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目前に立つ貴方の名は(プロトアーサー✕ベディヴィエール)

登場人物:プロトアーサー、ベディヴィエール

CP傾向:アサベディのつもり

FGOのマスター歴三ヶ月ちょっとの超にわかが書いたアサベディ(もどき)です。
馴れ初め系ほのぼの風味







 その日、カルデアはいつもより騒然としていた。
 流れて行く人やサーヴァントの話を盗み聞くところによると、異世界のアーサー王が召喚されたのだとか何とか。
 王に仕えし円卓の騎士たち、彼らにまつわる者たち、そして好奇心のある野次馬根性の強い者たちはこぞって彼を見に行っていた。
 その人集りを、円卓の騎士の末席に身を置いていた彼も、遠巻きながらに覗きに行った。
 本当に王ならば、他の臣下たちの最後になれども挨拶はしたい。だが、そこにいた王は、何故か少し記憶と違った体躯の王だった。
 美しさは変わらない。威厳も荘厳さも、纏う空気も間違いなく本物のアーサー王だ。記憶の底からも、そして自身の身体も、彼が本物のアーサー王だと告げている。
 けれど、自分がこの腕を――聖剣を返しに行った王ではないことははっきりとわかった。異世界のアーサー王は、やはり異世界の者なのだ。
 まだここには、腕を返した王も、過去に仕えし王も召喚されていない。
 他から聞いた情報では、王が死ぬ直前のカムランの丘で『聖杯に呼ばれた』という記録もあるそうなのだが、その王もここにはいなかった。
 末席の彼は混乱した。王なき今でも王への忠誠は変わっていない。寧ろ思えば思うほど増すばかりだ。
 しかし、誰が自分の忠誠を捧げるべき王なのか、かの者はそれに値するのか、どうしても答えが出なかった。
 それが急に怖くなり、彼は逃げるようにその場を立ち去る。明確な答えがないまま、その王に会ってしまうのが恐ろしかったのだ。


 暫くの時が経ち、異世界のアーサー王の噂は少しずつ減り始めた。同じサーヴァントとしてカルデアに受け入れはじめられているのだろう。
 彼はそんなアーサー王から少なからず距離を取り、これまで接触を避けてきた。
 そんな折だった。

「そこの君、ちょっと待ってくれないか」

 軽食と飲み物を取り行く途中で、不意に聞き知らぬ声に呼び止められた。聞き覚えはない落ち着いた男性の声音だが、何故か無性に懐かしいような、安らぐような気分になり、足を止めて振り返る。

「べディ。君はサー・べディヴィエールだね」

「あ、アーサー王!?」

 声をかけてきたのは、これまで避けてきたあの異世界のアーサー王だった。記憶と全く違う彼が小走りで近付いてくる。
 けれど、紛れもなく彼がアーサー王だと、心ではなく身体が理解していた。気付けば、膝をつき頭を垂れていたからだ。それは咄嗟の事で、騎士の本能に近かった。一言話しかけられただけなのに身が引き締まる思いだ。
 異世界から来た違うアーサー王だと言うことは知っている。だが王は王だ。挨拶にさえ出向かなかった事を咎められるかもしれないと、一瞬の畏怖を抱く。
 けれども、今も異世界の我が王に対する行動を決めかねていたのは事実だ。

「ああ、すまない。そうじゃないんだ。君がかしずく必要なんてないんだよ。さあ、顔を上げて」

 目の前のアーサー王は申し訳なさそうに慌てると、驚くべき事に自身の片足を折ってかがみ、べディヴィエールの手を優しく包むように握る。

「っ!?!」

 その行動に狼狽しながらも、べディヴィエールはアーサーに引っ張られて立ち上がった。

「あ、あの、申し訳ありません!!!」

 顔がとても近い。急に心臓も撥ねた。見覚えのない顔を改まって近くで見ると、気品が漂っており端正で、やはり異世界のアーサー王であっても、その完璧な美しさは同じなのだと思った。
 纏う空気が微妙に違うが、どうしようもなく見とれてしまう。己の王は中性的な美しさだったが、この王は誰もが認める美男子だろう。同性なのに顔が火照るのがわかる。

「いや、良いんだ。こちらこそいきなりごめんよ。こんなに君を困らせたかったわけじゃない。ただ、少し話がしたかっただけなんだ」

「そう、ですか……。すみません、今の私には、貴方様と対面した時にどうしたら良いのかわからなくて」

「当然だ。僕は君たちの世界の王とは違うようだから。だから僕のことは気にしなくていいんだよ、と言いに来たわけなんだけど……探せどもなかなか君を見つけられなくてね」

「そんな、アーサー王」

 まさか、異世界のアーサー王からそんな事を言われるとは思わなかった。わざと避けていた自分に罪悪感を覚える。
 だが、彼にとってもここは異世界だ。『自分の円卓の騎士』ではない、『異世界の円卓の騎士』がサーヴァントとして同じ場所に召喚されているのだ。彼も驚くだろうし、何かしら考えるところはあっただろう。

