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怖がりの英雄(アステリオス×テセウス)

制作時期:2023年11月

設定を把握しきれてないまま勢いで書きました!
アステリオスが怖くて逃げちゃうテセウスのアステセ馴れ初め話です。
ほのぼのではない?……なんちゃってエセシリアス。








「初めまして。それとも、記憶があるのかしら」

 その英雄は、カルデアに召喚されてすぐに女神に捕まった。マスターに召喚され初めて現界した後、登録や手続きもそこそこに自由を許可された。その後に廊下に出たら、目の前にこの美少女がいたというわけである。無機質な材質の壁に浮かぶ輪郭は、どこを切り取っても完璧な美しさを纏う少女だが、本能的に関わってはいけない空気を感じる。

「私はエウリュアレ。女神エウリュアレよ」

 女神と聞いてやはり、と思った。名前は聞いたことがあるが生前に関わりはさほどない。あの時代には神が多く残っていたので、とりわけ畏怖の念があるわけではない。だが、遠すぎるわけでもないので後の人々が感じる信仰心というものもなかった。死後にあたる今、ここカルデアに置いても見知らぬ女神と関わりたいとは思わなかった。

「ええと……こんにちは、エウリュアレ様。僕に何か用ですか?」

「ええ、記憶があるか確かめに来たの。あなた、アステリオスの事は覚えているかしら」

 知らないはずがない名前だ。変わったことを聞かれていると最初は思った。テセウスとアステリオスの関係なんて、少し見知っている者なら誰でも知っている。彼をミノタウロスと呼ぶか、アステリオスと呼ぶかの差はあれど知らないものはいないだろう。いや、知らないほうがありがたいのだが。

「当然、アステリオスの事は知っています。それが何か?」

「私、ここでは彼のことをとてもとても可愛がっているのよ。だからね、あの子をいじめたら許さないから」

「え……?」

 それを聞いて、内にあった記憶が浮き上がる。綺麗な顔をした理想の少女のような女神と、かつて何も知らないまま迷宮で殺してしまったミノス王の子。その取り合わせの事を。薄っすらと記憶にあるそれは鮮明ではない。
 だが、おそらく呼び出される前に座に持ち帰った、どこかでの記憶なのだろう。連鎖的にその世界の輪郭を思い出した時には、その場から走り出していた。
 飛び込んだのは召喚される時に得た知識にあった、カルデアの記録を見られる部屋だ。まだ焼き付けられてそれほど経っていない知識を絞り出しながら、震える手で慣れない機械を直感で操作する。そうして過去の記録を検索した。
 その答えに辿り着いた時、思わずその場で頭を抱えてうずくまってしまった。彼に隠しておきたかった気持ちは、死後に自分の手で暴露されている。それなのに、その記憶を殆ど失ったままここへ来てしまったわけだ。
 続いてアステリオスの名で検索すると、自分のものより多く引っかかり、先程の女神との繋がりも把握した。少なくとも、今のアステリオスはバーサーカーながらとても安定した霊基であるらしい。
 ならば今更、会うこともない。いや、会ってはならない。そう考えると、あの女神に先に会って良かったのかもしれない。彼の今の平穏を乱すな。そういう事だったのだろう。




 その後、彷徨っていたところを義母かもしれない女性に拾われた。というのも、どうすればいいか分からずぼんやり歩いているところを引き止められた。そのまま彼女は面倒くさそうな顔をしつつもイアソンのところへ連れて行ってくれた。彼に事情を聞かれ、案内され、そうして無事にカルデアでの生活がスタートしたのだった。
 新生活のはじめこそやれ種火だの、シミュレータールームで模擬戦闘だのと忙しくしていたが、それが落ち着く頃にはすっかりカルデアの生活に慣れていた。唯一、アステリオスに会っていないという点を除いては。
 そう、完全に避けていた。
 彼と、かの女神は行動を共にしている事も多かったので、あの女神の気配を知ればそう難しい事ではなかったし、イアソンに協力してもらってアステリオスの普段の行動については調べさせてもらった。生前の因縁を理由に顔を合わせたくないと言えば察してもらえたようでありがたかった。
 アステリオスは病気や体調不良が起きないはずのサーヴァントにしてはかなり規則正しい生活をしているようで、食事や就寝の時間が一定しているので行動を読みやすかったし、体が大きく存在感があるので避けやすくもあった。
 そういう生活に慣れてしまえば、自然と息をするように避けるようになって、少しばかりの時間が流れた。

