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幽冥より、真実を求むるは(エメトセルク×ヒュトロダエウス)

登場人物:エメトセルク ヒュトロダエウス

CP傾向:エメヒュ

制作時期:2022年1月

※暁月のフィナーレのネタバレを含みます。

勢いで書いてしまったエメヒュ『黎明まで、ただ傍にいて』の続き。
それなりにシリアス。
これまでにないくらい捏造・妄想・大暴走!







 気づけば彼は、不思議な世界をゆっくりと歩いていた。足元は真っ白だが雲ではなく、空は快晴のように雲ひとつないが、明るさのわりに太陽はどこにも見えない。
 ああ、死後はこんな世界なのか。などとぼんやり考える。永い永い時間を生き、最期に負けはしたものの、何故かそんなに悔しくはなかった。相手がアゼムの魂を持つものだからかは分からないが、あの勝利は間違いなくあの英雄が実力で勝ち取ったものだからだろう。
 全力を出して自分は負けた。ならばあの世界をどう生きるのか、見ていてやろうではないか。幸いエーテルになって星の流れに洗われはしたものの、望んだ通り星海に戻ることはなく、こうしてここにいる。
 そこへふと、薄紫に輝くエーテルが集まり始めた。それはキラキラと輝き、やがて人の形を成していく。完全に形にならなくても、すぐさまそれが誰なのか理解して、思わず懐かしくて見入ってしまった。
 そして彼は人の形となり、ふわりと眼前に降り立つと懐かしい柔和な笑顔でこう言った。

「やあ! お疲れ様だね。久しぶり、エメトセルク」

「お前は…………ッ!!!」


 ヒュトロダエウス。かつての友であり、失くした事を最も後悔した男だ。
 ツン、と目尻の奥が熱くなり、思わず声が詰まる。いや、死んでから一言も喋っていないのだ。声が出るのかすら考えていなかった。

「おやおや? 私のことを忘れてしまったのかな?」

「そんなわけがあるか、馬鹿者! いや、しかし私は星海に還ることを拒みはしたが……何故お前までがここにいる?」

 確かに星海に還らずに待っているとは言っていたが冗談だと思っていたし、そもそも生贄としてゾディアークに取り込まれた彼の魂はまだ星海に還っていないはずだ。
 だが、彼はエーテル体となり、今こうして目の前にいる。一体どういう事なのかわからず、思わず眉間に皺が寄る。

「びっくりだよね。うんうん、ワタシもびっくりした」

 何かがあるのだ。エーテル体になった何かが。そう思った瞬間、激しい目眩が襲ってきた。ぐらりと視界が揺れ、思わず膝をつく。

「うっ……、なんだ? この強烈な違和感は、ぐっ……」

 気持ちが悪い。言葉にできないような強烈な違和感が押し寄せる。何だ?何なのだこれは。
 目の前のヒュトロダエウスはすぐに異変に気づき、慌てて駆け寄ってエメトセルクを抱き支えた。普段であれば当然の抱擁に驚いて振り払うところだが、それすらできない。

「エメトセルク!? 大丈夫だよ! 大丈夫だから、ほら……落ち着いて。息を深く吐いて……吸って……吐いて……そう、ゆっくり繰り返して」

 おそらく同じような状態に彼もなったのだろう。つまりこの異変の理由も知っているはずだ。

「うん、大丈夫。ちゃんと順を追って教えるから、ワタシの話を焦らず聞いて」

 ヒュトロダエウスは優しくあやすように背中を撫でながら、落ち着かせるようにゆっくりと語る。

「おそらく、記憶が一部おかしいんだ。ワタシたちはね、死んでエーテルに還るまでそれを思い出せないように細工されていたんだ。だからワタシが生贄になって、それに気がづいたゾディアークはワタシの魂を取り込みこそしたものの、エーテル体の一部をこうやってこちらへ返した。それでこうやってキミの前にいるわけなんだけど、キミの場合は少し話が違う」

「私の……記憶が……おかしいだと? ウッ……」

 気分が悪くてヒュトロダエウスの話を理解するのにすら苦労する。エーテル体であるというのに、額に汗が浮かぶほどの苦痛だ。強烈な酩酊感の中、確かに心の底から感じる違和感がエーテルに干渉している事はわかる。

「キミの場合はなまじ永く生きていたから、生前の在り方との齟齬が大きすぎるんだ。古い記憶ほどあやふやになるだろうし、一致しなくて根底が不安定になってるんだよ。大丈夫、少しずつでいいから思い出して。昔、ワタシが生きていた頃、一緒にエルピスに行ったの……覚えてる?」

