登場人物:跡部 観月 ミカエル(執事)他
CP傾向:跡観
制作時期:2021年3月
跡観の馴れ初め、コンソレ後のお話
『王の見据える末々は~紳士の戯び~』の続き。
今回は跡部と観月が御飯食べるだけですが
わりと跡観っぽくなったかもしれない?
跡部に振り回されるままに写真を撮り終え、観月はぐったりしていた。そもそもここに呼ばれた理由が分かっていないのだが、写真撮影が目的ではない事だけは確かだ。
「あの、跡部くん……」
「ん? 今、撮れた写真の確認中だ」
逆のソファーに座りながら、跡部はノートパソコンを触っている。
「あ、はい。……っじゃなくて、僕との話とは何だったのですか?」
疲れていたのもあるが、あまりにも跡部が真剣なのでなかなか切り出せなかったのだ。
跡部は顔を上げると、時計で時刻を確認する。
「話せば長くなるからな、食べながら話す。時間通りならそろそろ出来上がる頃だろ。さっき厨房を通りすがったが、やたら気合を入れて作ってるみたいだったから、待たせて悪いな。寮には遅れると連絡を入れさせておく」
確かに、今からフルコースなど談笑しながら食べていたら、少し遅くなるだろう。
「ありがとうございます。それはいいのですが、流石にこの服は汚せませんから、せめてベストだけでも脱いでいいですか?」
食事も礼儀作法の一つとしてそれなりに教養はあるつもりだが、どうしようもない事故は起こる。流石に弁償できないような破格である事が分かるような衣服を汚したとなると、彼らが良くても自分がつらい。
「お前も強情な奴だな、それくらいいいんだが。まぁ、そこまで言うなら」
「ありがとうございます。流石にこのままでは気になって食べ物も喉を通りませんよ」
跡部はこの装いの観月を気に入っているらしく、少し面白くなさそうだったが、なんとか意見は取り入れてもらえた。
そうして、観月がもたもたとベストを脱いでいるうちに、ミカエルが晩餐の用意ができたと伝えに来たのだった。
案内された部屋は、予想通りの広間で、やたら長い机に沢山の椅子が並んでいる。まさしくイメージ通りの洋館にあるダイニングルームだった。
端と端に座り、遠い席で会話をするのかと身構えたが、普通に対面で食べられるように食器が置かれている。ミカエルに勧められるがまま椅子に座ると、エプロンが必要であれば用意しますがと聞かれた観月は、即答で用意してもらった。ロココ調を脱いでも白の刺繍入りブラウスが待っている。跡部邸は恐ろしいと観月は再度思った。
跡部はというと、シェフやメイドに何やらてきぱきと指示している。するとすぐさま前菜が出てきた。何か飲むか聞かれたが、末恐ろしいので水とだけ答えておく。
「それじゃ、食べる始めるか。お前が水ってのが味気ないが、再び跡部王国へようこそ、観月」
王国などとよく自分で言えたものだ、と初めて聞いた時は思ったものだが、実際体験してみるとその名にふさわしいとしか思えないのだから笑える。
彼は手に持っていたぶどうジュースの入ったグラスを、ただの水が入っているだけのグラスにチンと軽く当てて、グラスに口をつける。つまりは乾杯だったのだろう。観月も一口だけ喉を潤すと、両手を合わせると一言いただきますと挨拶した。
「しかし、跡部くんは今日、負けてきたとは思えませんね。どんだけ神経が図太いんですか」
「お前が繊細なだけだろ」
「ひ、否定はしませんけど……」
「まあ、繊細なのも悪くはねぇしな」
「そりゃ、どうも……」
嫌味を言ったつもりが、軽くかわされる。今は機嫌が良いのだろう。
運ばれてきた前菜……オードブルは野菜と燻製ささみのキャビア添えサラダだった。味付けがさっぱりしてとても食べやすく、また食器の端に本物の花が飾られている。食べ物ではないとわかるが、徹底した拘りを感じた。
