【登場する人】
四聖、紂王、聞仲
【CP】
紂王✕高友乾
【備考】
『貪欲なる害毒の渦』の続き。 シリーズ完結です。
シリアスだけど、わりと元にもどります。
殷が滅んだという報が入ったのは、この閉ざされた空間に四聖が封じられてかなり経ってからだった。封神台は外から完全に封鎖されているため、人間界の情報は新しい魂魄のみしか知り得ないからだ。
人間界はあの後も仙界を巻き込んだ戦いをせざるを得なくなり、その関係で様々な魂魄が封神された。
ここへ飛ばされた神となる魂たちは、まず駅へと案内される。駅は各々の想像する住居と、文字通りの駅を形成し、そこへ強制的に封じられる。原則的に敵対関係にあった者と面会はできず、両者と管理人が許可した場合のみ他の駅へ行くことができる。
勿論、暴力沙汰は全て御法度である。そもそも仙人としての能力は全て剥奪されているし、魂だけの体は実態があるようで傷つくことはない。感覚はあるが、食べることや寝ることも必要としない存在だった。
しかし心の傷は別である。精神的な強度が上がるわけではない。そのためか、ここへ来たばかりの者は死のショックへの対処、その状況が把握され落ち着くときまで駅を出ることはあまりない。落ち着いた後は知己の者に会いに行くも、眠り続けるも、閉じこもるも自由なのだと管理人は言う。
四聖の王魔、楊森、李興覇もようやく現世からのしがらみを断ち、自ずと仲間と会うようになっていた。
だが、彼らには共通の懸念が一つだけあった。
「高友乾が部屋から出てこない」
楊森の言葉に王魔が重い表情で唸る。
「面会の承認を求めても何も返ってこなかった」
「楊森と王魔がダメなら俺とか絶対無理じゃん。あいつ、何かあったのかな」
李興覇とて赴かなかったわけではない。呼びかけても、返事がなかったのだ。面会への拒否反応すらない。
皆、一様に黙り込む。
「何か思いあたることはないか?」
「うーん、殺されたことがまだショックだとか?」
「それは私たちでもショックだっただろう。だがもう立ち直りかけてはいる」
「そうだよね~。より繊細な王魔と楊森が何とかなってるんだし」
「私は別に繊細ではないぞ」
「同じく」
「今はそういうことにしておいてあげるよ。今は高友乾が先」
各々、思い当たる節がないわけではない。自分たちを殺した相手はあの紂王だ。彼と直接的な主従関係にはないが、誰よりも四聖が慕う聞仲の育てた男であり、彼の王だった。
そんな四聖の中で最も関わっていたのが高友乾だ。何だかんだ言いつつ情に厚い男は、心が晴れないままなのかもしれない。
「やはり死に際か?」
「俺の記憶では、あいつが一番最後まで残っていたはずなんだけど」
李興覇の記憶は楊森と王魔がやられたところで途切れている。
「ではそこで何かあったのか?」
「敵であった紂王と、確執が一番強かったのは友乾だからな」
重い沈黙が流れる。そこで何があったか、知りようもない。
「ここでは食べなくても飲まなくても、問題はないけどさ。……でも俺、心配だよ」
李興覇が神妙な面持ちで悲しそうに呟く。よく高友乾と喧嘩をしている彼だが、一番気が合うのも高友乾なのだ。そもそも四聖は四人で四聖なのだ。このままにしておく事はできなかった。
「よし、聞仲様に相談してみよう」
「そうだね。何かわかればいいな」
聞仲は先に封神されているが、今のところ挨拶以外で会話はしていない。双方ともショックが大きかったため、管理人の計らいにより距離を置いていたのだ。
だが、今なら何か話ができるかもしれないと、四聖たちは動き出した。
四聖たちが聞仲に会うための許可を取り、顛末を聞きにその元へ訪れた時には既に紂王がその場にいた。
残りの四聖は、己を殺した存在にたじろいだが、紂王がすぐさま頭を下げて謝罪したため、王魔がやむなしと判断し、同席したまま話を進めたのだ。
高友乾が門を閉ざしたまま引きこもっている。その相談に反応したのも紂王だった。
「それはおそらく、予のせいだろう」
やはり、と四聖たちの心が陰る。
紂王は既に覚悟を決めているのか、落ち着きを持って語る。
「今更申し開く気はないが、そなたらを殺害した時、予は自制心をほぼ失っていた。察しのよい者なら何があったか気付くかもしれぬが……私は彼に許されぬはたらきをした」
