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神の子の王子様(リョーマ×幸村)

登場人物:リョーマ 幸村 柳 青学一部

CP傾向:リョ幸

制作時期:2010年春

越前リョーマ×幸村精市布教本で書いた小説です。
全国大会決勝後の二人。ややシリアス気味。






「なんで、俺が……」

なんて、今更すぎる思いを呟いて、真夏の青空と激しく照らしつける太陽の下、幸村精市は柳蓮二と共に青春学園の門をくぐっていた。






『神の子の王子様』






 それは、全国大会が終わって三日ほどたった時だ。夏休みが明けて引退式を迎えるまで、エスカレーター式の立海大付属中テニス部の練習は続いており、大会の翌日こそ半日休みではあったが、昼からは変わらず本格的な練習を行っている。
幸村も部活を休むことなくしっかりと顔を出していた。今日も今日とて来年のために部員の練習メニューを見直したり、業務引継ぎのための整理や仕分けをしている。部長としてここにいられるのももう少しになるのかと、一つ溜息をついたところで柳蓮二が後ろから声をかけた。

「精市」

「ん、なんだ?」

「今日は昼から青春学園の方へ挨拶に行こうと思っているんだが」

「ほう」

何をしに?と目で問うと、表情の読みにくい友人は少しだけ口元を緩める。

「決勝戦で怪我を負わせてしまったからな、謝罪をしに……と見せかけた偵察だが」

「確かに、今年うちを破ったのだから、早くに次の警戒にうつるのは妥当かもしれないな」

決勝での試合を思い出しながら、ひとつ頷く、かなり厳しい戦いだったことは誰の目から見ても明らかだった。
最高学年である三年の選手が多かった青春学園だから、次も強いとは限らないが、それを言えば立海も同じだった。正レギュラーは赤也一人だからだ。

「精市、お前も一緒に来るか?」

「は?」

ふと思考に飛んでいた幸村に声がかかり、幸村からまぬけな声が漏れた。それを面白がるかのように柳は頬杖をつく。

「気になるんだろう?越前リョーマが」

「別に、俺は……」

気にならない、と言えば嘘になるのだが。どうしても負けた手前ムキになってしまう自分を幸村は隠せないでいた。
『テニスって楽しいじゃん』と輝くように笑う越前を見て、幸村の中の何かが揺れたのだが、それが何なのか分からないまま、こうやって日々ぐるぐると思い耽っているなど誰が思うだろうか。立海テニス部員がいくら多くても自分くらいしか気づいていないと柳は自負していた。だからこそ、背中を押してやりたいと思う。

「越前リョーマは近日中にアメリカに渡ってしまうらしいぞ」

「!」

この機を逃せば暫く会うこともないだろう。
プロという世界に入ってしまえば、また会うこともあるかもしれない。
しかし、次戦うまでに幸村は越前からいくつかの事を教えてもらわなければならないと柳は考えていた。それは立海がこれまで捨ててきたようなことだ。

「分かった、俺も行こう」

迷いが断ち切れていないのに、断ち切ったフリをする幸村を見て、柳は誰にもわからない苦笑を浮かべた。






 そして、冒頭に至る。
神奈川も東京もそう暑さはかわらず、歩くとすぐに汗が噴き出してくる。それを拭いながら門をくぐって少し歩くと、設備の整ったテニスコートが見えてきた。
青春学園も立海と同じく、大会が終わった今も練習は続いているらしく活気に溢れており、心地よいインパクト音が耳に届く。

「やぁ、いらっしゃい。よく来たな」

「練習中にすまないな、貞治」

最初に挨拶して来たのは『謝罪するという名目上の相手のひとり』乾貞治だった。
どうやらこちらが出向くという情報は伝えてあったらしく、こちらの姿を捉えて挨拶のために出てきてくれたようだ。軽く挨拶をしながら案内をしてもらう。

