手探りで書いたムルホン短編集です。
とりあえず馴れ初めが書きたくて仕方がなかった。
つまり……付き合ってないんですよ!!!(重要)
ムルソー(?)←←ホンルに見えるけど一応むるそさんからも矢印はあります。
原作程度の流血や欠損あり。
書いた時点での本編更新分は三章までです。
1.隣で歩く足音を鳴らしていて、ダーリン
たぶん馴れ初めだよ!
2.あなたにあげます、僕の宝石
ホンルのおめめの話だよ!
3.だって、だって、だって、だって、だいすきだから
首が飛ぶよ!
4.繋いだ手を握っていて
手を繋がせたかっただけ!
◆ 隣で歩く足音を鳴らしていて、ダーリン
「あなたには、僕はどのように映っていますか?」
何気なく、さり気なく、何とでもないただの日常会話。それを装って隣に佇む男に問いかけてみた。
その目線の先にあったものは、何かワイワイと騒いでいる囚人たちだ。こちらもなんて事はないいつもの光景。それらから目を離して、まじまじとこちらを見やると、少し黙り込んだ後にいつもの仏頂面のまま彼は答えた。
「自由なる笑顔、戦ぐ風、跳ねる水、端麗なる黒の影」
「わあ、嬉しいです。そんな風に見えてるんですね~」
大丈夫だ、ちゃんと綺麗にも見えている。そう分かると嬉しくなって口元が緩んでしまった。それを胡乱げに見られているような気がして、空気も読めていないのに口を開く。
「えっと、あなたに聞いた理由ですか?」
否定も肯定もせず、深い森のような色の瞳はこちらをじっと見つめている。
「良いところも悪いとこも教えてくれる気がして。あと隣にいてもあまり僕のことを面倒がらないので、嫌じゃないのかなって」
偽ることはあまり得意ではないので、口に出ることは本心に近い。自分の発する言葉が空気を読めていないだとか、さり気なく気分を害しているだとか、そういう事には一応気づいているのだ。大概、後から気づくだけで。
「無知や奔放、傲慢」
「え」
「付け加えるならば」
「あ~、僕のダメなところ……ですよね」
やはり欠点も見抜かれているらしく、ずばり言い当てられて、それでもやっぱり嬉しかった。綺麗なところばかり見られるのも嫌だったのだ。ただの綺麗な宝石で終わりたくはない。
だが、やはり顔に出さないだけで、嫌われていたりするのだろうか。どれだけ自分を出していいか、見せてもいいのか、実のところ少しわからない。といってもやはり取繕うのは苦手なのだが。
少し離れたところから招集の声が掛かる。どうやら休憩は終わりで、バスが出発するらしい。
「害になるほどでもない」
悠然と歩き出す彼から返ってきたのは、そんな言葉だった。
少しだけ、世界が明るく見えた。やはり、自分の人を見る目は間違っていないのだと、少し自意識を過剰にする。
「なら、隣を歩いていても許されますか?」
ぽつりと零した言の葉に、無言で足を止めて振り返ってくれた顔はいつもの無表情だった。けれど、確かにその足は待ってくれた、その答えは肯定だ。少しわかりにくいけれども、自分にはそれで十分だった。
「ねぇ、ムルソーさん。僕にね、教えてください。僕の知らない世間とか」
うきうきしながら隣に並ぶ。髪が無駄に跳ねているが気にしない。今は特に体が軽い気がする。
バスへと向いた足の歩調はいつもより少し遅くて、ゆっくり歩きたい自分に合わせてくれているのだと悟る。
ああ、僕は今、ちょっぴり幸せだ。だから勇気を出して最後まで言った。
「あと、あなたの事とか」
◆ あなたにあげます、僕の宝石
「え。あ……ッ!?」
少し近いか、と思われる距離だった。伏せ目がちに閉じられた瞼の下から、青水晶のような瞳がきらきらと輝いている。
「えっと、あの、どうなってます?」
ちらりと視線が寄せられるが、光の多くは瞼の裏に隠されている。
「綺麗に光っている」
「う~ん、綺麗なだけで、特になにもないんですよ」
頬を搔いて誤魔化しているが、少しの動揺が感じられた。何かあったのだろうか。だが追求する言葉は持ってはいない。綺麗ならば綺麗で、それで良いと思った。
「高く売れるかもしれませんね。いります?」