 寂しいかと言えば嘘にはなる。白天と黒夜の城と呼ばれていた特異点での出来事は、ほぼ覚えていなかったが、座に持ち帰ったであろう情報が全くないわけでもなかったらしい。それが女神と会った時に感じた違和感から膨れ上がって、僅かな断片であったであろう記録や記憶をそれなりに紡ぎ合わせて思い出した。思い出したというか、やや憶測の面もある。が、そこは自分自身の事なので間違ってはいないだろうと推察する。
 つまるところ、アステリオスに対して強い未練があった。それは今回の現界も変わらないようだ。けれども、それはあくまでテセウスというサーヴァントの勝手な思惑でしかない。これだけ時間が経っても彼が何も動かないのであれば、はやりここの彼は自分に会いたくはないのだと結論づけた。
 懐かしいアルゴノーツの面々とは楽しくやれているし、なんだかんだでイアソンは頼りになるかつての船長であり友だ。メディアとも歴史に残る因縁のようなものは取り払われていて気軽に喋りかけることができたし、マスターは英雄としての自分の力を借りに来てくれる。この生活にそれなりに満足していた。
 その均衡が崩れたのは、その後だった。

「テセウス! まずいことになった!!! 今すぐ逃げろ!!!」

 イアソンの部屋で映画鑑賞をしながらくつろいでいたら、おやつを取りに行ったらしいイアソンが慌ただしく帰ってきた。

「どうしたの、何かあった?」

「おまえがここにいるのがバレた!」

 それで誰にバレたのかピンと来る。いや、というか……ここまでバレてないから彼が来なかったのだろうか。そんなバカな。ここに来てからもう二週間は経っている。

「えっと、どういう状況? ここに居ないほうがいい?」

「お前と部屋で遊んでるからおやつを多めにせびったら聞かれてたみたいでさ、なんか突然怒りだした? みたいな?」

「え、怒ってるの!? 僕は殺されるのかな」

 過去のしでかしを考えればそうなる可能性もなくはない。何せ自分を死に追いやった相手だ。少し気がはやる。

「バーサーカーの考えることなんてヘラクレスの事以外、俺にわかるはずないだろ!?」

「そういうものかい?」

「ここじゃ殺し合いはご法度だから殺されはしないだろうけどさ、それよりおまえが会いたいか会いたくないかだろ」

 イアソンは適当に見えて、とても相手の気持ちを汲める賢くて優しい奴だ。そう聞かれて、自分がこれまで逃げ回っていた事を思い出す。怖いとか、嫌いとかいうわけではないけれど、あの複雑な思いをしたくなくて心が曇る。

「うーん、そうだね。今は……会いたくないかな」

「ならシミュレータールームに逃げろ。マスターは夜には帰るそうだから、戻ったら事情を説明して迎えに行く」

「わかった。ありがとう、イアソン」

 そうしてイアソンの部屋から逃げ出した男は、シミュレータールームの適当に起動していたところへ、なりふり構わず飛び込んだ。
 そこは見たことのない夜の砂浜だった。

「おや、これは明るいな」

 咄嗟に夜を選んだのは闇に紛れやすいためなのだが、こうも月が明るくては見つかるかもしれない。しかし懐かしい潮の香りを運ぶ海風に撫でられて、彼はゆっくり歩きだした。
 海というものに何かと縁があり、よく船に乗って海原を駆けたものだ。そんなに大した英雄にもなれなかったし、強くも、立派な人格にもならなかったけれど、生きていた頃の思い出といえば海が多かった。アルゴノーツでの思い出を考えれば、それなりに航海が好きだったのだと思う。
 見つかったら逃げればいい。ここなら海の中にも逃げられるし、砂の上を駆けるにしても、一番早く逃げられる気がした。イアソンには色々な意味で感謝せねばなるまい。
 月を見上げながら、砂浜を歩く。寄せては引く波間の音を感じながら歩くだけで、不思議とはやった心が落ち着いていく。何も、逃げることはなかったかもしれないなんて、今更ながらに申し訳なく思った。