「貞治、傷はもう癒えたのか?」

「ああもう動いても平気なようだ。まぁ、あれで脳細胞が万単位で死んだかと思うと残念ではあるが」

「ははは、それは本当にすまなかった」

二人は古い友人らしいと聞いている幸村は、挨拶もそこそこに会話には入らないようにした。それよりも、無意識に人を探してしまっているようでキョロキョロと周囲を見やる。主将同士として手塚に挨拶するのは道理なのだが、どうしても久々に自分を負かした対戦相手の事が気になってしまう。
会いたいのかと聞かれれば、そうでもない。会いたいような、とても会いたくないような奇妙な感じだ。何といえばいいのかわからない。でも会ったら、自分が更にブレてしまうような気がした。

「本当は赤也も連れてくるべきだったんだが、赤也は次期部長として弦一郎にこってり絞られていてな。あとこちらの海堂と喧嘩になっても困る」

「こちらも同じく、海堂は次期部長として引継ぎ作業に入っているが、顔を合わせたら間違いなく血を見る喧嘩になるな」

「来年は真のライバルになるというわけか、これはもう少し冷静になるように指導しておかねばならんな」

博士と教授のよくわからない会話も、呆けている幸村には幸い届いてはいなかった。



「よく来てくれた」

「三日ぶりだな、手塚」

軽く握手を交わして挨拶する。同じく握手をしたのは三日前だというのに、あれから随分と時間が経過しているような気がした。

「手塚、利き手はもう大丈夫なのか?」

自分にあわせるために右手を差し出していた手塚の逆の手を見る。かの真田弦一郎も脚を痛めていたため、今日まで練習を許していないほどだ。あの時は勝つために無理をさせたが、今となってそれなりに苦しい思い出である。そんな幸村の心配を汲み取ったのか、手塚は表情を崩さず頷いて見せた。

「問題ない、今後のプレイにも影響はないそうだ」

「それはよかった。ああ、真田も元気だよ。今日から練習に参加するのだと意気込んでいた」

「何よりだ」

「あーーーッ!幸村サン!!!」

ふと手塚の声を掻き消すよう大きな声が耳に届く。どうやら練習に出ていたメンバーが一部戻ってきたようだ。

「あ、ほんとだ!神の子さんだー!やっほー!丸井君元気にしてるー?」

 ひょこひょこと出てくるのは部内で一番元気なレギュラー陣らしい二年の桃城武と三年の黄金ペアの片割れ、菊丸英二だ。それを咎めるように慌てて追いかけてくるのは、副部長の大石秀一郎。

「こら、桃!英二!いきなり話に割り込んじゃ悪いだろう。幸村君と柳君申し訳ない」

二人のかわりにぺこぺこと頭を下げる大石に、菊丸が後ろからアタックをかける。

「いえ、お構いなく」

その姿に微苦笑しながら、青春学園のテニス部はとても和気藹々としているのだと、少し幸村は気圧された。立海のテニス部は厳格なトップ3と校風が構えているためにこうもいかない。しかしだからこそ、王者であり三連覇を成し遂げる自信があったのだ。自分が病で倒れさえしなければ、という思いが今でもあるが、それだけで変わったのかと言えば正直どうかわからないでいた。それはずっと揺るがないものであったはずなのに。ここには自分と、根底から違うものが存在し、それがこの部を強くしている。
じゃれあっている桃城と菊丸、それを止めようとする大石を見ながらそんな事を考えていると、更に練習を終えたメンツが戻ってきたようだ。

「ふふ、騒がしいと思ったら……こんにちは、幸村くん」

「あ……ちっす」

幸村は一瞬、時間が止まったように感じた。どうやら次なる登場人物、不二周助と越前リョーマは軽く打ち合いをしていたらしい、息こそ切れてはいないが、汗を流しながら憮然と構える姿に少し前の記憶が呼び覚まされ、形容し難い気持ちが渦巻く。

