登場人物:ピオニー、ディスト
CP傾向:ピオニー×ディスト
制作時期:2006年春
牢屋にての冷めたディストと皇帝の会話。
※ この作品は古い作品なため文章が稚拙です。
本来なら削除したいのですがマイナーなので残してあります。
それでもいいよ!という方のみお読み下さい。
迷い子の揺りかご
「そりゃ、お前の事を愛してるからな!」
なんて貴方は言う。 見たくなくなるような笑顔を浮かべて。
時には、見たくなくなるような切ない顔を浮かべて……。
貴方の事、本当は嫌いではありませんよ? でも、私にとってはあの人が一番で、今も昔も、あの人の事を中心にしてしか考えられないのです。
「私の事を好きだとか愛しているだとかいうの、止めた方がいいですよ、陛下」
相変わらず執務をほっぽり出して、様子を見に来たこの国の皇帝に、呆れと警告を込めて、さり気なく話を切り出した。
「ピオニーって呼べよ」
「嫌です」
何度も「ピオニーと呼べ」などと言ってくるが、もちろん何を言われても却下だ。 あくまでも、私と貴方は囚人と皇帝。それ以上でも以下でもない。 幼馴染の情などに頼る気もなかった。
「私の事を薔薇のディストと呼ぶのなら、考えてもいいですよ」と、言い返したこともあるが。
どっちもどっちで譲れないようだった。 全くもって馬鹿な話だ。
「……なんでだ? 照れてんのかー? もー可愛いな、サフィールは」
「ち・が・い・ま・す・よ・!」
冗談なのか本気なのか、昔から判断がしにくい。 返答するのが嫌になるくらい、自己中心的に前向きで……いいようにばっかり捉えて。 昔から、自分はこの男が苦手だった。
属性が合わないというものなのだろう、苦手なタイプともいえた。 影の属性を持つ自分を、見透かす太陽のような存在だった。
「私なんか好きになっても、貴方は報われませんよ」
昔から、この男と目を合わせて喋るのは怖くて、闇の部分が光で全てを曝け出されてしまうようで嫌で、俯いていた。
それはもう癖になっていて、今日もまた、こうして俯いたまま話をする。
「ジェイドの事が好きだからか? そんな事なら、俺気にしないぞ?」
「違いますよ! いえ、そうでもありますけど……違います」
そもそもそんなこと気にする性質なのか。そんな事を気にする性格だったなら、私をここまで好きになるはずがない。
「なんだよ」
「貴方って本当にうそつきですね……」
「え、嘘いってるように見えるか?」
「見えます」
「きっつ! 本気だぜ?」
本気で嘘ついてるんだから気づかなくて当然でしょうね。 少し悔しそうな、でも真面目な顔して、ピオニーはこちらを睨む。
「ええ、わかってますよ…」
「なら…「貴方はジェイドも私も好きなんでしょう?」
「……ッ!!!!」
言い返せないでしょう?図星でしょう? 今更気づくなんて、馬鹿ですね。ほんと馬鹿ですよ。
目を丸くして動きを止めたピオニーに、ようやく視線を合わせて、私は薄く笑った。
「貴方はジェイドも私も好きで。でもジェイドは既に貴方の傍にいる……何があっても裏切らない。 だから、いつ消えるかわからない、貴方の傍にいない私の方が気になる。ただそれだけなんですよ」
「…違う!」
「違いません! 貴方が私を好きだというのは否定しませんし、理解しているつもりです。けどね」
私にはジェイドしか、いませんから。 今も、昔もね。
「だから、私の事なんて忘れなさい。報われませんから。 それとも、貴方なんかに私が飼いならせるとでも思ってるんですか?」
「サフィール…」
「ディストです。薔薇でも死神でも好きに呼びなさい、私はもう戻れない、『ディスト』ですよ。陛下」
だから、だから……。戻って、ありったけの愛をもってジェイドの事を守ってください。
私の分の愛なんて、いらないから…ジェイドを。この人にはその力がある。
ダアトに身を寄せたあの時から、私はマルクトの民ではなくなった。 ただ、それでも願ったのはあの人の歩き続ける道が途切れないこと。
皇帝である貴方なら、守ることができるんでしょう?