「見つけた、てせうす!!!」

「あ」

 その矢先だった。思ったより近くで声が聞こえ、振り返った時には既に時空が歪んでいた。




「れ?」

 降り立ったのは、見たことのある迷宮だった。いや、一生忘れることができなかった、因縁の場所でもある。最初に狂ってしまった、後悔の地だ。
 彼は見つけてすぐに宝具を使ったのだろう、一瞬のうちに囚われていた。懐かしい彼の迷宮。自由に動くことはできないが、アリアドネの糸を使って脱出することはできる。
 そう、つまりは出入口を張られているのだろう。こちらの宝具も想定しての迷宮だ。

「しまったな」

 脱出する事すら封じられているならば、できることは時間稼ぎくらいだろうか。彷徨っても意味がない事を知っていたので、手早くどん突きの一室に逃げ込む。霊体化はできないらしいが、サーヴァントである以上は食べなくても寝なくても平気だろう。マスターとイアソンが様子を見に来るまで、ここに身を隠くして待っていようと、柱の裏に隠れるとズルズルと座り込んだ。ひやりと床の冷たさを感じる。
 そんなに彼に恨まれるような事をしたかといえば、している。どちらかと言えば一発殴りたいとか、殺してやりたいとか、そういう類のものだろう。彼こそを王にしたかったなんて、あくまでこの想いは彼を殺した後に膨らませてしまったものだ。そんなものを彼が知るよしもないし、あの特異点での記憶をそもそも彼は持っていない。生きていた頃の恨みを一度でも晴らさせてしまえば終わる関係かもしれないと考えると、それもありなのかもしれない。
 しかし、女神は言った。関わるなと。いや、どうだっただろうか。でもカルデアに来てかなり経ったが何もなかったのだ。それは彼が何も思っていなかった証ではないのか。現在、こうして追われて逃げて捕まっているのだから、何かはあるのだろうが。
 ああ、彼と向き合った時、なんて言い訳をしようか。いや、見苦しく何か言う前に殴られておけばいいのではないか。ぐるぐると巡る思考をまとめながら、意識を遠くに追いやる。時間の分からない迷宮でただひとり。出入口が塞がれているけれど、ここからでなければ、動かなければ延々と待つことはできるのだ。そうして、彼はひっそりと眠りについた。
 ふいに気配で目が覚めた時には色々と遅かったようだ。そんなに深く眠っていないし、たかだか数分だろう。その一瞬の間に、接近を許していた。足音がしてもおかしくない位置なのに、音も匂いも何もしなかった。気がついた時にはもう、彼が部屋にいたのだ。

「てせうす、ここに……いる」

 彼が迷宮の主なのだから、彼には位置が見えているのかもしれない。だとしたら出入口は一体誰が、と考えるまでもなくあの女神であると推察できた。とうとう逃げ道がなくなったのだと知るも、どうやって彼の前に出ていけば良いのかまったくわからなかった。彼にしては、自分を殺した男がそのままいるわけだ。最悪ではないか。
 明確に位置を把握して近づいて来る相手に胸が鳴る。かつて迷宮に行った時もそれなりにドキドキしたものだが、追い詰められて緊張するような事はなかった。
 あの時は傷つけるための剣を持っていたが、今はもうそんなものは持ち合わせていない。あったとしても二度と抜くまいと誓ったのだから、残された対人宝具もないのと一緒だった。なら、やはり逃げるしかないか。それとも、いっそ清々しく殴られるべきか。

「てせうす」

 思案しているところで腕を掴まれた。驚いて反射的に退こうとしたが、掴まれた腕はビクともしない。喉の奥から小さく悲鳴が漏れる。

「待って!!!」

 最期に見た彼と何も変わっていない姿に、目眩がする。ここまで逃げてきたのに、こんなにも会いたかったなんてお笑い草だ。そのまま強く引かれて、気がつけば腕の中に閉じ込められていた。どういう状況なのかさっぱり掴めない。