「こんにちは。三日ぶりだね、ボウヤ」

不二に挨拶してから、越前に向けて笑いかける。
足は竦んでいないし、慄いてもいない。声も震えていないと信じたいが、幸村は越前という存在を前に動くことができなかった。
ピリ、と気が張り詰める。いや、実際のところ張り詰めたのは幸村だけであったし、周囲にそれを読める者はいない……はずだった。しかしそれを敏感に感じ取った柳は、話を繋げるような自然さで話を切り出す。

「手塚、精市が越前と話したいことがあるらしくてな、少し借りていいだろうか」

「蓮二?」

そんな話は聞いていない。確かに越前が国を離れると聞いてここに来ることにしたのは確かだが、今ふたりになって何を話せばいいのかわからない。
いきなりさっぱりわからない提案をする柳を視線を移すと、周囲には聞こえない小声で囁かれた。

「精市、行って来い。試合ではなく、話したかったんだろう?」

それすらも、わからない。

「いいや、話すべきだ。俺もそれを望んでいる」

「越前さえよければ、俺は構わない」

あくまで個人主体であると、手塚は一歩退き越前を見る。越前はというと真っ直ぐ幸村の方を見ていた。

「別にいーよ、ついでに顔洗って自販機いってくるッス」

そうやって、竦んでいるままの幸村は越前に連れ出された。




 しかし、連れ出されてみたものの、歩いている間、二人に会話はなかった。越前といえば全く気にすることなく水場で頭から水を被っているし、幸村は何を喋っていいのかわからず少し間をあけて黙ってついているだけだ。
自分でもほとほとらしくないと思うのだが、どういう話をしていいのかサッパリわからなかった。
試合だけして、ろくに会話もしていないからだ。試合の話となると……感情的に非常にむつかしい。

「で、話って何なの?」

水を止めて頭と顔を拭きながら聞いてくる越前に、幸村は首を捻りながら

「さぁ?」

とだけ答えた。

「何それ」

「それが、俺にもわからない……蓮二がとにかくボウヤと話してこいと」

「ふーん」

ばさばさと頭や顔を拭く音だけが響いて、沈黙が降りる。

「……で、テニスは楽しめるようになったの?」

先に自販機があるのか、越前は顔を拭きながら先に歩き出す。幸村もその背中に続いて歩きだした。微妙な距離が今はありがたかった。

「わからない。知っていると思うけど、俺は決勝ギリギリまで入院していたんだ。俺の代から立海は全国大会二連覇をしていたから、今年も勝つのが道理であり掟だった。だから、俺は負けられなかった。時間がなかったから楽しんでいる余裕なんてなかったよ」

思い返すと、今でも身の切れるような思いがする。苦しみや痛み、絶望、悔しさ、全てを『勝つ』ためのものに変換した。そうしなければやり切れそうになかったし、それが当然だと思っていた節もある。

「だから君に負けたとき、すごく悔しかった」

「それは誰でも一緒なんじゃない?俺も負けるの嫌いだし、悔しいし」

「いや、テニスを楽しんでるだけなんかの子に負けるということが、かな。みんなの期待があって、その実現のために俺は色々なものを殺して、死ぬほどつらい目にあって這い上がってきたのに……って、絶対俺達の想いの方が強いと信じていたから」

今でもそう思いたい。否、そうでなければ『これまでの自分』の存在意義を否定することになる。それは自分にとって辛いことだとわかっていた。
けれど……

「でも、俺は……同時に、ボウヤに憧れたのかもしれない。テニスを純粋に楽しめる君に」

「今から楽しんでもいいんじゃないの?」

「わからない……俺にも楽しめるのか」

これまでと、違いすぎて楽しむということがどういうことなのかすら、わからない。それは立海の掟と程遠くて、常勝を誓う自分には許されないことではないかと錯覚すらする。立海に対する手堅い裏切りなのではないか、とも。