 それはもう、あまりにも遠い遠い昔の話。記憶などほぼ千切れていているが、ヒュトロダエウスの最期を見送る際に話したからだろうか。古い記憶の割に鮮明に思い出せる。

「ああ、ファダニエルの後釜を見に……ぐっ、なんだ!? ……これは、記憶が二つある!?」

「そう、それだよ。ゆっくりでいい、思い出して。強烈な方が真実さ」

 ファダニエルの後釜であるヘルメスと、かの英雄がそこにはいて、アゼムの使い魔を名乗っていたり、何故か色々手伝ったり、ヘルメスに青い鳥の使い魔がいたり、ヴェーネスに会ったり、未来の話を聞いたり、そして大変な情報を持ち帰ってきた青い鳥の使い魔を追いかけたり、それを守ろうとするヘルメスと対立し皆と共に戦ったり、最後にカイロスに記憶を消される前にヴェーネスと英雄を脱出させたり。
 そこには身に覚えがない破茶滅茶な記憶があった。そして最後に、記憶が消される瞬間までを一気に思い出す。そうだ、これが真実の記憶だ。
 ああ、なんという事だろう。これまでの全ては、ここに繋がる導線でしかなかったというのか?
 自分の擦り切れるような、厭になるほど永い生は、何のためにあったと言うのだ。
 否、全て望んでやってきた事だ。だが、そんな大切な事を知っていたら、己とて全く違う道を選んでいたはずだろうに。

「つっ……そんな……はずは。それでは私はあんなにも永い間、情けない道化を演じてきたというのか!? 何もかもを知ったような顔で!!! 自分が正しいとでも云うように!!!」

 本当の敵はゾディアークを滅ぼさんとするハイデリンなどではなかった。世界を統合し、アシエンの望む未来を作っていたとしても、ハイデリンとなったヴェーネスがいなければこの世は、あっさりと終末を迎えるのだ。原因も、対抗策も知らぬまま。
 なら、自分はこれまで、何をして来たと言うのだ?自己否定などほとんどして来なかった己の心に、激しい後悔が生まれる。
 だが、ヒュトロダエウスはそれも見越していたのか、耳元ではっきりと、切に願うように訴える。

「違う、違うよエメトセルク! 見失わないで、間違わないで、キミはちゃんと答えを導き出せるはずだ。キミはいつだって聡明で、公正公平なキミだったもの。キミはキミがやるべき事をした。道化なんかじゃないよ。キミが辿ってきた道は間違ってない。これで良かったんだ!」

 その言葉が、じわりと胸に広がる。後悔という黒い渦を少しずつ溶かしていく。自己否定に塗りつぶされそうになっている心に、ぼんやりと光が灯る。

「ワタシもか細いエーテル体だったから、キミを人生全てを見てこれたわけじゃない。けれどワタシは知ってる。キミがどれだけ苦心して、どれだけキミらしさを失わず、でも人らしく成長して、矜持を持ってここまで歩んで来たのかを。だから見失っちゃダメだよ!」

「だが、我々はハイデリンを攻撃した。世界が分割された後、時には統合し、数々の蛮神を呼び出させ、また数多の霊災を引き起こした。新しい人など駒扱いで、さぞや世界を絶望に染めていたことだろう」

「それでもだ! キミは世界を救ったんだよ。分割された新たな世界で、生まれ変わった人々を導いて、生きるための知恵や文化を授け、国を作り、人を愛した。生んだのは破壊だけじゃないでしょ、平和な時代だってあった。アシエンとして成した事も、何もかも全て今に繋がってるんだよ。間違いなんかじゃない、キミはキミでいて良かったんだ」

 ハッキリと言い切るヒュトロダエウスに、思わず自責の言葉を止める。錯乱しかかっていた精神が、少しずつ落ち着き始める。呼吸が少し落ち着いてきた。
 そんなエメトセルクを待つように、時間をかけてヒュトロダエウスが懸命ににあやす。ああ、人の手はこんなにも優しく、温かかっただろうか。

