登場人物:雪国三人組
CP傾向:ディスト愛され気味
制作時期:2006年春
ED後捏造。ディスト愛され気味な幼馴染の戦闘訓練話。ややPD。
※ この作品は古い作品なため文章が稚拙です。
本来なら削除したいのですがマイナーなので残してあります。
それでもいいよ!という方のみお読み下さい。
戦慄き
「はっ!」
キンッ
青空に甲高い剣の打ち合わさる音が響く、そこはグランコクマ皇居の中庭だった。
「流石はジェイド、やるなぁ」
曲刀を自分の手足のように操る、金の髪を一つに結わえた褐色の肌の青年が間合いを取ってにやりと笑った。肩で浅く息をしているが辛そうには見えず、むしろこの状況を楽しんでいるようだ。
「お褒めに預かり光栄です……が、現役軍人ですしねぇ」
その言葉の投げ掛けに応えるのは亜麻色の髪を垂れ流したままの、ジェイドと呼ばれた秀麗な男だ。こちらも軽く息があがっているが、余裕そうにその得物である長槍を構えなおす。
「まぁ、そりゃそうだな」
「ええ、そんなわけで、私は面目を保つ為に貴方に勝たねばなりません」
「安心しろ、負けても誰も咎めんぞ?」
「いえいえ……ですので、負けてくださいね。へーか♪」
薄い微笑をたゆたえていた顔が引き締まり、一気にその間合いを縮めようと身を踊らせる。
「…っとぉ!! 俺もそう簡単に負けるわけにはいかないなッ!!!」
陛下と呼ばれた青年も、目を爛々と光らせて、退くでもなく真っ直ぐにその間合いに飛込んでいった。
それを端で見ている男がいた。 黒をベースとしたスーツ姿に白銀の髪、細い貧相な面の男だ。
木陰で体育座りをして、二人が剣を打ち合うのをぼんやりと見ている姿は歳よりも幼い印象を与えている。 彼は無心にその二人の動きを追っていた。
否、彼が見ているのは二人でなく一人だった。
「ジェイド……」
艶のある長い髪を翻してしなやかに無駄なく動くその姿は、贔屓目に見ている彼でなくても美しいと思うだろう。
次の瞬間、キィンと鋭い音をたてて、ジェイドの長槍が曲刀を弾き飛ばした。 ぽや~と見惚れていた傍観者が我に返り、小さく息を飲むと同時に勝敗は決していた。
「今回は私の勝ち、ですね」
「……ちぇ。また俺の負けか、毎日鍛練はかかしてないんだけどなぁ」
「それは私も同じですよ、ピオニー陛下。これで、次の稽古まで『頭脳だけ』呼ばわりはやめて頂きますから」
「へいへい」
乱れた髪を手櫛で軽くすいてピオニーは立ち上がると、服の埃をポンポン払って曲刀を拾い上げる。 先ほどまで上がっていた息も、既に調いつつあるようだった。 多忙なスケジュールの中、毎日鍛錬を欠かしていないというのもどうやら本当らしい。
「ジェイド、お疲れ様です!」
二人の稽古試合が終わり、それを傍で見ていた銀髪の男が、タオルを駆け寄ってくる。
「よぉ! サフィール! どうだ? 俺も結構やるだろー♪」
「ぅぐっ! っちょ、放しなさいっ!! 何ですか、貴方ジェイドに負けたくせに」
ジェイドにタオルを渡そうとしたところを、後ろからがっつり抱きしめられて、嫌そうにその身をもごもご動かす。だがその力では抱擁から逃れられる術などなかったようで、 されるがままにぐりぐりと頬で撫でられている。
「ほう、陛下は貴方なんかより、ずっと腕は強いですよ? ディスト」
尚も逃げられないでいる彼の手から、するりと当然のようにタオルを抜き取ったジェイドは、
額の汗を軽く拭って、それを首にかける。 動作は優雅だが、首にタオルは少しおっさんくさい。
「と、当然でしょう、私は武術の心得などありませんから!」
「はっはー♪ おまえ、昔っから運動からっきしだったもんなー」
「黙らっしゃい! 貴方に言われたくない!!」
ようやく、その腕から開放された銀の髪の青年…ディストは、 歪んだその胸のネクタイを正しながら不貞腐れてそっぽ向く。その様子を見て、呆れたように小さく溜息をついたジェイドは、指で眼鏡を上げると、一言零した。
「お前も稽古をつけてもらってはどうですか?」
「ぇっ!?」
「おお、いいぜいいぜ! 俺が直々に相手してやるよー」
「ぃ、嫌ですよ。…ジェイドとなら考えないこともないですけど」
さっと一歩退いて、あからさまに嫌そうな顔をするディスト。 その隣をジェイドが足早に通り過ぎる途中、促すように背中を前に押した。
「私こそ嫌です。運動ベタの馬鹿を相手にしてるとイライラしそうですからね」
「むっきー!! 失礼な!!!」
「失礼なこと言われたくないなら、護身程度には腕を上げる事ですね。いってらっしゃい」
私はここで見てますから、と反論を許さない笑顔を投げかけられて、 ディストは苦虫を噛み潰したような顔をしながら渋々動き出した。
「ほらほら、のろのろしてないで早くこっち来いよ」
手を振ってピオニーが呼んでいる。 ジェイドと稽古試合をするというから、ジェイドを見る為に来たディストは、まさかこんな方向に話が行くとは思っていなかったらしく、暗い顔で日の下に姿を現した。