「ねぇ、何か他に好きなものとかないの?」

「へ?」

「趣味とか」

「あると言えばある。最近やってないけれど」

「じゃ、やってみれば?楽しいってそういうことでしょ。テニスも一緒」

自販機コーナーに辿り着いた越前は硬貨をチャラチャラと入れて、迷わずボタンを押す。
思案しながら隣で待っていると、不意に缶がすっ飛んできた。咄嗟に掴む。

「あげる」

にぃ、と不適に笑う姿が、決勝で見た姿とだぶって見えた。でもあの時感じた言い知れない恐怖や焦りを感じることはなかったようだ。
目が、好きだ。と直感で思った。最初見たときに見た真っ直ぐで、強気で、鋭い目は、思ったほど怖くなかったからだ。




 貰ったジュース缶に礼を言い、二人並んで飲みながら歩く。先ほどとは違って少し距離が縮まっていた。
正直ジュースは甘すぎて好きな味じゃないが、暑くて乾いた喉には気持ちがいい。何より同じ味の物を、隣を歩く一年生が美味しそうに飲んでいるものだから、思わず口元を緩めてしまう。
自分を倒した敵だと見るから、壁ができてしまうのかもしれないなと、ふと思った。純粋な後輩だと思えば、多少不遜でやんちゃでも赤也のように可愛く思えるかもしれない。そんな幸村の雰囲気を正確に読み取ったのか、越前がちらりと見やる。

「神の子さんって、試合してる時とかと雰囲気かわるよね。さっき会った時は怖い目してたけど、今はそんなに威圧的じゃないし」

「よく言われる。テニスしている時とそうじゃない時で別人みたいだって」

「もうちょっと笑ってもいいんじゃない?フツーに笑った方がかわいいし」

「かわ……? ……。そうもいかない、俺は立海の部長だから」

かわいいという謎の形容詞にはあえて触れないようにして、話を進めることにした。

「部長の俺がふわふわしてたら、示しがつかないだろう?君のところの手塚だってそうだよ。誰かに期待されて上に立つっていうことはそういうことなんだ」

「それが悪いんじゃないの?だって最近ずっとそっちの顔だったんでしょ」

核心を突くのが上手い。と正直に思った。無自覚なのか、それともわかっていっているのかは計り知れないが、その言葉はストンと心に落ちてくる。

「……そうか。蓮二が言いたかったのは、そういう事かもしれない」

「何それ、さっぱりわからないんだけど」

「秘密」

ずっと、強いままでいたから。ずっと切羽詰まったままでいたから。それを解くキッカケは、この少年にあると……蓮二は気づいていた?
いや、まさか。
しかし、そう思うと少しだけ気が楽になった気がした。もしかしたら、立海は『強い自分』だけを求めてはいないのかもしれない。
だとしたら、もっと強くなれるかもしれない。

「ねぇ、ボウヤ」

「そのボウヤっていうのやめてくれない?俺が勝ったんだし」

「じゃぁ、越前」

「何すか、幸村サン」

「また試合しよう」

「俺はテニスを楽しんでる人とプレイする方が好きだから、次までに得とくしといてね」

にやりと越前が不適に笑う。そういう顔も今度は真っ直ぐに見ることができる。

「大丈夫、次は負けてやらないから」

「いいよ、俺も負けないから」

少しふっきれた気がする。これまで自分が大切にしてきたものは勿論、大切だ。立海のみんなも、立海の掟も、勝ちに拘ることも。でも更に大切なものを見つけられたなら、もっと強くなれるかもしれない。心も身体も。
その方法を知っている少年に今は負けるかもしれないけれど、その何かに気づいた自分は、次は負けない気がした。

『楽しむ』という、その言葉は憎しみの対象でしかなかった。それをくるりと反転させて、自分に光を見せてくれるなんて。

やはり君は王子様なのかも知れない。








布教ということもあり、私の中のリョ幸像を1話分にいかに詰め込むかを、悪戦苦闘した記憶がありますw
そしたらなんか柳幸みたくもまりました。
リョ幸好きで「テニスの王子様は壮大なリョ幸ストーリー!』が合言葉でした。

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