次に運ばれて来たのはコンソメのスープだ。普通の過程であればコンソメの元を入れるだけで作れるレシピだが、跡部邸に限ってそれはないだろう。浮いているクルトンまで手作りなのが感じられる。しかも、素人のものでなく、プロのだ。
スープを掬いながら静かに口に運んでいると、跡部から話しかけられた。
「なあ、観月。お前が俺と戦ったあの日」
「コンソレーションの話ですか?」
「ああ」
「俺はどう見えた?」
夏が終わったあの日。本当に色々あった。最悪になるはずの一日が、そうでなくなった事はありがたかったが。そうではなく、跡部との対戦の話。
勝てるはずないと知りながらも、絶対に負けたくないという強い意思。全く歯が立たず追い詰められていく絶望感。振るえる足に叱咤して、最後まで食らいついたつもりではいた。だが、残された感想は簡単なものだ。
「っと、言われましても。……昼にも言いましたが、怖かったです」
最後の一口を飲みこむと、食器を伏せて横に置く。メイドがすぐさま反応して、静かに食器を下げて行った。
「えーと、そうじゃなくてだな。お前はお前なりにデータテニスで挑んだはずだ。俺は大体なんでも卒なくこなすから、あまりデータが役立ったとは思えねえけどな」
思い返すと確かにそうだ。跡部は氷帝最大の山であるからして、データ収集や分析は一番丁寧に行ったつもりだ。だが、このレベルのテニスプレイヤーは常に進化していると考えた方が良い。そこも考慮したが、あまりにも情報量が多すぎて短時間で打開策を立てられず、他の選手を出せなかった。
あるいは、赤澤クラスの全国プレイヤーであれば互角に持ち込めた可能性はあるが、赤澤と金田のダブルスは観月から見ても相性がいい。ダブルスを取るならと、その可能性を優先したのだ。実際にあのペアだけは氷帝に勝っている。だからこそ、自分が跡部と対する事になったとも言うが。
「そうです。例え弱点が見えていても、僕にはそこを突けるまでの技量がありませんでした」
「それだ。今日もお前は言ったな、弱点はわかるし、直すべきところもわかる、と」
「まあ、兼業ですけど一応マネージャーですし、選手の直すべき点くらいは見ていればわかりますよ」
いくら完璧なプレイヤーでも、世界レベルのテニスを見ている限り改善点くらいは見つけられる。
観月は幼い頃は体が弱く、テニスができるようになったのは小学4年生になってからだ。それまでは食い入るようにプロやアマチュア問わずにテニスプレーの映像を見たり、雑誌を見たり自分なりに分析をしていたのだ。それが知識や経験として活かされ、今のマネージャーとしての自分がいる。
「俺も、それなりにであれば自分の弱点はわかる。だが、改善するとなれば話は別だ。それに、俺には成し遂げたい事がある」
「テニスでですか?」
「そうだ。それに、お前の力を借りたい」
気づけば、跡部は真摯な態度で観月と向き合っていた。真っ直ぐ射抜かれる視線は、昼に見た鋭さを帯びている。
「は? はい?」
「こっちにいる間……いや、この夏の間だけでもいい。俺のマネージャーをしないか」
運ばれてくるポワソンなど蚊帳の外で、観月も食器を取る事をはばかられる。それくらいに跡部は真面目だった。
この提案はおそらく今に決まった事ではない。元々伝えたかった話とはこの事で、昼にはもう跡部の頭の中に構想があったのだろう。これまでの話はただの確認に過ぎない。
「僕が? 跡部くんを? いやいや、無理でしょう。力量差がありすぎることくらい、わかってますよ。それにあなたならもっと実力のあるマネージャーやコーチを専属で付けることくらいは……」
「お前じゃないと駄目なんだ」
「え……?」
できるのでは?と問う前に切り出された。
跡部レベルの選手に力を請われるというのは、正直悪くない気分ではある。しかし、その希望にちゃんと応えられるかという保証はないのだ。
「まあ、食べながら考えてくれて構わない」
「はあ……」
