登場人物:レオノアーヌ ヴァレンラール
CP傾向:レオヴァレ
制作時期:2009年秋
レオヴァレ馴れ初め話、親睦編(笑)
まだくっついてませんが仲良しではあります。
ただ飲んでるだけな気がしなくもない。
公子がちょっと憂鬱な感じ。
「今夜飲みにいかねぇ?」
帰還早々、その男は宿舎にやって来た。
先日初めて言葉を交わしたものの、互いに出兵が重なり、近衛騎士隊もやっと明日から数日の休暇を交替で取るように指示を出したのだ。隊を預かるヴァレンラールも部下の勧めで半日ほど休むことになっている。
「公子様のお口に合うような高い酒は用意できねぇけどな」
おそらくそれを見越して来たのだろう。情報の早さに驚きつつも、ヴァレンラールは表情を和らげて頷いた。
「構わぬ、その申し出を受けよう」
その様子を隣で見ていたフィリユーレが、嬉しそうに笑みを浮かべながら口を挟む。
「大丈夫ですよ、レオノアーヌ殿。飲み慣れてますし安酒で充分です」
「へぇ、流石は露営の公子サマ」
「ですが、あまり外でお飲みになられたことはないので、色々教えて差し上げてくださいね」
フィリユーレ、と困ったようにたしなめる公子の声を遮り、レオノアーヌはにやりと笑って「了解」と返した。
日が暮れ始めた時刻。レオノアーヌは残った仕事を片付けるのもそこそこに切り上げて、近衛騎士隊の宿舎まで足を運んだ。
そこには既に用意をし終えた物珍しいヴァレンラールが待っていた。暗めの色のチュニックのフードを深めに被り、流れる紅髪は片方で緩く結わえてある。近衛騎士達に借りたのか、衣服は質素なのものなのだが、立ち振る舞いからどこか高貴な雰囲気が隠せないでいる。
歩く分には問題ねぇか
レオノアーヌは顎でドアの外を指すと、先だって宿舎を出た。
城下町に下りると、何処からともなく火薬の匂いや、鉄なのか血なのかわからない生臭い匂いが風と共に流れてくる。街灯はぼやけて、忙しなく兵役についている者たちの姿以外、あまり人の姿は見られない。戦時中ということもあってか、この時間になるとほとんどの店は締め切られているし、一般人は既に皆、家へ戻っているのだろう。
だが繁華街の方は、多少活気があった。店から零れる明かりは暖かく、何処からともなく騒ぐ男達の声が漏れてくる。着飾った女たちに、たむろしている人や物売りの姿も見え、一般の市街地よりか遥かに華やかだ。
数歩先を歩くレオノアーヌは、このあたりでは知られた人なのか、少し歩くたびに挨拶されたり声をかけられる事が度々あった。それに面倒くさそうに返答するレオノアーヌの背中を追いかけながら、ヴァレンラールは珍しい街の風景をきょろきょろと観察しながら歩くのだった。
やがて、一つの店に入ると、そこはやや落ち着いたパブだった。カランコロンとドア鈴が鳴り、ふと顔を向けた店の女性が笑顔を咲かせる。
「あらぁ、レオさんじゃないの、いらっしゃぁい」
するとその呼びかけに反応したのか、店の女性やら常連客らしい女性、はたまた客の男どもやらが次々と反応してレオノアーヌを取り囲む。
「久しぶりじゃないの、私に会いに来てくれたんでしょ?」
「違ぇよ」
「あら残念」
「じゃぁ私と飲みましょうよ、サービスするわよ?」
「ダンナはてめぇらの誘いなんかにゃ乗らねぇよ、飲むならわしらと飲みましょうや」
「悪いが、今日は先約があるんでね」
常連なのか、そこかしこで引っ張りだこにされそうになるレオノアーヌは、適当に誘いを断るとずんずんと奥の席へ向かっていく。人気者を取ってしまったと、少し申し訳なく思ったヴァレンラールは顔を伏せてその後を追った。
奥の席は間隔が広めにとってあり、更に落ち着いた雰囲気だった。レオノアーヌは店員にいくつか注文をすると、ようやく落ち着いたともでも言うようにどさりと椅子に腰をかけて寛いだ。
「随分人気のようだ、卿を知らぬ者の方が少ないのではないか?」
続いて椅子を引き、ゆっくりと腰をかけながら声をかけると、レオノアーヌは煙そうな顔をしながら肩を竦めて見せた。
暫くたわいもない近況を話していると、酒と料理が運ばれて来た。
戦時下において、よくこれだけ食材が集められたものだと半ば関心しつつ勧められるがままに料理を口に運ぶ。
「ふむ、良い味だ」
「だろ? 安酒もうまい料理と一緒に飲めば、十分うまいんだぜ」
「なるほど」
庶民風の味付けだが、食べやすく食材のバランスもいい。宮廷料理とは違うが、腕の良い料理人による逸品だということがわかる。
「まぁ、俺が初めて来たときは、食材不足で品数も少なかったけどな。入手経路を考案して教えてやったら、食材も増えて更にうまくなった」