「落ち着いてよく考えてみて、エメトセルク。ワタシたちはあそこで、メーティオンを逃さないために知恵を絞って、あの英雄とヴェーネスを逃がすために動いただろう」

「そうだ。忌々しい事にあの鳥は逃がしたが、私達は真実を知る彼女と英雄を逃し、記憶を封じられた。そうだな?」

「うん、私の記憶もそう」

「私はそうとは知らずエメトセルクとして生きてきたが、再びかの英雄と道を同じに、そして対立した。結果は見ての通りだが」

 完全に負けた。負けたからにはあの世界から去る。それは戦いを挑むために画策した時から決めていたことだ。未練たらしく生きるつもりはなかった。

「そうだよ、あってる。ちゃんとキミが生きてきた証さ。キミがあの英雄に再び会えた時、ワタシがどれだけ喜んだことか。キミが負けて、どれほど安堵したことか」

 しかし、それではおかしい。

「なのに、あの英雄はまだ過去の私達と会っていない」

 こくりとヒュトロダエウスが目線を合わせて頷く。

「つまりあれは……」

「もう、わかるだろう? ワタシたちがエーテル体だけでいる理由。キミが消失しない理由。そしてこれからやるべきこと」

「なるほどな。全ての答えはここより未来にある……というわけか。ゾディアークも、お前の記憶を贄として迎えた時に読み取り、真実を知ったからこそ、お前がここにいるわけか……」

「良かった、落ち着いてきたみたいだね。いつもの賢明なキミだ」

 ヒュトロダエウスはゆっくりと離れると、そのまま目の前に座り込んだ。彼も緊張していたのだろう。
 改めて見る懐かしき同胞に、黒い心はすっかり溶かされていった。そうだ、彼は物理的な力こそないが、人を心を和ませる力があるのだ。

「ワタシが見てきた中で、第一世界の危機は必要だった。だから世界分割はされるべきだった。蛮神を止めるのも、霊災を止めるのも暁やかの英雄の目的だから、それも起こって然るべきだった。アラグの文明も、キミの興した帝国も、全て欠けてはいけないパーツだよ。まだ最後のパーツはわからないけど、この世界のクリスタルタワーが必要な事だけは察しがつくだろう?」

 考える時間など無限にあったのだろう。ヒュトロダエウスはさらさらと考察を述べるが、確かにそうだと頷くしかなかった。

「理由はわかった。やるべき事もな。……しかしだ。気持ちとしては複雑ではあるな。ああ、厭だ厭だ。あれほど綺麗に退場して来たというのに、それすら許されんとは」

「まあまあ、そう言わないで。ワタシはやっとキミに会えて、すごく嬉しいんだからさ。おかえりなさい、エメトセルク。ずっと、ずっと会いたかったんだよ」

 そう言って泣きそうな顔で笑う彼を見て、ようやく一息ついた気分になった。やっといつもの真顔に戻れた気がする。そう言われるのも、存外悪くない。思わず口元も緩んでしまう。

「おかえりなさいはお前だ、ヒュトロダエウス」

 目の前に手を挙げて、軽く拳を差し出す。その拳に、こつりと彼の拳が合わさり、かつての温度を感じる。
 どうしても取り戻したかった昔はもう取り戻せないが、何よりも取り戻したかったものを、死んでから取り戻したような気分だった。







「それで? お前は一体いつから私を見ていたのだ。そもそも何故ゾディアークが勝手にお前を分割して排出した?」

 ふと疑問に思う。贄になった者はエーテルに還るのか、魂ごと取り込まれたままになるのかは、ゾディアークを実際喚び出すまでわからなかった事だ。
 しかし、おそらく魂は取り込まれたままで星海には還っていないと判断された。ならば生贄を取り戻すことも可能だという見解のもと、進められていたのが今の計画だった。
 正しい本当の人……いわゆる古代人をゾディアークから取り出すことがエメトセルクらオリジナル組の最終目的だったとも言えよう。
 あれは星を維持する神であり、生贄を大量に消費する神でもあり、同時に彼らの魂を保存する容器であったとも言える。

「ん~。分かたれたのは、ゾディアークが月に封印されて暫くしてからかな? それまで彼には自我がなかったんだけど、沢山の生贄を取り込む上で少しずつだけど確立されていったんだ。ただ創造生物として下された命令は絶対だから、背きこそしなかったけれど。元より星に循環を取り戻し、世界を守ることが彼の何より優先すべき事だった。だからワタシの記憶を知った後、ハイデリンへの敵意はそれほどじゃなかったのさ。むしろ星の成長のために力の拮抗を望んでいたからこそ、ワタシを送り出したんだろうね」

 それでまさか、彼の魂が分体となってこの星にいたとは思ってもみなかった。つまり彼も、このエーテル体で永い時を過ごしてきた事になる。あれほど肯定してきたところを見ると、それなりに歴史や己の事を見てきたのだろう。