跡部も運ばれた食事が冷める事は避けたいのだろう、食器を手に取ると、白身魚のソテーを綺麗に切り分けて口へ運んでいく。観月もそれにならって食器を手にとった。
白身魚のソテーは上からかけてあるソースがこれまた絶品で、柔らかい上に骨の一つもなく、ほろほろとすぐに切り分けられる。油の乗りも最高だ。見た目にも気遣ってあるのか散りばめられたセロリが美しい。
どれも一流のシェフが作った料理だという事はわかる。せっかくなので観月は味わって食べているが、跡部の要求を同時に噛み砕くように考えていた。
「お前じゃないと、俺の成し遂げたい事には手が届かない。例え届いたとしても、もっと未来だ。それでは俺にとっては遅すぎる」
「と、言われましても……」
完全に口説き落とされている気分だ。実際、そうなのだが。マネージャーとしての能力はそれなりに自負しているが、返答次第で今後の生活が変わる話だ。簡単に出して良い答えではない。
「衣食住は完璧に保証する。欲しい物があれば何だって手に入れてやる。帰りたくなったらいつでも送迎してやるし、毎日来てくれとも言わない。どうだ?」
跡部の勧誘を聞きながら、最後の一口を口に入れると、ゆっくりと咀嚼し、味わって飲み込む。ナプキンで口元を拭くと、観月は食器を横によけながら一息ついた。
「なんだか、仰々しい告白のようですね」
「違いねえかもな。存外、俺はお前の事を気に入っている」
これが跡部に夢中の女学生であれば、即答OKの夢の世界だっただろう。しかし観月は、ただの男で、都大会で敗退した学校の選手兼マネージャーの端くれでしかない。何をそんなに跡部が拘るのか、理解できないのだ。
「では、一つだけ聞かせてください。何故、僕じゃないといけないのか、を」
本当にそうだとしたら、考えてもいいだろう。跡部ほどのプレイヤーの実力を、本当に伸ばせるのかなど観月はやったことがない。そこまでの経験はないのだ。不二裕太というそこそこテニスができる少年に、弱点を克服させて、より上級の戦い方を教えるレベルでしかない。
確かにプロのテニスをずっと見て育って来たから、中学生レベルの上とプロでは雲泥の差があることも理解している。だが、見ただけなのだ。そのレベルを理解できても、教えられるとは言えない。
「そのことか……」
跡部も食べ終えたのか食器を横によけると、さっと口元を拭いてグラスを手にとった。そんな行動が様になる中学生など、跡部くらいだろうと思いつつ、観月は言葉を待つ。
「お前は俺の弱点が見えると言ったな。それはテニスでもだ。計算上ではあるがお前には『死角がわかる』。違うか?」
「そうですね、違いません。それが僕の戦い方です」
跡部との戦いもそのつもりだった。だが、跡部の死角はあまり多くない。そこに打たせても貰えなかったのだ。
「俺もそうだ。本能的に『死角が視える』……時がある」
「なんですって!?」
跡部がグラスに口を付ける。その間に、観月の頭には様々な情報が錯綜していた。いや、そんな事がありえるのか。本能的に死角を観るなど。
「それは……あなたのインサイトの能力ですか?」
「おそらくはな。だが、俺にはそこからの一線を越えることができない。『視える死角』が無数にありすぎて、絞り込む事もできない。おそらくお前が絞り込んでいる『死角』よりも多いだろう」
「……ふむ。つまりあなたは、それを完全に絞り込む力が欲しいんですね」
「流石だな、その通りだ」
「だから、それを理解して、かつコントロールすることができ、アドバイスや打開策を考案できる僕でないといけない……と、そういうところですか」
「理解が早くて助かるぜ」
合点は行く。確かにそれならば自分が一番適任となるだろう。他にも死角を絞り込める選手は幾人か知っているが、まだ敗退していないはずだ。