その手には模擬戦用の刃を潰した細剣が握られている。 それは、かつて塾生だった頃の自己防衛戦闘訓練で彼に割り振られた類の武器でもある。
モンスターがうろつくこの世界で、護身術は生きていくうえで欠かせないものであった。 当然それを皆、幼少の頃から学ぶことになる。
もちろん彼らの塾でも、それぞれの資質に合った武器の簡単な使いこなし方や 軽い体術を学ぶ授業が少しだがあった。 そこでディストに見立てられたのが、力が無くても、相手の剣撃を受け流す事によって有利に戦える 細剣類――レイピア――の技だった。
しかし、彼の為に選ばれたはずのこの細剣という種類には、彼にとって問題があった。 それは…… 。
「……重い」
ぼそっと、不服そうに握っている得物を振ってディストが呟く。
「おいおい、それ一番軽量型の模擬細剣だぞ?」
「……。」
最も軽いものでも、彼の腕力では扱いにくかった事。 だが、それはあくまで昔の話である。 大人になった今の彼ならば多少は振りやすくなっているであろう。
だが、彼にはまだ問題があった。
「そういや、お前最後まで打ち込み方可笑しかったよなー。構えだけなら決まってるのによ!」
そう、彼は剣を構えるところまでしかマスターしていなかったのだ。 昔の彼は、逆に細剣に振られている感が否めなかった。
しかし、これも大人になった今では問題ないだろう、と判断したピオニーは スッと曲刀(勿論これも刃を潰した模擬試合用である)を構えて、ディストに笑みを向けた。
「ま、とにかく打ち込んで来い」
「……どうなっても、知りませんからね! 覚悟なさいっ」
ディストも構えを取って、静かにピオニーを睨みつける。 確かに構えだけは完璧なのだ。構えだけは。
こうして二人の模擬試合の火蓋は切っておろされたのだった。
「……やっ!」
「繰り出しが遅い、すぐ次の行動に移れ」
「っは!」
「軸足が反対だ」
「っ!」
「ほらほら、それじゃ転けるぞー?」
「だー! だまらっしゃい!」
「言わないと直らないだろ?っと、柄を強く握りすぎた」
「たぁっ!」
「もう少し軽く握れ、力むと刃を返しにくくなる」
「細剣はっ……受身の剣術、なんです…よっ!」
必死で剣を振るうディストと対峙しているピオニーは、くるくると攻撃を剣で交わしながら
余裕の笑みで対応していた。
「まぁ確かにそうだな。……じゃぁ、俺が打ち込むから受け返してみろ?」
「……ぇ、いきな……ひっ」
ピオニーの曲刀が弧を描き、ディストに目掛けて振り下ろされる。 ギイン、と打ち合う音が響いて刃と刃が触れあい、そしてすぐさま離れた。 まだ突然の事で目を丸くしているディストと、余裕そうに笑うピオニーの目が合う。
「ほーぉ、一応受け流せるんじゃないか」
「ぃや………あの!」
「んじゃ、もいっちょ」
「待っ!」
ギヂンッ
硬い音がして、再び刃が重ねられる。
しかし、今度はその刃は離れることなく、ピオニーの曲刀をディストが剣で受け止める形となっていた。 逆手を剣鍔に添えて、その剣圧に耐える。 今の彼にピオニーの剣撃は重かった。 ピリピリと伝わる剣の重さと緊迫感、ディストは模擬戦でありながら戦慄を覚えて震えた。
「へー、受け止める事もできるか」
力で勝っているので押し切る事もできるのだが、これは実戦ではないためピオニーはさっと諦めて後方に退いた。
「できればそのまま、押し返すくらいできた方がいいんだけどな」
まぁいいか、と次の一撃に入る。
ジェイドと手合わせするときは隙をなるべく見せずに懐に入れるように努めるのだが、この場合はむしろ、隙を大きく見せて受け流しやすくした方がいいだろうと大きく振りをつける。
「ゎ、わーッ!!!!!」
しかし、ディストはそれを身を縮めて避けていた。
「って、こら! そこで避けるなよ!!!」
「だって、こ……こわっ!!!」
彼はそのまま逃げ出そうと後ずさる。 おお、なんと情けない事か。 普通、この場合戦場で敵に背を向けたら、迷わずバッサリ斬られることだろう。 それくらいは身に教えておいてやろうと叱りながら刀を振るうと回避能力だけは高いのか、するりとその刃をかわした。
「サフィール! 逃げるな!! 試合放棄も負けなんだぞ!?」
「もうどうでもいいです! じぇ、じぇいどぉおおぉお~~~~っ」
弱々しい情けない声をあげて、彼が背を向けようと方向転換をしようとした、その瞬間。
ぐきっ
「ぎやぁっ」
痛々しい音と声と共に、彼は足をもつれさせて盛大にころげた。
ああ、やっちまった……と、ピオニーはディストを唖然と見るが起きる気配はない。 背を向けて逃げておきながら恥ずかしいのだろうか、ちらりと見える耳までが赤い。
遠くを見ると、口元を押さえて肩を震わせ静かに爆笑しているジェイドが見えて。 ピオニーもつい釣られて吹いてしまった。
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