「紂王様……」
聞仲、王魔、楊森が重い表情で俯く。あれほど執心していたのだ、理由を何となく察する。
「え、なに?」
李興覇の問いに答える者がいないまま話は進む。
「しかし、それはあの女狐めに操られていたからでは……」
「良いのだ聞仲。予は叱られて、怒られて、嫌われて当然の事をした。その事実は変わらぬ」
紂王の眼差しにかつての愚鈍さはかけらもない。これが本来の紂王であるし、色欲が深い一面も紂王のものだろう。
かつての王は、反省を噛みしめながらも立ち止まりはしないようだ。
「だが予は高友乾に会いたい。会って謝らねばならんのだ」
記憶の底に絶望が根付いている。それらを取り払う事ができたのなら、この無ではない死とて意味があるものにできたのならば。少しは救いとなるだろうか。
「四聖たちよ。どうか一度だけ、チャンスをくれまいか?」
紂王が四聖たちの前で膝をついて拱手する。
本来、紂王が王として生きていたのならば、生涯とることのなかった礼式だった。
王魔はその意味を正しく理解すると、眉間に皺を刻んだまま頷いた。
「良いだろう。だがこれ以上高友乾を傷つけることは私たちが絶対に許さない。それは覚えておいてくれ」
「ああ、わかっている。感謝する」
高友乾に会わなければならない。
それは彼にとって残酷な話だろう。答えなど容易に出せるものではない。けれでも、彼は四聖になくてはならないピースなのだ。
あの時、嫌々ながらに参内を初めた高友乾だったが、途中からは時間がある限り様子を見に行っていた。紂王との仲も悪くないと見に行った李興覇から聞いていた。彼にとっても、久しぶりにできた友だったのだ。
「王魔、私からも礼を言う」
「いえ、聞仲様。全てを決めるのは、あいつですから」
「そうだな」
いつもの彼に会いたい。ただ、そう願う。
それがこの神葬りの箱庭でも許されるのなら、そのチャンスに賭けてみたかったのだ。
案内された駅は、主の意向を示しているのか閑散していた。
冷たく乾いた風が紂王の頬を撫でる。
「くれぐれも暴力沙汰にならないようにお願いしますよ」
「ああ、わかっている」
四聖と聞仲には席を外してもらうことになった。元よりプライベートな内容なため、誰かを仲介させる方が高友乾の誇りを傷つけることになるだろう、という判断だ。
紂王は直接的に高友乾を殺している。明らかな加害者ではあったが、事態を考慮した管理人は一切の心身への加害を禁止した上で訪問を了承してくれた。
勿論、紂王に傷つける意志はない。
「じゃあワタクシはここで」
何を考えているのかイマイチわからない亀仙妖の管理人は、案内を終えると短く別れを告げてどこかへと去っていった。
紂王も短く礼を返すと、駅の奥へ足を進める。目的地は目と鼻の先だ。
この駅の住居は一つしかなく、寂れた邸宅が持ち主の心理をあらわすかのように佇んでいる。その周囲を石造りの塀が囲んでおり、中央に門が構えられている。見るからに堅く閉ざされた扉は開くのかすらあやしい。
前から勝手は聞き及んでいる。この門は、居住主の意向でのみ開くらしく、会いたくない者とは面会すらできない仕掛けなのだそうだ。
紂王は閉ざされた門の前まで来ると拳で数度叩く。次にゆっくりと息を吸い、大きめの声で問いかけた。
「高友乾。私だ。紂王だ。突然の訪問をどうか許して欲しい」
声を張り上げるが、届いているのかはわからない。
それでも紂王は続ける。
「そなたに話したい事があるのだ。姿を見せたくなければそれでもいい。だが、聞いてはくれまいだろうか」
返るのは静寂のみ。閉ざされた門が動くことはない。
試しに一度扉を押してみたが、鍵がかかっているわけでもないのにびくともしなかった。
もう一度声をあげながら門を叩く。何度かそうしていると、中からようやく声が届いた。
「うるさい!!!」
返ってきた反応に、紂王は少しばかり安堵した。
「おお、高友乾よ。息災であったか」
「よく聞けばその声、紂王だな。よくも俺の前にその面を晒せたものだ。今更何をしに来た?」
どうやら開かぬ門の裏に出てきたらしく、衣擦れの音がする。
「そなたと話をしたい」
率直に要求する。真面目に向き合わねば、何も通じないと思った。