「と言っても、寮とここを往復しなければならなくなる僕に、特に旨味がないんですけど……夏季休暇に入ったとしても、やりたいことは沢山ありますし」
次に運ばれて来たソルベは、華やかな香りのサッパリしたシャーベットだった。香りからしておそらくジャスミン、鎮静効果……つまりリラックス効果を持つ香草だ。ジャスミンには味はないが、これには甘すぎない程度に甘味がつけられており、より香りが楽しめるように工夫されている。
「そうだな、じゃぁこれでどうだ? この邸宅にあるものは、何でも好きな時に使ってくれていいし、欲しいものは全て俺が買ってやる。それじゃ駄目か?」
跡部はぺろりとソルベを平らげると、早々に話を続ける。
観月はこのジャスミンも自分を冷静にさせるための策なのだとしたら、末恐ろしいなと考えながらも、冷ややかなシャーベットを少しずつ口に運ぶ。
同時に脳内で考えをまとめながら、言葉を選んでゆっくりと口にする。
「ここは好きですし、薔薇園も見てみたいですけど……。欲しい物くらい自分で買いますし、僕はそこまで安く見られたくありません」
「じゃあ、これはどうだ。俺が目的を果たした後、一つだけお前の願い事をなんでも一つ叶えてやる。勿論、俺ができる範囲でだがな」
「そんな約束、してしまってもいいんですか? 僕が高い願い事をしてきたらどうするおつもりで」
「いい。それくらい何とかするさ。それくらいお前は、俺にとって重要な存在だって事だ」
そう、ストレートに言われると、例え意味が違っていても照れてしまう。
なくなってしまったソルベの冷たさが今になって恋しくなった。顔が少し火照っているのがわかる。こんなの、ずるいではないか。
だが、ここまで来て結論は出ていた。多少、圧された感はあるのだが……。
「…………。わかりました。そこまで言うのであれば……その件、引き受けましょう」
「今度はえらく素直に折れたな」
にやりと笑う跡部に、ここでは負けてやるものかと不敵に笑って返す。
「んふっ、あなたにそこまで言われたら、流石に悪い気はしませんしねぇ」
「そういう時は可愛いよな、お前」
だが、そんな事を笑ったまま言うのだから、つい動揺してしまう。
「かわっ!?!?! っと、とにかく! いいですか。これだけは忘れないで下さい。絶対にあなたの技が『完璧』になるかなんてわかりません。この世には完璧を打ち破る新しい希望も絶望もたくさんあります。それでも諦めないというなら、僕の力をお貸ししましょう」
絶対なんてない。力を貸しても負ける時は負ける。だが、それでも自分の力を求めるのであれば、いいだろう。負かされた相手だ、力になって最後まで見届けよう。
「当然。俺を誰だと思ってやがる」
ラスト近くに運ばれてくるヴィアンド……フランスフルコースの見せ場である高そうな牛肉を、跡部は品を落とす事なく綺麗に切り分け、豪快に口に入れる。
そんな姿を見て、思わず本音を零してしまった。
「ですよね。では、以後宜しくお願いします。My King.」
「結局のところ、僕がここに招待された時からシナリオは完成していたということですか?」
最後のデセールであるケーキやショコラ、フルーツが並んだ小鉢を楽しみながら、観月は話を切り出す。紅茶が好きと知っているだけあって、茶葉も最高級のアールグレイで、気分は悪くない。
「いいや、シナリオは昼に考えたが、半分くらいは賭けだな」
「それにしては自信満々に見えましたけど?」
「ハッタリに決まってるだろ」
「はぁ、そうですか……ちょっと意外ですね」
フォークを片手に肩を竦めて見せる跡部を、ぽかんと観月が見やる。
いや、実際は知っているはずだ。今日見たところではないか。普段は冷静なこの男が意外なくらい情熱的で、感情的である側面を持つ事を。
「いくら俺でも、嫌がる相手の心境を無理矢理変えることはできるわけねーだろ。それに、お前はそんな安い男じゃないしな。一筋縄で行かなくても、何度か頼み込むつもりだった」