軽い冗談のつもりだろう。このご時世、綺麗な瞳の蒐集家なんてものもいる。確かに売れるのかもしれない。
だが、欲しい訳では無い。どうせ貰えるならば、瞳だけでなくてもう片方の瞳も、それらを隠す睫毛も、白めの肌も、濡烏のような艶のある髪も、全てがいい。
なかなかに高望みかもしれないが、いずれ道が分かたれるなら話してみても良いかもしれないと一言添えた。
「……そのうちに」
「っ!? ぷっ、あははっ!!!」
普段あまり驚かない穏やかな顔が、一瞬止まった後に破顔する。
「ああ、ごめんなさい。やだなぁ、そんな冗談も言えるんですね~」
「……」
冗談ではなかったのだが、と見やると、綺麗に心を読んだかのようにすらすらと次の言葉が出てくる。
「もしかして、本気だったんですか?」
言葉を返していないのに、まるで当然のように話は進む。
「いいですよ~。あげますあげます。僕、あまりこの瞳は好きじゃぁないんです。でもあなたの手元にあるなら、綺麗に見えるかもしれません」
否、そこにあるから、綺麗なのだ。いずれ言うべき言葉をあえて飲み込む。きっとまだ、言うべきではない。
隣で煌々と輝かせる瞳を視界の端で見ながら、一つの解を得る。
ああ、なるほど。これは星の命の色彩だから、こんなにも綺麗なのだ。
◆ だって、だって、だって、だって、だいすきだから
死の概念から切り離されていたとしても、その痛みが消える事はない。血が吹き出す絶望も、落とされた体の壮絶なる痛みも、悲鳴から生み出された喉の乾きも、全て覚えているものだ。
だが、慣れるという現象も起こるもので、戦いを重ねれば重ねるほどに、それは戦術になり、やがて戦略となっていった。
「<いや、でもできれば死なないに越したことはないんじゃないかな>」
と、身をもって苦痛を味わうらしい管理人は云うが、戦略的に囮という存在を選べるのは強みでしかない。
自分もこれまで、生きるためにそれなりに死を覚悟して動くこともあったのだから、その死を恐れずに自由に動ける体に酔いしれながら戦っていた部分は少なくともある。
大丈夫、みんな生きてる。誰かが言ったがその通りだ。
けれど、けれども、痛みは消えない。それを忘れてはならなかったのだ。
「ホンル、そっちに数人行った! 構えろ!!」
一人屠って血溜まりの中、響いたグレゴールの声はそう遠くない。ということは、既に接敵しているということで、振り向きざまに構えた柄へ重い一撃が入る。幸いにして柄は割れずに耐えたが、その残影は剣筋だった。おそらく払った先から連撃が来る。身を翻すか、刃を受けるのを覚悟で槍先を相手に向けるか。そして直感のままに後者を選び取った。
肉を切らせて骨を断つ、なんて無茶を選べてしまうのならば選ぼうではないか。その程度の痛みなら耐えられる。左の腕に切り込まれたと同時に、その槍は相手の胴を突き抜いていた。
ですよね。そうですよね。こんなめちゃくちゃな事、死を覚悟している人にしかでないから。人は余程の覚悟がない限り、致命傷は無意識にでも避けるものなのだ。可哀想なくらいに驚愕した形相で血を吐き出している相手が落ちて行くのを、温度のない顔で見送る。
しかし次の瞬間、大きな影に視界を覆われていた。別に驕っていたわけでも、隙を見せたわけでもない。ただ、多勢に無勢というだけ。
切られて血と痛覚に塗れた腕を庇いながら、少しでも足掻こうかと視線をあげると、そこには見知った顔があった。
「そのまま、躊躇うな」
「あ、……れ?」
そのまま被さるように引き倒されて、何が起きているかを理解する頃に、その顔が胴体と切り離される瞬間を見た。そう、自分は庇われて。庇った相手、ムルソーの首が、宙を飛んでいた。逆光で、その表情までは見えなかった。
結果的に、追いついた仲間が迫っていた敵を倒してくれていたが、ムルソーの血を被ったホンルは、ただ呆然と落ちた頭を抱えて座り込んでいた。
「大丈夫だ、生きている」
なんてまぁ、復活して顔を合わせて第一声。記憶の上でも泣いたことなど殆どなかったのに、目尻が熱くて仕方がない。
