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星月、その姿は(韋護×楊戩)

【登場人物】楊戩、韋護、哮天犬

【CP】気持ちは韋護×楊戩

【備考】
仙界大戦後の楊戩と韋護の短いお話。
まだくっついてない……。





 もし、この姿が嘘偽りでも、キミは『美しい』と言ってくれるのかな?




星月、その姿は




 月の明るい夜だった。何となく、そう……あくまで何となく夜風に当たりたくなって、人気のない楼閣の屋根に登った。そうすれば、少しは気持ちが晴れるのではないかと思ったからだ。
 普段は、忙しくして、何も考えないようにしているが、ふと時間が空いてしまうと、どうしても色々思い返してしまう。
 隣の哮天犬が、きゅうんと鳴きながら頭を擦り付けてきて、また考えが後ろ向きになっていた事を自覚した。

「ごめんね。もう少しだけ……」

 哮天犬の腹に身体を預けて座る。生きている宝貝はほんのりと温かかくて、少し安心する。この場所だけは、昔から変わらないままだった。先の戦いで変わったことが多すぎた、とも言えるだろう。
 その出来事や、過去を、忘れるのは怖かった。
 けれど今は、何かある度に思い出してしまう方が怖かった。だから、駆け続けているのだ。
 なのにこうやって止まってしまった時に、溢れ返って心が塗りつぶされてしまう。立ち止まっている暇や余裕など、ないはずなのに。

 そうしていたら、来客が来たようだ。つい、と哮天犬が顔を上げるが、敵ではないと判断したのかすぐに首を下ろす。
 声を聞かなくても気配で分かってしまうのだが、まさかこの男に見つかるだなんて、今日は運が悪いのかもしれない。所謂、厄日というやつだ。

「よっ! 何してるんだよ、こんなところで。サボりなんて珍しいな」

「サボりは聞こえが悪いからやめてくれないかな。キミと違って僕はちゃんと働いてるよ。これはれっきとした休憩さ」

「そいつはいいな、やっぱ休むのは大切っしょー。俺も混ぜてくれよ」

「キミの場合ほとんど休憩な気がするんだけど……」

 現れた人物、韋護は、断りもなく隣に座ると、これまた勝手に犬を撫で始める。休んでいく気が満々だった。
これは、きっと言うだけ無駄だろう。

「まったくもう」

 楊戩は、来客を暫し哮天犬に任せることにして、空を見上げた。明るい月は爛々と輝きを放っている。それはまるで、懐かしい金霞洞で見たかのような見事さだった。高くにあった崑崙山は、空気も澄んでいたし、いつだって月が綺麗だった。よく、師匠と二人で月を眺めていたものだ。
 あの時、違う道を選んでいたら……と何度も思い返す。過去に戻ることなんてできないのに、失わずにすんだ方法があったのではないかと。最良を、最善を尽くせたのではないかと、悔やんだ。
 王天君に言われた言葉が胸に刺さって抜けなかった。本当の力を発揮していれば、師や父は死ぬことはなかったのだと。でも、人前で戻ったことなんて、なかったのだ。過去に一度足りとも、なかったのだ。それは潜在的な恐怖だった。故に考えが至らなかった……としか言えない。

「で、天才さんは何をお悩みだったんだい?」

 その声で、ふと現実に戻る。一通り、犬をわしゃわしゃした韋護は、満足したのか姿勢を変えると、さりげなく距離を詰めてきた。空が近いのに、土の香りがした。

「うん……」

「あれ、いつもの自画自賛が来ねえ……これは重傷か」

 茶化すつもりで言ったのに、返って来たのは気の抜けた返事で、韋護はたまらず頬を掻く。
 楊戩は、視線を外して膝を抱え込むと、ゆっくりと息を吐き出した。

「韋護くんは、知っているよね。僕の……本当の姿」

「お? おー」

「じゃあ、今のこの姿をどう思う?」

「は? どういう意味だ? っていうか、どういう方向の話だよコレ」

 やはり、質問が適当すぎただろうか。けれど、問うた当人でさえ、何を確かめたくて聞いたわけではなかったのだから、返すべく言葉も曖昧だ。

「うーん、上手くは言えないけれど、今の姿は僕が変化しているだけの、偽りの姿であるとも言えるよね。でも僕はこの姿の方が長かったから、慣れすぎてしまっていて、正直よくわからなくなってる。勿論、皆が怖がるだろうから、この姿でいるけれど」

 手を、広げてみる。そこには五本の指があって、それぞれが自らの意識で動かすことができた。だが、それはそのように変化しているからだ。本来なら、そこには三本の指しかない。
 けれど、その感覚は今でも掴むことができない。本来の姿に戻れば掴めるが、人の姿の時に思い出すことが出来ない。否、これまでずっと思い出せないでいた。それくらい長い間、この姿で居たのだ。
 しかし、もしもこの人の姿が『偽りである』と言われるのであれば……大切に培ってきたものが壊れてしまうような、そんな気がした。