「失せろ」
一拍置いて返った返事は一言だった。その声には静かに怒気がはらんでいる。それもそうかと紂王は納得する。
寧ろ他の四聖たちに怒られなかった方が不思議だ。曰く、自分たちは戦闘の中で生きてきたのだと言っていた。殺す覚悟も、殺される覚悟も、戦いに身を投じた時から決めていたらしい。殺された悔しさがないわけではないが、自分の弱さが招いた結果なのだと云う。
しかし、その中でも彼は一番手酷く嬲り殺した。あれは流石に怒られるだろう。怒られる次元が少し違うとも云う。
「そなたが怒るのは当然だ。予がそなたにしでかした所業は、到底許されるものではないだろう」
最悪の形で、相手の尊厳を踏みにじった。人の心も、戦士の心も、やっと得られた信頼も、全てが台無しなくらいに。
「当たり前だ」
「だが、予はそなたに謝らなければならない。例え許されることが永久にないとしてもだ。予はそなたを深く傷つけた。そんな自分が許せぬのだ」
後悔ばかりだ。たくさんの人を踏みにじり。王座へついた。国を破滅させたことより、たくさんの命を踏みにじった事への自責の念が強い。実際に悪いのは王だ。なのに彼は、最後まで自分を憂いて叫んでくれていたような気がする。自分のために怒ってくれていた気がする。
「お前はあの時の記憶があるのか?」
高友乾の声はひどく掠れていた。
忘れたくとも忘れられまい、死と陵辱の記憶だ。苦い思いしかないないだろう。
あの時、権力で手に入れられないものに手を伸ばせば届くと思った。その事にひどく高揚した。最初から「全てが手に入れられると思うな」と戒められていたというのに。
否、だからか。
「偽りなく言えば、薄い。だが、これだけは覚えている。あの欲は間違いなく私のものだった。操られた状態であったにせよ、欲望は何もないところから生じたりはせぬ」
恐ろしいほどに視野の狭まったあの時の紂王にとって、高友乾は至高の宝石のように見えた。絶対に手に入らない高嶺の花だ。
ずっと欲しかったのだ。水を纏い美しく戦う姿に欲情したのだ。それを抑えられるものなど何もなかった。さも当然のように手を伸ばした。
「そうか」
「本当に、すまなかった。許してくれなどと言える立場ではない。だが」
言葉を切る。それは言うべきことなのか、その必要があるのか、紂王には判断できなかった。
しかし、ここで話をつけなければ、もう二度と会うことすら叶わないだろう。
「だが、私はそなたと出逢わなければ良かったとは思えぬのだ。あの日、あの時、そなたと出逢い、共に笑った日々をなかったことにだけはしたくないのだ!」
仮初めの平和でも、紂王にとってあの日々は代え難いものだった。
妻がいて、信頼できる部下がいて、何より友がいた。戻れるとするなら、あの日々に戻りたい。
それができないとわからないほど、子供ではなかった。
ならば大人らしく、一国の主らしく、落とし前はつけなければならない。辛くとも、それが今のやるべきことだった。
「もう二度と会えずとも良い。忘れてくれるのが、そなたには一番良いのだろう。それができぬほど理解していないわけではない」
二度と会わない。
それが最善で最良の道だ。会えばこそ傷つく関係なら、会わぬのが一番なのだ。
「しかし予は、やはりそなたが好きなのだ。許されるのならば、今度こそ、予はそなたの友になりたい」
わがままなのは紂王とて分かっている。
だが、今言わなくて何時言うというのだ。
「舌打ちしたくなるほどに未練がましいな」
「否定はせぬ」
「何なんだよお前。何様だ?」
「元王様だ。今は未練がましいただのわがまま男だ」
「わかってるなら尚、質が悪いな」
高友乾は汗を握っていた手を開く。
正直に言うと、まだこの男が怖い。もう化け物じゃないと分かっているのに、殺された時の恐怖が記憶から離れなかった。振るわれた暴力の記憶がこびりついて消えない。
あの時、死に際の高友乾に対して、妲己は確かに言った。紂王を宜しく頼むと。
何故頼まれなければならないのか。伴侶であるお前が面倒を見ればいいじゃないか、と今なら思わない事もない。
いや、わかっている。
妲己は封神台には来なかった。
そもそも、来るつもりがなかったのだ。
全ての未来を、結末を予見して、紂王と分かたれる未来を選ぶつもりなのだ。