「立ち話もなんだ、少し座って話そうか」

 だが、眼の前のアーサー王はとても朗らかだった。この迷いのなさは間違いなくアーサー王であると感じた。



 カルデアの至る所に設置されている歓談用の椅子に、二人は並んで座る。王の隣に座るなど、本来なら円卓の末席に身を置くべディヴィエールには許された事ではない。けれど手招きされて隣を指定されてしまったのだから、座らざるを得ない。例え異世界の王でも王命に逆らう事はできず、結局そこに落ち着いてしまったのだ。
 そこからぽつぽつと互いの境遇を話し合った。

「そうか、だから君の右手はそんなに輝いているんだね。僕の記憶では隻腕だったから、少し驚いたよ」

「……はい。私のような何の取り柄もない、偶然で円卓の末席に身を置いて貰っていた人間が、通常であればサーヴァントになる事はなかったでしょう」

 けれど、長い時を執念で生き続けて、聖剣が封じられた腕を得た。
 それが戦力になるというのか、はたまた功績として認められたのか、気がつけばカルデアにべディヴィエールは居たのだった。王に返したはずの腕を持ったまま。
 この腕のおかげか、あの悲しくて辛くあっても、強い思いで乗り切ったかけがえのない旅の記憶は完全には消えていない。後から来た円卓の騎士たちは、あの出来事をあまり覚えていないようだったのに。
 しかし、それでいいと思った。あの『一つのとある未来』は悲しいことが多すぎたからだ。

「とても綺麗な腕だね」

「いえ、そのような事は」

「だって、僕のエクスカリバーと同じようなものなんだろう? お揃いだ」

「えっ。あっ……う……も、申し訳ありません、王よ。そんなつもりでは……」

 これでは王の聖剣を侮辱しているも同じだ。そんな意味ではなかったつもりなのだが、あまりの不敬さに顔を血が上る。

「大丈夫だよ。僕は君の正式な王じゃないんだ。畏まる必要なんてない。けれど、やっぱり君はべディヴィエールだね。僕の知っている、優しくて真面目ですこし天然な君にそっくりだ」

 縮こまるベディヴィエールを解きほぐすかのように、アーサーの声は優しく降りてくる。 

「貴方様のところの私は、そんなに私と似ているのですか?」

 その優しさにほだされて、つい気になったことを素直に質問してしまった。

「どうだろう。まだ少し話しをしたばかりで、それを決めるのは難しいかもしれない。雰囲気や見た目はかなり似ているけれど……そうだね、君の方が少し達観しているように感じる。でも僕は、僕の世界のべディヴィエールの事は大好きだったし、とても頼りにしていた。何より隣にいると、ほっとするというか……落ち着くんだ。すごい力だろう? だから例え戦う力がなくとも、大切な僕の臣下だった」

「そちらでも、私の戦力は今ひとつなのですね」

 少しばかりショックを受ける。まあ、異世界でも自分は自分だ。元よりあまり戦闘は得手ではなかったし、隻腕は五体満足な者に比べるとハンデが大きい。それでも異世界の自分が、ちゃんとこの王の支えになっているという言葉に心が救われた。

「嘆く事じゃないさ。共に戦うだけが支える力じゃない。君にはたくさんの『違う力』を貰ったよ。それにここの君には立派に戦えるその腕がある。そうだろう?」

「はい、畏れ多くも王の力を擬似的に借りる形となりました。でもやはり過去の私は、王に信頼して貰えるくらい戦功をあげたかったのです。例え、戦うことが怖くとも」

「そうだったのか。それは知らなかった。もし戻れたら、僕のところの君もそうだったのか一度聞いてみたいな」

「はい。是非そうなさってください。満足に戦えるかは別の話ですが……」

 異世界の自分もそうであるとは限らないが、少なくとも自分はずっと王の傍に居たかった。王を守れる盾に、王を守れる剣にもなりたかった。執事としての責務を与えられ、生活の身辺に携われることはこの上ない喜びではあったが、有事の際に力になれないのはとても歯がゆかったからだ。
 本当に、この腕を得られて良かった。それは不幸でもあり、幸いでもあったのだが、結果的に返すことには成功した。だが、どうしてかくっついて召喚されてしまった以上、期待には応えたい。
 無意識に銀の腕を触っていたことに気がついたアーサーが声を掛ける。