「ワタシは特異な眼こそあれ、エーテルは一般人程度でか弱いし、さらにゾディアークが分体としてエーテルを割ったからね。意識と記憶を保つので手一杯で、正直ほとんど眠っている状態だったよ。キミが動きそうな時は起きれるように普段は寝てたから……まぁ、八割は寝てたんじゃないかな? さしずめ眠り姫~!なーんちゃって」

「ふむ、意識が保てないほど貧弱だったという事か。ゾディアークとて封印されている身だからな、過剰な力を持ったエーテル体を放つことは難しかったのだろう。己は檻から出られなくても、虫や小動物なら出入りできると言ったところか」

 どうでもいい賑やかしは軽やかにスルーして、エメトセルクは考え込む。

「図星だけど、ちょっとその言い方は胸に刺さるなぁ。でもとても永い時間、キミが生きてきた事は知ってる。大きな戦争とか厄災、キミが建国する時もぼんやりとだけど見てたよ。あ、あと結婚するところも! 必要だったからだろうけど、遠目に見ても素敵だったな~!!!」

 目を輝かせて語る友には悪いが、あれを見ていたのかと思うと、ちょっとエメトセルクは頭痛を感じる。初代ソル帝として正式に人の娘を娶り、子も成したのだ。それは帝国を繁栄させるために必要だった事で、割り切ってやったつもりだ。
 が、一つだけ譲れなかった点は、相手の容姿と性格だった。
 ソル帝は薄紫の髪色と紫の瞳をした、朗らかな女性を娶っていたのだ。同じアシエンに見られても絶対にからかわれそうで、式も厚いヴェールで髪を隠させたくらいだ。
 彼女はソル帝という存在が実はただの人でないことも了承し、心からは愛せずともそれなりに仲睦まじくやっていたはずだ。まさか、見られてないと良いのだが。

「興奮しすぎて途中で寝落ちちゃってさ、相手の顔はもう記憶から薄れてしまってるけれど、キミは最高にカッコ良かったし。ほら、ワタシが生前に話した夢は大体叶えてくれたじゃない? アシエンの活動は正直まぁ、どうかと思ったけど。ゾディアークや蛮神がどういうものか、身を持って理解してるから否定もしないしね~」

 どうやら、杞憂だったようで。エメトセルクは真顔のままホッとする。覚えていたら何と言われたことか。一生……いや、エーテルに還るまでネタにされることは間違いない。

「ああ、あと無趣味のキミが趣味を見つけられるなんて思ってなくてさ。まさか演劇とは思っ」

「あああ、もういいもういい。大体大まかに全部見ていたと言うことだな? 全くプライベートも何もあったものじゃないな、厭らしい。そうとも知らずに私はアシエンとして踊っていたというわけだ。全くもって不快極まりないのだが?」

 彼だけ真実を知り、自分が踊らされていたことだけは時間が経とうとも面白くない。

「えー、ワタシはあくまで傍観者だよ? 干渉できる力もないし、キミの眼でも見えないくらいエーテルも薄かったし。あ、ちゃんと初夜だって見ないようにしてましたー。基本的に遠巻きだったし、私生活を見て楽しむような失礼な事はしてないよ~」

 プライベートは守ってますアピールをしているが、本当にどこまで見ていたのかを考えるとエメトセルク面白くない。己だって彼の反応を見ていたかったのに。
 演劇に興味が湧いたのだって、これまでの人生であまり他者の心境に関わって来なかった余波だ。『人とは何か』を知る上で、演劇という物語性のあるものはうってつけだったからに他ならない。
 ヒュトロダエウスが生前担っていたような事も自分でできなくてはならないから、それを補うものに投資しただけだ。
 そんな喋らぬエメトセルクの心境とは別に、話すことが山ほどあるヒュトロダエウスは、あれやこれやとペラペラと喋り続ける。

「あ~、あとねぇ。三千年ほどかかったけど、ハイデリン……ヴェーネスにも会いに行ったよ。エーテル薄すぎて存在を証明するので手一杯で、なかなか近づけないから苦労したけど」

「なんだと!? いや、奴がいなければ今後も危ういが」

 相変わらずさらっと問題のある発言をする所は、昔も今も変わっていない。
 本来ならゾディアーク召喚の為に贄となったヒュトロダエウスは、立場的には敵なのだろう。
 しかし、ハイデリンはヴェーネスの記憶を持っている。そこにゾディアークの贄になったはずの知人のエーテルが現れたとしたら、昔のよしみでなんとか面会したのだと考えるのが妥当だ。