「どっちもいいんじゃねーの? 少なくとも、俺はどっちでも好きだぜ」

「韋護くん……」

 顔をあげると、いつも通りのひょうきんそうな顔の韋護がいた。
 こういう時に、いつも通りで対応されると言うのは……悔しいことに、嫌な気がしない。

「だから言ってるだろ、人間ってのは中身だって」

 そういって背中をバシバシ叩いて来た。やっぱり嫌な気がする。

「それでもまぁ、外見にこだわるってなら、視覚の好みで行けば人間だろーけどよ、俺は人間だったし。けど、妖怪にしてみればきっと逆だろうさ。だからどっちも本物ってことでいいんじゃね?」

 胸がすくとは、こういったことなのかと、漠然と感じた。
 ああ、そうか。僕は、こういう言葉が欲しかったのか。いつもこういう事をさらりと言ってのける人は、今はとても遠くて、もしかしたら同じ言葉を持つ人を、無意識に探していたのかもしれない。

「……卑怯じゃ、ないかな?」

「卑怯じゃねーだろ。何でそうなんの」

「だって、ほら、君と二人並んでいたら、君が霞みそうなくらい僕が美形でかっこいいから」

 澄まし顔で髪を掻き上げると、示し合わせたかのように一風吹いていく。一言添えておくが、狙ったわけではない。

「その切り返しが卑怯だろ。……うん、まぁ空元気でも、元気が出たならいーけどよ」

 納得したのか、していないのか。とりあえず韋護は、良しとした。
 自画自賛しているこの性格は別として、確かに楊戩の見た目は綺麗だと思っていたし、韋護の感覚的に憂えている顔より、普段の顔のほうが好ましかったからだ。
 それを知ってか知らずか、楊戩がポツリと口を開く。

「この姿はね、僕が……物心ついた頃から、こうだったんだよ。師匠の下に行くよりもっと前。もうほとんど覚えていないけれど、父上が……傍に居てくださって、母上もまだ生きておられた頃。人ではない父上と、母上が、僕をこの姿に……してくれたんだと思う」

 本当に、記憶にある自分は全て、この姿だった。この姿のまま成長した。崑崙の長である元始天尊や、師がこの姿を勧めたのではないと知った時、言葉に出来ない何かを感じた。

「だから、本当の姿は両親が産んでくれたもので。この人の姿は、両親が遺してくれたもの……になるのかな」

「良かったな」

「え?」

「なかなかいい贈り物なんじゃねーの? いつもの姿が全て偽りじゃないってこったろ?」

「う、ん……そうだと、いいんだけどね」

「そーだよ。間違いねぇ」

 両親からの贈り物。
 目の前で散った父親と、記憶に掠れてしまった母親からの、最初の贈り物。
 どちらも本物で、偽りではない。そうだとわかると、嬉しかった。
 そして、根拠は何もないのに、勝手に断定してくれる人が隣にいる。それも、嬉しかった。




 月は相変わらず綺麗だった。二度と帰って来ないあの夜のように。
 けれども、今見る月も、いずれ同じになるのだろう。『誰かと見る、思い出の名月』に。未来を紡ぐとは、そういう事なのだ。
 しかし、その相手がこの男だとは……露にも思わなかった。

「なんか、気まずいなぁ……」

「何がだよ」

 隣の韋護は、何処から取り出して来たのか、桃を齧っている。一口食うか?と手を出されたが、やんわりと遠慮しておいた。切り分けてあったら考えたかもしれない自分が、少しばかり恨めしい。

「っていうか、面白くない。まさかこんな年下に僕が慰められるなんて」

「細かいこたぁ気にすんなよー。少なくとも、俺より無くしたものが多いんだ、今は素直に甘えておけよ」

 確かにそうだ、無くしたものだらけ。心の傷は、まだ塞がらない。だけれど、弱味を見せる相手と言うのは……それ相応の信頼できる相手ではないと気が収まらない。……のだと気づいて、楊戩は頭を抱えた。

「明日になったら忘れるように!」

「ふつーに無理だろ」

 もしかしたら、その相手の一人なのかもしれないと、気づいてしまって、更にやるせなくなったなどと……。






再熱中にふとネタが降りてきたので、萌えのままに書いていたら、何がいいたいのやらサッパリな『ぬるま湯世界』になってしまいました。
腐向けのつもりだったけど見えない!
私は楊戩の心の弱さみたいなのが好きです。

ちなみにタイトルは考えるの面倒臭かったので、完全拝借です!さ、さーせん!!

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