操られた紂王に一切の罪はないとは言えないが、少なくとも強制的に抑制力を失わされたのだとしたら、黒幕は間違いなく妲己だ。
記憶から消えかかっている彼女の最後の言葉。頼まれた事しか覚えていなかったが、ここに来てやっと思い出した。
「だから、あなたに託すことにしたのん。わらわはあちらへは行かないから、どうか紂王様を宜しく頼むわねん♡」
冗談ではない。これは、妲己に完全にハメられている。
非常に腹立たしいのだが、何故だろうか、少しだけ彼女が紂王を慈しむ心が感じられて悔しかった。
「クソッ。なんでも都合良く運ぶと思うなよ。ばーか」
「今、何か言っただろうか。声が遠くて聞こえなかった」
「うるせー。お前の女房に文句言ってんだよ!」
何ともつまらない役を押し付けられてしまった。
紂王はただ友達が欲しいだけだ。主と臣下という枠を越えて、媚びへつらう事もなく、言いたいことを言える関係というのは王にとっては特殊だろう。確かに身辺警護をしていた時はそうであったと思い出す。
直属の部下ではないし、命令を受けることもない。だらだら仕事する紂王の尻を叩いて仕事をさせ、適度にだらけたり、武道の訓練に勤しむ毎日だった。
あの日々は確かに悪いものではなかった。
仕事を行えば紂王はしっかりとこなす。判断も悪くはない。少し好色なところを省けば、十分賢王としての素質はある。
けれども、彼に友達はいなかった。
臣下の家族、支える賢者たち、どれも友には遠すぎる。王は孤独なのだ。
欲するならば、人としての位など関係のない、全く権力が及ばない第三勢力。それでいて裏切る心配がなく、ある程度傍に置いておける人物。そんな者は相当に限られている。
その限られた夢を叶えるために彼女が仕組んでいたとしたならば、本当にとんだ女狐だ。そもそもやり方が突飛すぎて精神がついていかないが、あれは妲己なりの過去への清算だったのだろう。
「お前がただの愚王であれば良かったのにな」
「ん? 私はそなたが仙人で良かったぞ」
「そう言う話じゃない」
「いいや、私はそなたが好きだ。それだけは伝えねばならなかったのだ」
痛みなど感じぬ体のはずなにの、高友乾は頭痛を感じた。その場で座り込む。胸も苦しい。
人の好意などに頓着せずに生きてきたものだから、その処理が上手くできないだけなのだ。そう言い聞かせながら痛みをやり過ごす。
「今日はもう、帰ってくれ」
まだ時間が足りない。心の整理をつける時間が。
どうせ、封神された時点で道など限られているのだが。
「いやだ」
「拒否すんな、黙って聞け」
即答で返ってきた言葉を更に斬り伏せる。このやり取りにどこか懐かしさを感じる。
「明日、もう一度、四聖と聞仲様を連れてこい。いいな」
今頃、四聖や聞仲は狼狽でもしているのだろう。紂王がこの調子であれば、事態など筒抜けだ。
ならば、今が覚悟を決める時なのだろう。
「……了解した」
それに、戻りたいのだ。あの日常に。
静かに紂王を去りゆく気配を感じて、高友乾は深くため息をつく。
この絶望と恐怖を拭えるのだろうか。
戦いも身分も何もないこの箱庭で、それでも個と個として分かたれているならば、そこに何を求めると言うのか。
突然訪れた死と共に、この生は始まった。一体、どこまで続くのだろう。
すがるべき神として葬られてしまった事を、彼は初めて強く感じた。
結論から云うと、高友乾は紂王を許す事にした。
許すといっても、過去を全て流すつもりはない。いつまでも悔いてもらう予定ではある。
ただ、友に戻りたいという願いだけは許してやることにしたのだ。
「ほ、本当に良いのか? 予は許されるのか?」
「だから許さねえっつってんだろ」
高友乾が放つ回し蹴りを紂王がまともに食らう。手加減されているのは分かるが、強烈すぎる絵面に一同が引く。これまでも多少手荒い扱いをしてきたのだと予測されるが、王ですらなくなった者への当たりが更に強くなっている。気がする。
「いやー、何があったかは分かったし、そりゃ友乾が怒るのも分かるんだけどさあ」
「流石に再会一番に紂王を壁まで殴り飛ばして管理人に怒られるのは想定外だったぞ」
「うるさい。これでもまだ足りんわ」
そう、高友乾は邂逅一番に紂王を全力で殴った。