「ほう、だからか……店のものが卿を見るときの目はとても親しげだった」
「さぁな」
がつがつと料理を口に運びながら、レオノアーヌが酒を煽る。それは照れ隠しなのかもしれない、と微笑ましく思いながら、庶民らしくヴァレンラールもそれに倣ってみることにした。
美味しい料理は酒を旨くする。
これは本当なのだと思いながら、何杯目かのジョッキに手をかけた。いつも勝戦祝いの時に、軍宿舎で振舞われるような安酒なのだが、料理とよく合いとてもよく進む。「安くても旨く飲めたら儲けモンだろ?」などと言われたが、全くそのとおりだと頷いた。体はぽかぽかしているし、意識はしっかりしているものの心なしかふわふわしていてとても気分が良い。部隊をまとめる長として、さまざまな話を交わしながら、更に酒は進む。
話を聞けば聞くほどに、この男はすごいと思った。庶民出の育ちだと聞くが、その見識の広さ、知識の多さ、そしてそれをうまく使いこなす知性の高さ、従軍司祭パラルデフォーが他の貴族将校達と意見を同等に扱うだけのものを持っていると改めて思う。
自分とて、王室育ちで幼い頃から様々な英才教育を受けてきた。それは一般の貴族の教育など遥かに凌ぐ勉強量なのだが、その自分でもレオノアーヌに敵うとは思えない程だ。
根本的に、出撃以外で国から外に出ない身と、様々な土地を周り知識を蓄えることができる身では、違いがでるのは目に見えているのだが、その違いさえも面白く、話は更に弾んだ。
実際、主に話している方のレオノアーヌも、同じように彼を見ていた。
何気なく相槌を打ったり、少し話してはこちらの話に繋げてはいるが、そこに見え隠れしている知識などは、流石は王家の教育を受けたと心の中で唸らせるほどだった。
やや王家贔屓のきらいはあるが、民を思う気持ちや、兵士にまで気をかける長としての見識の深さは見事である。今では公爵位に落ち着き、露営の公子などと呼ばれて前線で剣を振るっているが、この男が王位についてほしいという声が出ても、確かにおかしくはないと思える。
今も国政にこそ携わっていないが、今でも進言や助言はしていると聞くし、軍事に関しては、実のところ王立騎士ではなく近衛騎士が中心になって軍を動かしているのは既に周知の事だ。王家の血を持つこともあり、実質は彼が最高軍事司令官である。
しかしそれを傘に着ることはなく、ただ王家と国と民のために、真面目に執務を果たしており、普段の性格は温和で公平なものだから、人気が出てもおかしくはないだろう。
今だあちこちで彼が王であったならばという声を聞く。
戦場での姿が「苛烈すぎる」という意見も聞くが、敵に情けをかけるような戦いは同じく部隊を持つ身として信におけないし、それが将としてあるべき姿なのだと肯定する。
何より戦いに集中する姿を、レオノアーヌはただただ美しいと感じていた。
「俺は、アンタが王の国なら、仕えてやっても良かったんだけどねぇ」
ふとしたことで、そう洩らしてしまい、国王を敬愛して止まないこの公子に対しては失言だったかと思い顔を上げた。だが怒るではなく、萎れたかのように顔を伏せるヴァレンラールの姿を見て、ただの失言でなく、大失言だったということを理解する。
「悪ぃ、忘れてくれ」
そう軽く切り出すも、ヴァレンラールは小さく首を振るだけだ。
「そなたは嘘をつかぬ男だ、本心で言ったのだろう?」
「ばーか、俺は嘘だらけの男だぜ」
「だが今のが嘘だとは到底思えぬ」
すっかり意気消沈してしまった公子を見て、レオノアーヌは短くため息をつく。どうやら相当根深い何かにひっかかってしまったようだ。
「しゃーねぇなぁ……飲みなおすか」
そろそろ閉店なのだろう、客が減り、片づけを始めている店員を傍目に、レオノアーヌが卓に代金を置いて立ち上がる。
「来いよ」
腕を軽く引っ張り立たせると、二人は店を後にした。
ついた場所は、猛狗傭兵騎士団が使用している宿舎だった。
女性の隊員が多いこの隊は、今はほとんど寝てしまっているらしく、人とすれ違うことはなかった。そのまま彼の部屋らしき奥の間に入り、椅子に座らされたと思ったら、出てきたものは先ほどと違い、多少は値が張りそうなブランデーだ。
チン、と勝手に乾杯をしたレオノアーヌは、目の前でだらだらとした格好で酒を飲み始める。その目が明後日の方向を見ていたので、ヴァレンラールは何故か安心し、置かれたグラスに口をつけはじめた。
先ほどの談笑は何だったのかというように、酒を無言で酌み交わす。極上の酒は、つまみがなくてもよく進み、心地よく意識を霞ませる。目の前がぐるぐる回って、気づけばベッドまで案内されて横たわっていた。
目が回ると同時に、どうでもいいこともぐるぐると考えてしまい、逆に思考は冴えていく。