「僕も少し腕を触ってみてもいいかい? ああ勿論、不快なら遠慮なくそう言ってくれ」

「あ、いえ。どうぞ」

 腕に触ってみたいという者は稀にいる。かつての円卓の騎士達にも数名、じっくり見せてほしいと言われたことがある。特にからくりなどはなく、今では殆ど右手と変わりない動きをする。腕がなかった時より生活や戦闘にはとても便利だ。
 アーサーはベディヴィエールの右手を慈しむように手に取ると、端から端まで丹念に温めるようにしてなぞり確かめていく。

「これは君が頑張った証なんだね。とても強い意志を感じる。そうまでして君に想われる主君が少し羨ましいな。……早く君の本当の王に、会えると良いね」

「アーサー王……」

 彼は己が聖剣を返しに行った王でも、カムランで敗走した王でもない。なのに何故だろうか、少し触れられてはいるだけで、自分でも驚くほど安心してしまった。体の力が抜ける。
 銀の腕をなぞる手は逞しくも美しく、感覚などないのに温かいと感じる。
 異世界の王でも、やはりアーサー王なのだ。
 思わず目を瞑ってほっと息を吐いた。

「あ、やっと笑ってくれたね」

「え?」

 笑っていたのだろうか。自分ではその自覚がなかった。

「ごめんね、こそばかったかい?」

「いえ、違います。とてもその、安堵してしまって……。貴方様がその……やはりアーサー王なのだと思うと、やはり嬉しい……のでしょうか」

 自分で自分の事がわからない。

「さあ、どうなんだろう。でも僕は君が笑った顔がとても好きだったんだ。例え僕の世界の君とは違っていても、君が幸せそうなら、今の僕はとても嬉しい」

「アーサー王……」

 異世界のアーサー王は、屈託のない笑顔を浮かべる。己の王はここまで晴れやかに笑う姿はあまり多く見かけなかった気がするが、眼前の王に喜ばれるのは自分も嬉しかった。きっと異世界の自分は果報者なのだろう。

「でも君は真面目で優しい騎士だったから、迷ってしまうのだろう。その忠誠を誰に捧げるべきなのか。それは当然、いつかここに来る、『本当のこの世界のアーサー王』こそが君の主だろう」

「はい、いつか会える時が来るまで、私は倒れるわけにはいきません。しかし、私は……貴方様のことを……」

「だからね、べディヴィエール卿。僕たち、ただの友達にならないかい?」

「と、友達!? 王と、私がですか!?」

 いきなりの提案に思わす素っ頓狂な声が出てしまった。王と友達。想定以上に驚きの発言だ。

「そう。君と僕が」

 再び狼狽するベディヴィエールを余所に、アーサー王はけろっとしている。

「もし、いずれ本当の君の王が来ても、それなら一緒にいられるだろう? 君が困ることもなくなる。必要以上に君が僕に畏まる必要もなくなる。一石二鳥じゃないか」

「確かに、それだと私の忠誠も揺るがないでしょう。しかし、何故私なのです?」

 もしかしたら、召喚されている他の円卓にも声をかけているのかもしれないが、距離を置いていたベディヴィエールには解らなかった。
 円卓の中でも一番弱くて、言わば存在感がなくて、おこぼれで円卓の末席にいたような身だ。身辺の世話をして距離が近かった事はあるが、王のカリスマ性があれば話し相手や遊び相手に困ることなどないだろう。それにとても気さくだ。とりわけ自分は人として面白みがあるわけでもない。
 アーサーは一瞬だけ考え込むと、腕を離して居座り直した。そして、どこか遠くを見る。

「僕だって友達がいなければ、やはり寂しいものなんだよ。異世界から来た僕は、この世界のアーサー王ではないし、本当に独りぼっちだ。それに、王であった時は友達をつくるなんて、そんな事は許されなかったからね。王の孤独は、王ゆえに辛いものだった。だから、そのしがらみがない今こそ、僕は友達が欲しいんだ。肩を並べて語り合える友が。共に円卓で食べて、酒を飲み交わせる友が。……でもたくさんは許されないだろう。僕には果たさねばならないことがある。それまでこの世界にあまり干渉したくないんだ。だから君を選んだ」

 王の孤独。それは近くで世話をしていた自分にも理解できた。王には臣下に見せてはいけない事柄があり、王にしか背負えぬものや責任があり、王には王であるがゆえの孤独や苦しみがある。それを少しでも取り除こうと躍起していた身だ。
 そして彼は異世界の王である。彼には彼の往くべき道があるのだ。