「一応、ゾディアークがワタシを割った目的の一つでもあるし。なんたってあの場に居たもう一人だからね。見解とか、これからどうするかとか、相談しに行ってきたんだ。ついでにちょっとエーテルの補強もしてもらったから、今のワタシはゾディアークとハイデリンの間の子って感じかな」

 結局のところ、明確に敵対していたのはゾディアークとハイデリンではなく、それを神と崇めた者たちだったのだろう。

「ハイデリン……ヴェーネスも相当疲弊していたであろうに、エーテルを分けて貰うなど……どれだけ脆弱だったのだ?」

「あはは、そこらへんの小動物とタメはったら負けそうなくらい? 会いに行くのに更に疲弊してたものだから、見かねたんだと思う。あれでもゾディアークも頑張ってくれたんだよ? 敵対するんじゃなくて、星の未来を掴むために協力しようって話にいったわけだし。アシエン達はテンパードになってるから話せる状況じゃないしね」

 メーティオンと呼ばれていたあの使い魔を殺すか連れ戻さなければ、やがて災厄は訪れる。彼方に飛び去った彼女を見つけられるハイデリンがいなければ、おそらく詰みだ。それをゾディアークも理解していたのだろう。
 いくら星の秩序を維持し続けても、いつか目覚めたメーティオンの手にかかれば、容易く破滅の道を歩むはずだ。

「で? 何か収穫はあったのか?」

「まずはハイデリンがゾディアークの封印に回す力を弱めても、命令がない限りゾディアークは月から動かない道を選んだという事の確認。これによってハイデリンに少しだけ余裕ができたわけだ。と、言っても封印を解けるわけでもないし、人に加護を与えられる数が少し増えた程度だけど」

「そもそもゾディアークに人格があったとは驚きだな。まあ、あれだけ人を食えば知識を取り込み人格も成すか。永い時をアシエンとして生きてきたが、語りかけられた事は一度もない」

「そりゃそうだよ。そのまま突き進んだら破滅するけど、真実を話しても突飛すぎて信じられないことをわざわざ創造主にすると思うかい?」

「まぁ、賢明であればせんな」

 つまり、造られし神たちは、既に星の未来の危機を知り、共闘ないし融和の道を選んでいた事になる。全ての蛮神の元祖にして特異なゾディアークは創造主たるアシエン達に逆らえないが、彼らがテンパードである事も確かなのだ。人格を持ったのなら、その知識量と存在意義ゆえに破壊は好まないだろう。だからあえて大人しくしている。

「次にキミが死んだら、記憶を取り戻したキミをサポートするのが一番だろうって言われたけど、ぶっちゃけサポートできる力とかないよね。だから精神面的に背中を押してこいって事だろうけど、キミ……まだ何かできそう?」

「何かしらの力の介入程度であれば一度くらいならできるだろう。実体がないので戦うことはできんがな」

「わぁ、頼もしい。流石はハイデリンだね。よく理解してる。後は変わってないね~とか、見た目は神様みたいだね~とか世間話してきた。ヴェーネスはハイデリンになってめちゃくちゃ変わってたけど、根はやっぱり彼女だったよ。あ、ゾディアークの思惑は伝えたけど、アシエン側の情報は漏らしてないから安心してね」

 念を押すヒュトロダエウスに、思わず言葉が荒む。

「は? それだけか? 奴もお前も、私がそのままアシエンとして行動するとは考えなかったのか!?」

 この記憶は確かに強烈だ。だが、古代人として生きてきた人生より、アシエンとして生きてきた時間の方が遥かに永い。それを考えればこれまで重きを置いていた方を貫く考えだって起きる可能性はあるはずだ。

「いや、キミに限ってそれはないだろうって。ワタシも同意見だったけど。それとも……まだキミはアシエンで居たいかい?」

「む……」

 先程までそうであった存在が、一瞬にして一変する事など早々ない。記憶を思い出したとしても、ハイデリンには複雑な心境が渦巻くのは致し方ないだろう。
 例え崇めていたゾディアークでさえ矛をおさめていたとしても、アシエンにとってハイデリンが邪魔な存在だったことは確かなのだ。
 しかも、ハイデリンは記憶を取り戻したエメトセルクが、かの英雄の助けになるであろうと最初から踏んでいた。全て彼女のお見通し、こんなに面白くない事はない。
 更に誰よりも身近であったヒュトロダエウスにそう吹き込み、同じく大切に思っていたアゼムの魂を継ぐ者に力を貸せと言っているのだ。元、敵ながら本当に上手いことをやる。