素直に安く見られていない事は嬉しい。正当であるかはわからないが、高く評価されるのも嬉しい。しかし、不思議な気分だった。
「そんなに僕の事が欲しかったとは……」
「変な言い方を……いや、あながち変でもないか」
「はい?」
「もし完璧に断られても、友達としてたまに来てくれ……くらいは言うつもりだったからな」
流石に跡部も照れが入るのか、庭の見える窓を見やる。観月もちらりと窓の外を見たが、そこはもう暗くて薄ぼんやりとしか見えない。
「貴方にはあんなにたくさん友人がいて、カリスマもあって、ついて来る部員が二百人もいるのにですか?」
「そうだ、悪いか?」
「いえ、悪くはないですけど。僕はあまり良い噂もありませんし、見ての通り少し卑屈ですし、綺麗なものは好きですけど僕自身は君ほど綺麗でもないですし」
そこでふと、窓に映る跡部を見る。文句のつけどころのない美形がそこにはいた。別に自分が醜いとは思っていないが、流石に綺麗なものの差くらいは理解できる。
「俺から見たお前はそんな風には見えねぇけどな。噂なんてアテにならないもんだなってのが俺の感想だ」
窓の反射越しに目が合ってしまって気がして、観月は思わず視線を戻した。次は跡部が窓に映った観月を見ているなど、当人は知る由もない。
「はあ、なんだか過大評価されてません?」
「俺は自分の意思表示が出来ない奴よりか、遠回しでも自分の意見を言う奴が好きだな。自分を含めて他人の能力を正確に把握できる奴も好きだ。あと、顔の整った外国人は山程見て育ったからな、この国に戻ってこの国の良さがよく分かる。案外、綺麗な顔してると思うぜ?」
「やめてくださいよ、美形に言われても虚しいだけです」
「じゃぁやめるが、少なくとも俺は見ていて好ましい顔だな」
クツクツと楽しそうに喉を鳴らす跡部の言い分に、思わず顔が火照ってしまう。
「っなんで! そう! 直球なんですか!?」
「遠回しに言っても伝わらないだろ? 俺をどこ育ちだと思ってるんだ?」
遠回しな言い方をする国で跡部は育っていない。伝えたい事は伝える。世界的に見ればそれは普通なのだろうが、奥ゆかしい伝統的な田舎で育って来た観月にはこそばゆい。
如何に自分が世辞や遠回しな言い方に慣れて育って来たかがわかると、卑屈な理由も理解できるというものだ。今後の課題にして直していきたい。
「そうでした……忘れてました」
「というわけだ、何かあれば言え。勿論隠し事はナシだ、なんて言わねえ。隠したいこともあるだろうしな。だが聞けることなら何でも聞いてやる」
溜息。どこまで他人に甘いのだろう、この男は。一度懐に入れた者に対して極度に寛容なのだろうが。
「なんで、跡部くんには彼女がいないんでしょう」
ふとそんな疑問が飛び出てしまう。それなら懐に入った女性ならイチコロであろうに。
「それはな、テニス以外の事はこれまでの俺には些事だったからな」
「そうですね……。うつつを抜かしていて頂上に手が届くほど、中学テニス界とて甘くはありませんから」
確かに、彼女を作って遊んでいるほど彼は暇ではないし、そんな時間があるならテニスに割くだろう。そんな事は容易に想像できる。
「それも一旦、今日で落ち着く。負けたのは悔しいが」
「ああ、そういえば僕はどうすればいいんですか? 僕は実家に帰ってないだけなので、夏休み中はずっとフリーですけど。趣味ですし大会の観戦は行きますけどね」
「俺のところも敗退して、今日の昼に今後の方針をまとめてきた。夏休みだからな、三年生は勉強もあるだろうから部活は自由参加。一、二年は帰省などを除いて週に三回以上の部活参加。俺は部長だから休日以外は毎日様子を見に行くが、練習に参加するかはその時次第だ。よって俺のマネージングは夕方から夜が基本になるだろう。都合が悪い場合は早めにに知らせてくれ。夕食や、必要なら宿泊もできるように取り計らっておく。送迎も専属で用意させるから、他に困ったことがあったら言ってくれ」
