登場人物:雪国三人組
CP傾向:ディスト愛され気味
制作時期:2006年春
ED後捏造。ディスト愛され気味な幼馴染の戦闘訓練話のおまけ。
甘めのJD。
「……ぎゃあぁっ」
ドサドサドサドサドサ
かの戦闘訓練事件から三日ばかりがすぎた。
うららかな日差しが降り注ぐマルクト皇国が首都グランコクマの軍部の一室で、大量の本に埋まる男がいた。
囚人の身でありながらジェイドの研究の補佐をしている、サフィール・ワイヨン・ネイス
。元六神将が一人『死神のディスト』その人だった。
埃を髪に付着させて、よろりと上体を起こしたその顔にはいつもの眼鏡がなく、痛そうに腰をさすりながら、きょろきょろと周囲をさがしていた。
「まったく、貴方は何をしてるんですか? 本をたった二冊戻してきて下さいと……なんとも
簡単な仕事を頼んだだけだと思うのですが?」
ただでさえ時間が惜しい今日この頃なのに、新たな問題を作ってくれた彼に対し静かな怒気を発しながらゆらりと椅子から立ち上がるジェイドを、ぼやける視界に納めて彼は追い詰められた鼠のように体を強張らせた。
「ぁ…ぅ……と、ごめんなさいジェイド」
自分の非を認めているのかいつものように反論せず、素直に頭を下げるのを見て、ジェイドは小さく溜め息をつくと、その短い距離を歩いて近付き、片膝をついて本に埋まりかけているディストと目線を合わせる。
「どうしたのですか? 朝から動きがおかしいですが、足の捻挫はそろそろギプスも取れますし、それではないのでしょう?」
「そ、それは……」
「とにかく立ちなさい」
普段なら手を貸してなどやらないジェイドも、足の事を気遣ってか腕を取ってひっぱり上げようと手首を掴む。
「……ッ!」
しかし、ひっぱりあげる瞬間に、息を飲むような小さな悲鳴と、白銀の眉が僅かにしかめられるのを見た。
「何処か怪我でもしましたか?」
見たところ足の捻挫以外、外傷はないようだが、吐かせるためにわざと言う。 暫く言い辛そうにうつ向いていたディストだが、ジェイドに真っ直ぐ射られるような視線を浴びせられて、観念したのか申し訳なさそうに口を開いた。
「わ、笑わないで下さいよ? その……」
言いにくいのか、彼は一息ついて息を吸い込む。
「………筋肉痛…みたいなんです」
「………。」
静寂が二人の間を暫し支配したかのようだったが
「ぶふーーーっ」
「なっ!!!!!!!!」
「くっくっくっくっく」
見事、ジェイドが笑いを堪えきれずに吹き出す事になった。
「笑わないで下さいって言ったじゃないですかっ!!」
「誰も笑いませんとも言ってませんよ」
「むかっ」
「はっはっは。筋肉痛? たったアレだけの運動で?」
「きぃぃいいいっ! うるさいですよ!」
「はいはいはいはいはいはい、特別に手伝ってあげますから黙って早く片付けましょうねー」
「っっっ!! ……わかりましたよ」
ぼやけた視界で本の整理を始めるディストに、苦笑を浮かべて、本の間に隠れるように落ちていた彼の眼鏡を拾い掛け直してやる。 どうも、と少し照れながら礼を言われた。
「……ピオニーには言わないで下さいよ!?」
「さぁ、どうしましょうかね。こんな面白い話、言わないなんて勿体無い」
「鬼! 悪魔! ジェイドなんて嫌いです!!!」
「ははは、ではきっちり報告しておきますねー」
「ひ、卑怯ですよっ!! ……ついでに暫く私の前に姿を現さないで下さいとも言っておいて下さい」
「文句があるなら自分でいいなさい」
意地悪に笑みを浮かべて、整えた本を本棚に戻す。
「どうせ無視されますよ、あのピオニーですからね」
それなら、私が言っても効き目なんてありませんよ…と、心でごちる。 視界の端でちらりと見ると、困ったように眉間に皺を寄せてして懸命に本を順に並べていた。
しかし、どうやら渋い顔をしているのはピオニーの話によるものが全てではないらしい。時たま辛そうに腕を揉みしだく姿を見て、やれやれと溜息をつく。
「ほら、順を整えたら貸しなさい。本を上げるのはやってあげます」
「っ!! ジェイド……」
「…………。呆けてないで返事なさい」
「は、はいっ」
曇ってばかりだった顔に、少し明るいものが射しこむのを見てとって、柄にも無く心が穏やかになる感じがした。
「まったく、私も……」
甘いですね。 と、自分で自分に厭きれて、ジェイドは新たにできてしまった仕事に没頭することに決めた。
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