみるか?」
内鍵をかけたところで、軽いノリでその言葉が届いた。
「は? 突然なんだ」
「いや、私自身があまり自覚がなくてな。女性らしくなったとは言われるが、毎日鏡で自分の姿を見ていたら案外気づかないものだ。昔と同じでいくら鍛えても筋肉はさほどつかないし、女性のする化粧を覚えたのだから見目がそうなるのは当然だろう。しかしまぁ、体つきも……と言われたら自分では確かめようがないわけだ」
なるほど、自分の変化に気づいてはいるが、それが本当に性的なものなのかの自覚はないし、そうなのかどうか試してもいい、という事だろうか。誘っているのかこいつは。
「それでいいのか」
そんな事を言われたら、触りたいに決まっているのだが。
「……とは?」
「かつててめぇの秘密を暴いた男だぞ、俺は」
男がそれだけで止まれると、思っているのだろうか。更に過去に体を開かせた男だ。何も初めてではない。
「だからだが? 私が見ず知らずの男に体を触れさせていると思うか?」
「はぁ……。あのな、俺とて男だっていってんだよ。手荒くされたくねぇなら黙ってろ」
待て待て、どこから来るんだその信頼は。元々強気な性格であるとは知っているが、更に謎の自信を見せつけられる。そんな性格だったか? 否、変わったのだ。
「まぁ、おまえが優しかった事はないが。だが、壊されたりもしなかったぞ?」
「それはテメェがギアだからだ、壊そうとして壊れるたまかよ」
「本気でそう思うなら、今頃私の首と体は繋がっているまい。故に私は、おまえはそこまで薄情でもないと思うのだがね」
そう言いながらくすくすと笑う顔はどこか無垢ですらある。いっそ妖艶に振り切っていれば良かったのに。
「逃げるなら今のうちだと言ったつもりだったんだがな」
一つ覚悟を決めて。いや、欲に突き動かされるままに。手を取って、強く引き込む。
「おっと」
特に抵抗はなく、そのまま抱き込んでベッドに腰掛けた。上等なベッドが、二人の体重を吸い込み沈む。あっさりと倒れ込んできたテスタメントの体はしっかりと重みがあったが、やはり男のような圧迫感は感じなかった。
一気に距離が縮まり、紅い双眸が近づく。同じ紅であるはずなのに、特別に綺麗に見えるのは気のせいだろうか。
「ああ、そうか。そういうのを通り越して抱きたかったのか。相変わらずむっつりだな、おまえは」
「うるせえ壊すぞ。てめぇには見せてないだけで俺はオープンだ」
テスタメントは体勢を起こしながら、ソルの膝に座るように跨る。さらりと滑り落ちてくる黒い長髪がカーテンのように光を遮り、これまた美しく見せている。
「こわいこわい。そう怒ってくれるな。美女が逃げてしまうぞ」
「自分で言うか?」
流れ落ちる髪を耳にかけながら、ゆっくりと目を閉じる所作が嫌に様になっている。長いまつげが影を落とす頬は、昔に見ていた時より色も明るくほんのり桃色に染まっており、華やかに見えた。化粧の効果もあるだろうが、イメージというものはここまで人を変えるのだ。よく五感を研ぎ澄ませばいい香りがするような気もする。
それにぞくりと興奮して、文字通りに生唾を飲み込む。
「なら、言ってくれるのか?」
「ほんとめんどくせぇ性格になったな」
「と言いつつしっかり触っているではないか」
スリットの間に差し込んだ無骨な手で、太腿を撫でる。滑べやかなハリのある肌が気持ちいい。そのまま手を背面に移動させると、やんわりと臀部を揉みしだいた。
「それとこれとは話が別だ。……しかし、本当に柔らかいな、どうなってやがんだ。もしや太ったか」
程よく筋肉がついてはいるが、男のそれではなくて、柔らかな脂肪もある気がする。むにむにと心ゆくまで手のひらで肉を愉しむ。
「そこまで言われると腹が立つぞ。余計な肉をつけたつもりはない」
「俺は多少、余計な肉がついてる方が好みだが」
「む、そうなのか。男とはよくわからんな」
揉まれているのに、相変わらず警戒の薄い男は、不思議そうな顔をしている。
「てめぇも元は男だろうが」
「女性に劣情を抱いたことがないのでわからないな」
「そうかよ」
「ところで、いつまで触っているつもりなのだ?」
気づけば両手で他の部位も触っていた。流石に内股をなぞられるとくすぐったいのか、テスタメントが小さく息を止める。それに気を良くして、更に豪快に触りはじめる。
「当然、その気がおさまるまでだな。嫌なら早く言え、でないとこのまま犯すぞ」
「ふむ、おまえは今の私でもまだその気になれると言うことか」
昔はしていたのだから、今更すぎる。だが、こうして言葉に出して確かめることは、記憶の上では一度もなかった。
いや、誘ってるよな。誘われているはずだ。本当に嫌がらないのであれば、男がここまで来て引き下がらないということは知るべきである。
「てめぇはもう少し男について理解を深めてから転換するべきだったな」
両手を体に這わせながら、べろりと脇を舐めると、テスタメントが身を竦ませる。目の前で無防備に見せているのが悪い。