「異世界でも、僕は君とずっとそうしたかった。でも僕はやはり王だったから……。だから、小さな夢を叶えにきたんだ。勿論、夢を叶えるだけじゃなくて、ここではちゃんと一人のセイバーとして全力で戦うつもりだけれどね」

 アーサー王は綺麗にウインクして見せるも、言葉を発しないべディヴィエールを見るや直ぐに不安そうに慌てだした。

「ええっと、駄目……かな、べディヴィエール卿」

 王の言葉を静かに聞いていただけなのだが、その行動に思わず笑みを零す。何というのだろう、この王は随分と茶目っ気があって百面相のようだ。

「元より私は王の不安を取り除くのが役目。いえ、戦う力か乏しくて、それくらいしか役にたたなかったともいいますが」

「そんな事はない、きっと君の王も、君のその笑顔に癒されていたことだろう」

 アーサーが断言する。

「そうだと良いのですが」

「それで、返答は? 時間を置いた方が良いかい?」

「いいえ、貴方様がそれで宜しいのならば、私は喜んで、その命、拝借致します」

 この王は、自分の王とは全然違う。持っているものは全く同じなのに、異世界と言うだけでこれほどにも違うタイプの王になるとは思っていなかった。
 でも、これならば、確かに友達になれる気がする。王と臣下の間にある、消えることのない垣根を越えて。

「本当かい!? ああ、でも、べディヴィエール卿、これは命令ではないよ。だから今後、卿をつけるのもやめにしよう」

「そうでしたね。やはり少し不思議な気もしますが、ですが私も、貴方様の事は好ましく思います。王への忠誠を変えることなく、貴方様の隣にいられるならば、私はきっと幸せでしょう。……どうかこちらこそ宜しくお願い致します」

 自然と笑みが浮かぶ。彼と会った時の焦燥も、既にどこかに吹き飛んでいってしまった。今、隣にいるのは、新しい友だ。やはりその高貴さとカリスマ性にかしずいてしまう事もありそうだが、それを望まず、肩を並べることを望まれたのだ。意外にも意外だったか、着地点としては良いだろう。

「………やった、やったぞー!!!!!」

 アーサーはその返答を聞くや、ガッツポーズをして勢いよく椅子から立ち上がった。

「はいっ!?!?」

「おっと、すまない。つい本音が。一体どうしたものかとずっと悩んでいたものだからね……」

 照れながらアーサーが苦笑する。
 どうやら彼も、この件で相当やきもきしていたようだ。悩んでいたのは一緒だったということだろう。
 そのままアーサーはベディヴィエールに向かって手の平を差し出した。

「じゃぁ早速、一緒に御飯でも食べに行こう。それでたくさん、色々な事を話そう。こちらの君は食べ物なら何が好きだい?」

 その差し出された手にそっと手を添えると、優雅に立つように促される。ベディヴィエールは引かれる力のまま立ち上がった。主従として考えるならばおかしい構図なのだが、なるほど友達。それならさしておかしくはないだろう。

「あの、そうですね……蒸した野菜が好きですが。……えっと、今は紅茶とケーキでもいただこうかと、出てきたところでありまして」

「そうか、じゃぁ一緒にティータイムにしよう! 嬉しいな、誰かと一緒に食事をするのは随分久しぶりな気がするよ」

 嬉しそうに笑うアーサーを見て、ベディヴィエールも思わず笑う。
 さあ、甘いものを食べながら、新たにできた友と何を語り合おうか。過去の話か、未来の話か、夢の話か、希望の話か……世間話や噂話も悪くない。
 とりあえず、祝杯をあげようではないか。
 勿論、温かい紅茶で。









・初めたばかりなのでウチのカルデアはスッカスカです!
・円卓欲しくてボーイズコレクションまでに無理矢理ゴリ押しで6章クリアしました。(※しないと円卓出ないと書いてあった)
・けどトリスタン以外の円卓は誰も来てくれなかった。(モドレちゃんのみ前から居たのでベディちゃんは心底ほっとしたことでしょう)
・最後の最後でプロトアーサー様が降臨された。あれっ???この人円卓じゃない!(絶対に出る気がしなかったので視野にすら入れてなかった)
・勿論アルトリア様はリリィちゃんしかいません。

という結果がコレです。

FGO初めてベディちゃんかわいい党に入ったのは良いものの、まだ左を決めかねているんですよねー。うーん。
でもベディちゃん王様好きだから、男女関係なく、プロトもアルトリア様も左でいいのかなーとか……。うーん。



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