ねぇ、ピオニー……
「お前は、ほんっと馬鹿だな。サフィール」
「そんなこと、言われなくとも解っていますよ」
「解ってない」
「解ってます」
「全然解ってないだろ、馬鹿」
ピオニーが、腕を伸ばして私を抱き寄せる。 いつもは、触れられないように牢の奥で会話していたのに、不覚だった。 鉄格子越しに包まれるように抱きしめられて、恥ずかしさとなんとも言えない懐かしい切なさで胸が苦しくなった。 私に、優しくなんてしないでほしいと思った。
俯いて、大人しくしていると、暖かい手で私の髪を撫でて「馬鹿野郎」などと呟く。
どっちが馬鹿なんですか、この馬鹿皇帝。
「俺は、お前の言ったとおりどっちも好きだ。ジェイドもネフリーもサフィールも、みんな俺の大事な幼馴染なんだ」
「大事なものが多すぎるんじゃないんですか?」
「ばーか、黙って聞け」
さっき、自分で馬鹿って認めましたけど、そうバカバカ貴方に言われると心底腹が立ちますね。
「俺の大事な幼馴染は、幸せになる権利がある」
どういう理屈ですか、それは……。
「だが、どうだ? お前、今幸せか? 俺の幼馴染で幸せでないのはお前だけなんじゃないか?お前ほっといても幸せ掴めそうなほど器量良くなさそうだしなぁ」
「ほっといてください」
「だから、放っておけないっていってるだろー?」
ぐいっと頭を抱え込んで、頬を押し付けられる。さり気なく何してるんですか、この人は。
それに、幸せの定義を勝手に量らないで下さいよ。 私の幸せは私が決めます。
「だから、言ってみろよ。お前の望む幸せを、俺が叶えてやる」
「!!」
「ああ、ネビリム先生のレプリカ復活はナシな? ジェイドが幸せにならないから」
「……っ」
そんなこと、不可能になった時点で諦めなどついているのに。 それでも、それでも私が望むことは……。考えて、涙が出てきた。 貴方にとっては何一つ良い事じゃないのに、それでも私の望みを聞くのですか?
泣いているのを悟られたくなくて、身を捩って顔を隠したのに 「泣くなよ」なんて、背中を撫でられてしまった。
「わ、わたし……わたしは…… 私はジェイドが生きている世界に居たい」
もう、私を見なくていい、忘れてしまってもいいから、ジェイドの幸せだけを願った。
ジェイドの幸せは何かと考えたら、きっとこの皇帝と、あの妹と、マルクトの安寧。 そしてきっと、あのレプリカ達と仲間の平穏だろう。 ならば、自分は流されるままにこの世界を去ろうと思った。 自分がいては、きっとジェイドに幸せは来ないだろうから。
昔、垣間見たジェイドの笑顔が見たい。 自分の力で取り戻そうとして、無くした……否、もともと無かった夢の笑顔。
「私が貴方の想いを受け入れれば、罪は残れど私はジェイドの傍に居られるのでしょう。 しかし、きっとジェイドは私が傍にいることを良しとはしません。それどころか、ピオニーのジェイドへ向けられる情が減ってしまうではないですか!」
顔を上げて、そのサファイヤのような透き通った宝石色の目を睨むと、 真摯に私を見つめる瞳とぶつかった。 真っ直ぐに私を見る目が怖いと感じる。優しく包み込む、癒しの光が見える。
しかし、ここで怖気づいてはいけない。 精一杯、虚勢を張って、思いっきり嫌味たらしく最後まで言い切ってやった。
「私は、貴方の傍にはいられない。 ほら、貴方は報われないでしょう?」
泣いてはいけないところなのに、さらにじわりと見尻に熱いものが浮かんだ。 それに続いて、鼻水もじわりと出てくる。 鼻垂れ呼ばわりされたくなくて、鼻をすすると、本格的に涙が溢れてきて。 私はまた、顔を伏せた。
「俺の器量を舐めんなよ? サフィール」
耳のあたりに、低く荒い声がかかる。
「?」
「ジェイドへ向けられる情が減ってしまう? バカいうな! 減るわけないだろー!」
「……っ! そん、な…わかりませんよ」
「それに、ジェイドが傍に居る事を良しとしないって本気で思ってんのか?」
「それはそ……うでしょう!」
「だー! お前らひねくれてて、ちゃんと話し合わないからそうなるんだぞ!!!!」
反論しようと顔を上げようとすると、また勢い良く抱きしめられて、 ピオニーの胸に顔を埋める形となってしまった。
「じゃぁ、ジェイドがお前が「傍にいることが幸せ」だといったら、お前はいいんだな?」
力強く言い聞かせる声音。
「そんな事、あるわけ……」
「言わせてみせるさ、お前の前でな」
やはり、この人は嫌いだと改めて思った。
何故、ここまで真っ直ぐなのか、真っ直ぐに未来を見て決して諦めない。 こんな聞き分けの無い幼馴染など放っておけばいいのに、できないのだ、この太陽は。
「最後に一つ教えてやろう」
「……ピオニー…?」
「俺の幸せはな、俺の大切な幼馴染どもが、いつでも愛せる手元にいることだ 。おまえら、俺の幸せもちょっとは考えてくれよ?」
にっかりと強い光を放って笑うピオニーを見て、私は不覚にも始めて、心強いと感じてしまった。
≪ 楼閣の下に D視点 (TOA ジェイド×ディスト←ピオニー) | | HOME | | 蜘蛛注意報 (サガフロ ヒューズ×サイレンス) ≫ |