軽い魂魄体は怒りのままに飛ばされ、封神台の内部に初めて穴ができたらしく、管理人に酷く怒られてしまった。勿論、前代未聞らしい。
ただ双方の言い分としては『喧嘩ではない』。一方的な暴力に見えた過去の清算である。しかも暴力を一切禁止されていた紂王からではなく、まさかのカウンターだ。
その言い分でようやく解放され、説教部屋から出てきたところを迎えられて今に至る。
「痴話喧嘩と言ったら解放されたのだ」
「クソ腹のたつ! あれがそんなに安いものか!!」
回し蹴りを食らって膝をついている紂王を高友乾が容赦なくげしげし蹴る。
それを止めればいいのかどうか一同は迷うが、紂王がどこか嬉しそうに笑っているのを見て、割って入ることを諦めた。これはたぶん、介入しないほうが良い。
「良かったじゃん友乾、これで全世界で襲われる子女の気持ちが分かるようなったし」
「良いわけあるか! 強姦魔は死ね!」
「すまぬ高友乾よ。予は既に死んでいる」
「もっかい死ね!!」
「これ以上は難しいようだ」
「じゃあずっと死んでろ!」
「ふふふ、予とお揃いだなあ」
「め、メゲないな紂王。恐るべし」
「元々ポジティブな方なのだ」
「よろしいのですか、聞仲様。あれ……」
「紂王様の行い的に私は何も言えん」
「辛辣すぎて紂王がちょっと可哀想に見えてきた」
これでけじめがつけられるものでもなかったが、隣にいるなら元の形に納まるのが最善だった。正直に言えば、隣にいるのが怖い時もある。精神的な傷は癒えきってはいない。
だが、当事者に誠意を込めて謝られてしまっては、数百年生きた仙人としては大人になるしかなかった。
「暴力を暴力で返す道理もないと思うんだが」
「はあ? 何言ってんだよ王魔。じゃあ他に俺の気が軽くなる方法あるならいってみろよ! 土下座百万回でも俺は許さんぞ!!」
「ないな。すまん」
二度とそんな考えに至らぬように、手綱を持つことにした。そもそも前の手綱を持っていたやつの綱が緩すぎたのだ。とりあえず浮ついた顔をしたら容赦なく殴る。ついでに歳月が経ち、落ち着いてきたら迷惑かけたやつのところを巡るのも悪くない。
「良いのだ。怒っている高友乾も美しいしな!」
「目ぇ潰すぞ!!」
「こっわ―」
「まあ、元々一番喧嘩っ早いヤツだったからな」
「見た目と反して気性荒いしな」
「そこ! 聞こえてんだからな!!」
高友乾の怒号が響く。叫びながらも、彼はようやく空が戻ってきたことを知る。その空は青くも赤くも星々もないが、虚無ではなかった。
あのまま恨みや憎しみを抱えて死んでいくのはごめんだったのは確かだ。
封神台にはいずれ次なる役割も与えられるのだという。それが何かは知らないが、これまで手に入れて来た大事なものを知る機会を得て、それらを無くさずに済んだ。今はその事に感謝し、静かに受け入れるつもりだった。
神として葬られた、彼らの日々は騒がしくも続く。
えー、ここまでお付き合いいただきありがとうございました!
というか、これ前編から読んでくれた人いるんです?
あんまりにもマイナーすぎないか……
自分で書きながら「こりゃ読み手おらんな」って震えてるんですけど
これが『再アニメ化までに絶対書いておきたかった話』だとは誰も思うまい。(笑)
実は2016年に上げていた話の方は、私の高友乾萌えの一番の定番妄想ネタでした。
妄想しているだけなので無害だったけど、数年書けて書き上げたのが最初のやつ。
別に紂王×高友乾推しというわけではなかったのです。本当です。
正当なる腐女子として好きな子をいじめたかっただけです。(……)
あと気づいている方もおられると思いますが
時間軸的にこの話はありえません。これ。これやで。最大の矛盾やで。
まあでもそこは腐女子パワーでifっといてください。
最後に『神葬り』という語彙がめちゃくちゃ好きなんですよ。厨二病です。
これで『カムハブリ』と読むのですが、「神を葬る」という意味ではなく「神として葬る」が正解なんだそうな? byFF11辞典。
わーかっこいー……。いつか使いたかったので嬉しかったです。
以上、雑談でした。
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