そんなヴァレンラールの状態を知ってか知らずか、レオノアーヌは隣に腰掛けると、やはり黙々と酒を煽り続けた。
どれくらいの時間がたったのだろう。
いや、全く時間は経過していないのかもれない。時間間隔さえ酒で狂った中、ヴァレンラールはぽつぽつと言葉を零しはじめた。
それは誰にも言ったことがない、自責の念だ。
「私は、小さい頃から叔父上が好きだった。父上も母上も、私を時期国王にしたかったのか、教育に対しては厳しかったし、褒めるということはなさらなかった。ただ、私のことを叔父上だけが褒めてくださった。だから私は好きだったのかもしれぬ」
遠い昔を思いだす。情勢があやふやな中、厳しい監視の元にあらゆる教育を施された。
そんな中で、優しく笑いかけてくれた兄のような存在。
その存在にどれほど救われたことか……。
「叔父上は同じ目線で話を聞き、色々な話をしてくださった。私にとって叔父上……デスティン王は、憧れであり、希望だったのだ。だから、先王がお倒れになって、父が倒れた後、まだ若い私に王位の噂が立ったときは本当にどうしようか悩んだのだ」
応える声はなく、夢見るような心地の中、自分のものとは思えぬ声だけが響いている。
「私は叔父上が王位について当然だと思っていたし、他の臣下達が叔父上に対してよく思っていないのは、叔父上の聡明さをまだ知っていないだけなのだと思った。……けれど、それは叔父上の能力が発揮されて初めて知れ渡ることであるから……私しか知りえないこと。故に私は自ら進んで叔父上を推したのだ」
聞いているのかいないのか、レオノアーヌは違う方向を見続けていた。むしろ、聞いていなければいいと思って、話を続ける。
吐き出してしまいたい、けれど誰にも言うことを許されないと自らを戒める心の檻を、開けるにはここまでしないといけないのだと、少し情けなくもなる。
「しかし、だ。これは『私が私を守るための建前』であるかもしれないと、最近考えるようになった。私はただ、王位につきたくなかっただけかもしれぬ。……王と言う権力が怖かったのかもしれぬ。だから王位に興味がおありではない叔父上に、無理矢理王位を押し付けて逃げたのもしれない。私は『国王に』と様々な臣下や貴族、民にまで望まれて、更に叔父上にすら自由な選択を与えられたというのに。ただ、戦いに明け暮れて、王の身を守る公爵という身分に私は逃げたのかもしれない。私は、王家の者として果たすべき責務から、逃げたのかもしれないのだ」
それはただの思い違いかもしれない。自分のことなのに、過去の自分のことが思い出せない。先王が倒れ、暫定王としてデスティン王が立つ前夜、齢十六だった自分は何を考えていたのか。
国を二分したくなかったのは本当だ。だが、結果として全てを叔父に任せる事になってしまった。自分が身を置くのは、ただの箔付けの公爵位で何の力にもなれない。
それは同時に、王家の者として国を治める義務を捨てたということにはなるまいか?
「もし、そうであれば、私は……私を許すことができない」
悔しくて、顔をシーツに埋めた。
王はただ優しくて、自責の念に囚われた自分に「よくやった」と諭してくれた。あの優しく、思慮深く、少し内気で、そして戦いには秀でていない王を、命ある限り守り支えて行こうと誓った日でもある。
どうすれば罪を償えるのか?
どうすれば報えるのか?
考えれば考えるほどに泥沼にはまっていく。その思考は睡魔の波に襲われつつあった。崩落するのは目に見えており、抗えないことを悟ったヴァレンラールは歪む視界に移る男を見やった。
誰かに話してしまった後悔すると同時に、話してしまった相手がこの男で良かったと思う。
「時に、そなたは酒に酔ったら、記憶をなくすタイプか?」
「残念だけど、全部覚えてる性質でね」
「そうか、それは困った。……できれば、忘れてくれ」
その言葉を最後に、彼は眠りの海に落ちた。それを横目で確認したレオノアーヌは最後の一口をあおった後、ヴァレンラールの髪を、レオノアーヌは哀れむように梳いた。
「お前、真面目すぎんだよ……公子サマ」
できれば今だけは安らかな休息を、と珍しく女神に祈りながら。そうして夜は更けていった。
長らく放置されていたレオヴァレ親睦編です。
ほんと日本語つたなくてすいません。
真面目な子が悩むの大好きなんです。
ちなみにこれの別名は『据え膳を食い損ねた狗』編ですヽ(´ー`)ノ
ここまで連れ込んで手を出さないのはチキンなのか紳士なのか優しさなのか!?
残念!また今度!www
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