生き返るだなんて知っている。地を舐める姿を見るのも、なにも互いに初めての事ではない。ないにしても、何も目の前で首を落とされるのあんまりではないか。
人の死体なんて、それこそ惨殺されたものだって、ある程度は見慣れている。けれど、そうじゃない。
「あそこで斃れるのは僕で良かったんです」
「そうか」
「覚悟もできていました」
「そうか」
「……っずるいです」
言いたいことはたくさんあって、あれもこれも言おうと思っていたのに、言葉が詰まってしまってこれっぽっちも出てこない。
「なら次はちゃんと選べるようにする」
無理だし嘘だとわかっているのにその声は優しくて、ただ俯く髪の梳いてくれている。
こんな時に、なんで雨は降ってくれないんだろう。空知らぬ雨を隠すことは叶わなかった。
◆ 繋いだ手を握っていて
休憩を少し早めに切り上げてバスに帰ってきたら、そこには既に自分の席に座っているムルソーがいた。他の囚人たちはまだ戻っていないらしい。腕を組み、目を閉じているので寝ているのかもしれない。まぁ、彼に限ってそれもないかと声をかける。
「あの、隣、いいですか?」
まだ出立予定まで時間があるから、少しくらいなら席を借りても良いだろうか。彼はちら、と目を開けると、そのまま一つ頷かれて席をずらしてくれた。
「ありがとうございます。では少しだけお邪魔しま~す」
譲られた席に腰を落ち着けると、ぴたりと寄り添った。そこから温かな体温と、ほのかなムルソーの持つ匂いを感じる。とても心地よくて落ち着くのだ。
普段は席が二つ分ほど遠くて、手を伸ばしても届くことはない。互いに伸ばせば届くかもしれないが、まだそこまでは望んでいなかった。
いや、これでいいのだ。たまにこうして甘えたい時に匂いを感じられるから。だからあの席二つ分には意味がある。まだそれでいい。
「えっと、ムルソーさん。僕の手を握ってくださいって言ったらダメですか?」
でも少しだけワガママを言ってみる。だって腕が当たっている。いつもは遠くて届かないのだ。ムルソーの視線を少しだけ感じた後、体が動く気配がした。
「構わない」
そう言って、あっさりと手が繋がれた。思っていた通り、無骨な男性の手だ。その手が誰よりも優しいことを知っている。やんわりと握り返す。
通う温かさが嬉しくて、思わず顔も緩んでしまう。まだ誰もバスに戻ってきてほしくないなんて、柄にもない事も考えてしまう。
「えへへ、僕のこと、こうやって掴まえていてくださいね」
心地よくて、気分がよくて、安まるというのはこのような気分なのだろうと思う。もたれ掛かって目を瞑ったまま、隣の空気は優しくて怖くはない。だからひどく安心するのだ。そのままで少しいたら、頭が心地よい靄に包まれていく。
「風が吹いたら、すぐに飛んでいって……しまいそうなんです。だから、離さないで……」
自分でも何を喋っているのか、よくわからない。ただ思ったことを口にしていた。何か言葉を返されているような気もするが既に把握も難しく、ただ優しい声音だな、という安堵のみを感じていた。
そこから、意識がふわりと消えた。
「あの、そこ私の席なんですけど……」
戻ってきた席の主は、それを見て隠さずもせず眉をしかめた。
いつも隣の席にいるムルソーが自分の席にいるのはいい。が、その隣にはすやすやと寝入っているホンルがいた。しかも、手を繋いでいる。意味がわからなかった。
「何なんです? デキてるんですか?」
男は無言で首を振る。
「違うんですか」
比較的、仲は良好そうだし、害がなければ特段気にする事もないかと早々に諦める。
「すまない」
感情が読めないが、口先だけでも謝られるだけマシなのかもしれない。
「まぁいいですよ。気持ちよく寝ている人を叩き起こす事もないでしょうし。ファウストさん、隣座らせてくださいね」
「ええ、どうぞ」
いつもホンルの座っている座席に彼女は落ち着く。しかし、こうも思うのだ。
「この座席でもそんなに変わらないですね。別にこのままでも良くないです?」
よく思い出せないが、何か幸せな夢を見ていた気がする。
ふと覚醒すればそこはバスの中で、エンジンの音と誰かが喋るざわざわした声が響いていた。隣には温かい体温があって、そこまできてムルソーの隣にいた事を思い出す。