「公正公平であり、人を愛したキミがそんなことするはずない。よね?」

 記憶を取り戻した今、アシエンであるつもりはない。だが、長年に及んでこびりついた思想というものは、そんな簡単にひっくり返るものでもないのだ。
 しかし、何だ。恐ろしく聞き慣れない言葉をぶつけられた気がする。

「は? 誰が、誰を愛したと?」

「キミが、今を生きている人を」

「あんな半端な人のなり損ない共をか!? 私が!? ありえん!!!」

 思わず声を荒げてしまった。今も正しい形で目の前の彼を取り戻せるなら、アシエンで在り続ける事もやぶさかではないのだ。

「も~! 本当はもう、そんなコト思ってないでしょ。虚勢張りたいのはわかるけどさ。彼ら……人ってね、不完全で一人では生きていけないからこそ、助け合って生きていくんだ。個性を活かして不得手なところを得手な者が補うんだ。それはそれで、ワタシは素敵な生き方だと思うけどなぁ」

「それはお前の考えだろう、私には当てはまらん。完璧である者が生き残るべきだ」

「完璧なんてものはないよ、エメトセルク。それにさぁ、本当にどうでもいいなら、ここからキミが頑張る必要なんてないんだよ。アシエンの野望もほぼ潰えた今、これからを生きるのは今の人々だ。そんな彼らの未来が本当にどうでもいいなら、今ここで捨ててしまえばいい。でも、キミはそんな事しないでしょ?」

 ヒュトロダエウスの本当に恐ろしいところは誰とでも仲良くなれるだとか、察しがいいとかいうものではない。誘導して当然のように相手を操る話術だ。人がいいと頼みを断りづらいのもあるだろうが、恐ろしく正確に心の変化を突いてくるのだ。
 そう、このように。
 もうエメトセルクは言い返す事も諦めた。

「くそっ、入れ込みすぎたか……」

 本当に忌々しいが、言われたことに間違いはなくて、思わず舌打ちする。確信を得ている時のヒュトロダエウスは本当に恐ろしい。

「不貞腐れないでよ。ほら、立って。まだちょっとだけ一緒に居られるんだ。再会を素直に喜んでくれてもいいだろう? それで、時間はあるんだ。ゆっくり今後について話し合おうよ」

「ああ、厭だ厭だ。綺麗に幕引きしたと思えば、次はこのような役目を押し付けられるとはな。私も大概、運がない」

 差し出された手を握り、立ち上がる。
 また、この手を握れる日が来るとは思ってもいなかった。永遠に失ったかと思った友。忘れないでと言われる以上に、忘れることができなかったかけがえのない親友。

「ワタシは大アリだよ。だってまだ、キミがここにいて、世界は続いているんだもの。これ以上の幸せなんてないよね」

 キミはどう?
 そう笑顔で問いかけられて、顔が火照りそうになり思わず顔を背ける。その先には、先程まで見えなかった太陽が少しずつ昇りかけていた。なんだ、ここにも陽はあるんじゃないか。
 決して、彼の言葉に笑ったのではない。だが、彼の口元には僅かだが笑みがこぼれていた。

「まあ、悪くはないな」

 今日笑うのは、これで二度目だ。本当にこの男は人を喜ばせるのが上手い。
 さて、まだ話すことは山のようにある。無限ではないが時間もある。
 一度は壊そうとしたこの世界を救うために、精々足掻いてやろうではないか。この繋いだ手を思うと、不思議と何も怖くなかった。









覚悟が要するレベルの捏造さ……これがオタクだ!(開き直り)
私は間を縫うような話しか書けない性分なので
もう無理矢理でも妄想で間を作りに出たわけですね。

相変わらずぜんっぜんイチャイチャしてないけどエメヒュだと言い切ります!
大丈夫、私の書く話ではよくあることなので……
くっついてるだけマシですよマシ。(そういう意図ではないが)

しかしこういう創作レベルの捏造は全然ウケませんね。
知ってた……。元々あんまり人にウケる話を書かないと言うか
刺さる人には刺さるけど、普通の人にはかすらない話を書くタイプなんで
「いや、めっちゃ刺さったわ!」って方はお友達になってくださ……

ちなみに、この空間でのお話はまだ続きますが、一旦ここで区切ります。
後半はもうちょっとイチャイチャ成分が高まる予定。

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