既に決めてあったのだろうが、ペラペラと詳細を話す跡部に少し圧倒される。
「いたせりつくせりですね」
「お前の夕方からの時間を貰うんだ、当然だろ?」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えます」
跡部邸は好きであるし、ミカエルや他の使用人たちとも少しずつ顔見知りになってきている。悪い条件ではない。
「ああ。あと今日はもう遅いから泊まっていけ。寮母の方にも21時を過ぎる場合はこちらに泊まらせる旨を伝えてある」
「は、はい? いえ、願ってもないですけど、あの厳格な寮母がよく許しましたね」
既に時計の針は21時半を指している。時間の事などすっかり忘れていたが、原則的に外泊禁止の寮であるため、寮母がすんなり許した事に驚く。
「それが、先日菓子折りつきでミカエルに挨拶に行かせた所、ミカエルの事がいたく気に入ったみたいでな。先程電話したら一発OKだったそうだ」
「なる……ほど? 確かにミカエルさんの滲み出る善性は理解できますが……」
「正気か!? いや、確かに有能ではあるが」
珍しく跡部が声を荒げる。あれだけできた執事も早々いない。というか、そもそも執事という職が既にこの国には殆どないと思うのだが、観月の理想とする完璧な執事像と寸分違わないのだ。間違いなくできる秘書である事には違いない。
「跡部くん、ミカエルさんとずっと暮らしているから、あの方の有能さや優しさに疎いんですよ。人徳もあるし、人助けまでされる立派な方なんですから」
「ああ見えて結構スパルタなんだぞ!?」
「はいはい、坊ちゃま、観月様。私の話をしていただけるのは大変嬉しゅうございますが、そろそろ食事の方も片付けませんと給仕の者が遅くなってしまいますゆえ」
「って居たのかよ、ミカエル!」
「すみません、話に夢中になってしまっていて」
「ほっほっほ、続きは坊っちゃんのお部屋でお楽しみください」
そう言われて慌てて席を立った。最後まで丁寧に礼をして見送ってくれる給仕のメイドやコックに、ごちそうさまと感想を告げる。跡部の話で味も記憶も飛ぶかと思ったが、どれも美味しかったのは本当だ。
部屋の外で待っていた跡部に続いてダイニングを後にしたのだが、食器の片付けをしているミカエルの背中を遠目に見て、今の話を聞かれていてもなかなか恥ずかしいと改めて思い直すのだった。
「お前、なかなかマメだな」
「今後お世話になるのでしたら、心象を良くしておいて損はないでしょう? それに、言葉を飾るまでもなく美味しかったですし」
「流石、俺のマネージャー様だ」
「お褒めに預かり光栄です。んふっ」
その後、跡部の横に並んでダイニングから跡部の部屋までの説明を受けたが、流石にそちらは観月の腹には入り切らなかった。
跡部王国。誰がそう呼んだかは知らないが、それは同時にこのような意味もある。まるで一つの王国のように、その屋敷は広く迷いやすいのだと。
そんなわけで、有言実行……にはちょっと遅れたんですけど
一応四月ウソの日に間に合いました!……間に合ってなーい!!!
この跡観のあらすじや結末はわりと決めてあって
後はそこを目指して書くだけと言えばそうなんですけど
二人を無駄に会話させたくて、よく話が逸れたりします。
二人には男子中学生っぽくどうでもいい言い合いをしていてほしい。
ただそれだけ……というわけではないですが、会話が好きです(笑)
大したことない会話分なら無限に書いてられるんですけど
小説ってそれだけじゃダメなので難しいですね。
もっと上手くなりたいな~
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