「あれ? 僕もしかして、寝ちゃってました?」
「起きたか」
気が付いたムルソーと視線がかち合う。思っていたより近い距離で驚いた。好きな匂いであるし安らぐのは事実なのだが、館を出てからこれまで人前でこんなに気を許した事はなかった。隣だから寝顔は見られてないにせよ、だらしないとか思われたのではないだろうか。かあ、と顔が熱くなるのがわかる。
「は、はしたなくて……ごめんなさい」
動揺が伝わったのか一時だけ男が止まる。その沈黙が少しむず痒い。
「いい。疲れているのなら休んでおけ」
「……はい」
まだ寝起きでふわふわしているのか、それとも本当に熱に浮かされてしまったのか、思った以上に言葉が出てこなくて、言われたとおりにその肩口に再び凭れ掛かる。言葉に素直に甘えていいなんて、なんて贅沢なのだろうと今だから思える。
「手はどうする。もういいのか?」
そういえば繋いだままだった。もう同じ体温になってしまっていて温かいとは感じられない。けれど離したくなくて、言葉の代わりに少しだけ力を込めて返す。それで伝わったのかもう何も言われる事もなく、二人してバスの走る音に紛れた。
以下、あとがきだよ。
1.隣で歩く足音を鳴らしていて、ダーリン
一番最初に雰囲気を掴みたくて書いてみたお話。
タイトルはダーリン・イン・ザ・フランキスの『ダーリン』の歌詞の一部です。
あくまで雰囲気のみ(笑)ですが
ホンルは自由になりたくてここまで来た人というイメージなので
ムルソとくっつけるならこの雰囲気からがいいかな~と。
涙を失くした僕だけど
君に明かすよ「ホント寂しかったんだ」
隣を歩く音を 鳴らしていて ダーリン
からの
何処でも自由に行けそうで
失くした涙 君となら取り戻せる
隣を歩く足音を 鳴らして ダーリン
です!!!(なにが?)
実はホンルに「旦那」って呼ばせたかったんですが「ダーリン」もありだなって後から思いました。
2.あなたにあげます、僕の宝石
ホンルのおめめの話。丁度リウンルが実装されました。
おめめ光るんか~~~!!!!という謎の感動を得た。
まだ手探りなので雰囲気重視で書いていたのですが
当初はおめめを舐めさせたくて(※性癖)ですねぇ……
くそっ、外しやがった。私め。このヘタクソ!
あんまり自分の瞳が好きそうではないホンルの過去、気になりますね。
なおタイトルはFFTのライフブレイクの詠唱呪文
「恨み あります 呪い あります 貴方にあげます!ライフブレイク!」からです。
物騒すぎんだろ元ネタ。
3.だって、だって、だって、だって、だいすきだから
丁度なんか戦闘モノというか、ちょっと物悲しい感じの暗い方面にも振りたいなァ
と漠然と考えていた頃に、フォロワさん首が飛ばす話をされていて……飛ばすか、とツラツラ書き始めました。
昔はバトルもののファンタジーも読んでいて、そういうの書きたい欲があった時に描写マネたりしてたんで思ったよりもスラスラ書けました。
上手いとか面白いとかは言っていない……。
立ち塞がるはダンテの蘇生能力なので、もっと暗くしたかったけど力量不足でした。
そのうちどうしようもなく暗い話も書きたいな~
なおタイトルはいにしえのアニメ『天使になるもんっ!』のOPです。
この内容にそんなタイトルをつけるなし。
4.繋いだ手を握っていて
手を繋がせてイチャイチャさせたかっただけの話。
でもくっついてないんですよ……。
これ書いてて気づいたんですが、私の中のホンルはムルソさんのことめちゃくちゃ好きだなって……いう新たな気づきを得ました。
距離感がわかってない話を書きたい。
タイトルは後からつけるパターンなので悩みました。
ワイルドアームズ2の『どんなときでも、ひとりじゃない』と谷山浩子の『さよならのかわりに』を合体させて無難にした感じですね。
ネタだけぽんぽこ出して遊んでる状態なので、また何か形にできたらいいですね。
[1回]
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