「おねがい、にげないで」

「アステリオス……?」

 逃げるところがもうないのだが。心臓の音だけが鳴り止まず、冷や汗が出る。呼んだ名前は、口にするには久しすぎた。

「ぼくは……おはなし、したい」

「え……っと。僕とかい?」

 そこで、目が合った。仮面をつけていない彼の瞳は血のように赤くて、ギラギラと光っている。でも不思議と恐怖は感じなかった。一呼吸する。彼の腕から逃げられそうにはないが、窒息しそうなほどでもない。悪意や殺意は感じなかった。

「うん。てせうすと……おはなし、したい」

「痛いことは……しない?」

「しない」

 それを聞いてもう少しだけ緊張を解いた。いや、だがしかし、前の特異点でも抱擁された事は一度もない。覗き込んでくる巨体は何を考えているのかわからなかった。

「何故追われているのか、よく分からないのだけど、君は僕の事を覚えていないんじゃないかな。違う?」

 これは話をする上での大前提だと思い、最初に問いかけた。女神エウリュアレはおそらく、かの特異点の記憶はないが、記録ないしマスターから報告を受けたのだろう。でなければ、カルデアに降り立った時にあのような問いはされないはずだ。
 しかし、アステリオスがそれを知っているかは分からない。あの特異点のアステリオスが導き出した考えと、ここのアステリオスが同じ考えになるかはわからないのだ。

「そう……だけど、ぼくはかるであにきて、ながいから……いっぱい、いっぱいかんがえた」

 確かに、彼がここに召喚された月日はかなり前だった。それこそ年単位だろう。

「てせうすのことも……しらべてもらって、いつかあえたなら……いちばんにあいたいなって、おもってた」

「なる、ほど?」

 自分を殺した敵を調べるだなんて、サーヴァントならではの発想かもしれない。彼の死に際は今でも覚えている。それを生前に散々引きずった自分は、それが色濃く座の記憶に焼きつけられている。

「ここの君は、僕のことが憎くはないのかな」

 勢いよく横に首が振られる。

「それは、ぜったいに、ない」

 そこまできっぱりと言い切れるものなのだろうか。あるいは、同じく座に刻まれるほどの記憶なのだろうか。

「そうか。こちらに来て暫く経つのに、君と会わなかったから嫌われているものだと思っていた。君には僕を恨む権利も、傷つける権利もある。だからきっと僕の事が恨めしくて追っているのだとばかり思っていてね。逃げてしまってすまない」

「てせうすを、ぼくがうらむ? ……ぜったいに、ない」

 また言い切られてしまって、複雑な心境になる。いっそのこと恨まれて、八つ裂きにでもされた方が良かった。さっきまで逃げていた男がどの口で、と思わなくもないが、捕まった今は覚悟を決めている。そうされて当然の事をしたのだから。
 でもきっと、このアステリオスもテセウスを責めることはないのだろう。あそこで化物が倒されたのは当然で、またもや父王が正しかったからそうなったと云うのだろう。英雄だった自分に倒されて、それが救いだったのだと。
 ああ、心がもやもやする。だから会ってはいけなかったのだ。

「ここにきてたの、ずっとしらなくって……ごめんなさい。さっきなまえをきいてしまって」

「もしかして今まで知らなかったのかな」

 会わない方がいいと決めたのはテセウスの方だ。そして、周囲もわざわざ殺した相手が召喚されたなど、バーサーカーに吹聴する輩もいなかったのだろう。近くにいる女神も、わざとそれをしなかった。

「うん。ここにきてたんだって……ぼく、しらなくて。だから……ひっしにおいかけた」

 また悲しい顔をさせてしまっている。そんな顔をさせたいわけではなかったのに。

「おいかけてるときに、えうりゅあれからきいた」

「特異点の事かな」

「うん。てせうすがぼくたちのかるであと……つながるようになった、きっかけ」

 いったいどれほど聞いたのだろうか。あの時、あの場所で二人して呼び出された、あの特殊な関係は、これまでで一番良好なものだっただろう。ある意味、夢のような時間だった。ああして、彼の隣で、彼が生きるための時間を。自分の命をもって作れるのが嬉しかった。……ように思う。

