びっくりするほど何もないし、いつも同じ話をしている気がする。つきあってないボオタオ。
ライザ1から2に入るべく王都に向かう二人の短いお話。
時間軸はライザ1.2らしい。
「君とこうして旅に出るなんてね」
故郷が海原へ消えゆく彼方を見ていたら、隣に来ていた少年から声をかけられていた。
「旅というほどのものでもないだろう」
「そうかなぁ? 見たこともないものを見るのを旅って言うと思うんだけど」
王都に向かう船旅。空は綺麗な晴天だ。胸は期待に溢れているが、期待ばかりでもないのは確かだった。だが、隣の少年はそうではないようで、ただただこれから往く未来を楽しそうに待ち構えていた。
少し前までこんな風ではなかったと思う。気づけばライザと共に様々なところに行き、怖がりながらもおおよそ全てに同行してきたというのだ。
「気楽なもんだな」
「そうでもないけど、まぁ……なんとかなるかなって。君もいるし」
にこりと笑う顔は、かつて自分を恐れていたようにはとても思えない。あの夏が終わるまでは徹底的に避けていたと言うのに。今ではすっかり『友達』に戻っている。
「なあ、本当に嫌じゃないのか?」
だから思わずそんな事を聞いてしまう。
「え?」
この少年は賢い。ライザにはできない気配りもできるし、一歩引いたところから物事を考えられる性格だ。言葉が足りていない自覚はあるが、この話し方でちゃんと意図が伝わっているのがわかる。それほどまでに、幼少期からの軋轢は長かった。
「うーん、どうかな。今はそんなに怖くないし、嫌ではないよ。でもそうなったのもつい最近の事だから、すぐにわだかまりがなくなるわけじゃないよね。君が嫌なら、ついたらできるだけ関わらないように努めるよ?」
「いや、俺じゃなくて」
「僕?」
無言で頷く。あれで嫌われていない方がおかしい。
「ん~、どうだろ。言った通り怖くはないよ。でも……」
「でも、なんだ」
「分からない事ならあるかなって」
昔は一緒に遊んでいた仲なのに、ある日をさかいに不仲になってしまった。その対立はどんどん溝を深めていき、何故そうなったかすら思い出せなくなっていた程だ。
「落としてしまった本を、拾って返してくれた事があったよね。僕はてっきり取られてしまうかと思って焦ったんだけど……すんなり返してくれたから、何だったのかなって」
「は?」
否、覚えている。正確にはその記憶に蓋をしていたとも言える。あまりにも格好悪すぎて忘れたかったからだ。
「ライザやレントは分かりやすいから、なんとなく考えてることがわかるんだけどね。あの時だけは、考えてもわからなくて」
思えばいじめの標的は主にタオだった。というのも、ライザは気が強くて口喧嘩になるし、レントはああ見えて手を出して来ないがたっぱがあるので下手を打てない。と、なると残っているのは気が弱くて体の小さいタオだった。大概はタオが目をつけられているところに二人のどちらかか、どちらも現れるというパターンだ。タオ自身にも自分が一番弱いという自覚はあったのだろう。いつも逃げるように避けられていたように思う。
「あれはだな、えーと」
あの時、転けたタオの落とした本を手にしたランバーを相手に、タオは引かなかった。そんなにまで大事な本を落としてしまうのもどうかと思うが、それでも半分泣きそうな顔で返すように求めてきたのだ。タオとて小さくて一番力こそないが、それなりに言う時は言う。
基本的に暴力でのいざこざは島では忌み嫌われている。だからこそ、タオとて口を閉じているだけではない。そんな彼が本当に困ったように泣きそうな顔をするのだ。
そこでふと気づいてしまった。いじめたいのは認めるが、泣かせたいわけではないのだ。
意地悪はしたいが、傷つけたくはなかったのだ。いじめてしまうのは、そうでもしないとがライザやレントにしか付いていかないからだ。本当はこっちを見てほしくて……つまり、構われないから構いたくて。
と、気づいたら後には引くに引けなくなった。
「相当、大事にしてる本なんだろうと感づいただけだ」
実際にあの本がなければライザがあの世界への道を開くこともなかっただろう。ボオスが真実に至れたのも、タオが苦心してあの本を読み解こうとしていたからだ。
だが、実際の感情とは面倒なもので、はっきり言ってしまえば、いつもいじめている好きな子が本当に泣きそうになってしまって怖かった。というのが正解だろう。流石にそれはないと思い、忘れようと蓋をしておいたわけだ。
「そうだったんだ。持って行かれちゃうと思って、めちゃくちゃ焦ったんだけど。……ボオスって時たま優しかったよね」
「本気で言ってるのか」
「え、違った?」
向けてくる笑顔は茶化しているようには見えない。元から、彼は根が善良なのだ。いじめても卑屈になることなく、真っ直ぐ育ったのだろう。そこはライザやレントにも感謝しなくてはならない。
「お前らと違って常識が残っているだけだ」
「その常識外れに僕も入ってるの!?」
「あんな物騒な話を持ち込んで来るやつがまともなわけあるか」
「でも真実だったんだからしょうがないじゃないか、僕だって好きで物騒な話に近づきたかったわけじゃないよ~」
ただの知識欲と冒険欲が招いた結果ではあるが、結果としてあれで良かったのはボオスも同意する。だからと言って、過去のやんちゃぶりが精算されるわけでもないが。
夏に入ってライザが独自に錬金術を始めた頃から、タオの姿をあまり見かけなくなった。それもそうだ。村を出て色んな事をしていたのだから。
帰って来たかと思えば、そこら中を傷だらけで遅くに帰ったり、朝早くに出ていったかと思えば数日見ないこともあった。狭い村ではいないだけでわかるものだ。ライザやレントに関しては、ある程度自力でなんとかなるだろうと、さほど気にしていなかったが、この小さい少年が魔物相手に戦えるなどと思ってもいなかった。
事実、大きな武器に振り回されながらも魔獣に立ち向かう姿をはじめて見た時はそれなりにたまげた。
「とりあえず、今後なにかあれば俺を頼れ」
「え、いいの?」
「同郷の者が知らないところで面倒事を起こしてるとか、俺は御免だからな」
「あはは、そういうことか。了解、頼らせてもらうよ」
頼れるライザやレントがいなくなる今なら、きっと頼って貰えるのではないか。それは少なからず自分の独占欲や自己顕示欲を優越感として満たすのだと、薄々理解している。
好きと言うには程遠く、だけど放っておくにはもどかしい。そんな絶妙な心境を押し隠して、船は進む。
晴れゆく彼方の先にあるものを、二人はまだ知らない。
ボオタオが付き合うまでは思いっきり回り道をしてほしいという気持ちで
ライザ2までの時間を埋めようと思って書いていた話。
ボオスがタオに対して秘めたる想いを持っているのでボオタオと言い切ります。
こういう話ばかりと言うか、たぶんサビをずっと歌ってるんだと思います(笑)
はぁ、同志みあたらないなぁ……。
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