登場人物:曹丕、劉禅
CP傾向:丕禅
作成時期:2012年初夏
OROCHIベースの曹丕×劉禅の短文。
ぴくしぶで丕禅語りしてる方に触発されまして……
どんな相手なのか、興味があった。
生まれてこの方、ずっと敵対している国の後継者。
この世界に召されたからこそ休戦しているだけで、立場は何ら変わってはいない。
彼は、あまり戦には出てこないのだという。
それを聞いたときは、祭り上げられているだけのただの暗愚だと思った。
武は他の将に適わず、知は文官に負ける。
そして仁も、父に遠く及ばないらしい。
それなのに、彼を買っている輩は少なからずいた。
友達や知己だからではない、明らかに持っている何かへの賞賛。
そしてそれが……認められている?何が?
だから、興味があった。
「おい、おまえ」
気がつけば、つい呼び止めていた。
話したことはなくとも、互いに容姿くらいは知っている。
振り向いた劉禅は一瞬だけ驚いたような顔をするも、直ぐに薄い微笑を浮かべて、丁寧に会釈をした。
「これは、曹丕殿」
この顔は、無表情と変わらない。直感で解った。
何故なら、己も人に対するときや無感情の時は仏頂面だからだ。
実際他の者に言われないと気づかないのだが、無意識に自己を守る壁を作っているのだそうだ。
それが何となく気に入らなかった。
警戒されるのは解っているが、知りたいのはそんなことではない。
「一人か?」
「はい」
「無用心だな」
「このご時勢ですから。それに曹丕殿もでしょう?」
「違いない」
己の身は己で守れる、という事なのだろうか。それにしては、腕が細い。
それが起点となり、じろりと風体を見回す。
長く豊かな袖元から見える腕は細い。
豪奢な衣服に包まれていて、体の線は見えないが、その線が細いことは容易に想像できた。
冕冠から垂れる金珠の合間から覗く瞳は、良く言えば柔和、悪く言えば頼りないこと極まりない。
そして、その肌の色の薄さは、普段外に出ていないだろうことを如実に物語っていた。
「お前のような無能な者が、蜀の次代の担い手とはな」
侮辱と受け取られてもおかしくない言葉だ。実際、嫌味を込めた。
だが、やはり目の前の彼は、笑ったままだ。気に入らない。
「よく、言われます」
「曹魏の後継者としてお前に聞く。返答次第では、この戦いが終わった後、容赦はしない」
瞬間、ピリッと空気が張り詰める。
どうやら、その程度の危機感は持ち合わせているらしい。
「お前にとっての国とは何だ?」
少しの間が流れた。
真っ直ぐ見上げてくるまなざしは、存外澄んでいるのだな、とふと思う。
乱世で生き抜くには、あまりにも適していない。
沢山の物を捨てる覚悟がなければ、新しいものは掴めないからだ。
「……民への愛、仁義。でしょうか」
正直、あまり好きな言葉ではなかった。
それで食べて、生き抜いていけるのだと、本当に思っているのだろうか?
それはあくまで、強い武と、高い知に守護されているからに過ぎない。
「やはり、気に入りませんか?」
こちらの空気を読んでいるのだろう。困ったように、肩を落とす。
気に入る返答をしなければ、今後の国の情勢に関わる。本当にそう思っているらしい。
「私の考えは、父上ほど立派ではないでしょう。けれど、私の一番尊いものは、民の生きる未来なのです。
もしも、いずれ我が国を攻めてこられる時は、どうか民に慈悲を。私の身で解決できるというのであれば、その時は喜んで差し出しますから」
この者は……!!!
カッとなって腕を掴んだ。
少女のような背丈の彼は、宙に吊られるようによろめく。
「お前は、お前を守ろうとする者や民の心を、平気で裏切るというのか? お前が消えれば、国は瓦解するのだぞ」
吊されて、少し痛そうな眉を寄せるも、怯んだ様子はなかった。抵抗も、なかった。
「その大切な者が傷つかずにすむのなら、喜んで。国の主役は、彼らなのですから」
大器ではない。これは仁を背負った、人の子だった。
故に、確かに暗愚だ。しかし、ただの暗愚ではない。
彼をこうさせているものには、漠然と検討がついた。
何故なら、おそらく自分と一緒だからだ。
偉大すぎる父の影。決して越えることはできない壁。
目指すにしても、違うものや足りないものが多すぎるのだろう。
しかし、嫌いではなかった。
己とはまた違う、似て非なる存在。
「お放しください、曹丕殿。私は貴方に適うものなど、何も持ち合わせてはおりませんよ」
言葉を無視して、吊っていた腕を引き寄せる。
そして逆の腕で腰を掬い、そのまま首もとに唇を寄せた。
柔らかい綿に守られた肌は、柔らかくて滑やかだった。
そこを吸うように跡を残すと、小さな体がふるりと震えた。だが、やはり抵抗はない。
「いずれ、時が来たら、お前を貰いに来よう」
そして、彼の望む民の世界の話を、少しだけ聞いてやってもいい。
そう考えて、彼を降ろし、その場を後にした。
了
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