「ぼくとてせうすが、となりにいたって」

「今の君は、それを聞いてどう思った?」

 一番重要なのはそこだ。今回の関係は、どう紡げば良いのだろうか。自分を罰してほしいという気持ちが消えないわけではない。だが、何よりも彼の気持ちを大切にしたかった。

「おどろいたけど、うれしかった」

「そうか」

「ぼくも、きみがすきだから」

「ッ!?」

 それを聞いた時、息が止まりそうなくらいに苦しくなった。嬉しい気持ちと、申し訳ない気持ちがないまぜになって、身が焦げそうだ。顔が熱い。

「君は……僕と仲良くなりたいというの? 君を誤って殺してしまったのは僕なのに。ここの君もそれを言ってしまうのか」

 そんなの、あまりにも都合が良すぎる。幻想ではないのかと疑ってしまう。

「きっと、どのせかいでも……きみはぼくをすくってくれた……ぴかぴかのきれいな……えいゆうなんだ。ぼくが、ぼくとして、ここにきたときから……それはずっといっしょ」

 にこり、とアステリオスに笑われて、テセウスは観念した。
 ここのアステリオスは既に幸せを知っている。そんな彼が自分もそこに組み込もうとしているなら、抗う余地などなかったのだ。





 その後、テセウスとアステリオスは迷宮の出口に向かう事になった。宝具を使ったほうが早いと言ったが、少しのあいだ二人だけで歩きたいと押し切られてしまった。そうしてテセウスはいまだにアステリオスの腕に抱かれながら迷宮を進むこととなる。
 体勢は変わって、今は横抱きされていた。こうされたから素直に従っているが、小さくて可憐な女神が彼の肩に乗っていたのを思い出すと、憤死というものをしてみたくなる。こんな筋肉にまみれた大の男の扱いと思えないが、アステリオスが上機嫌すぎて言うに言えないでいた。出る時に降ろしてもらおう。

「こんどのきみは……とてもこわがっていたのに、おいかけてしまって……ごめんなさい」

「違うよ。君が悪いんじゃない。僕が怖がって、勝手に逃げただけだから」 

「てせうす……もうこわくない? ぼく、こわいのもいたいのも、ぜったいにしないよ」

「分からないことだらけでモヤモヤするけど。怖くはないよ」

 それなりに好意を向けられているのは理解できるが、本当にそれでいいのか。殺した相手に好意を向けられるのは、虫が良すぎる気もする。更に殺した者がそれを悔いているのだ、これでは生殺しがすぎる。けれど、それを言うと悲しそうな顔を連れてきてしまいそうなのでやめた。
 そんなモヤモヤした気持ちを引きずっているのが伝わったのか、アステリオスが少しだけ声のトーンを落とす。

「あのね、ぼくもね。てせうすといっしょにいたはなし……きいたとき、すこしだけ……こころがもやもやした」

「何を不快に思ったのかな」

「ぼくはてせうすと、まだなかよくないから、くやしいなって。ぼくがしらない、きみがいる。きっと、いっぱい」

 それはお互い様だ。テセウスも、こんなにあどけなく笑うことができるアステリオスを知らない。彼には幸せになってほしかったのに、既にそうなっている世界があったなんて。それを知って、とても嬉しいけれど、まだどこかで罰してほしい自分がいる。彼が幸せな世界で、自分が幸せで居ていいはずがないのに。

「てせうすにはもっとひろいせかいがあったって……しってる。けれど、ぼくにとって、きみはそらのように、ひろいんだ。ぼくはそんな……きぼうのような、きみのそばにいたい」

「僕は希望なんかになれるような器じゃなかったんだ。……なかったんだ、けれどね。アステリオス、君にそう言われてしまうと……まいったな、断れる気がしない」

 目をキラキラさせて語るアステリオスが、あまりにも輝かしくて直視できない。彼が幸せに生きる世界、それは彼が望むものを全て叶えるという事だ。いずれ希望でもなんでもないと気付く時が来るかもしれないが、彼に望まれているうちは折れることにした。