男という性別は欲深くて、誘われれば大体いつだってスイッチはオンになる。それを知らないはずがないだろうに。
「転換したつもりはないのだが、そうかもしれんな。でも今のおまえなら、そこまで怖くはないよ」
見つめてくる目は、やはり怯えていなかった。ルビーのような深い紅は凛と澄んで冴えわたっている。
「言ったな?」
「強いて言うなら、昔のおまえの方が怖かった」
「…………」
そう言われると返す言葉もない。昔は優しくするという概念がそもそもなかったのだ。記憶に蓋をしたくらいには申し訳なくも思っている。多少だが。だから気になっていたのだ。
「ふふ、そんなバツの悪そうな顔をするな、少しからかっただけだ」
相当、面白くない顔が外に出ていたのだろう。吹き出すように彼が笑う。本当におかしそうに、楽しそうに笑うものだから、つい調子が狂ってしまう。
今の彼の雰囲気は柔らかく穏やかで、そして甘い。本当に好みの女になったと思う。いや、男なのだが。今だけは極上の女だと言い切れそうだ。勿論、ここまで来て逃す手はない。
「言ってろ。そんな余裕、すぐになくなる」
一つ、二つとボタンに手をかけながら服を脱がして、待ち切れないとばかりに肌を愛撫する。
「んっ……それでは、覚悟しようかな。あまりいじめてくれるなよ?」
そのまま抱きかかえると、いよいよベッドに押し倒す。白の上に広がる黒のコントラストがいい。こんな余裕を持って抱くのははじめてだ。悪くはない。むしろ気分がいい。
「俺が素直に聞くわけねぇだろ」
邪魔な衣服を脱ぎ散らかしながら、ソルはやがてベッドサイドから部屋の照明を落とした。
「相変わらず、おまえの抱き方は荒いな」
「~~。……悪かった」
加減はした。したはずなのだ。が、途中から酷いくらいがっついていた。人を抱くのは久しかったというのもあるが、滑らかな肌に艶やかな肉体、熱に浮かされた顔を見て、己までも熱に取り憑かれてしまった。とても興が乗ったとも言うだろう。
彼の秘密を知っているため動じることもなく、逆に思い切り楽しんでしまったというわけだ。過去に泣かせた事はあれど、ここまで心を通わせながら行為に及んだことはない。それがめちゃくちゃに良かった。
合意だったが故に行為の後に捨て置くわけにもいかず、既に顔を合わせられないという状況で、ベッドサイドに座ったまま、黄昏れて煙草を吹かしているというわけだ。
「そう素直に謝られても困るのだが。触れても良いと言ったのは私だよ」
「俺にも俺なりの矜持ってモンがあんだよ」
理性は吹き飛ばされてしまって今ここにはないのだが。それだけ声も体も好みだったというのはある。現に、背後でシーツに包まれて笑っている男でも最強に可愛いと思ってしまう。
「それに、どこまでいっても私は私。秘所まで造りが変わるわけでも、胸が膨らむわけでもない。僻んではいないつもりだが、好き好んで抱きたい輩などそういるまい」
かつて男であった彼は、男である事も女である事も辞めてしまった。というのは間違いで、実際はどちらにでもなれるというのが真実だったのだろう。そのどちらでもく、生を楽しめるという事は、そういう事だ。
「……。てめぇの体と性別がどうであれ、てめぇはてめぇだろ」
一本吸い終えてしまい、火を消して振り向くと、そこには相変わらず美しく扇状的な黒髪が流れている。まだ少し赤みを帯びてしっとりしている肌が、とても色っぽい。ずいぶん痕も残してしまった。以前なら興奮して噛みつくことはあれど、そんな甘い行為はしてこなかったはずだ。
「ほう、気の利いた台詞も言えるではないか。少しばかりこそばゆいが、悪くない」
「痛むところはないか」
流れる髪を掻きあげて、耳にかけてやる。再び触れる時の作法がわからない。優しくすべき時はどうすればいいかわからない、そんな半端な動作だった。
「私は頑丈だからな、これくらいは平気だよ。それに、これまでにないくらい優しくされたからな」
「さっき荒いとか言ってたじゃねぇか」
「荒いのは荒いな。だが今はおまえの心持ちを言っているのだよ」
ふとその手に、彼の手が合わさり、すりと顔を寄せられる。まつ毛が影を落としている顔は、穏やかだ。しょうがないのでそのままにさせておく。
思えば、ピロートークなどというものも、一切したことがなかった。ヤればそこで関係は終わり、後処理もせずに発つこともあった。とんでもなく最悪な男であったと思う。
「昔ほどガキじゃなくなっただけだ」
「では、そういうことにしておこう。……して、私の体はどうだったかな?」
きらりと光る彼の赤い瞳は、昔見たものよりも綺麗に澄んでいる。
美女と合意で行為に耽る。思い返してみても最高の体験であった事は確かだ。
「まぁ、その気になったらいつでも来い。荒くていいなら抱いてやる」
「そうだな、私は今の私を気に入っているからな。たまになら、おまえに愛されるのも、悪くはない」
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