「じゃあ、じゃあ……!」

 致し方なし、とひとつため息をつく。

「うん、いいよ。僕が決めていいことでもないと思うけれど、君がそう望むなら、ずっと傍にいるよ」

「ありがとう、てせうす!」

 抱きしめながら覆いかぶさってくるアルテリオスに、すりすりと頬擦りされている気がする。まだまだ体を離す気はないらしいことを察して、早々に諦める。それなりの体躯をしているとは思うのだが、彼を前にしてしまうと子猫になったような気分だった。
 はあ、やれやれ。こんな事になるのだったら早く腹を決めて出ていくべきだった。

 ちなみにその後、昔の互いの心境だとか、かの特異点の話をかわしているうちに迷宮からは出ることができた。事前に降ろしてもらうことをすっかり忘れていて、テセウスが相当に恥ずかしい思いをしたのだとか、どうとか。




※ 特に何もない感じのおまけ

 そうして、やっと地に足がついたわけだが、向けられる女神の微笑みに再び怯んだ。彼女の笑いはどこか得体が知れなくて、とても綺麗なのに空恐ろしいのだ。
 抱きかかえられて出てきたとこをばっちり見られていたので、おおよその事は把握しているのだろうが、顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。

「おかえりなさい。おいかけっこは終わったのかしら」

「ただいま、えうりゅあれ。うん、ぼくのかち!」

「やるじゃない。よかったわね」

 語弊がある気がするが、アステリオスが話したほうが良いだろうと口を挟まずにおいた。笑って駆け寄りながら報告する彼に、女神は目元を緩めて笑う。ほら、もう空気が全然違うではないか。この間には挟まりたくないと、一歩引いた所で見ていたら、冷たい視線が射抜いてきた。

「さて、テセウス。私……初めに、この子をいじめたら許さないって、言ったわよね?」

「えっ!? ……あれ???」

 何か、話が違わないか? いや、大きく間違ってもいないはずだ。
 そもそも近づかなければいじめにも何もならないわけで。

「何を聞き違えていたのかしら」

 そんな心の言い訳など通じるはずもなく、ぴしゃりという彼女の言葉に身が竦む。

「てっきり、アステリオスに近づいてはいけないのだとばかり思っていました」

「あら、私が悪かったというの?」

「いえ、申し訳ありません。あの時は気が動転しており」

 何かこう、絶対に逆らってはいけない空気を感じる。本当に申し開きをする言い訳がないのも確かなのだが、素直に頭を下げた。

「まぁいいわ。今後もアステリオスを悲しませなければ、それでいいの。私の言葉の意味、今度こそわかるわよね」

 無言で頷いて見せるが、なんとなく今後もこうして怒られそうだと思った。
 でも、不思議と嫌ではない。きっと、アステリオスのことをとても大切にしてくれているだろう存在だからだ。彼を傷つけるものは、例え誰であっても、自分であっても許してほしくはない。そういう意味では最高の監視役とも言えた。

「えうりゅあれは、てせうすのこと、きらい?」

 空気の違いは感じ取れるのか、アステリオスが口を挟む。

「あなたが好きなら、私も好きよ」

「じゃあぼく……てせうす、すき」

 無理矢理な繋げ方だと思いつつも、あえて何も言わずにおいた。彼が笑っているうちは、全て許すことにしたのだ。今更恥ずかしがっていてもしょうがない。ないのだが、太陽のような笑顔が眩しすぎて、当てられた顔が焼ける。

「ですって。妬いてしまうくらいに彼はあなたのことが好きなのね。ふふ、これから宜しくね、テセウス」

 揶揄ってくる女神の目が怖い。これからのカルデア生活を思うと、少しだけ気が重くなった。
 とりあえず、ヘラクレスの考えていることがわかるらしいイアソンに相談するところからはじめようと思う。



聖杯戦線で太公望かわいいーー!!!とか言ってたら
突如テセウスが実装されてアステリオスと両片想いみたいなのを初めてビビりました。
なにこれ、FGOのテセウスこんな性格してんの?やばない?
何してもアステリオスの英雄じゃないですか。
勢いが止まらなくてこうなりました。
続きの話がR-18とかですまない。

なおフレポガチャ(恒常)に追加されるまでウチには来ませんでした。
嫌われてる。
つら……。



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